さて、今年も『「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン新語・流行語大賞』が発表されました。年間大賞と大賞を含むトップ10は、次のとおり発表されています。
【年間大賞】神ってる
【トップ10】聖地巡礼
【トップ10】トランプ現象
【トップ10】ゲス不倫
【トップ10】マイナス金利
【トップ10】盛り土
【トップ10】保育園落ちた日本死ね
【トップ10】ポケモンGO
【トップ10】(僕の)アモーレ
【トップ10】PPAP
【選考委員特別賞】復興城主
ところが、このような選考結果に対し、ネット上では違和感を表明する人が相次いでいます。私自身も単に疎いだけかもしれませんが、大賞を獲った「神ってる」って言葉は初めて知りました。選考委員特別賞は熊本地震被災地への応援という意味があるので分かるのですが、トップ10の中には首を傾げるものが多いのではと感じます。
私個人の思い込みや、周囲の反応だけを拾っているせいなのかもしれませんが、ライター・評論家のさやわか氏も「「神ってる」流行語大賞受賞に違和感が噴出するワケ」という記事で次のように書かれています。
毎年、年末になると発表される「新語・流行語大賞」。年の瀬の多くのイベント事がそうであるように、この賞は「あったあった、こんな言葉」と1年を思い返せるところに楽しみがあるはずだ。
しかし世の評判を見ると、最近は「こんな言葉は流行っていなかった」「もっと他に流行った言葉があった」など、違和感を表明する人が増えている。なぜだろうか。
さやわか氏もご自身、そして世間に違和感が溢れていると考えており、広い範囲でこの違和感は共有されているようです。
しかしながら、一企業が独自の基準で審査員をつけて発表した「流行」にとやかく言っても、あまり意味は無いかもしれません。「違和感がある」と文句を言っても、「うちはそう思ってる」と返されたら、あとが続きません。しかし、この大賞がそれなりの権威を持って世の中を闊歩している以上、この違和感に毎年付き合わされるのには、正直ぼくは気持ちよくありません。
そこで、定量可能な指標で、本当に流行っていた言葉なのか? ということを検証してみたいと思います。その指標としては、グーグルで今年検索された回数を調べて、それがどれだけネット上で注目を集めていたのか判断してみましょう。すると、面白い結果が分かりました。
圧倒的なポケモンGO
グーグルで検索された単語の検索傾向については、グーグルトレンドで視覚化して表示できます。グーグルトレンドでは単語が検索された絶対数は分からないのですが、指定された期間で最も検索された週を100として相対的に表わしています。つまり、Aという単語が最も検索された週で100万回検索されたとすると、50万回検索された週は50と表されるのです。Aという単語が最も検索されたなら、その最も検索された週を基準として、他のBという単語も比較することも可能です。この仕組を用いて、新語流行語大賞トップ10の言葉が、どれだけネット上で検索されたかを表してみましょう。すると、下のグラフのような結果になりました。
新語流行語大賞トップ10のグーグルトレンドでの推移 |
水色の線で現した「ポケモンGO」が最も検索された回数が多く、7月24日から30日の1週間で最も検索されています。
ところが、ここで問題が生じます。ポケモンGOが圧倒的過ぎて、他の単語より桁が2つも違うという事態になっていたのです。
「ポケモンGO」が最も検索された週を100とすると、ポケモンGOに次ぐ「PPAP」と「マイナス金利」が最高でも2しかなく、他の7単語に至っては”0”です。つまり、ポケモンGOの百分の一も検索されていない事になります。100倍以上差があると、ここで表示できる折れ線グラフでは判別が付きません。ポケモンGOの化物ぶりが窺えます。
ポケモンGO抜きにしてもゼロの「アモーレ」「トランプ現象」
これでは比較にならないので、ポケモンGOを抜きにして、次点のPPAPを100として基準点にしてみましょう。それが次のグラフです。2016年新語・流行語大賞トップ10のグーグルトレンドでの推移(ポケモンGOと0項目除く) |
だいぶ見やすくなりましたね。このグラフでは「PPAP」が最も検索された週が100に対し、「マイナス金利」が最も検索された週が76で、結構いい勝負です。ただ、この2つ以外はパッとせず、「保育園落ちた日本死ね」が一週だけ14になった他は、他の全単語は一桁台です。なお、このグラフの凡例に「(僕の)アモーレ」、「トランプ現象」がありませんが、両者についてはPPAPを基準にしても0でした。つまり、この両者はPPAPの百分の一以下、ポケモンGOの五千分の一以下の検索回数ということになります。本当に流行したんでしょうか。
今年話題になったあの映画を突っ込んでみると
ポケモンGOの圧倒的強さに他が霞む流行語となりましたが、他にも今年流行ったものがありましたよね。例えば、興行収入が194億円を突破し、邦画歴代2位になるとも言われている映画「君の名は。」は、まさに今年を代表する流行でしたね(新語流行語大賞トップ10になぜか入ってませんが)。「君の名は。」の他にも、例えば「トランプ現象」ではなく、単純に名前の「トランプ」と入力するとどうなるでしょうか。このような単語とトップ10のツートップを比較してみました。「ポケモンGO」、「PPAP」、「トランプ」、「君の名は。」のグーグルトレンド推移 |
ああ、これでもポケモンGOには及びません……。「ポケモンGO」100に対し、「トランプ」が最大17、「君の名は。」が最大10となっています。「トランプ」「君の名は。」は、瞬間的に「ポケモンGO」を抜く事はあっても、ピークが遠く及んでいません。それだけポケモンGOに注目が集まっていたのと言えるかもしれません。
検索回数=流行ではないけれど……
しかしながら、これはあくまでグーグルの検索回数というだけで、イコール流行とは完全に結びつかないのも事実です。例えば、ポケモンGOはゲームですので、ポケモンが出るポイント探しに同じ人が何回も頻繁に検索することが考えられます。しかし、それを考慮しても、莫大な数のポケモンGO情報が求められていたのは事実で、検索回数は他を圧倒しています。そして、ポケモンGOの五千分の一に満たない検索回数の言葉って、少なくともネット上では流行語とは言えないのかなあ、と思います。まあ、世間もネットも大して乖離が無くなってきた時勢ではありますが。なお、グーグルは12月中旬に「Year in Search: 検索で振り返る」を発表しています。まだ今年は発表になっていませんが、興味のある方は、真のグーグル検索回数1位がなにか、チェックしてみてもいいのではないでしょうか?
なお、本記事で用いたグーグルトレンドの検索条件は次のとおりです。
国:日本
期間:2016年
カテゴリ:すべてのカテゴリ
検索対象:ウェブ検索
※記事初出時、「(僕の)アモーレ」、「トランプ現象」の検索数について、「ポケモンGOの一万分の一以下」としましたが、「五千分の一以下」に訂正致しました。