2013年12月30日月曜日

ブログ100万PV御礼と10式戦車同人誌無料公開

先日、ツイッターの方もフォロワー1万人を超えたばかりでしたが、こちらのブログの方も100万PVを達成しました。やったねたえちゃん!

2013年中に1万フォロワー、100万PVとキリの良い数字を達成できたのも、飽きずにご覧頂いた皆様のお陰です。この1年、本当にありがとうございました。

さて、現在開催中の冬コミに出展する予定だったものの、申請ミスにより準備会からリジェクトを喰らったためサークル出展出来ず、完成させるさせるとこの1年言っていたばかりだった「10式戦車へのプレリュード」が未刊のまま転がっているのもアレな状況なので、次回の夏にはケリをつけたいと思います。

未刊のお詫びと、100万PVの御礼も兼ねて、「10式戦車へのプレリュード(準備号)」を無料公開致します。2012年の夏コミに出した同人誌で、10式戦車とその前段階で研究が行われた将来戦闘車両についての解説本(未完成)です。

当初出す予定だった魔法少女合同誌が間に合わず、慌てて1人でデッチ上げた個人誌で、初めての同人誌ということもあり、至らぬ点も多々ある上、解説も明確に間違っている点・今は判明した疑問点もございます。2014年の夏コミには加筆・修正・再構成を行い、きっちりオフセットで10式戦車本(+α)として仕上げたいと思います。


無料ダウンロードはこちらから(PDF)



無料公開ですが、DLsiteでの有料販売も継続しているので、読んで面白かった投げ銭程度はしてやるか、という奇特な方がいらっしゃいましたら、下の画像からDLsiteで購入して頂ければ嬉しく思います。

10式戦車へのプレリュード(準備号)

なお、ツイッターでも複数回告知致しましたが、今冬コミでのサークル参加は無しの一方、艦隊これくしょん合同誌の企画に、昨年の夏コミでご一緒した糸畑氏からお声がけ頂き、戦後の艦娘インタビューの体裁を取った小説同人誌「戦争は艦娘の顔をしていない」に拙稿を載せさせて頂きました。

この本は、ソ連軍女性兵士の二次大戦後インタビュー「戦争は女の顔をしていない」を艦これキャラで行ったパロディネタがツイッターで盛り上がり、そのネタをさらに広げて、小説同人誌の形でまとめたものです。(その当時のtogetterはこちら)


構成・編集を担当頂いた徳岡氏が『「紙に印刷した小説本」でなくてはできないことをやってみました。』とツイートされたように、バラバラの雑誌で掲載されていたインタビューを集めて収録したという趣向になっており、少数発行のコピー誌ながらも凝ったものになっております。

色々と罪深い本ですが、お陰様で本日持ち込み分はすぐ完売。14時20分に再販した増刷分50部も3分前後で完売となったようです。お手に取られていない方も多いかと存じますが、サークル「宇古木亭」主宰のa_park氏が、今後参加する艦これイベントで委託として再販するそうですので、読んでみたいという方はお手数ですが、そちらで入手をお願い致します。


最後になりますが、2014年も引き続きよろしくお願い申し上げます。



【関連】

10式戦車へのプレリュード(準備号)


2013年12月24日火曜日

南スーダンで進展している虐殺の危機

国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に派遣されている自衛隊が、同じく派遣されている韓国軍の要請により、小銃弾1万発を韓国軍部隊に提供することになりました。


南スーダンのPKO活動に関連し、政府は、陸上自衛隊の銃弾1万発を、PKO協力法に基づき、国連を通じて韓国軍に提供する方針を決めました。
PKO協力法に基づき国連に武器が提供されるのは初めてで、政府は、緊急性が高いことから、いわゆる武器輸出三原則の例外措置として実施したとする官房長官談話を発表することにしています。


今回の措置は緊急性が強く、武器輸出三原則の対象外となるようです。韓国軍が弾薬提供を求めるまでに至った南スーダンで、どのような事態が進行しているのか、南スーダンの事情から現在の状況、韓国軍が提供を求めた背景について解説したいと思います。


南スーダン共和国の概要と内紛

南スーダン共和国は、2011年7月9日にスーダン共和国から分離独立した「世界で最も新しい国家」と言われ、国連を中心とした国際社会が協力して国造りを行っている最中です。日本も自衛隊の2012年1月から施設部隊を国連PKOに派遣し、インフラ整備に協力するなどの活動を行っております。

かつてイギリス植民地であったスーダンは、1956年にイギリスからスーダン共和国として独立しました。しかし、スーダン共和国は北部はアラブ系のイスラム教徒、南部はアフリカ系黒人の土着信仰・キリスト教徒といったように、人種・宗教の地域差が大きい国家で、アラブ系に占められていた政府と南部住民の間で対立していました。南北スーダンの対立は2度の内戦と和平を経て、2011年1月の住民投票により南部の独立が決定し、7月9日の独立に至ります。この時、南スーダンの政権を構成したのが、独立運動を主導したスーダン人民解放運動/軍(SPLM/A)でした。

南スーダンで見られる暴力の特色として、スーダン政府と南スーダン間の暴力に加え、南スーダン内部で住民同士でも苛烈な暴力が行われていた点にあります。

SPLA はディンカとヌエルと呼ばれる2つの民族が主流ですが、かつてスーダン政府は他の部族にSPLAと対立する民兵組織を結成させるなど、南スーダン内の民族分断対立を構造化させたため、現在でも南スーダン内にはSPLAに反発する部族がいます。また、当のSPLAも、ディンカ人が立ち上げた当初は、ヌエル人のアニャニャIIと呼ばれる反政府組織と敵対していた過去があります。SPLAは幾度もディンカ人の主流派(トリット派)とヌエル人の反主流派(ナシル派)の離散集合を繰り返していましたが、2002年1月にナシル派はSPLAに復帰し、南スーダン独立に至るまでは協力関係が続いていました。しかし、2013年7月に、ナシル派のトップであるマシャール副大統領が解任され、12月14日にはマシャール前副大統領によるクーデター未遂事件が発生に至ります。現在の南スーダンの状況は、このように複雑な民族間対立を背景にしたSPLAの内紛と言えそうです。



韓国軍の事情

さて、韓国軍が自衛隊に弾薬を求めてきた背景としては、韓国軍が活動している東部ジョングレイ州の州都ボルに反乱軍部隊1000名が接近しており、防衛体制を強化する必要に迫られた事と、日本と韓国が共に北大西洋条約機構(NATO)で標準化された5.56x45mm NATO弾と呼ばれる弾薬を使用している点にあります。UNMISSに兵力を派遣した国は、NATO弾を採用していない国が多く、大量に融通できる部隊が自衛隊しかなかった為とされます。なお、少数名展開中の米軍からも韓国軍は少量の弾薬の提供を受けています。

UNMISS参加部隊と展開地域(防衛省資料より

今回の小銃弾の提供は、国連を通じて行われます。これは、PKO協力法案で物資提供を国連組織に認めていますが、個別の国家に対しては認めていないためです。実は2012年に自衛隊と韓国軍の間で物資を相互に提供できる、物品役務相互提供協定(ACSA)を締結する予定でしたが、締結直前になって当時の李明博政権から延期の申し入れがあり、以後進展しておりません。ACSAでは弾薬を含む武器の提供は認められていませんが、今回のPKO協力法に基づく提供もこれまでの政府答弁で武器を含まないとしてきたため、仮に日韓ACSAが結ばれていたら、日韓で直にやりとりしていた可能性もあります。今回の事態を受けて、日韓ACSAに進展が出てくるかもしてません。

提供される小銃弾が1万発と聞いて「そんなに大量に!」と驚かれる方も多いと思いますが、派兵されている韓国軍兵士273名に1万発を均等に分けると、1人あたり40発以下で一般的な小銃の30発入り弾倉2個分にも満たないものです。全員が連射すると、数秒で撃ち尽くしてしまう量です。それほどの量でも弾薬を集めている韓国軍の状況は、かなり切迫しているのではないかと考えられます。元々、政府軍であった反乱軍はかなりの重装備を持っているものと思われますが、対するPKO部隊は重装備は限られています。現に避難民を保護していたインド軍が攻撃を受け、死者も出ているなど予断を許しません。



スレブレニッツァの虐殺に似た状況

軽武装の国連PKO部隊に重武装の武装勢力が迫る展開は、1995年のスレブレニツァの虐殺を彷彿とさせます。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中、オランダ軍を中心とする軽武装の国連PKO部隊が展開してたスレブレニツァで、8000名以上が虐殺されたスレブレニツァの虐殺は戦後ヨーロッパで最大の虐殺事件と呼ばれ、大きな衝撃を与えました。軽武装で人員、物資共に足りていなかった国連軍部隊は、重武装の武装勢力を前にして抑止力足りえず、虐殺を制止することが出来なかった事も問題になりました。今回、南スーダンで国連キャンプには難民が集まっているとされ、国連PKO部隊はその保護を行っており、状況はかつてのスレブレニツァをなぞっています。事態の進展によっては、比較的安定している首都ジュバに展開している自衛隊にも脅威が及ぶ可能性があります。

スレブレニッツァの虐殺被害者の墓地(写真:MichaelBueker)

今回の提供は、法的には問題が残るものの、その緊急性・重大性を鑑みれば妥当な判断と思います。韓国は25日には装備を空輸するとしており、それまで事態が急激に悪化しなければ、ある程度の抑止力として期待できるかもしれません。しかし、事態が好転しない限り、国連PKOと反乱部隊の衝突、あるいは住民虐殺の恐れは燻り続けるでしょう。

自衛隊、韓国軍を始めとする派遣国要員、そしてなにより南スーダンの人々のため、事態の一刻も早い収拾を望みます。



【参考】

大林一広「内戦後の暴力と平和構築  ―南(部)スーダンの予備的分析と研究課題の模索―」

栗本英世「「上からの平和」と「下からの平和」―スーダン内戦と平和構築」

また、スレブレニッツァの虐殺に関しては、長有紀枝「スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察」
が多分、日本語における唯一の専門書籍。

また、Wikipediaの「スレブレニッツァの虐殺」の項目は、無料で読めるにしては信じられないくらいクオリティが高いので必読。


2013年12月19日木曜日

中韓を嘲笑う前に、我が身を振り返ろうよ

少し前の話になるが、ある人(A氏)と何気なく政治について会話をしていた時、相手からこんな話題が出た。


「ところで、○○(ある野党政治家)って、在日らしいですね」


あまりに唐突で驚いたが、聞けばインターネットでその政治家の名前を検索すれば、在日外国人だという結果が出てきたからだという。確かに、その政治家の名前を検索エンジンにかければ、予測検索で「在日」「帰化」と言ったワードがすぐにサジェストされる。しかし、その政治家が在日外国人だという信用に足る記述はついぞ見たことがない。ネット上では他にも、左派・リベラルに近い政治家や文化人が在日外国人だとする書き込みも多く見られるが、彼らがそうだという話も同様に根拠が薄い。その話の根拠についてA氏に聞くと、ただネットに書いてあったから、というだけで、自分で来歴や家族関係を調べた訳ではないという。A氏は他にも、韓国や中国についての、ネガティブな話題を私に振って来た。

ここまで読んで、A氏は思慮も経験も足りない、ネット右翼被れの若者だと思われた方も多いかもしれない。ところが、A氏は初老と呼べる年齢で、海外経験も豊富で多くの外資系大手企業で勤務した経験を持つ取締役社長であり、左派・リベラルの文化人が(侮蔑を込めて)主張する「低所得・低学歴の若者」というネット右翼像からかけ離れていた人物であった。経営について深い洞察力を有しているはずのA氏が、ネット上の根も葉もない噂を何の疑問もなく他人に開陳した事に驚いたが、ある特定集団についてのネガティブな噂を、幅広い層の日本人が受容し、好んで「消費」されているのではないか、とこれ以後危機感を持つようになった。


中韓叩き記事が売れる今、戦争煽り記事が売れる戦前

現代中国に詳しいノンフィクション作家の安田峰俊氏が、最近の週刊誌事情について、こんなことをツイートされていた。

最近、複数の週刊誌関係の方に共通して出た話。「中韓叩き記事、正直僕らも大してやりたくないけど毎週のアンケートの人気高くて外せない。ここ一年ほど特に顕著」「『中韓はこんなに劣っている』か『日本は実はこんなにすごい』が受ける。毎回似た中身でも」。フリーの中国ライターには有難いけれどさ

2chのまとめサイトもそうだけど、情報の受け手がみずから望んで偏った情報を求めているんだもの。売る側はそういう人にお金落としてもらうために、偏ってるのを承知で煽り情報を売る。うーむ


そしてITか紙媒体かというギャップも意外とない。家でPCに張り付いてるアラサーニートも定年前後の不安におびえるおっちゃんも、「あまり考えずに気持ちよく消費する娯楽情報」についてはみんな(=少なくともビジネスが成り立つ規模の人数)欲するところは大して変わっちゃいねえとも言えるのよな


最近の週刊誌は、中国・韓国を叩く記事ばかり売れて、週刊誌側もそれを分かって中韓叩き記事ばかりを載せており、その傾向がこの1年が特に顕著だという。確かに、中国・韓国との外交問題による反発感情を受けてか、最近はその手の記事が誌面に載るのを多く見るし、書店に行けば中韓叩きの本と、日本がいかに素晴らしいか・他国から賞賛されているかという内容の本ばかりが平積みされているのが目立つ。相手を貶し、自分(が属する集団)を称える本が売れる傾向は、はっきり言えば自慰的で気味が悪い。

このように特定の記事ばかり売れるので、マスメディアもそれに追随した例は過去にもあった。先日の池上彰氏の戦争番組でも触れられていたが、第二次世界大戦前のマスコミは威勢のよい好戦的な記事が売れるからと、好戦的な戦争を煽る記事ばかり書いて国民を煽り続け、マスコミは未曾有の好況に湧いていた。当時のマスコミについて、社会学者で京都大学大学院の佐藤卓己准教授によれば以下の様な状況であった。

雑誌が売れて売れて仕方ない、しかも統制のおかげで返品がまったく無い、つまり出版社にとっては儲かって笑いが止まらないという状況でした。一方、新聞界でも、読売新聞の発行部数が100万に到達した時期であり、国民が戦況報道を求めて新聞に飛びついた時代です。メディア経営にしては好景気のバブル時代だったということです。



戦前の主要雑誌年間発行部数推移(佐藤卓己「教育将校・鈴木庫三の軌跡」より引用)

戦争を煽り続けた報道でバブルを味わったマスコミ人は敗戦後、軍にその責任をおっかぶせ、自分たちは言論統制の被害者であると装ったのだ。

また、現代中国の話ではあるが、ジャーナリストの福島香織氏のツイートによれば、中国でも日本をネタにした好戦的な記事はウケているらしい。
中国人が戦争をどう思っているかということについて、彼の意見が多数派を代表するものではありませんが、環球時報の1面に対日軍事強硬記事とかのると、売り上げがぐんと伸びるのは事実です。環球時報の編集者が言っとったよ。環球時報は低層社会に人気のある安価な新聞。


環球時報の話のみで、中国のメディアが全てが対日強硬論で売れていると言うつもりはない。しかし、日本の週刊誌に溢れる日中軍事衝突のシミュレーション記事を見て、これと同じことが中国でも起きていたら、と考えるのはあまり気分のいいことではない。現代史家の秦郁彦氏によれば、第二次世界大戦前の長い期間、日本とアメリカ双方のメディアでは、日米もし戦えばといった日米戦シミュレーション記事が賑わっていたとされる。秦氏はそれらの報道が当時広まりつつあった地政学概念と結びつき、日米必戦の雰囲気が醸成されたのではないかと指摘している。この指摘と、かつての日本のマスコミの大衆迎合の事実を合わせて考えると、それが意味するものは重い。



心地よい隣人のネガティブ情報

しかしながら、最近の中韓叩き記事はいささか事情が異なる。戦前はマスコミが記事需要を判断して自発的に煽ったものだが、近年の中韓叩きはネットが先導し、マスコミがそれを追随する形となっている。「在日特権を許さない市民の会」の会長も、元は韓国叩きサイトの管理人で、出版社から著書が刊行されるようになったのは最近のことである。

韓国叩きサイトが目立つようになったのは、2002年の日韓ワールドカップ前後からであるが、今や10年以上の蓄積によって、検索エンジンで「韓国」を検索すると、ネガティブ情報ばかり表示されるまでになった。安田氏も指摘しているように、「あまり考えずに気持ちよく消費する娯楽情報」として、韓国のネガティブ情報はネット上でその地位を確固たるものにしている。近年は尖閣問題・反日デモによる反中国感情も加わり、中国のネガティブ情報も消費されるようになったと見られる。仲間内でする他人の悪口は心地よいもので、その悪口の真偽も問われる事は無い。冒頭のA氏も、なんとなくネットで出会った情報をよく考えずに気持よく消費し、私との話題にも心地よい話題として取り上げようとしていたのではないか。



全国紙も中韓を侮る姿勢

もっとも、ここまであげてきた例は個人の会話だったり、ゴシップネタ・叩きネタは日常茶飯事の週刊誌の話だ。ところが、最近は中韓叩きが全国紙にまで見られるようにってきている。その最たる例が産経新聞だ。

安倍政権を「軍国主義の復活」などと非難する韓国だが、軍事費が国家予算の10%に上るなど自らは軍備増強にまっしぐらだ。ただその中身は何ともお寒い。新型の国産戦車「K2」は開発開始から18年を経てもエンジンが作れず、部隊配備は延期に次ぐ延期。水陸両用の装甲車は川で沈没するなど技術不足による欠陥品ばかりで、首都防衛の機関砲がパクリのコピー品で使い物にならないことも明らかになった。大阪では町工場が人工衛星を作る技術を持つが、“お隣り”は国家の威信をかけた軍備もパクリや偽造、ポンコツのオンパレードだ。(岡田敏彦)


かつての産経新聞と言えば、冷戦期は日本の全国紙きっての韓国擁護論陣を張っており、韓国の軍事政権に批判的でともすれば北朝鮮擁護も見られた他の全国紙と異なり、一貫して韓国擁護の“親韓”新聞だったが、今は韓国叩きの先頭を走っている。パクリ、ポンコツのオンパレードと扇情的な本文に加え、見出しには「無謀ウリジナル、放熱できぬ戦車」とある。この”ウリジナル”という言葉は、韓国がなんでもオリジナルを主張するのを揶揄したネットスラングであるが、ネットスラングを説明無しで載せており、明らかにネットを意識した記事となっている。

自衛隊に納入した機関銃5,000丁以上のデータを、メーカーの住友重機械工業が1970年代から改ざんしていた事が発覚したばかりなのに、こういう記事載せる産経新聞はブーメランが怖くないのかと心配になるが、この記事の問題はこれ以外にある。韓国が装備品をパクリ・剽窃しているのは事実で、それが多くの問題を生んでいるのも事実だ。だが、かつて韓国の電気製品をパクリだと陰口叩いていた日本の電機メーカーのうち、サムスン電子に対抗できるメーカーは1社も残っているだろうか? このことは、あらゆる分野に言える。我々が嘲笑っているうちに、抜かれつつあるのは、国家の存続を左右する国防の分野も例外ではない。



防衛研究開発費で既に中韓に抜かれている日本

中国もロシア製兵器のコピーを臆面もなく行い、中露間で問題となったが、それでもまた新たにロシアから兵器を購入している。中韓は共に装備の国産化に関しては手段を問わないマキャベリ的姿勢であり、他国製兵器のリバースエンジニアリングから、情報活動による他国からの設計情報入手を含めた広範な活動を行っており、それを国産兵器開発にフィードバックしている。その結果、中国は戦闘機、艦船、戦車等の主力装備の開発能力を獲得し、韓国は武器輸出額をわずか5年で10倍にまで拡大させた。パクリを含めた、彼らの手段を問わない努力を上から目線で嗤うのは正しい姿勢だろうか。

パクリや情報活動なんて卑怯な手段で得た技術は身につかない、と反論する人もいるかもしれない。だが、自力の軍事技術の研究開発(R&D)においてすら、中韓は日本を越えようとしている。下のグラフは、各国の国防研究開発費の推移を表すものだ。2007年の段階で、日本は韓国に抜かれている。韓国は今後もR&D費を増額する方針であり、右肩下がりの日本との差はますます開くだろう。また、中国は国防予算とR&D費は別立ての為、その正確な額は推測になるが、既に相当前には日本を抜いていると見られ、現在は日本の遥か上の水準に達していると思われる。


各国の国防研究開発費の推移(防衛省技術研究本部資料より



民間におけるR&D費は、企業の今後の成長性・競争力の指標となっているが、それと同じことが国防にも言える。たゆまぬ技術開発と研究により、軍事技術をより洗練・発展させる事は、自国の戦力を向上する事に繋がる。年々、R&D費が減少している日本を尻目に、R&D費を増額させている中韓。日本の軍事技術の優位性は過去の蓄積で持っている状況であり、このままでは早晩、中韓に抜かれ、優位性は失われる事になるだろう。いつか、見下して嗤っていられた時代を懐かしむ日が来るのかもしれない。



隣国を嗤う前に我が身を見直そう

冒頭のA氏のような人が、日本企業の経営者で一般的なのかは分からない。だが、A氏が中韓を嘲笑する話を私に振って来たのは、他の経営者との会話で通じるネタだったからとしたら、それは憂慮すべき事態ではないか。「あまり考えずに気持ちよく消費する娯楽情報」に曝され続け、偏った情報ばかりを摂り続けて、正常な判断が出来るのだろうか。全国紙ですら中韓を嘲笑する記事を出すようになった今、多くの購読者が同じ認識を持ち、実態を知ろうともしないで侮り続けていたら、この先どうなるのだろうか。少なくとも、良い結果は生みそうにない。

日本が衰退の方向に向かっているのは事実である。こんな状況にありながら、他国を見下し、いかに日本が優れているかの本が売れている現状は、まさに現実逃避と言えるだろう。だが、その先に待ちかまえているのは破滅でしかない。まず、目の前の問題を解決し、競争者の実力を把握して、追い抜かれない努力をする方が良い未来に繋がるのではないでしょうか。


※中国のR&D費について、「10年前には日本を抜いている」としましたが、正しくはもっと以前から抜かれていましたので、表現を訂正いたしました。


【関連書籍】



2013年12月18日水曜日

韓国が鍵となる、新しい日本の防衛計画

17日に、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」(防衛大綱)が閣議決定されました。防衛大綱とは、概ね10年ほどを想定した中長期的な安全保障政策の指針の事で、日本を取り巻く安全保障環境に変化が無ければ10年以上経っても改訂されない事もありましたが、今回の改訂は平成23年度に防衛大綱が定められたばかりでしたので、わずか3年という短期間での改訂になります。防衛大綱の閣議決定と同時に、今後5年間の防衛力整備、つまりどれだけ装備を調達して人員を割り当てるかを定めた、中期防衛力整備計画も明らかになりました。

さて、これら中長期の安全保障政策と防衛力の整備計画では、陸上自衛隊はこれまで地域ごとで独立した指揮権を持っていた方面隊の上に陸上総隊を新設して、陸上総隊に指揮を一元化する組織改編を行い、機動力の高いMV-22オスプレイや機動戦闘車、水陸両用車両を新たに配備します。水陸両用団と呼ばれる島嶼部戦闘に特化した部隊も新設されます。海上自衛隊や航空自衛隊でも同様に、戦闘機部隊の増勢や、多用途性とコンパクトさを両立させた新たなタイプの護衛艦の導入、警戒監視能力の強化などが謳われています。


今後5年で99両が新たに配備される機動戦闘車今後5年で99両が新たに配備される機動戦闘車

一方、これらの新たな装備の配備や増強の反面、陸上自衛隊の主力装備である戦車・火砲を大幅削減し、戦車の配備は北海道、九州のみとし、これまで各師団に配備されていた火砲も方面隊直轄とするなどの方針が明らかになっています。

このような新しい防衛大綱は「南西シフト」であると各種報道は伝えています。冷戦期にソ連を仮想敵として北海道に重点配備していた自衛隊を、中国を睨んで九州・沖縄等の島嶼部の防衛に注力すべく、日本の南西部に防衛力の再配置するというものです。

近年の中国の軍事力整備の方向性は、圧倒的な経済力を背景にした正面装備の充実を図っています。2013年に中国が建造した水上戦闘艦の数は、自衛隊がこの10年間に建造した護衛艦の合計を既に上回っており、急ピッチで拡大し続けています。また、中国海軍は空軍とは別に海軍航空隊を保有しており、現在の増強ペースを見れば、あと数年で海軍航空隊だけで航空自衛隊より強力な戦力になると見られます。中国海軍は陸上部隊を運搬し、上陸させる揚陸艦の整備も今後進めると見られ、かなりの水陸両用戦力もいずれ持つ事になるでしょう。

これら中国の軍事力の拡大に、日本一国のみで対抗するのは不可能で、日米同盟の強化や周辺諸国との軍事的連携、国際的な協調による紛争防止等、多国間の協力が必要となります。新しい防衛大綱でも、アジア太平洋地域の国々との連携や、国際社会との協力を推進することが謳われています。

ところが、新しい防衛大綱では、日本が今後連携推進を目指すとされた国の中に、外交的に険悪な状況にある国があります。韓国です。


複雑に入り混じる日中韓の防空識別圏

新しい防衛大綱では以下のように韓国との関係強化を謳っています。


 我が国と共に北東アジアにおける米国のプレゼンスを支える立場にある韓国との緊密な連携を推進し、情報保護協定や物品役務相互提供協定(ACSA)の締結等、今後の連携の基盤の確立に努める。



ところが、ここで謳われている情報保護協定の締結は、本来は昨年に締結が予定されていたものですが、締結直前になって韓国から延期の申し入れがあり、それ以降は進捗が見られません。また、そもそも今回の新しい防衛大綱策定の基本概念である国家安全保障戦略について、韓国外務省は竹島問題が明記されていることを遺憾とし、削除を要求するなど抗議しています。


韓国外務省の報道官は17日の記者会見で、日本政府が閣議決定した国家安全保障戦略に竹島の領有権問題を外交努力で解決すると明記したことについて「極めて遺憾」と表明、「日本政府は不当な主張を即時に中断すべきだ」と訴えた。



韓国との協力関係構築を目指すとする日本の新たな安全保障政策ですが、当の韓国が様々な問題から乗り気ではありません。その背景には領土問題や反日感情と言ったものが挙げられていますが、一番大きな問題は中国への配慮にあるでしょう。国内市場が小さい韓国経済は、貿易依存度が極端に高く、韓国最大の貿易相手が中国であることからも、中国の韓国に対する経済的影響力は計り知れないものがあります。また、北朝鮮と関係の深い中国と良好な関係を築くことで、北朝鮮の暴発を抑える事も期待されており、韓国としては中国の機嫌を損ねる日米との連携強化を表立ってできない状況にあります。

日本、ひいてはアメリカにとって、韓国を日米側に引き留める事が重要になってきます。先日、訪韓したバイデン米副大統領は朴槿恵韓大統領との会見で、日本との関係改善を促した上、「米国の反対に賭ける(betting)のは良くない」と発言し、中国と関係を深める韓国に釘を差したと、韓国国内では大きく取り上げられました。日本も韓国が「反対側に賭ける」のを阻止する為、米国と強調して、日米側に留める努力を強める必要があるでしょう。

歴史を振り返れば、日清・日露の両戦争は、日本が大陸勢力からの緩衝地域として朝鮮半島を日本側勢力に留めようとした為に起きています。更に遡れば663年に白村江の戦いで唐・新羅連合軍に日本軍が敗れ、朝鮮半島における日本側勢力が一掃された後、日本が九州に防衛用の城を多数築いて防人を置き、首都を海沿いの難波宮から内陸の近江宮に移すなどの防衛力強化に努めた事が知られていますが、これは朝鮮半島における緩衝地帯が無くなった事で、日本本土が最前線になった為に防衛力強化が必要となった為と言えます。今、朝鮮半島に緩衝地帯を無くすと、1300年前を繰り返す事になりますが、これは避けねばなりません。

前述した通り、新しい防衛大綱と中期防衛力整備計画では陸上装備が大幅に削減されます。これは我が国が島国であり、直接的な陸上戦力の侵攻を海が阻んでいる為に可能になったものです。ですが、韓国が「反対側」に賭けた場合、日本は大陸勢力と対馬海峡という狭い海峡を挟んで対峙する事になり、大幅に防衛への負担が高まります。

防衛大綱で示された他国との連携では、アメリカ、オーストラリア、ASEAN諸国、インドといった国々との連携も謳われ、それらの国々とは成果も出ておりますが、韓国だけはうまくいっていません。防衛大綱で示された安全保障環境の実現の、最大の障壁にして鍵が、韓国と言えるでしょう。韓国では中国との関係は良好と考えられていましたが、中国が防空識別圏を韓国が管理権を主張する蘇岩礁上空に設定した事への反発や、張成沢氏処刑による中国の北朝鮮への影響力についての疑念などで、メディアが日本との関係改善を主張し始めるなどの兆しを見せています。ここでどう韓国側をこちらに取り込むかが、日本外交の見せ所になるでしょう。


【関連】




2013年12月11日水曜日

韓国が新防空識別圏を設定

韓国国防部が新しい防空識別圏(KADIZ)を設定したと発表しました。

【ソウル聯合ニュース】韓国の国土交通部関係者は11日、国防部の要請を受け、防空識別圏の拡大を盛り込んだ航空情報(ノータム)を各国の航空当局に送ったと明らかにした。航空情報は防空圏が拡大される15日午後2時から発効する。


ところが、韓国国防部のサイトや国土交通部AIS見ても、新KADIZの座標が載っていない。困ったなあと頭抱えつつ、韓国メディア探したら座標があったんですが……







あのー。2つとも聯合ニュースがソースなのですが、KADIZ東の座標が30分違うのですがそれは……。

とりあえず、AISにあった過去の座標からデータから、下の白地図の方の座標が正しいなと仮定して、Google Mapsに追加しておきました(色分け見難くてすみません)。とりあえず、過去のKADIZも残しておきます。いずれ消すかも。




さて、これを見ると分かりますが、大変だ。日本の防空識別圏もむちゃくちゃ広いのですが、韓国のも南に伸び、厳密に対応してしまうと、韓国本土南西にある光州基地がめんどい事になるかもです。

※(12/11,20時追記)新KADIZに少し誤りがありました(対馬海峡の一点を入れ忘れ)。修正しましたが、見た目はほとんど変わりません。

【関連】




オオカミ少年は死なず ~民主主義は何回死んだか~


特定秘密保護法が成立しましたね。

この法案を巡っては、反対論陣を張ったメディア、特に朝日新聞と毎日新聞が批判的な報道を連日繰り返していましたが、法案成立時に毎日新聞は「民主主義死す」とまで題した見出しをつけています。
特定秘密保護法:成立 軽々と、民主主義死す 「息苦しい世になるのか」

出典:毎日新聞 12月7日朝刊

民主主義が死んだとは穏やかではありませんね。本当に民主主義が死んだのであるならば、メディアによる政府批判や、私のような一介のブロガーが呑気にブログ書いてたりは出来ないと思うのですが、「民主主義が死ぬ」というフレーズは、昔から色んな政治家が、揉めた法案がある度に発言していた記憶があります。

そこで、平成以後に国会議員が発言した「民主主義の死」に類する発言をいくつかピックアップしてみた。(肩書はいずれも発言時)

自自公の数の横暴で民主主義が死にかけている。一日も早い解散を迫っていく。

出典:羽田孜(民主党幹事長)
2000年 福岡市内のホテルで開催された「新春のつどい」にて

理念なき妥協であり、有権者を愚ろうし議会制民主主義の死滅にもつながりかねない

出典:土井たか子(社民党党首):1999年 衆院比例定数削減について

PKO協力法案は平和的な国際貢献の名に値しない。自衛隊の海外派兵を最優先する悪法だ。全力で阻止する。参院での強行採決以来、我々が考えてきた国会のルールが踏みにじられ、議会制民主主義が死滅せざるを得ない。

出典:田辺誠(社会党委員長):1992年 党内の朝の代議士会挨拶にて

採決は無効だ。自公民3党で決めたことで国会が動くようでは議会制民主主義は死滅だ

出典:田辺誠(社会党委員長):1992年 PKO法案特別委員会の採決後に

皆さん、軽々しく民主主義を殺しすぎですね。もう20年以上前のもあるんですが、死者に鞭打ちすぎだと思います。

さて、このように「民主主義の死」と煽る人物に共通するのは、代議士制における民主的意見集約手段である選挙結果を無視し、審議の打ち切りと強行採決を持ってして「死んだ」「死ぬ」と言っている点ですが、民主党が与党時代に強行採決を繰り返した事は周知の通りですし、社会党の田辺委員長に至っては、PKO法案を巡り2回も「民主主義の死」を発言していますが、その後に社会党は自社さ連立政権を組むにあたり、自衛隊合憲・PKO派遣も認めるように方向転換しました。「民主主義は死んだ」と抜かす人に限って、民主主義を「殺す」側に入る事には躊躇しないのはどういうことなんでしょうか。

今回の秘密保護法を巡っては、反対論陣側はいたずらに危険性を煽り立てるものばかりで、法案そのものを完全否定するあまり、法案が抱える問題点そのものの議論が尽くされず、非常に残念なものとなりました。もっとも、法案は改正することが出来ますし、今後に非自民党政権が成立する可能性だって十分ありますから、その際に改正を議論してくれれば良いと思います。しかし、過去に「民主主義の死」を連呼したオオカミ少年たち(オオカミ爺さんと婆さんですが)が、その後に民主主義を殺して回った事実を見ますと、あまり期待できそうにないと暗澹たる思いがあります。




2013年12月6日金曜日

難しいSNS時代の秘密保全

特定秘密保護法が成立秒読み段階に入っていますね。秘密保護法が成立・施行された場合、行政の長が特定秘密に指定した情報は部外者には秘密にされ、その情報を外部に漏洩させた者は罪に問われる事になります。そういう点で秘密保護法は、情報へのアクセスを制限することで、秘密を守るというアプローチと言えます。

ところが、指定された秘密自体が漏れてなくても、秘密でない一般情報から、秘密をかなりの精度で推測する事は可能です。近年はその為の技術も発展し、各国情報機関ではその活用が行われています。秘密保護法の成立の前に、秘密でない情報から秘密を明らかにする方法と、その手法から秘密を守る方法を考えてみましょう。



情報機関も活用するSNS

最近は「ビッグデータ」と呼ばれる巨大なデータの集合を強力なコンピュータで解析し、消費者動向等を掴もうとする試みがビジネスの世界で盛んですが、諜報の世界でもビッグデータの活用が行われています。米国家安全保障局(NSA)では、フェイスブックやツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で流れている情報を解析し、対テロ情報の収集に役立てていると言われています。例えば、SNSに要注意人物がアカウントを持っていた場合、その人物がどこでどんな行動をしているのかを把握することが可能ですし、SNSの全情報から怪しい行動をしている人間を抽出して、犯罪を防止することも可能です。人がどういうネットワークを持っていて、そのネットワークはどういう集団なのかも判明し、犯罪・テロネットワークの把握にも繋がります。このようなSNSのビッグデータ解析による情報収集のミソは、SNSで発信される情報はWeb上で公開されているものなので、これを情報機関が収集・解析するのは全くの合法だという点にあり、NSA等の情報機関では大規模コンピュータによる解析を進めています。

中二を刺激するNSAのオペレーションセンター

しかし、個人がSNSで情報発信していたとしても、秘密に指定された情報さえ書かなければ、秘密は守られるからいいのでは、と思われるかもしれません。実際、秘密保護法案は秘密そのものを保護対象としているので、秘密を漏らさなければ問題無いのです。法的には。



秘密でない情報から秘密を探る

ところが、秘密情報そのものは守られていても、周囲の情報から秘密を推測する事は可能です。実際に、私の身近で最近あった例を挙げましょう。ある作家の方があるゲームにハマり、ツイッターでゲームの事を頻繁に呟いていましたが、ある日を境にゲームに言及することが無くなりました。この変化を見て取った一部のフォロワーは、作家がそのゲーム関連のノベライズ担当に決まったからゲームへの言及を控えているのではないかと推測しましたが、後日行われた公式発表により、予測の正しさが裏付けられた事がありました。ここでは身近な例を挙げましたが、このように秘密を一切明らかにせずとも、普段からの観察と分析で秘密を明らかにする事は、ほとんどの分野でも可能なのです。

諜報の世界では、普段との行動パターンの違いから異変を察知する事は昔から行われてきました。しかし、個人の普段からの行動を監視するには多くのリソースが必要で、まして集団の構成員全員を対象とする事は不可能でした。ところが、SNSの普及によって、リアルタイムの個人情報が容易にかつ大量に把握可能となった今、その難易度は下がったと言えます。個人が秘密を一切書いてなくても、艦艇勤務の海上自衛官が長時間呟いていないから航海任務に出たなとか、日本時間は夜なのに昼の写真ばかりアップロードしたら海外にいるなとか、いくらでも秘密の推測は可能です。大規模コンピューターを用い、さらに大きなレベルから複数人の情報の紐付けを行った場合、特定の集団(自衛隊部隊や、警察etc...)になにが起きているかも推測可能になるでしょう。秘密を知る鍵は、そこら辺に転がっているのです。



知る必要のある情報か? を考える

このように、秘密を守ろうとしても、秘密以外のところから明らかになってしまっては、秘密保護法も意味を持ちません。これを防ぐにはどのようにすればよいでしょうか。この対策についてのヒントが、インド海軍の艦艇内に貼られていた、情報保全を啓発するポスターにありました。

インド海軍の情報保護啓発ポスター

海軍艦艇乗員の娘が「パパは長期航海に出てて、6月27日に帰ってくるの!」と電話で話している微笑ましい様子を描いたポスターですが、子供の下には「機微情報を知る必要のない人間と共有しない。それは不用意な開示かもしれない」と注意を促す文章があり、このポスターは乗員が子供に帰宅する日を教えてしまったため、艦艇がいつ作戦から戻るのかといった情報が、他人にも伝わっていく事への注意喚起だと分かります。このポスターにある「知る必要のない人間と情報を共有しない」は重要な事で、普段から周囲に伝える情報が、その人が本当に知る必要のあるものかを考えてから伝える事が秘密保全には重要です。これは、'''流れる情報量を減らす'''事で、秘密保護を行うアプローチと言えます。


制限による漏洩防止が難しいSNS時代

ところが、普段の自分の様子を伝えるSNSでは、情報量を減らすアプローチによる秘密保護は難しいものです。前述したように、ビッグデータによる解析が行われるようになった今、些細な情報でも他の情報と容易に紐付けが可能となり、そこから何らかの秘密に繋がるかもしれません。そして、自分の「つぶやき」に、それがどういう意味を持っていて、そこから推測できる秘密は何か? なんて考える人はほとんどいません。こうなると、SNS経由で秘密を推測されないようにするには、秘密取扱者のSNS利用を制限するか、匿名SNSのみにする必要もあるかもしれません。しかし、個人の活動でしかないSNS利用を制限するのは難しいですし、なにより「秘密」でもなんでもない情報を発信する事を止めさせるのは無理でしょう。

一般情報からの秘密の推測を防ぐには、流す情報の中に欺瞞情報を混ぜるアプローチが、古くから行われている手法であります。そして、公文書に虚偽情報を載せると問題になりますが、個人利用のSNSで自分の行動について嘘を載せても罪には問われません。秘密取扱者が個人SNSを利用する場合は、発信する情報に適度に嘘を混ぜておくことで、推測の精度を落とす事が出来ます。秘密取扱者に欺瞞情報の発信についての教育訓練を行う事で、秘密保護に役立てるしれません。もちろん、不自然な情報を検出するフィルタリング技術も存在するでしょうから、欺瞞情報を自然に見せるための手法の研究も必要になってくるでしょう。もしかしたら、この方法は既に行われているのかもしれませんが、自衛官と思しきSNSアカウントを複数観察していると、情報に「ムラ」が感じられる事があるので、現状は個人の情報意識による所が大きいのではないかと思います。組織としてSNS時代に則した欺瞞手法の研究と、秘密取扱者に対する教育を行う必要があると思われます。

もちろん、前述した情報アクセス制限情報流量制限による秘密保護アプローチも重要です。一つの手段で万全なものはあり得ませんから、重層的な対策によって、秘密保護を行うことが重要となります。秘密保護法は秘密へのアクセスを制限して、秘密自体が漏れる可能性を減少させるには有効なのですが、一般情報からの秘密の推測には効果がありませんので、その他の手段も用いて秘密を守る他ありません。秘密保護は法案が出来たから解決する問題ではなく、ここから始まる問題だと考えるべきでしょう。


【関連書籍】






2013年12月3日火曜日

ニコ動にもデアリング来航動画をアップしました

12月1日の段階でニコ動にもデアリング来航の動画を上げる予定だったんですが、急用で遅れていました。ようやっとPCに触れる環境になったので、ニコ動にアップロード。



取り急ぎ、ご報告まで。

2013年12月1日日曜日

HMSデアリング来日

英国のジェームズ1世の国書が徳川家康に捧呈され、日本と英国の間に正式に国交が結ばれてから今年で400年目を迎えます。これを記念して、英国海軍の最新鋭艦である45型ミサイル駆逐艦”デアリング”が12月1日に東京港に来航し、晴海埠頭にて記念行事が行われました。


晴海埠頭に接岸する45型駆逐艦デアリング




2008年の”ケント”来航以来、英国海軍の艦艇が来日するのは5年ぶりとなります。今回のデアリング入港前には、日本側のホストシップ(相手を出迎えるホスト役の軍艦)で、自衛隊の最新鋭艦である、あきづき型護衛艦”てるづき”と親善訓練を行い、てるづきが先導する形で一緒に入港しました。


ホストシップのあきづき型護衛艦てるづき

最新鋭駆逐艦であるデアリングは、統合電気推進と呼ばれる先進的な推進機関を持っています。これはガスタービンで発電し、その電力でモーターを駆動させて航行する推進機関で、推進の為の電力と、艦内で使われる機器の電力の電源を共用・一元化することで電気利用の効率性を高め、これにより高い静粛性と緻密な操作制御を実現しています。搭載されるガスタービンも、あきづき型が搭載する”SM1C”(これも英国が開発したものです)よりも新しく、燃料消費の少ない”WR-21”を搭載しており、このガスタービンを搭載した船は45型駆逐艦以外にまだありません。


デアリングに搭載されているWR-21(ロールスロイス社パンフレットより)

エンジン開発に高い技術力を持つイギリスですが、今年に入って、日本との間で防衛装備品の共同開発やテロ情報の共有を行うための情報保護協定が調印されました。まずは防護服などの開発から初め、将来的には艦艇用エンジンの開発まで行うとされています。このような防衛装備品の技術情報やテロ情報の共有は、高い秘密性が求められているため、現在の国会で騒がれている秘密保護法案も、元々はこのような海外との防衛関連情報の共有の為に成立が急がれた背景があります。同様の情報保護協定は、アメリカとNATO、オーストラリアの間でも結ばれております。なお、韓国とも昨年に締結する予定でしたが、締結直前に韓国側から延期の申し入れがあり、以降進展がありません。

現在、防衛装備品の開発は、開発費の高騰によって、費用や技術を出し合う国際共同開発が世界的な潮流になっております。開発費の減少が続く日本でも、その波に遅れないように国際共同開発に取り組むため、武器輸出三原則の緩和や秘密保護法の制定などを行い、環境を整えている段階にあります。そういうことを踏まえて、今回のデアリング来航を見てみると、ただの親善目的の来航以外の、また違った面が見えるかもしれません。


【写真コーナー】

レインボーブリッジを通過するデアリング
前部アップ

艦橋上左右に1基ずつある光学系っぽい何か

艦首4.5インチ単装砲

雄々しいとしか言い様がない

自衛隊の暗号携帯はAndroidスマホ?

秘密保護法案成立を巡って、色々と騒がしい昨今ですが、秘密保護法の保護対象となる自衛隊暗号に関連する、ある情報が防衛省から公開されました。

陸海空の3自衛隊を束ねる組織である、統合幕僚監部が11月25日付けで公告した入札情報に「秘匿携帯電話プログラムの改修等」というのがあり、入札対象となる携帯端末の性能要求仕様が書いてありました。主な部分を抜粋してみましょう。

  1. OS:Android4.x以上
  2. CPU:1.7GHz以上、クアッドコア以上
  3. メモリ:RAM 2GB以上、ROM 32GB以上
  4. 外部メモリ:microSD、microSDHCに対応していること。
  5. 通信方式:GSM、3G(HSPA)、LTEに対応していること。
  6. GPS:GPS機能を有すること
  7. ディスプレイ:解像度720×1280ピクセル以上
  8. 専用線対応:専用線データ通信サービスが利用できること

Android4.x以上で1.7GHzのクアッドコアと、最新のフラッグシップ・モデルには届かないものの、液晶の解像度以外は高いスペックが要求されています。ハードウェアとしては、市場モデルに若干の改修と暗号化プログラムがインストールされたもので、3G通信はHSPAを使うので、キャリアはNTTドコモ・ソフトバンクのどちらかと思われますが、国とNTTグループとの関係から、恐らくドコモがキャリアでしょう。

様々な機能が要求されていますが、一方で情報漏洩対策で、制限も課せられています。管理装置からの遠隔操作により、携帯端末の通話やメールの送受信、Wi-FiやBluetoothといった無線機能等を制限できることを要求しています。もちろん、電話帳や履歴などのデータを遠隔消去することも要求に含まれています。

結構色々細かいところまで書かれているのですが、秘密保護法案が成立すると、このような情報も公開されなくなるのでしょうか?

もし、法案が正しい運用をされるのであるならば、このような情報は秘密の対象とならないと考えられます。と言うのも、既に自衛隊法によって、「我が国の防衛上特に秘匿することが必要」とされるものは防衛秘密に指定されており、「防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法」と「防衛の用に供する暗号」は防衛秘密に該当します。ですが、暗号化のキモである秘匿用規約(プロトコル)の仕様は公開されておりません。つまり、この程度の情報を公開したところで、暗号の健全性への脅威にはならないので、国家の安全には問題ないと判断されているのです。また、競争入札である以上は公示の必要があるため、今後もある程度詳細なスペックが公開されることでしょう。むしろ、これまで公開に問題がなかったこのような情報まで秘密にされた時は、秘密保護法が不健全な運用をされている可能性があります。

秘密保護法の理念としては、秘密により国家・国民の安全を担保することですが、秘密指定の乱用は逆効果に陥る事がしばしばあります。実際、アメリカでは同時多発テロ以降に爆発的に秘密指定を受ける情報が増加し、情報のチェック機能は失われ、有益な情報が組織間で共有されることもなく、却って秘密がアメリカの政策と国益に深刻なダメージを与えていることが、ワシントン・ポスト紙のチームによって明らかにされています(詳細はデイナ・プリースト「トップ・シークレット・アメリカ: 最高機密に覆われる国家」を参照)。

我々が注意すべきは、秘密保護法案がその理念から外れ、ただただ失敗を糊塗するための法案に成り下がってしまうことです。このような事態に陥らないためにも、これまで公開されてきた情報と法案施行後の公開情報にどのような違いがあるかを比較し、なにが秘密にされているかを明らかにし、その秘密指定の妥当性を検討する働きが重要になってくるでしょう。第三者機関を政府内に置くことを安部総理は考えているようですが、秘密を作る当人である政府よりも、国民の代表である議会による機関と、規則に基いて秘密情報をチェックする国の機関として設置するのが望ましい形になると思われます。


【関連】
アブグレイブ刑務所での虐待をスクープし、ピューリッツァー賞を受賞したワシントン・ポスト記者と、冷戦時代に電話帳などの公開情報のみで在欧米軍の核兵器貯蔵庫を明らかにした元米軍情報アナリストの共著。911以降のアメリカで、秘密情報の飛躍的増加と、情報機関の相次ぐ拡大により、アメリカの国益は損なわれていく様を克明に明らかにしています。必読。

2013年11月30日土曜日

日中韓台三カ国+1の防空識別圏と係争地域をGoogle Maps上にプロットしてみた

焼き直し続きで申し訳ないですが、「Google Mapsで見る日中の防空識別圏」に更に追加して、韓国の防空識別圏(KADIZ)を見れるようにしました。


より大きな地図で 日中の防空識別圏 を表示

KADIZのデータを探すのに苦労しましたが、韓国政府のAeronautical Information Serviceに座標がありましたので、それを使いました。

これで、日中韓3カ国の空の具合が分かるようになるかもだ。特に、日本の防衛省の図資料とかだと、微妙に抑え気味だった範囲がくっきりわかり、KADIZと元々重なる部分もあったことが分かります。

※12/1,00:20、@pelicanmemo氏からの依頼により、台湾の防空識別圏も追加しました。初めて知ったけど、大陸の奥まで防空識別圏なのね……。

※さらに追記!。台湾のADIZは本当にこれなのか、ソースを再度確認中です!

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2013年11月27日水曜日

Google Mapsで見る日中の防空識別圏

中国の防空識別圏発表が騒がれている昨今ですが、状況を理解する為の助けになると考え、中国国防部の発表資料と、自衛隊の防空識別圏訓令からGoogle Maps上に日中の防空識別圏をオーバーレイ表示できるようにしておきました。

艦これの秋期限定マップ最終日をほっぽりだしてな!


より大きな地図で 日中の防空識別圏 を表示


なお、中国側防空識別圏の緯度経度は中国国防部の発表の下記座標から、中国領空を抜いたものなのですが、中国領空を表示させる方法を思いつかなかったので、中国領空はダミーポイントを3点設定してそれらしくしています。日本人からすれば、実用上は問題ないはず。あと、与那国島の一部は入っていません(実際は入っています)。それと、日本側防空識別圏の内側線は描いていません。めんどうだし、日中比較であまり意味なさそうなので。

中国の防空識別圏の緯度経度は下記の通り。
北緯33.11, 東経121.47
北緯33.11, 東経125.00
北緯31.00, 東経128.20
北緯25.38, 東経125.00
北緯24.45, 東経123.00
北緯26.44, 東経120.58

グリグリいじって、どこが防空識別圏被っているのか、中国の意図はなにかを考えてみるのもよしです。遊んでやって下さい。

※11/27,19:48追記
尖閣と蘇岩礁(離於島)、それに竹島のポイントを追加しました。

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2013年11月19日火曜日

不足と過剰の間で揺れ動く、自衛隊の輸送能力

フィリピン中部を襲った台風30号における災害ですが、各国による支援が本格化し、日本も自衛隊員1180名と航空機、ヘリコプター、護衛艦を現地に送り、医療活動等の救援活動を開始しております。

ところが、この救援活動による派遣が、自衛隊の業務に波紋を与えているようです。先日、こんな報道がありました。

国内外で多発する台風被害への対応に追われる自衛隊が、相次ぐ訓練中止に頭を悩ませている。  沖縄県で実施中の大規模演習では、伊豆大島やフィリピンでの救援活動に輸送艦を派遣したことから、メーンの離島奪還訓練を一部取りやめ。米軍輸送機MV22オスプレイを使う予定だった高知県での日米共同訓練も、台風の接近で中止された。自衛隊の輸送力不足も明らかになり、幹部は「今後、訓練の穴をどう埋めていくかが課題」と複雑な表情だ。

国内外で相次ぐ災害派遣により、予定されていた訓練が実施できない状況に置かれているようです。自衛隊に限らず、平時の”軍隊”(自衛隊が軍隊かどうかの議論はここでは置いときます)の仕事の大部分は、教育と訓練に費やされています。言うならば、自衛隊の平常業務が災害派遣で滞る事態になっているのです。

その原因は、自衛隊の輸送能力を超えた派遣にあります。現在のフィリピン国際緊急援助統合任務部隊に組み込まれている自衛隊の輸送機は、航空自衛隊が保有する主要輸送機の半数近くに登っており、また輸送能力の高い艦艇についても、おおすみ型輸送艦の3分の1、とわだ型補給艦の3分の1、ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦の半数と、自衛隊の輸送能力の半分近くを今回の派遣に費やしている事が分かると思います。


フィリピン救援に派遣された、自衛隊の輸送機/輸送艦の数と全保有数

1180名の隊員をフィリピンに送るのに自衛隊の輸送能力の半分が必要な事を、輸送能力が足りないと見るか、足りていると見るかは意見の別れる所かもしれませんが、現に訓練に支障が出ている事を考えると、かなりカツカツで予備の輸送リソースに欠けるのではないかと思います。

しかし、単に輸送能力を増やせば済むという問題でもありません。例えば、運送会社は普段から自社の運送能力のほとんどを業務に使用していると思います。しかし、自衛隊の輸送能力はその特性上、平時は全体から見ればわずかな能力で活動し、有事にはその能力を100%発揮するようになっています。言い換えれば、平時はリソースが過剰にならざるを得ない宿命にあり、有事に必要な能力を確保すると、平時にはその分維持コストがかかる事になります。自衛隊輸送能力の現状は、平時は過剰、有事は不足という事態になっているのかもしれません。

では、コストを抑えつつ、輸送能力を強化するのはどういう手段があるでしょうか。一つは、民間の輸送能力を使うことです。現在、自衛隊の演習で移動する場合でも、民間の運送会社を利用する事が増えています。

民間輸送船に搭乗する自衛隊員(防衛省サイトより引用
しかし、民間で輸送する場合、平時の輸送リソースとして期待できても、有事に利用できるかは不透明です。そのため、特別目的会社を設立し、平時は民間航路を運行し、有事や訓練の際に自衛隊が輸送船として利用する事を防衛省が構想していると報じられています。

防衛省が、海兵隊機能の柱として導入する「高速輸送艦」について、PFI方式での民間フェリー導入を検討していることが25日、分かった。PFI法に基づき特別目的会社を設立し、平時は定期運航などの運用を委ね、有事や訓練の際に自衛隊が使用する。厳しい財政事情を踏まえ装備導入費を効率化するためで、有事での自衛隊の優先使用権も確保する方針。

この案のメリットは自衛隊側が必要な時に輸送船を使えて、それ以外は民間業務に使うので維持コストを大幅に抑えられる上、運行会社側にも繁忙期に民間輸送に使い、閑散期には自衛隊の訓練に貸し出す事で自衛隊から収入を得られるメリットがあります。有事での使用については民間人保護の問題も含め、検討しなければいけない側面も多いのですが、厳しい財政状況の中で官民共に効率的にリソースを使えるので、問題をクリアしてくれればと思います。

今回のフィリピンの台風災害は予期せぬことでしたが、災害も紛争も予期せぬ時に発生することがあります。その有事に100%の能力を出せる能力は、普段からの取り組みにかかっています。厳しい財政状況が続きますが、効率的にリソースを活かせる方策を見出して欲しいと思います。


【関連書籍】



2013年11月15日金曜日

自衛隊の邦人輸送に、必要な情報と「力」

15日の参議院本会議にて、改正自衛隊法が自民・公明両党らの賛成多数で可決、成立しました。この改正により、自衛隊による海外での邦人救出にあたり、これまで航空機と船舶に限定されてきた輸送手段に、陸上での輸送が可能となりました。

    緊急時に在外邦人を救出するため自衛隊による陸上輸送を可能とする改正自衛隊法は15日午前の参院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で成立した。日本人10人が犠牲になった1月のアルジェリア人質事件を契機に、「輸送手段が空海路に限定されていては、安全確保の上で支障が出かねない」として邦人保護の在り方を見直した。

さて、法改正を受けて、自衛隊による陸上輸送が可能になった訳ですが、これまで認められていた船舶・航空機による輸送と比べ、戦闘地域を通過する可能性もある事などから、現地の部隊は従来より難しい判断を迫られるケースが出てくるものと思われます。今回の法改正では、武器使用基準が従来と同じように正当防衛・緊急避難の範囲に留められていますので、自衛隊側からは原則として発砲が出来ません。目的は邦人の輸送であって戦闘ではないのですから、不必要な戦闘は避けるべきで、保護対象の邦人が自衛隊車両に同乗している可能性が高い事からも、邦人の安全の為にも交戦を避けて輸送を行うかが重要になってきます。


自衛隊の輸送部隊

その為には、現地の事情や言語に通じた隊員を確保する必要があります。防衛省では平時から海外の日本大使館に駐在し、安全保障情報を収集する防衛駐在官を増強する方針です。これまで防衛駐在官がいなかった中南米で初となる防衛駐在官をブラジルに置き、人質事件のあったアフリカ地域でも、アフリカ全体で2カ国のみだった防衛駐在官派遣国を9カ国にまで拡大すると報じられており、人による情報収集活動と人材育成を活発化させるようです。

また、部隊レベルの対応として、輸送活動についての訓練が必要になります。もちろん、戦闘に至った場合の訓練も行われるでしょうが、重要なのは危険を事前に回避する為の訓練です。平時からの情報、新たに得た情報を精査し、的確な判断を下すことが求められますが、中には事前に回避できず、現地の武装勢力と威圧を背景にした交渉を行う事もあるかもしれません。威圧と言うと悪く聞こえるかもしれませんが、銃を持った軍人が歩いているだけでも、周囲の人間を威圧する効果があります。例として、在日米海兵隊の憲兵隊オフィスに貼られていた「力」の行使レベルを表した図を見てみましょう。

海兵隊憲兵の力の行使レベル


これによると、「力」の行使で銃器の使用は最高レベルの事態のみで、最も下のレベルでは軍服とアメリカ国旗を見せる事が「力」として用いられています。次いで対人交渉スキル、護送や手錠の使用と言った銃器以外の「力」の行使が行われており、海兵隊憲兵が状況に応じて有形無形の「力」を使っている事が分かります。これは警察活動を行う憲兵隊の基準ですので、邦人の輸送活動で想定される事態にそのまま当てはめる事はできませんが、このように明快な武力の行使レベルを定めて、各レベルに応じた対処の訓練を行う必要があるでしょう。単に「輸送」するだけならトラック運転手でも出来ますが、自衛隊がわざわざ海外で邦人輸送を行うのは、有形無形の「力」を示す事で事前に問題を防ぐ効果が期待されている事もあるのです。

今回の法改正は自衛隊が陸上での輸送活動を法的に認めるもので、その為に必要な装備や訓練等の措置はこれから始まります。報道では装備の面等目に見えるモノに注目が集まりますが、交渉術や「力」の行使の方法にも目を向けてもいいのかもしれません。



【関連書籍】



自衛隊による邦人輸送の問題が顕在化した、ルワンダ難民救援派遣でのNGO救出事件について、事の顛末が書かれています。
また、救出されたNGOのAMDAの側でも同様に本が出版されています。


2013年11月13日水曜日

韓国から日本に鞍替え? トルコの戦車開発パートナーと日本の事情

先日、三菱重工業がトルコ企業との合弁会社を設立し、トルコ軍向けの戦車用エンジンを供給する計画が報道されました。


政府がおととし、いわゆる武器輸出三原則を事実上緩和したあと、各国から日本に対し、防衛装備品の共同開発の要請が相次いでいて、トルコのユルマズ国防相も、ことし3月に、小野寺防衛大臣と会談した際、日本との技術協力に期待する考えを示しました。 トルコは、戦車用のエンジンを両国の企業が共同開発することを念頭に技術協力を行いたいとしており、これを受けて防衛省は、「防衛産業の基盤強化につながる」として、具体的な検討を進めています。

出典:トルコと防衛装備品で協力検討

日本とトルコは、今年5月に安倍晋三首相が訪問した際に発表した共同宣言で防衛協力の強化をうたっており、エンジン開発はトルコ政府が日本側に持ちかけた。


出典:トルコと戦車エンジン共同開発=三菱重、合弁会社設置へ

小野寺防衛大臣は具体的に共同開発が決定された訳ではないとしていますが、この合弁企業の話はトルコ側から持ちかけてきた話と報道されており、そうなると後は日本の判断待ちのようです。

トルコは次期主力戦車として”アルタイ”戦車の開発を終え、2015年から配備を開始する計画です。このアルタイ戦車は、韓国で開発中の K2戦車をベースに、トルコの軍用車両メーカーのオトカー社が、韓国の鉄道・軍需機器メーカーの現代ロテム社と共同開発を進めていたものでしたが、ベース となるK2戦車よりも先にアルタイ戦車が完成する事態になっています。

K2戦車の開発が遅れている最大の要因は、エンジン・変速機を統合した”パワーパック”(動力装置)と呼ばれる中核コンポーネントの国産化が上手くいっていない為です。今年の10月にも、K2戦車用パワーパックの開発延期が報じられています。


【ソウル聯合ニュース】韓国陸軍の次期主力戦車「K2」で用いられる韓国製パワーパック(エンジンと変速機を一体化したもの)の開発期間が再び延長された。  防衛事業庁は11日の防衛事業推進委員会で、韓国国内で開発する1500馬力エンジンおよび変速機のK2への搭載時期を来年6月から12月に延期することを決めた。


出典:韓国軍のK2戦車 国産パワーパックの開発期間を再延長


K2戦車がパワーパックで開発に躓いているのを尻目に、アルタイ戦車はパワーパックをドイツのMTU社から購入する事で、パワーパックで躓くこと無く開発を終えました。アルタイ戦車はサウジアラビア向けの輸出も決まるなど、これまでの出足は順調です。しかし、自国の防衛産業育成に熱心なトルコとしては、戦車の中核部品と言えるエンジン・変速機を自国で開発・生産する事で、より強い国際競争力を付けたいと思われますが、まだまだ技術的に他国に頼らざるをえない状況にあります。

アルタイ戦車は将来的に現在のMTU製の1500馬力のエンジンから、より高出力の1800馬力の国産エンジンに換装する計画ですが、トルコ単独での大出力エンジン開発は厳しいものがあると思われます。今までの共同開発国である韓国は、パワーパック開発で躓いているなど技術面で不安があり、技術力のあるドイツのMTU社もおいそれと中核技術を渡す事は無いでしょう。そうした中、日本の武器輸出三原則緩和によって、トルコにとっての新たな戦車 開発パートナーの候補として、日本が挙げられるようになったと思われます。

では、日本の事情はどうでしょうか。トルコが欲しい技術面を見ますと、国産の最新戦車である10式戦車は、世界で初めて戦車に油圧機械式無段変速機(HMT:Hydro- Mechanical Transmission)を搭載しており、スムーズな変速と効率的な出力伝達を可能にしています。これにより、10式戦車は後進でも最大速度の時速70キロを出せるなど、従来の有段変速機搭載戦車(10式以外の戦車全て)と較べて、機動性が大幅に向上しています(下の動画で機動力の一旦をご覧いただけます)。

国産最新鋭の10式戦車






このような高い機動性を誇る10式戦車を生んだ日本の防衛技術ですが、その前途は危ぶまれています。防衛省は戦車の定数を、現在の740輌から300輌へと削減する方針だと報道されています。


防衛省は、陸上自衛隊が保有する戦車数を現在の約740両から6割削減し、約300両とする方針を固めた。


出典:陸自戦車さらに削減300両に…新防衛大綱で


ここまで大量削減が行われると、国内にしか市場がない日本の防衛産業にとり、大きなダメージとなります。防衛省の装備調達数は年々減っており、このままでは日本の防衛産業に壊滅的ダメージを与えると懸念されています。このため、武器輸出三原則の緩和には、海外市場を開拓することで、日本の防衛産業を存続させようとする意向もありました。

このような状況の日本にとり、戦車の中核部品であるエンジン等の動力装置を海外で販売できる事は大きな意義を持ちます。一方、トルコとしても、アルタイ戦車の改良と装備の国産化は重要課題であり、そのために日本の協力を得られるのであれば、渡りに船と言えます。つまり、日本とトルコ双方に大きなメリットがある提案だと言えるでしょう。

問題は日本とトルコが組む事による政治的リスクです。従来から日本と共同開発を行ってきたアメリカや、検討中のイギリス・フランスと比べ、トルコには武器輸出を巡る問題があります。伝統的にトルコへの武器輸出はドイツが大きなシェアを持ちますが、1999年にはトルコへのレオパルド2戦車1000輌輸出計画を巡り、ドイツ政府で大きな政治問題になったこともありました。クルド人に対する人権弾圧をい行うトルコ政府に戦車を輸出する事に、緑の党から反対意見がなされ、緑の党と連立政権を組む社会民主党はドイツ国内の雇用維持を主張して戦車輸出を目指したために、連立政権解消寸前まで至る事態になりました。

武器輸出は国際環境に大きな影響を与える取引であり、その武器の行方にも責任が問われます。過去に日本でも、アメリカへ民間向けに輸出されたライフル銃が北アイルランドに送られて違法改造され、IRAのテロ活動に使われていた事が国会で問題となり、メーカーの豊和工業での製造が打ち切られる事件がありました。武器輸出をすることは、このような政治的リスクを覚悟した上で行う必要があります。

日本とトルコ双方にメリットの大きい合弁会社計画ですが、武器輸出そのものの政治性の大きさと、リスクを理解した上で判断を下す必要があります。過去、武器輸出が政治問題化する恐れが小さかった日本ですが、現在は世界的な装備の国際共同開発の潮流があり、成長戦略としての武器輸出も検討されています。あえて火中の栗を拾うならば、そこから生じる問題を解決するために備える事も、また重要になってくるでしょう。


【関連書籍】

2013年11月7日木曜日

戦争ゲームと国際人道法の精神

戦争下における中立的な人道支援活動を行っている国際機関である、赤十字国際委員会(ICRC)が、戦争ゲームの中でも国際人道法に基づいた行動を取るように声明を発表しました。




【ジュネーブ=共同】ゲームの中でも一般市民を攻撃しないで――。 紛争地で救援活動を行う赤十字国際委員会(ICRC、本部ジュネーブ)は、戦争をテーマにしたビデオゲームでも実際の戦争と同様に、市民への攻撃などを禁 じた国際人道法を「順守」するよう訴える声明を出した。


このICRCの声明に対し、ニコニコニュース等でネット上の意見を確認したところ、「ゲームと現実の区別もつかないのか」「ゲーム脳」といった否定的なコメ ントが多く見られました。確かに、ゲームの中の行為を現実に行う人はまずいません。ICRCの声明に疑問を持たれる方も多いと思います。しかし、ICRCの成り立ちと、国際人道法の精神と戦時下の現実を考えると、今回の声明は現実離れしたものではないのです。


ソルフェリーノの戦場に立つナポレオン3世

イタリア統一戦争の最中の1859年、ソルフェリーノの戦いに偶然居合わせたスイス人実業家のアンリ・デュナンは、戦場で負傷した若者が敵味方関係なく苦し んで死んでいく様に衝撃を受け、その体験を「ソルフェリーノの思い出」として出版し、敵味方に関係なく負傷者を救護する国際機関の創設と、救護にあたっての国際的条約の締結を提言しました。このデュナンの提言は大きな反響を呼び、1863年には赤十字国際委員会の前身である「5人委員会」が成立し、翌 1864年には初の国際人道法であるジュネーブ条約が締結され、これ以降も捕虜や負傷者、民間人等の保護規定を定めた追加議定書・条約が締結され、これらが戦争におけるルールを定めたジュネーブ諸条約として現在に至ります。

戦争による被害拡大を防ぐために生まれたICRCですが、戦争そのものを否定してはいません。戦争が発生した場合、ICRCは当事国に対して国際人道法の順守を徹底するように求め、戦争の是非に言及はしません。これは、戦時下においても中立的に人道活動を行うためで、この姿勢を守る事によって、ICRCは多くの紛争地で人道活動を行えるのです。今回の戦争ゲームに対する声明も同じで、戦争ゲームそのものは否定せず、「リアルな戦争ゲーム」に限定した上で、ゲーム内においても国際人道法の精神が尊重される事を求めているのです。

では、ICRCはどうしてゲームの中まで国際人道法の順守を求めるのでしょうか。それは、国際人道法の特殊な位置づけにあります。

記事の冒頭でも触れましたが、ゲーム内での犯罪行為を現実に行う人はまずいません。それは、個人のモラルや常識の他に、国内法による強制力が働いているためです。ゲームと同じように破壊や殺人を現実に行えば、治安機関による摘発を受け、刑罰が科せられる事が、犯罪の抑止力となっています。ところが戦時下にあっては、敵国の占領下におかれた地域では国内法と治安機関は効力を失っており、占領地の住民の生命を保証できるのは国際人道法だけになります。しかし、国際人道法は強制力という点で極めて脆弱であり、戦時下では未だに捕虜虐待や虐殺といった戦争犯罪が絶えません。国際人道法は”弱い”法であり、戦時下で順守される為には、軍隊・一般市民が国際人道法への深い理解とモラルを持つ事が重要になってくるのです。

ICRCの国際人道法の基礎パンフレット

ICRCは軍隊や一般市民に対し、国際人道法を広く普及させることも使命としていますので、プレイヤーの自発的な意思によって国際人道法を 破ってもペナルティが無い「リアリティある戦争ゲーム」が、一般市民に広く受容される事態は避けたいものと思います。前述のとおり、ICRCの声明では戦争ゲームを否定しておらず、またファンタジーやSFゲームにおける犯罪行為は対象外で、リアリティある戦争ゲームのみに国際人道法の順守を求めています。 ICRCが上手いのは、リアリティを追求するのだったら、プレイヤーがゲーム中で起こした戦争犯罪でペナルティを受ければ、より“リアル”な戦争ゲームになると提言している点です。単純に、ゲーム中の破壊や殺害によるゲーム性・エンターテイメント性を無くせと言っている訳ではないんですね。

国際人道法は、国内法が効力を持たない戦争においても、最低限守られるべきルールを示したもので、戦争が無制限にエスカレートする事に歯止めをかける数少ない仕組みです。日本が戦争に巻き込まれなくても、海外旅行中に戦争に巻き込まれる事態は十分に考えられ、その場合は国際人道法が貴方を守 る事になるかもしれません。

多くの人が国際人道法を知ることで、国際人道法はその効力をより増すことが出来ます。リアルな戦争ゲームで国際人道法を順守する事のメリットを伝え、戦争犯罪へのペナルティが科せられるのであれば、より広く国際人道法の精神を伝える事に繋がると思うのですが、いかがでしょうか。


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ヘーイ! テイトクゥー! 艦これのE-4攻略したいからって、捨て艦戦法ばっかやってるとォー、善悪の判断鈍って来なィー?

2013年11月6日水曜日

中核派が天皇の権威に屈したようです

山本太郎参議院議員が天皇陛下に「直訴」した件、山本議員の進退を巡って未だに燻り続けておりますが、11月4日、山本議員に力強い応援が現れたようです。

山本太郎議員を擁護する中核派機関紙「前進」紙面
10月31日に行われた園遊会で、福島原発事故が引き起こしている深刻極まる現実を訴えて、山本太郎参院議員が天皇に手紙を直接渡した。このことに対し、自民党を始めとする国会の与野党およびマスコミが、山本氏に許すことのできない卑劣な攻撃を集中している。山本氏に「議員辞職」を迫ったり、参議院としての処分を検討したりと、天皇制イデオロギーと白色テロルの恫喝による、山本氏の闘いの圧殺がたくらまれている。


へー(棒)。

山本太郎議員が選挙運動にあたり、「革命的共産主義者同盟全国委員会」こと、過激派の中核派とその関連団体から支援を受けていた事は知られています。今回の直訴の件を報道で知った時、「中核派から支援を受けて当選した山本議員が、よりにもよって天皇の権威にすがちゃって大丈夫?」とか思ったものですが、過激派の支援を受けて当選した国会議員が、就任早々に議員権力の行使をすっ飛ばして天皇の権威の前にひれ伏したんですから、これ日本の極左団体史に残る大事件なんじゃないでしょうか。直訴以降、山本議員の扱いを中核派はどうするのかなー?とウォッチを続けていましたが、遂に山本議員をどこまでも決死擁衛する腹を決めたようです。

大恐慌下に最末期の脱落日帝・新自由主義の危機の中で、天皇制が「帝国主義ブルジョアジーの反革命的結集のシンボル」として登場してくることに対しては、労働者階級人民の「生きさせろ!」の怒りと決起がさらに激しく巻き起こっていく。われわれはどこまでも山本氏とともに、国鉄決戦と反原発決戦を軸に闘いぬくであろう。


天皇制をシンボルとして担ぎ上げたのは他ならぬ山本議員なんですがそれは……(震え声)。一度支援してしまった手前、引くに引けない泥沼状況に自らを追い込んでしまったのは御愁傷様です。

さて、その中核派ですが、今年になって幹部である荒川碩哉氏が公安のスパイだった事が発覚して、絶賛大揉め中です。内部分裂の火種を大量に抱えて、空中分解の最中でありますが、この山本議員の支援を巡ってもどうなることでしょうか。要注目です。


結局のところ、山本太郎議員の直訴で割りを食ったのは、中核派と、山本太郎と1字違いで抗議メールが殺到したやまもといちろう氏と言えそうです。





2013年11月4日月曜日

防衛技術シンポジウム2013 画像ジャイロの研究

連休はのんびりしてましたが、まだまだ防衛技術シンポジウムの話は続きます。

今回は、画像ジャイロの研究についてです。



現在、自己位置の測定や航法にGPSが標準的に利用されていますが、出力の低いGPSは妨害に弱く、軍用で使うにはより妨害に強い自己位置測定手段が求められます。
画像ジャイロとは、カメラから得られた情報を、地形・地図情報と照らしあわせて自己位置を測定するシステムです。

このシステムは日米共同研究で行われたもので、アメリカで空撮を行い、取得データを地上で地形と照らし合わせた結果、航法に耐えうる精度の測位が行える事が確認できたとのことです。

全般的な説明はポスターを見ていいただくこととして、この研究について質問したことを、Q&A形式で下記にまとめました。


Q.この研究では、演算装置を陸上に置いているが、航空機等のプラットフォーム上にスタンドアローンで載る事は出来るのか。

A.研究では演算装置を地上に置いたが、将来的にはスタンドアローンでの運用も可能。


Q.画像ジャイロでは地図データが必要だが、どれだけの容量が求められるのか。航空機等に積めるのか。

A.1、2テラバイトほど必要になるが、最近はSSDの高容量化が進んでいるので、機体への搭載も可能。


Q.地図データは事前に測定の必要があるのか?

A.公開情報の地図でも必要な精度が出せる。この研究ではGoogleEarthを利用した。


Q.地上のオブジェクトに特徴が無い地域でも測位可能か?

A.完全な砂砂漠では難しいが、アメリカの岩砂漠では可能。自然環境でも植生等から判断できる。
また、建造物等の特定オブジェクトの配置から測位しているのではなく、地形的に測位している。


Q.地形が変わった、あるいは妨害目的で変えられた場合、測位は可能なのか?

A.測位可能。仮に妨害するとしても、大きな地形変更が必要。
宮城県の被災地で実験を行い、震災前のデータでも現在の地形で測位が可能だった。建物の流出や広範囲の地盤沈下があっても測位できる。


GPGPUを利用はしていますが、この研究で用いられた計算サーバは古いもので、今ではもっと簡素なシステムで演算可能とのこと。
画像処理に用いられる並列計算機技術は、この数年で格段に進歩・省電力化していますので、機上に全部搭載できるようになるのも、そう先の事ではないと思います。

2013年10月30日水曜日

防衛技術シンポジウム2013 軽量戦闘車両システム

展示品は無い、ポスターセッションで紹介されていた研究ですが、なかなか興味深かったのでご紹介します。


軽量戦闘車両システムは、軽量コンパクトかつ多様な事態に対処する戦闘車両シリーズで、下記のような共通特徴があります。
  • 火砲型、耐爆型の2種
  • いずれも重量約15トンで、C-2輸送機に2両搭載可能。
  • インホイールモーター採用で、各タイヤが独立し動作。





火砲型に搭載される低反動砲は来年度から試験を行うようで、面白いのは、直接照準射撃・間接照準射撃の両方が可能ということで、ここらへん気になって色々聞いてみました。

まず、直接射撃/間接射撃の両方を行う火砲が今まで無かった理由について、運用面の問題か、技術的な問題かを尋ねた所、運用の問題からだろうという答えでした。直接照準と間接照準を分けた方が運用の効率が良かったのだろうと。しかし、輸送で制約があるような状況だと、2つの機能を1両にまとめているものも考えられるのではないか、ということでした。

肝心の口径は105ミリということで、機動戦闘車並で驚いたのですが、機動戦闘車の26トン8輪という構成に対し、軽量戦闘車両システムは15トン6輪とかなり重量、車体規模に開きがあります。この問題を解決するために、2重の駐退機(デュアルリコイル)の構成となっており、前方に従来型の駐退機、後方(というよりも基部)にも駐退機能を付けており、仰角を付けて発砲した場合、まず前方の駐退機が砲軸に沿った反動を受け止め、続いて後方・基部の駐退機が後方に下がることで、反動が足回りに行かないようにするそうです。後方に流す感じですね。




この反動を逃すシステムだと、砲塔が旋回出来ないんじゃないかと思って確認したら、360度旋回可能で、側方射撃も出来るとのことでした。砲塔そのものが動くかのようなニュアンスがありまして(この辺、ちょっと確認できませんでした)、この砲塔は完全な無人砲塔だそうです。オーバーヘッド砲塔の登場となるでしょうか。

火砲型の乗員が4名だったので、1名は装填手かと思っていたんですが、無人砲塔である以上、装填手は不要とのこと。この1名は、問題があった場合に対応する要員とのことでしたが、緊急時専属の乗員がいるとは考えにくかったので、この点はどうもよく分かりませんでした。研究品だから、なのかなあ。



つづいて、耐爆型です。こちらは兵員輸送車で、乗員は8名となっています。

いわゆる、V字型の底面をしており、地雷などの爆発の際、車体側面・上方に爆風を逃す仕組みになっていますが、この設計のためにインホイールモーターが採用されたのも大きいとのことです。

モーターが各駆動輪に別個で接続されているインホイールモーターは、機関からの動力伝達の為の軸やギアを必要とせず、設計の自由度が増します。車体底部を通る軸が一掃されたことで、V字型の底面にしやすくなったとのことでした。

また、インホイールモーターは、一つのタイヤが地雷でやられても、各タイヤにモーターがありますので、機動が継続できるという利点があります。地雷で軸ごとやられた場合、最悪動けなくなりますので、インホイールモーターは生存性向上でも利点があります。




これまでにシミュレーションを実施し、耐爆型が被爆時、乗員が天井に頭をぶつけて負傷する結果が出たため、天井高を上げたなどの改良が行われました。実車は平成27年度に制作され、試験されるとのことです。

軽量戦闘車両システムは、直接射撃と間接射撃を両方こなせるという点で、なかなか興味深い車両です。将来の戦闘車両開発に資する点も大きいと思うので、良い成果が残せるといいですね。


【関連書籍】




日本じゃなくて、ドイツ連邦軍の戦車開発ですが、軽量戦闘車両システムと同じ砲塔の実装法である、頭上砲について丸々1章割かれています。




戦車本ですが、これは歴史・機構・運用・現代の状況がコンパクトにまとまっており、戦闘車両そのものへの理解を深める良書だと思います。

防衛技術シンポジウム2013 RWSまとめ

防衛技術シンポジウム2013で展示されていたRWSについて、得られた情報、聞いた話をまとめてみました。


RWS外見

【陸幕からの要求事項】

・5.56mm、7.62mm、12.7mm機関銃、40mmてき弾銃を1つのプラットフォームで撃てること。

・小型の車両にも搭載可能なこと。


【要目】

・重量160kg(銃、弾薬未搭載で)

・5.56mm、7.62mm、12.7mm機関銃を搭載するプラットフォームと、40mmてき弾搭載のプラットフォームがある。機関銃とてき弾銃は構造が違いすぎて、共通プラットフォームでは無理だった。

・展示品は機関銃用。

・搭載センサーは光学、赤外線、レーザー測距儀。


【機能】

・視察モードは高視野角、射撃モードで高倍率ズーム。

・「自動追尾」では、指定されたターゲットに照準を合わせ続ける事が可能。マン・ターゲット、ハード・ターゲット双方で可能。

・機関銃はボルトの動作がRWSで可能(下写真の中央部分が動く)。40mmてき弾銃は人が操作する必要がある。

・揺動制御により、不整地走行中でも安定した射撃が可能。


写真中央部の物体がボルトを下げる

【操作】


・軽装甲車では後部座席に操作盤を搭載、操作する。

・RWSと操作盤間は有線操作。将来的には無線も検討(UGVへの搭載など)。

・表示部に物理ボタンは少なく、タッチパネルで操作。

・照準はジョイスティックで行う。

・ジョイスティックは精密操作に向かないが、車体の揺れなども考慮した結果採用。

・特に操作系に関して、陸幕より要求は無い。


表示盤

【その他】

・小型の車両にも積める事が要求だったので、軽装甲機動車で実験。他の装甲車両にも搭載可能。

・軽装甲機動車に搭載時、重量200キロ以上のモノを最上部に載せることについては、重心移動は5センチ程度で済むとのこと。

・陸幕からの要求で、最大で12.7mm機関銃を撃てるようにするために大型化したが、より小さい口径専用にすれば、小型軽量化は可能。

・陸幕から開発移行への要求はまだ無いが、装輪装甲車(改)の開発が来年度の予算要求でなされたので、それに合わせてRWS開発も要求があるかもしれない。96式40mmてき弾銃は、96式装輪装甲車とセットでの開発だったので、RWSもそうなるかもしれない。



2013年10月29日火曜日

防衛技術シンポジウム2013 全天候対応駆動システムの研究

この研究は、ヘリ全般への汎用性に優れた研究で、中々期待できるのではないかと感じました。
ちなみに、「全天候」と言いますが、対応しているのは強風だけで(もっとも悪天候は風強いですが)、「全天候」が付いたのは予算獲得上の措置だそうですw


発表要旨(PDF):全天候対応駆動システムの研究



ヘリの主要駆動系統(MDC)の研究

MDC概要
・エンジンの動力をロータ、補機に分配する
・単なるギアボックスだけではなく、ロータと胴体をつなぎ飛行荷重を支える役割を持つ
・ブレードの3軸運動により、操縦を実現
・運用自重の10%以上を占める


施策


揺動制御システム
・ロータ面傾斜を光学センサで計測し、制御することで高い安定性と操縦応答性を両立。
・従来:ローター面が変化→胴体運動のフィードバック
・揺動制御:ローター面が変化→ローター面のフィードバックによる迅速な振動制御(胴体運動分のロスが無い)

最適ロータ・ハブ
・複合材製ロータ・ハブにより、軽量化、長寿命化及びヒンジオフセットの最適化を図る。

スプリット・トルク型トランスミッション
・ギアの薄型化等によりトランスミッションの軽量化、薄型化及び部品点数の削減を図る。

内蔵型コントロール・システム
・コントロール・ロッドを大口径マスト内部に配置することでコンパクト化及び空気抵抗低減を図る。

複合材製大口径マスト
・大口径中空のマストにより、コントロール・ロッドを内蔵するとともにロータ・ハブに効率的な動力伝達を図る

以上の5施策ですが、発表の時間のかなりが揺動制御と最適ロータ・ハブに割かれていたと思います。
最適ロータハブ以降の説明部分は、要旨からのコピペです……。
ちょっと、自分には説明できるだけのヘリ構造知識に自信がないです。


この研究により、OH-1への適用を想定した場合、ローター位置が10%下がり、空気抵抗の減少につながったとの事です。
なお、別に現実のOH-1にこの技術を適用する、という話はありません。念のため。




揺動制御については、シミュレーターを陸自パイロットに操縦してもらい、15ktの風が吹く中でのホバリングを行ったところ(映像上映)、
従来型は大きく揺れていたのに対し、揺動制御システム搭載型は「あまり風が吹いていないようだ」とパイロットがコメントするほど安定していたそうです。
また、操縦応答性も向上し、レスポンス良くコースを飛行するなど(シミュレータ上ですが)のデモを見せています。

防衛技術シンポジウム 先進技術実証機&将来戦闘機機体構想

既に以前のシンポジウムでも展示されていた先進技術実証機のモデルですが、今回は研究発表にて一歩進んで将来戦闘機機体についての発表がありました。


写真撮影禁止だったので、発表要旨をマトメます。

将来戦闘機機体構想研究
→将来戦闘機(F-2後継、という話も)の目標設定に資する研究
戦術、戦域のシミュレーションを3Dデジタル・モックアップに反映。

従来戦闘:自分でロックオンして戦う。
将来戦闘:専用データリンクで射撃に必要なデータ共有。だれでも撃てる。

平成23年度に制作したデジタル・モックアップ(23MDU)
・先進技術実証機を基に作成。
・ミサイル並列(内装)、前方ステルス性
・機体形状は先進技術実証機とF-22の間の子のような感じ。直線的な印象を与える。

将来アビオニクスシステム(シミュレーション環境)を用いて、23MDUと従来戦闘機・ステルス戦闘機の戦闘をシミュレート。

結果1:従来機に対しては23MDU圧勝。従来戦闘機のセンサーでは、23MDUを探知追尾が困難。

結果2:ステルス戦闘機に対しては23MDUと互角。先進統合センサーによって、ステルス機を補足可能。


24MDU
・23MDUの結果を基に、運用者の意見・改善事項を反映。
・側方ステルス性、ミサイル縦列内装(搭載弾数増加)
・機体形状はYF-23のようななだらかな曲線形状。


分析結果
・センサ能力の向上:先進統合センサー
・攻撃能力:
・・ミサイル搭載数增加
・・統合火器管制
・・ミサイル誘導の全球覆域指定送信
・防御能力
・・上昇、加速、旋回能力の向上
・・ステルスとのトレードオフ

24MDUの結果を基に、25MDUに反映。

研究結果を航空自衛隊に提示し、将来戦闘機の仕様決定の資とする。

従来機の想定:特になし。
ステルス戦闘機:T-50、J-20といった第五世代戦闘機の公表されているデータからシミュレート。

防衛技術シンポジウム2013 IED対処システム

IED(即席爆弾)対処システム

ミリ波レーダー、マイクロ波レーダー、レーザーの複合システム。
展示してある四角い箱は、レーザー発振・受光部。

マイクロ波レーダー:地中に埋設されたIEDを捜索。

ミリ波レーダー:地表に置かれたIEDを捜索。

レーザー:ミリ波レーダーが発見したオブジェクトを、より解像度の高いレーザーで確認。
          
レーザーで確認したオブジェクトの形状をデータベースに照合し、IEDか判断。

マイクロ波・ミリ波で広範囲を確認し、地表に怪しいのがあったらレーザーがピンポイントで走査するそうです。