2013年12月30日月曜日

ブログ100万PV御礼と10式戦車同人誌無料公開

先日、ツイッターの方もフォロワー1万人を超えたばかりでしたが、こちらのブログの方も100万PVを達成しました。やったねたえちゃん!

2013年中に1万フォロワー、100万PVとキリの良い数字を達成できたのも、飽きずにご覧頂いた皆様のお陰です。この1年、本当にありがとうございました。

さて、現在開催中の冬コミに出展する予定だったものの、申請ミスにより準備会からリジェクトを喰らったためサークル出展出来ず、完成させるさせるとこの1年言っていたばかりだった「10式戦車へのプレリュード」が未刊のまま転がっているのもアレな状況なので、次回の夏にはケリをつけたいと思います。

未刊のお詫びと、100万PVの御礼も兼ねて、「10式戦車へのプレリュード(準備号)」を無料公開致します。2012年の夏コミに出した同人誌で、10式戦車とその前段階で研究が行われた将来戦闘車両についての解説本(未完成)です。

当初出す予定だった魔法少女合同誌が間に合わず、慌てて1人でデッチ上げた個人誌で、初めての同人誌ということもあり、至らぬ点も多々ある上、解説も明確に間違っている点・今は判明した疑問点もございます。2014年の夏コミには加筆・修正・再構成を行い、きっちりオフセットで10式戦車本(+α)として仕上げたいと思います。


無料ダウンロードはこちらから(PDF)



無料公開ですが、DLsiteでの有料販売も継続しているので、読んで面白かった投げ銭程度はしてやるか、という奇特な方がいらっしゃいましたら、下の画像からDLsiteで購入して頂ければ嬉しく思います。

10式戦車へのプレリュード(準備号)

なお、ツイッターでも複数回告知致しましたが、今冬コミでのサークル参加は無しの一方、艦隊これくしょん合同誌の企画に、昨年の夏コミでご一緒した糸畑氏からお声がけ頂き、戦後の艦娘インタビューの体裁を取った小説同人誌「戦争は艦娘の顔をしていない」に拙稿を載せさせて頂きました。

この本は、ソ連軍女性兵士の二次大戦後インタビュー「戦争は女の顔をしていない」を艦これキャラで行ったパロディネタがツイッターで盛り上がり、そのネタをさらに広げて、小説同人誌の形でまとめたものです。(その当時のtogetterはこちら)


構成・編集を担当頂いた徳岡氏が『「紙に印刷した小説本」でなくてはできないことをやってみました。』とツイートされたように、バラバラの雑誌で掲載されていたインタビューを集めて収録したという趣向になっており、少数発行のコピー誌ながらも凝ったものになっております。

色々と罪深い本ですが、お陰様で本日持ち込み分はすぐ完売。14時20分に再販した増刷分50部も3分前後で完売となったようです。お手に取られていない方も多いかと存じますが、サークル「宇古木亭」主宰のa_park氏が、今後参加する艦これイベントで委託として再販するそうですので、読んでみたいという方はお手数ですが、そちらで入手をお願い致します。


最後になりますが、2014年も引き続きよろしくお願い申し上げます。



【関連】

10式戦車へのプレリュード(準備号)


2013年12月24日火曜日

南スーダンで進展している虐殺の危機

国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に派遣されている自衛隊が、同じく派遣されている韓国軍の要請により、小銃弾1万発を韓国軍部隊に提供することになりました。


南スーダンのPKO活動に関連し、政府は、陸上自衛隊の銃弾1万発を、PKO協力法に基づき、国連を通じて韓国軍に提供する方針を決めました。
PKO協力法に基づき国連に武器が提供されるのは初めてで、政府は、緊急性が高いことから、いわゆる武器輸出三原則の例外措置として実施したとする官房長官談話を発表することにしています。


今回の措置は緊急性が強く、武器輸出三原則の対象外となるようです。韓国軍が弾薬提供を求めるまでに至った南スーダンで、どのような事態が進行しているのか、南スーダンの事情から現在の状況、韓国軍が提供を求めた背景について解説したいと思います。


南スーダン共和国の概要と内紛

南スーダン共和国は、2011年7月9日にスーダン共和国から分離独立した「世界で最も新しい国家」と言われ、国連を中心とした国際社会が協力して国造りを行っている最中です。日本も自衛隊の2012年1月から施設部隊を国連PKOに派遣し、インフラ整備に協力するなどの活動を行っております。

かつてイギリス植民地であったスーダンは、1956年にイギリスからスーダン共和国として独立しました。しかし、スーダン共和国は北部はアラブ系のイスラム教徒、南部はアフリカ系黒人の土着信仰・キリスト教徒といったように、人種・宗教の地域差が大きい国家で、アラブ系に占められていた政府と南部住民の間で対立していました。南北スーダンの対立は2度の内戦と和平を経て、2011年1月の住民投票により南部の独立が決定し、7月9日の独立に至ります。この時、南スーダンの政権を構成したのが、独立運動を主導したスーダン人民解放運動/軍(SPLM/A)でした。

南スーダンで見られる暴力の特色として、スーダン政府と南スーダン間の暴力に加え、南スーダン内部で住民同士でも苛烈な暴力が行われていた点にあります。

SPLA はディンカとヌエルと呼ばれる2つの民族が主流ですが、かつてスーダン政府は他の部族にSPLAと対立する民兵組織を結成させるなど、南スーダン内の民族分断対立を構造化させたため、現在でも南スーダン内にはSPLAに反発する部族がいます。また、当のSPLAも、ディンカ人が立ち上げた当初は、ヌエル人のアニャニャIIと呼ばれる反政府組織と敵対していた過去があります。SPLAは幾度もディンカ人の主流派(トリット派)とヌエル人の反主流派(ナシル派)の離散集合を繰り返していましたが、2002年1月にナシル派はSPLAに復帰し、南スーダン独立に至るまでは協力関係が続いていました。しかし、2013年7月に、ナシル派のトップであるマシャール副大統領が解任され、12月14日にはマシャール前副大統領によるクーデター未遂事件が発生に至ります。現在の南スーダンの状況は、このように複雑な民族間対立を背景にしたSPLAの内紛と言えそうです。



韓国軍の事情

さて、韓国軍が自衛隊に弾薬を求めてきた背景としては、韓国軍が活動している東部ジョングレイ州の州都ボルに反乱軍部隊1000名が接近しており、防衛体制を強化する必要に迫られた事と、日本と韓国が共に北大西洋条約機構(NATO)で標準化された5.56x45mm NATO弾と呼ばれる弾薬を使用している点にあります。UNMISSに兵力を派遣した国は、NATO弾を採用していない国が多く、大量に融通できる部隊が自衛隊しかなかった為とされます。なお、少数名展開中の米軍からも韓国軍は少量の弾薬の提供を受けています。

UNMISS参加部隊と展開地域(防衛省資料より

今回の小銃弾の提供は、国連を通じて行われます。これは、PKO協力法案で物資提供を国連組織に認めていますが、個別の国家に対しては認めていないためです。実は2012年に自衛隊と韓国軍の間で物資を相互に提供できる、物品役務相互提供協定(ACSA)を締結する予定でしたが、締結直前になって当時の李明博政権から延期の申し入れがあり、以後進展しておりません。ACSAでは弾薬を含む武器の提供は認められていませんが、今回のPKO協力法に基づく提供もこれまでの政府答弁で武器を含まないとしてきたため、仮に日韓ACSAが結ばれていたら、日韓で直にやりとりしていた可能性もあります。今回の事態を受けて、日韓ACSAに進展が出てくるかもしてません。

提供される小銃弾が1万発と聞いて「そんなに大量に!」と驚かれる方も多いと思いますが、派兵されている韓国軍兵士273名に1万発を均等に分けると、1人あたり40発以下で一般的な小銃の30発入り弾倉2個分にも満たないものです。全員が連射すると、数秒で撃ち尽くしてしまう量です。それほどの量でも弾薬を集めている韓国軍の状況は、かなり切迫しているのではないかと考えられます。元々、政府軍であった反乱軍はかなりの重装備を持っているものと思われますが、対するPKO部隊は重装備は限られています。現に避難民を保護していたインド軍が攻撃を受け、死者も出ているなど予断を許しません。



スレブレニッツァの虐殺に似た状況

軽武装の国連PKO部隊に重武装の武装勢力が迫る展開は、1995年のスレブレニツァの虐殺を彷彿とさせます。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中、オランダ軍を中心とする軽武装の国連PKO部隊が展開してたスレブレニツァで、8000名以上が虐殺されたスレブレニツァの虐殺は戦後ヨーロッパで最大の虐殺事件と呼ばれ、大きな衝撃を与えました。軽武装で人員、物資共に足りていなかった国連軍部隊は、重武装の武装勢力を前にして抑止力足りえず、虐殺を制止することが出来なかった事も問題になりました。今回、南スーダンで国連キャンプには難民が集まっているとされ、国連PKO部隊はその保護を行っており、状況はかつてのスレブレニツァをなぞっています。事態の進展によっては、比較的安定している首都ジュバに展開している自衛隊にも脅威が及ぶ可能性があります。

スレブレニッツァの虐殺被害者の墓地(写真:MichaelBueker)

今回の提供は、法的には問題が残るものの、その緊急性・重大性を鑑みれば妥当な判断と思います。韓国は25日には装備を空輸するとしており、それまで事態が急激に悪化しなければ、ある程度の抑止力として期待できるかもしれません。しかし、事態が好転しない限り、国連PKOと反乱部隊の衝突、あるいは住民虐殺の恐れは燻り続けるでしょう。

自衛隊、韓国軍を始めとする派遣国要員、そしてなにより南スーダンの人々のため、事態の一刻も早い収拾を望みます。



【参考】

大林一広「内戦後の暴力と平和構築  ―南(部)スーダンの予備的分析と研究課題の模索―」

栗本英世「「上からの平和」と「下からの平和」―スーダン内戦と平和構築」

また、スレブレニッツァの虐殺に関しては、長有紀枝「スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察」
が多分、日本語における唯一の専門書籍。

また、Wikipediaの「スレブレニッツァの虐殺」の項目は、無料で読めるにしては信じられないくらいクオリティが高いので必読。


2013年12月19日木曜日

中韓を嘲笑う前に、我が身を振り返ろうよ

少し前の話になるが、ある人(A氏)と何気なく政治について会話をしていた時、相手からこんな話題が出た。


「ところで、○○(ある野党政治家)って、在日らしいですね」


あまりに唐突で驚いたが、聞けばインターネットでその政治家の名前を検索すれば、在日外国人だという結果が出てきたからだという。確かに、その政治家の名前を検索エンジンにかければ、予測検索で「在日」「帰化」と言ったワードがすぐにサジェストされる。しかし、その政治家が在日外国人だという信用に足る記述はついぞ見たことがない。ネット上では他にも、左派・リベラルに近い政治家や文化人が在日外国人だとする書き込みも多く見られるが、彼らがそうだという話も同様に根拠が薄い。その話の根拠についてA氏に聞くと、ただネットに書いてあったから、というだけで、自分で来歴や家族関係を調べた訳ではないという。A氏は他にも、韓国や中国についての、ネガティブな話題を私に振って来た。

ここまで読んで、A氏は思慮も経験も足りない、ネット右翼被れの若者だと思われた方も多いかもしれない。ところが、A氏は初老と呼べる年齢で、海外経験も豊富で多くの外資系大手企業で勤務した経験を持つ取締役社長であり、左派・リベラルの文化人が(侮蔑を込めて)主張する「低所得・低学歴の若者」というネット右翼像からかけ離れていた人物であった。経営について深い洞察力を有しているはずのA氏が、ネット上の根も葉もない噂を何の疑問もなく他人に開陳した事に驚いたが、ある特定集団についてのネガティブな噂を、幅広い層の日本人が受容し、好んで「消費」されているのではないか、とこれ以後危機感を持つようになった。


中韓叩き記事が売れる今、戦争煽り記事が売れる戦前

現代中国に詳しいノンフィクション作家の安田峰俊氏が、最近の週刊誌事情について、こんなことをツイートされていた。

最近、複数の週刊誌関係の方に共通して出た話。「中韓叩き記事、正直僕らも大してやりたくないけど毎週のアンケートの人気高くて外せない。ここ一年ほど特に顕著」「『中韓はこんなに劣っている』か『日本は実はこんなにすごい』が受ける。毎回似た中身でも」。フリーの中国ライターには有難いけれどさ

2chのまとめサイトもそうだけど、情報の受け手がみずから望んで偏った情報を求めているんだもの。売る側はそういう人にお金落としてもらうために、偏ってるのを承知で煽り情報を売る。うーむ


そしてITか紙媒体かというギャップも意外とない。家でPCに張り付いてるアラサーニートも定年前後の不安におびえるおっちゃんも、「あまり考えずに気持ちよく消費する娯楽情報」についてはみんな(=少なくともビジネスが成り立つ規模の人数)欲するところは大して変わっちゃいねえとも言えるのよな


最近の週刊誌は、中国・韓国を叩く記事ばかり売れて、週刊誌側もそれを分かって中韓叩き記事ばかりを載せており、その傾向がこの1年が特に顕著だという。確かに、中国・韓国との外交問題による反発感情を受けてか、最近はその手の記事が誌面に載るのを多く見るし、書店に行けば中韓叩きの本と、日本がいかに素晴らしいか・他国から賞賛されているかという内容の本ばかりが平積みされているのが目立つ。相手を貶し、自分(が属する集団)を称える本が売れる傾向は、はっきり言えば自慰的で気味が悪い。

このように特定の記事ばかり売れるので、マスメディアもそれに追随した例は過去にもあった。先日の池上彰氏の戦争番組でも触れられていたが、第二次世界大戦前のマスコミは威勢のよい好戦的な記事が売れるからと、好戦的な戦争を煽る記事ばかり書いて国民を煽り続け、マスコミは未曾有の好況に湧いていた。当時のマスコミについて、社会学者で京都大学大学院の佐藤卓己准教授によれば以下の様な状況であった。

雑誌が売れて売れて仕方ない、しかも統制のおかげで返品がまったく無い、つまり出版社にとっては儲かって笑いが止まらないという状況でした。一方、新聞界でも、読売新聞の発行部数が100万に到達した時期であり、国民が戦況報道を求めて新聞に飛びついた時代です。メディア経営にしては好景気のバブル時代だったということです。



戦前の主要雑誌年間発行部数推移(佐藤卓己「教育将校・鈴木庫三の軌跡」より引用)

戦争を煽り続けた報道でバブルを味わったマスコミ人は敗戦後、軍にその責任をおっかぶせ、自分たちは言論統制の被害者であると装ったのだ。

また、現代中国の話ではあるが、ジャーナリストの福島香織氏のツイートによれば、中国でも日本をネタにした好戦的な記事はウケているらしい。
中国人が戦争をどう思っているかということについて、彼の意見が多数派を代表するものではありませんが、環球時報の1面に対日軍事強硬記事とかのると、売り上げがぐんと伸びるのは事実です。環球時報の編集者が言っとったよ。環球時報は低層社会に人気のある安価な新聞。


環球時報の話のみで、中国のメディアが全てが対日強硬論で売れていると言うつもりはない。しかし、日本の週刊誌に溢れる日中軍事衝突のシミュレーション記事を見て、これと同じことが中国でも起きていたら、と考えるのはあまり気分のいいことではない。現代史家の秦郁彦氏によれば、第二次世界大戦前の長い期間、日本とアメリカ双方のメディアでは、日米もし戦えばといった日米戦シミュレーション記事が賑わっていたとされる。秦氏はそれらの報道が当時広まりつつあった地政学概念と結びつき、日米必戦の雰囲気が醸成されたのではないかと指摘している。この指摘と、かつての日本のマスコミの大衆迎合の事実を合わせて考えると、それが意味するものは重い。



心地よい隣人のネガティブ情報

しかしながら、最近の中韓叩き記事はいささか事情が異なる。戦前はマスコミが記事需要を判断して自発的に煽ったものだが、近年の中韓叩きはネットが先導し、マスコミがそれを追随する形となっている。「在日特権を許さない市民の会」の会長も、元は韓国叩きサイトの管理人で、出版社から著書が刊行されるようになったのは最近のことである。

韓国叩きサイトが目立つようになったのは、2002年の日韓ワールドカップ前後からであるが、今や10年以上の蓄積によって、検索エンジンで「韓国」を検索すると、ネガティブ情報ばかり表示されるまでになった。安田氏も指摘しているように、「あまり考えずに気持ちよく消費する娯楽情報」として、韓国のネガティブ情報はネット上でその地位を確固たるものにしている。近年は尖閣問題・反日デモによる反中国感情も加わり、中国のネガティブ情報も消費されるようになったと見られる。仲間内でする他人の悪口は心地よいもので、その悪口の真偽も問われる事は無い。冒頭のA氏も、なんとなくネットで出会った情報をよく考えずに気持よく消費し、私との話題にも心地よい話題として取り上げようとしていたのではないか。



全国紙も中韓を侮る姿勢

もっとも、ここまであげてきた例は個人の会話だったり、ゴシップネタ・叩きネタは日常茶飯事の週刊誌の話だ。ところが、最近は中韓叩きが全国紙にまで見られるようにってきている。その最たる例が産経新聞だ。

安倍政権を「軍国主義の復活」などと非難する韓国だが、軍事費が国家予算の10%に上るなど自らは軍備増強にまっしぐらだ。ただその中身は何ともお寒い。新型の国産戦車「K2」は開発開始から18年を経てもエンジンが作れず、部隊配備は延期に次ぐ延期。水陸両用の装甲車は川で沈没するなど技術不足による欠陥品ばかりで、首都防衛の機関砲がパクリのコピー品で使い物にならないことも明らかになった。大阪では町工場が人工衛星を作る技術を持つが、“お隣り”は国家の威信をかけた軍備もパクリや偽造、ポンコツのオンパレードだ。(岡田敏彦)


かつての産経新聞と言えば、冷戦期は日本の全国紙きっての韓国擁護論陣を張っており、韓国の軍事政権に批判的でともすれば北朝鮮擁護も見られた他の全国紙と異なり、一貫して韓国擁護の“親韓”新聞だったが、今は韓国叩きの先頭を走っている。パクリ、ポンコツのオンパレードと扇情的な本文に加え、見出しには「無謀ウリジナル、放熱できぬ戦車」とある。この”ウリジナル”という言葉は、韓国がなんでもオリジナルを主張するのを揶揄したネットスラングであるが、ネットスラングを説明無しで載せており、明らかにネットを意識した記事となっている。

自衛隊に納入した機関銃5,000丁以上のデータを、メーカーの住友重機械工業が1970年代から改ざんしていた事が発覚したばかりなのに、こういう記事載せる産経新聞はブーメランが怖くないのかと心配になるが、この記事の問題はこれ以外にある。韓国が装備品をパクリ・剽窃しているのは事実で、それが多くの問題を生んでいるのも事実だ。だが、かつて韓国の電気製品をパクリだと陰口叩いていた日本の電機メーカーのうち、サムスン電子に対抗できるメーカーは1社も残っているだろうか? このことは、あらゆる分野に言える。我々が嘲笑っているうちに、抜かれつつあるのは、国家の存続を左右する国防の分野も例外ではない。



防衛研究開発費で既に中韓に抜かれている日本

中国もロシア製兵器のコピーを臆面もなく行い、中露間で問題となったが、それでもまた新たにロシアから兵器を購入している。中韓は共に装備の国産化に関しては手段を問わないマキャベリ的姿勢であり、他国製兵器のリバースエンジニアリングから、情報活動による他国からの設計情報入手を含めた広範な活動を行っており、それを国産兵器開発にフィードバックしている。その結果、中国は戦闘機、艦船、戦車等の主力装備の開発能力を獲得し、韓国は武器輸出額をわずか5年で10倍にまで拡大させた。パクリを含めた、彼らの手段を問わない努力を上から目線で嗤うのは正しい姿勢だろうか。

パクリや情報活動なんて卑怯な手段で得た技術は身につかない、と反論する人もいるかもしれない。だが、自力の軍事技術の研究開発(R&D)においてすら、中韓は日本を越えようとしている。下のグラフは、各国の国防研究開発費の推移を表すものだ。2007年の段階で、日本は韓国に抜かれている。韓国は今後もR&D費を増額する方針であり、右肩下がりの日本との差はますます開くだろう。また、中国は国防予算とR&D費は別立ての為、その正確な額は推測になるが、既に相当前には日本を抜いていると見られ、現在は日本の遥か上の水準に達していると思われる。


各国の国防研究開発費の推移(防衛省技術研究本部資料より



民間におけるR&D費は、企業の今後の成長性・競争力の指標となっているが、それと同じことが国防にも言える。たゆまぬ技術開発と研究により、軍事技術をより洗練・発展させる事は、自国の戦力を向上する事に繋がる。年々、R&D費が減少している日本を尻目に、R&D費を増額させている中韓。日本の軍事技術の優位性は過去の蓄積で持っている状況であり、このままでは早晩、中韓に抜かれ、優位性は失われる事になるだろう。いつか、見下して嗤っていられた時代を懐かしむ日が来るのかもしれない。



隣国を嗤う前に我が身を見直そう

冒頭のA氏のような人が、日本企業の経営者で一般的なのかは分からない。だが、A氏が中韓を嘲笑する話を私に振って来たのは、他の経営者との会話で通じるネタだったからとしたら、それは憂慮すべき事態ではないか。「あまり考えずに気持ちよく消費する娯楽情報」に曝され続け、偏った情報ばかりを摂り続けて、正常な判断が出来るのだろうか。全国紙ですら中韓を嘲笑する記事を出すようになった今、多くの購読者が同じ認識を持ち、実態を知ろうともしないで侮り続けていたら、この先どうなるのだろうか。少なくとも、良い結果は生みそうにない。

日本が衰退の方向に向かっているのは事実である。こんな状況にありながら、他国を見下し、いかに日本が優れているかの本が売れている現状は、まさに現実逃避と言えるだろう。だが、その先に待ちかまえているのは破滅でしかない。まず、目の前の問題を解決し、競争者の実力を把握して、追い抜かれない努力をする方が良い未来に繋がるのではないでしょうか。


※中国のR&D費について、「10年前には日本を抜いている」としましたが、正しくはもっと以前から抜かれていましたので、表現を訂正いたしました。


【関連書籍】



2013年12月18日水曜日

韓国が鍵となる、新しい日本の防衛計画

17日に、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」(防衛大綱)が閣議決定されました。防衛大綱とは、概ね10年ほどを想定した中長期的な安全保障政策の指針の事で、日本を取り巻く安全保障環境に変化が無ければ10年以上経っても改訂されない事もありましたが、今回の改訂は平成23年度に防衛大綱が定められたばかりでしたので、わずか3年という短期間での改訂になります。防衛大綱の閣議決定と同時に、今後5年間の防衛力整備、つまりどれだけ装備を調達して人員を割り当てるかを定めた、中期防衛力整備計画も明らかになりました。

さて、これら中長期の安全保障政策と防衛力の整備計画では、陸上自衛隊はこれまで地域ごとで独立した指揮権を持っていた方面隊の上に陸上総隊を新設して、陸上総隊に指揮を一元化する組織改編を行い、機動力の高いMV-22オスプレイや機動戦闘車、水陸両用車両を新たに配備します。水陸両用団と呼ばれる島嶼部戦闘に特化した部隊も新設されます。海上自衛隊や航空自衛隊でも同様に、戦闘機部隊の増勢や、多用途性とコンパクトさを両立させた新たなタイプの護衛艦の導入、警戒監視能力の強化などが謳われています。


今後5年で99両が新たに配備される機動戦闘車今後5年で99両が新たに配備される機動戦闘車

一方、これらの新たな装備の配備や増強の反面、陸上自衛隊の主力装備である戦車・火砲を大幅削減し、戦車の配備は北海道、九州のみとし、これまで各師団に配備されていた火砲も方面隊直轄とするなどの方針が明らかになっています。

このような新しい防衛大綱は「南西シフト」であると各種報道は伝えています。冷戦期にソ連を仮想敵として北海道に重点配備していた自衛隊を、中国を睨んで九州・沖縄等の島嶼部の防衛に注力すべく、日本の南西部に防衛力の再配置するというものです。

近年の中国の軍事力整備の方向性は、圧倒的な経済力を背景にした正面装備の充実を図っています。2013年に中国が建造した水上戦闘艦の数は、自衛隊がこの10年間に建造した護衛艦の合計を既に上回っており、急ピッチで拡大し続けています。また、中国海軍は空軍とは別に海軍航空隊を保有しており、現在の増強ペースを見れば、あと数年で海軍航空隊だけで航空自衛隊より強力な戦力になると見られます。中国海軍は陸上部隊を運搬し、上陸させる揚陸艦の整備も今後進めると見られ、かなりの水陸両用戦力もいずれ持つ事になるでしょう。

これら中国の軍事力の拡大に、日本一国のみで対抗するのは不可能で、日米同盟の強化や周辺諸国との軍事的連携、国際的な協調による紛争防止等、多国間の協力が必要となります。新しい防衛大綱でも、アジア太平洋地域の国々との連携や、国際社会との協力を推進することが謳われています。

ところが、新しい防衛大綱では、日本が今後連携推進を目指すとされた国の中に、外交的に険悪な状況にある国があります。韓国です。


複雑に入り混じる日中韓の防空識別圏

新しい防衛大綱では以下のように韓国との関係強化を謳っています。


 我が国と共に北東アジアにおける米国のプレゼンスを支える立場にある韓国との緊密な連携を推進し、情報保護協定や物品役務相互提供協定(ACSA)の締結等、今後の連携の基盤の確立に努める。



ところが、ここで謳われている情報保護協定の締結は、本来は昨年に締結が予定されていたものですが、締結直前になって韓国から延期の申し入れがあり、それ以降は進捗が見られません。また、そもそも今回の新しい防衛大綱策定の基本概念である国家安全保障戦略について、韓国外務省は竹島問題が明記されていることを遺憾とし、削除を要求するなど抗議しています。


韓国外務省の報道官は17日の記者会見で、日本政府が閣議決定した国家安全保障戦略に竹島の領有権問題を外交努力で解決すると明記したことについて「極めて遺憾」と表明、「日本政府は不当な主張を即時に中断すべきだ」と訴えた。



韓国との協力関係構築を目指すとする日本の新たな安全保障政策ですが、当の韓国が様々な問題から乗り気ではありません。その背景には領土問題や反日感情と言ったものが挙げられていますが、一番大きな問題は中国への配慮にあるでしょう。国内市場が小さい韓国経済は、貿易依存度が極端に高く、韓国最大の貿易相手が中国であることからも、中国の韓国に対する経済的影響力は計り知れないものがあります。また、北朝鮮と関係の深い中国と良好な関係を築くことで、北朝鮮の暴発を抑える事も期待されており、韓国としては中国の機嫌を損ねる日米との連携強化を表立ってできない状況にあります。

日本、ひいてはアメリカにとって、韓国を日米側に引き留める事が重要になってきます。先日、訪韓したバイデン米副大統領は朴槿恵韓大統領との会見で、日本との関係改善を促した上、「米国の反対に賭ける(betting)のは良くない」と発言し、中国と関係を深める韓国に釘を差したと、韓国国内では大きく取り上げられました。日本も韓国が「反対側に賭ける」のを阻止する為、米国と強調して、日米側に留める努力を強める必要があるでしょう。

歴史を振り返れば、日清・日露の両戦争は、日本が大陸勢力からの緩衝地域として朝鮮半島を日本側勢力に留めようとした為に起きています。更に遡れば663年に白村江の戦いで唐・新羅連合軍に日本軍が敗れ、朝鮮半島における日本側勢力が一掃された後、日本が九州に防衛用の城を多数築いて防人を置き、首都を海沿いの難波宮から内陸の近江宮に移すなどの防衛力強化に努めた事が知られていますが、これは朝鮮半島における緩衝地帯が無くなった事で、日本本土が最前線になった為に防衛力強化が必要となった為と言えます。今、朝鮮半島に緩衝地帯を無くすと、1300年前を繰り返す事になりますが、これは避けねばなりません。

前述した通り、新しい防衛大綱と中期防衛力整備計画では陸上装備が大幅に削減されます。これは我が国が島国であり、直接的な陸上戦力の侵攻を海が阻んでいる為に可能になったものです。ですが、韓国が「反対側」に賭けた場合、日本は大陸勢力と対馬海峡という狭い海峡を挟んで対峙する事になり、大幅に防衛への負担が高まります。

防衛大綱で示された他国との連携では、アメリカ、オーストラリア、ASEAN諸国、インドといった国々との連携も謳われ、それらの国々とは成果も出ておりますが、韓国だけはうまくいっていません。防衛大綱で示された安全保障環境の実現の、最大の障壁にして鍵が、韓国と言えるでしょう。韓国では中国との関係は良好と考えられていましたが、中国が防空識別圏を韓国が管理権を主張する蘇岩礁上空に設定した事への反発や、張成沢氏処刑による中国の北朝鮮への影響力についての疑念などで、メディアが日本との関係改善を主張し始めるなどの兆しを見せています。ここでどう韓国側をこちらに取り込むかが、日本外交の見せ所になるでしょう。


【関連】




2013年12月11日水曜日

韓国が新防空識別圏を設定

韓国国防部が新しい防空識別圏(KADIZ)を設定したと発表しました。

【ソウル聯合ニュース】韓国の国土交通部関係者は11日、国防部の要請を受け、防空識別圏の拡大を盛り込んだ航空情報(ノータム)を各国の航空当局に送ったと明らかにした。航空情報は防空圏が拡大される15日午後2時から発効する。


ところが、韓国国防部のサイトや国土交通部AIS見ても、新KADIZの座標が載っていない。困ったなあと頭抱えつつ、韓国メディア探したら座標があったんですが……







あのー。2つとも聯合ニュースがソースなのですが、KADIZ東の座標が30分違うのですがそれは……。

とりあえず、AISにあった過去の座標からデータから、下の白地図の方の座標が正しいなと仮定して、Google Mapsに追加しておきました(色分け見難くてすみません)。とりあえず、過去のKADIZも残しておきます。いずれ消すかも。




さて、これを見ると分かりますが、大変だ。日本の防空識別圏もむちゃくちゃ広いのですが、韓国のも南に伸び、厳密に対応してしまうと、韓国本土南西にある光州基地がめんどい事になるかもです。

※(12/11,20時追記)新KADIZに少し誤りがありました(対馬海峡の一点を入れ忘れ)。修正しましたが、見た目はほとんど変わりません。

【関連】




オオカミ少年は死なず ~民主主義は何回死んだか~


特定秘密保護法が成立しましたね。

この法案を巡っては、反対論陣を張ったメディア、特に朝日新聞と毎日新聞が批判的な報道を連日繰り返していましたが、法案成立時に毎日新聞は「民主主義死す」とまで題した見出しをつけています。
特定秘密保護法:成立 軽々と、民主主義死す 「息苦しい世になるのか」

出典:毎日新聞 12月7日朝刊

民主主義が死んだとは穏やかではありませんね。本当に民主主義が死んだのであるならば、メディアによる政府批判や、私のような一介のブロガーが呑気にブログ書いてたりは出来ないと思うのですが、「民主主義が死ぬ」というフレーズは、昔から色んな政治家が、揉めた法案がある度に発言していた記憶があります。

そこで、平成以後に国会議員が発言した「民主主義の死」に類する発言をいくつかピックアップしてみた。(肩書はいずれも発言時)

自自公の数の横暴で民主主義が死にかけている。一日も早い解散を迫っていく。

出典:羽田孜(民主党幹事長)
2000年 福岡市内のホテルで開催された「新春のつどい」にて

理念なき妥協であり、有権者を愚ろうし議会制民主主義の死滅にもつながりかねない

出典:土井たか子(社民党党首):1999年 衆院比例定数削減について

PKO協力法案は平和的な国際貢献の名に値しない。自衛隊の海外派兵を最優先する悪法だ。全力で阻止する。参院での強行採決以来、我々が考えてきた国会のルールが踏みにじられ、議会制民主主義が死滅せざるを得ない。

出典:田辺誠(社会党委員長):1992年 党内の朝の代議士会挨拶にて

採決は無効だ。自公民3党で決めたことで国会が動くようでは議会制民主主義は死滅だ

出典:田辺誠(社会党委員長):1992年 PKO法案特別委員会の採決後に

皆さん、軽々しく民主主義を殺しすぎですね。もう20年以上前のもあるんですが、死者に鞭打ちすぎだと思います。

さて、このように「民主主義の死」と煽る人物に共通するのは、代議士制における民主的意見集約手段である選挙結果を無視し、審議の打ち切りと強行採決を持ってして「死んだ」「死ぬ」と言っている点ですが、民主党が与党時代に強行採決を繰り返した事は周知の通りですし、社会党の田辺委員長に至っては、PKO法案を巡り2回も「民主主義の死」を発言していますが、その後に社会党は自社さ連立政権を組むにあたり、自衛隊合憲・PKO派遣も認めるように方向転換しました。「民主主義は死んだ」と抜かす人に限って、民主主義を「殺す」側に入る事には躊躇しないのはどういうことなんでしょうか。

今回の秘密保護法を巡っては、反対論陣側はいたずらに危険性を煽り立てるものばかりで、法案そのものを完全否定するあまり、法案が抱える問題点そのものの議論が尽くされず、非常に残念なものとなりました。もっとも、法案は改正することが出来ますし、今後に非自民党政権が成立する可能性だって十分ありますから、その際に改正を議論してくれれば良いと思います。しかし、過去に「民主主義の死」を連呼したオオカミ少年たち(オオカミ爺さんと婆さんですが)が、その後に民主主義を殺して回った事実を見ますと、あまり期待できそうにないと暗澹たる思いがあります。




2013年12月6日金曜日

難しいSNS時代の秘密保全

特定秘密保護法が成立秒読み段階に入っていますね。秘密保護法が成立・施行された場合、行政の長が特定秘密に指定した情報は部外者には秘密にされ、その情報を外部に漏洩させた者は罪に問われる事になります。そういう点で秘密保護法は、情報へのアクセスを制限することで、秘密を守るというアプローチと言えます。

ところが、指定された秘密自体が漏れてなくても、秘密でない一般情報から、秘密をかなりの精度で推測する事は可能です。近年はその為の技術も発展し、各国情報機関ではその活用が行われています。秘密保護法の成立の前に、秘密でない情報から秘密を明らかにする方法と、その手法から秘密を守る方法を考えてみましょう。



情報機関も活用するSNS

最近は「ビッグデータ」と呼ばれる巨大なデータの集合を強力なコンピュータで解析し、消費者動向等を掴もうとする試みがビジネスの世界で盛んですが、諜報の世界でもビッグデータの活用が行われています。米国家安全保障局(NSA)では、フェイスブックやツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で流れている情報を解析し、対テロ情報の収集に役立てていると言われています。例えば、SNSに要注意人物がアカウントを持っていた場合、その人物がどこでどんな行動をしているのかを把握することが可能ですし、SNSの全情報から怪しい行動をしている人間を抽出して、犯罪を防止することも可能です。人がどういうネットワークを持っていて、そのネットワークはどういう集団なのかも判明し、犯罪・テロネットワークの把握にも繋がります。このようなSNSのビッグデータ解析による情報収集のミソは、SNSで発信される情報はWeb上で公開されているものなので、これを情報機関が収集・解析するのは全くの合法だという点にあり、NSA等の情報機関では大規模コンピュータによる解析を進めています。

中二を刺激するNSAのオペレーションセンター

しかし、個人がSNSで情報発信していたとしても、秘密に指定された情報さえ書かなければ、秘密は守られるからいいのでは、と思われるかもしれません。実際、秘密保護法案は秘密そのものを保護対象としているので、秘密を漏らさなければ問題無いのです。法的には。



秘密でない情報から秘密を探る

ところが、秘密情報そのものは守られていても、周囲の情報から秘密を推測する事は可能です。実際に、私の身近で最近あった例を挙げましょう。ある作家の方があるゲームにハマり、ツイッターでゲームの事を頻繁に呟いていましたが、ある日を境にゲームに言及することが無くなりました。この変化を見て取った一部のフォロワーは、作家がそのゲーム関連のノベライズ担当に決まったからゲームへの言及を控えているのではないかと推測しましたが、後日行われた公式発表により、予測の正しさが裏付けられた事がありました。ここでは身近な例を挙げましたが、このように秘密を一切明らかにせずとも、普段からの観察と分析で秘密を明らかにする事は、ほとんどの分野でも可能なのです。

諜報の世界では、普段との行動パターンの違いから異変を察知する事は昔から行われてきました。しかし、個人の普段からの行動を監視するには多くのリソースが必要で、まして集団の構成員全員を対象とする事は不可能でした。ところが、SNSの普及によって、リアルタイムの個人情報が容易にかつ大量に把握可能となった今、その難易度は下がったと言えます。個人が秘密を一切書いてなくても、艦艇勤務の海上自衛官が長時間呟いていないから航海任務に出たなとか、日本時間は夜なのに昼の写真ばかりアップロードしたら海外にいるなとか、いくらでも秘密の推測は可能です。大規模コンピューターを用い、さらに大きなレベルから複数人の情報の紐付けを行った場合、特定の集団(自衛隊部隊や、警察etc...)になにが起きているかも推測可能になるでしょう。秘密を知る鍵は、そこら辺に転がっているのです。



知る必要のある情報か? を考える

このように、秘密を守ろうとしても、秘密以外のところから明らかになってしまっては、秘密保護法も意味を持ちません。これを防ぐにはどのようにすればよいでしょうか。この対策についてのヒントが、インド海軍の艦艇内に貼られていた、情報保全を啓発するポスターにありました。

インド海軍の情報保護啓発ポスター

海軍艦艇乗員の娘が「パパは長期航海に出てて、6月27日に帰ってくるの!」と電話で話している微笑ましい様子を描いたポスターですが、子供の下には「機微情報を知る必要のない人間と共有しない。それは不用意な開示かもしれない」と注意を促す文章があり、このポスターは乗員が子供に帰宅する日を教えてしまったため、艦艇がいつ作戦から戻るのかといった情報が、他人にも伝わっていく事への注意喚起だと分かります。このポスターにある「知る必要のない人間と情報を共有しない」は重要な事で、普段から周囲に伝える情報が、その人が本当に知る必要のあるものかを考えてから伝える事が秘密保全には重要です。これは、'''流れる情報量を減らす'''事で、秘密保護を行うアプローチと言えます。


制限による漏洩防止が難しいSNS時代

ところが、普段の自分の様子を伝えるSNSでは、情報量を減らすアプローチによる秘密保護は難しいものです。前述したように、ビッグデータによる解析が行われるようになった今、些細な情報でも他の情報と容易に紐付けが可能となり、そこから何らかの秘密に繋がるかもしれません。そして、自分の「つぶやき」に、それがどういう意味を持っていて、そこから推測できる秘密は何か? なんて考える人はほとんどいません。こうなると、SNS経由で秘密を推測されないようにするには、秘密取扱者のSNS利用を制限するか、匿名SNSのみにする必要もあるかもしれません。しかし、個人の活動でしかないSNS利用を制限するのは難しいですし、なにより「秘密」でもなんでもない情報を発信する事を止めさせるのは無理でしょう。

一般情報からの秘密の推測を防ぐには、流す情報の中に欺瞞情報を混ぜるアプローチが、古くから行われている手法であります。そして、公文書に虚偽情報を載せると問題になりますが、個人利用のSNSで自分の行動について嘘を載せても罪には問われません。秘密取扱者が個人SNSを利用する場合は、発信する情報に適度に嘘を混ぜておくことで、推測の精度を落とす事が出来ます。秘密取扱者に欺瞞情報の発信についての教育訓練を行う事で、秘密保護に役立てるしれません。もちろん、不自然な情報を検出するフィルタリング技術も存在するでしょうから、欺瞞情報を自然に見せるための手法の研究も必要になってくるでしょう。もしかしたら、この方法は既に行われているのかもしれませんが、自衛官と思しきSNSアカウントを複数観察していると、情報に「ムラ」が感じられる事があるので、現状は個人の情報意識による所が大きいのではないかと思います。組織としてSNS時代に則した欺瞞手法の研究と、秘密取扱者に対する教育を行う必要があると思われます。

もちろん、前述した情報アクセス制限情報流量制限による秘密保護アプローチも重要です。一つの手段で万全なものはあり得ませんから、重層的な対策によって、秘密保護を行うことが重要となります。秘密保護法は秘密へのアクセスを制限して、秘密自体が漏れる可能性を減少させるには有効なのですが、一般情報からの秘密の推測には効果がありませんので、その他の手段も用いて秘密を守る他ありません。秘密保護は法案が出来たから解決する問題ではなく、ここから始まる問題だと考えるべきでしょう。


【関連書籍】






2013年12月3日火曜日

ニコ動にもデアリング来航動画をアップしました

12月1日の段階でニコ動にもデアリング来航の動画を上げる予定だったんですが、急用で遅れていました。ようやっとPCに触れる環境になったので、ニコ動にアップロード。



取り急ぎ、ご報告まで。

2013年12月1日日曜日

HMSデアリング来日

英国のジェームズ1世の国書が徳川家康に捧呈され、日本と英国の間に正式に国交が結ばれてから今年で400年目を迎えます。これを記念して、英国海軍の最新鋭艦である45型ミサイル駆逐艦”デアリング”が12月1日に東京港に来航し、晴海埠頭にて記念行事が行われました。


晴海埠頭に接岸する45型駆逐艦デアリング




2008年の”ケント”来航以来、英国海軍の艦艇が来日するのは5年ぶりとなります。今回のデアリング入港前には、日本側のホストシップ(相手を出迎えるホスト役の軍艦)で、自衛隊の最新鋭艦である、あきづき型護衛艦”てるづき”と親善訓練を行い、てるづきが先導する形で一緒に入港しました。


ホストシップのあきづき型護衛艦てるづき

最新鋭駆逐艦であるデアリングは、統合電気推進と呼ばれる先進的な推進機関を持っています。これはガスタービンで発電し、その電力でモーターを駆動させて航行する推進機関で、推進の為の電力と、艦内で使われる機器の電力の電源を共用・一元化することで電気利用の効率性を高め、これにより高い静粛性と緻密な操作制御を実現しています。搭載されるガスタービンも、あきづき型が搭載する”SM1C”(これも英国が開発したものです)よりも新しく、燃料消費の少ない”WR-21”を搭載しており、このガスタービンを搭載した船は45型駆逐艦以外にまだありません。


デアリングに搭載されているWR-21(ロールスロイス社パンフレットより)

エンジン開発に高い技術力を持つイギリスですが、今年に入って、日本との間で防衛装備品の共同開発やテロ情報の共有を行うための情報保護協定が調印されました。まずは防護服などの開発から初め、将来的には艦艇用エンジンの開発まで行うとされています。このような防衛装備品の技術情報やテロ情報の共有は、高い秘密性が求められているため、現在の国会で騒がれている秘密保護法案も、元々はこのような海外との防衛関連情報の共有の為に成立が急がれた背景があります。同様の情報保護協定は、アメリカとNATO、オーストラリアの間でも結ばれております。なお、韓国とも昨年に締結する予定でしたが、締結直前に韓国側から延期の申し入れがあり、以降進展がありません。

現在、防衛装備品の開発は、開発費の高騰によって、費用や技術を出し合う国際共同開発が世界的な潮流になっております。開発費の減少が続く日本でも、その波に遅れないように国際共同開発に取り組むため、武器輸出三原則の緩和や秘密保護法の制定などを行い、環境を整えている段階にあります。そういうことを踏まえて、今回のデアリング来航を見てみると、ただの親善目的の来航以外の、また違った面が見えるかもしれません。


【写真コーナー】

レインボーブリッジを通過するデアリング
前部アップ

艦橋上左右に1基ずつある光学系っぽい何か

艦首4.5インチ単装砲

雄々しいとしか言い様がない

自衛隊の暗号携帯はAndroidスマホ?

秘密保護法案成立を巡って、色々と騒がしい昨今ですが、秘密保護法の保護対象となる自衛隊暗号に関連する、ある情報が防衛省から公開されました。

陸海空の3自衛隊を束ねる組織である、統合幕僚監部が11月25日付けで公告した入札情報に「秘匿携帯電話プログラムの改修等」というのがあり、入札対象となる携帯端末の性能要求仕様が書いてありました。主な部分を抜粋してみましょう。

  1. OS:Android4.x以上
  2. CPU:1.7GHz以上、クアッドコア以上
  3. メモリ:RAM 2GB以上、ROM 32GB以上
  4. 外部メモリ:microSD、microSDHCに対応していること。
  5. 通信方式:GSM、3G(HSPA)、LTEに対応していること。
  6. GPS:GPS機能を有すること
  7. ディスプレイ:解像度720×1280ピクセル以上
  8. 専用線対応:専用線データ通信サービスが利用できること

Android4.x以上で1.7GHzのクアッドコアと、最新のフラッグシップ・モデルには届かないものの、液晶の解像度以外は高いスペックが要求されています。ハードウェアとしては、市場モデルに若干の改修と暗号化プログラムがインストールされたもので、3G通信はHSPAを使うので、キャリアはNTTドコモ・ソフトバンクのどちらかと思われますが、国とNTTグループとの関係から、恐らくドコモがキャリアでしょう。

様々な機能が要求されていますが、一方で情報漏洩対策で、制限も課せられています。管理装置からの遠隔操作により、携帯端末の通話やメールの送受信、Wi-FiやBluetoothといった無線機能等を制限できることを要求しています。もちろん、電話帳や履歴などのデータを遠隔消去することも要求に含まれています。

結構色々細かいところまで書かれているのですが、秘密保護法案が成立すると、このような情報も公開されなくなるのでしょうか?

もし、法案が正しい運用をされるのであるならば、このような情報は秘密の対象とならないと考えられます。と言うのも、既に自衛隊法によって、「我が国の防衛上特に秘匿することが必要」とされるものは防衛秘密に指定されており、「防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法」と「防衛の用に供する暗号」は防衛秘密に該当します。ですが、暗号化のキモである秘匿用規約(プロトコル)の仕様は公開されておりません。つまり、この程度の情報を公開したところで、暗号の健全性への脅威にはならないので、国家の安全には問題ないと判断されているのです。また、競争入札である以上は公示の必要があるため、今後もある程度詳細なスペックが公開されることでしょう。むしろ、これまで公開に問題がなかったこのような情報まで秘密にされた時は、秘密保護法が不健全な運用をされている可能性があります。

秘密保護法の理念としては、秘密により国家・国民の安全を担保することですが、秘密指定の乱用は逆効果に陥る事がしばしばあります。実際、アメリカでは同時多発テロ以降に爆発的に秘密指定を受ける情報が増加し、情報のチェック機能は失われ、有益な情報が組織間で共有されることもなく、却って秘密がアメリカの政策と国益に深刻なダメージを与えていることが、ワシントン・ポスト紙のチームによって明らかにされています(詳細はデイナ・プリースト「トップ・シークレット・アメリカ: 最高機密に覆われる国家」を参照)。

我々が注意すべきは、秘密保護法案がその理念から外れ、ただただ失敗を糊塗するための法案に成り下がってしまうことです。このような事態に陥らないためにも、これまで公開されてきた情報と法案施行後の公開情報にどのような違いがあるかを比較し、なにが秘密にされているかを明らかにし、その秘密指定の妥当性を検討する働きが重要になってくるでしょう。第三者機関を政府内に置くことを安部総理は考えているようですが、秘密を作る当人である政府よりも、国民の代表である議会による機関と、規則に基いて秘密情報をチェックする国の機関として設置するのが望ましい形になると思われます。


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アブグレイブ刑務所での虐待をスクープし、ピューリッツァー賞を受賞したワシントン・ポスト記者と、冷戦時代に電話帳などの公開情報のみで在欧米軍の核兵器貯蔵庫を明らかにした元米軍情報アナリストの共著。911以降のアメリカで、秘密情報の飛躍的増加と、情報機関の相次ぐ拡大により、アメリカの国益は損なわれていく様を克明に明らかにしています。必読。