2016年7月12日火曜日

仲裁裁判所が否定した九段線とは?

中国が南シナ海全域に管轄権を主張して引いた「九段線」について、フィリピンが仲裁裁判所に提訴していた裁判で、仲裁裁判所は一二日中国側の主張する「九段線」に法的根拠がないとする判決を下しました。

【マニラ=向井ゆう子】中国が南シナ海で主張する「九段線」は国連海洋法条約に違反するなどとして、フィリピンが2013年に提訴した仲裁裁判で、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は12日、「九段線」について歴史的権利を主張する法的根拠はないとする判決を示した。
これを受けて中国が反応するかがこれから注目されますが、黙って従う可能性は低く、今後さらに問題が加熱するかもしれません。

さて、この裁判関連の報道でよく見かけるのは、「九段線」という言葉です。これは、中国が管轄権が及ぶと主張する領域を示す地理上の概念ですが、南シナ海のほぼ全域に渡っており、下の図の赤い線が九段線になります。

佐々木健「中国の南シナ海進出と国際社会の対応」参議院事務局企画調整室より

中国も加盟している国連海洋法条約では、沿岸国の基線(領海の基準となる線。おおむね海岸線と思って下さい)から12海里(約22km)以内を沿岸国の主権が及ぶ領海とし、200海里(約370km)以内を排他的経済水域(EEZ)として、沿岸国に資源や開発の排他的権利を与えています。

ところが、九段線の範囲は、仮に南沙諸島を中国が領有すると認めたとしても、EEZでもここまで広くはなりません。'''九段線の範囲は現行国際法上の何に基づいているかが不明'''なのです。中国は南沙諸島の領有権、領海やEEZに加え、今回裁判で否定された南シナ海の「歴史的権利」を持つとしていますが、それで何が得られるかが曖昧なのです。

そもそも、九段線の元となる線を最初に引いたのは、現在の中国(中華人民共和国)ではなく、戦前の中華民国政府でした。

1930年に中華民国政府が発行した地図で南シナ海の島嶼の領有権が主張され、続いて1947年に「中国の権威が及ぶ範囲の限界」として、南シナ海に11の区画線からなる「11段線」を引きました。1953年には2つの線が削除され、現在の九段線の形になりました。つまり、現在の中国は、かつての中華民国の立場を受け継いでおり、中国のネットサービスの地図にはデカデカと九段線が描かれています。

ところが、この11段線、九段線を引いた側の中華民国(現在の台湾)も、中華人民共和国も、九段線の法的な意味を未だに明らかにしていません。誤解されがちですが、領有権の主張ではなく、「管轄権」であり、これが具体的にどういう権利を主張しているのか、よく分かっていないのです。

この九段線の法的意味合いについては、中国内外でも議論されてきましたが、その中で出ている意見に、「外交に戦略的曖昧さを持たせることで外交で取れる行動の幅を拡げるため」という推測があります。最近になって、これを裏付ける発言が、6月に開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)に参加した中国政府関係者から出ています。

 姚云竹少将は「シャングリラ対話」の一環として4日に開かれたセミナーで「中国にとって、そしてその他の領有権主張国にとって、曖昧さが良いことかもしれないと今なお考えている」と発言。「その結果、中国など領有権主張国にとって動ける余地が広くなり、妥協する余地が広くなる」と述べた。

つまり意図的に曖昧にすることで、出せる手札を多くするという手のようです。

もっとも、今回の判決で国際的には中国の歴史的権利は否定されました。この後、中国がどのような反応を見せるかですが、南シナ海の緊張が高まるかもしれず、注視が必要です。

日本では尖閣諸島の問題ばかり注目されがちですが、南シナ海は周辺国家にとっても重要なのはもちろん、日本を含む東アジアの国にとっては、中東・ヨーロッパからくる船のほとんどが通過する重要な海域です。平和安全法制の審議で例に出されたホルムズ海峡以上に重要な海域なのは自明で、一国がここの管轄権を主張する事態は日本の安全保障上の重大問題になり得ます。せめて、尖閣並に注目されてもよいのではないでしょうか。


【参考】

吉田 靖之 「南シナ海における中国の「九段線」と国際法」海幹校戦略研究 2015 年6 月

佐々木 健 「中国の南シナ海進出と国際社会の対応 」参議院事務局企画調査室

上の2論文はネットで見られる中で、南シナ海問題の整理に役立ちます。特に上は国際法上の議論や歴史的権利にも触れており、大変参考になりました。


李克強「中国と周辺国家の海上国境問題 」『境界研究』No.1

また、現在中国共産党序列2位の李克強首相が副総理時代に書いた論文は、中国の主張の整理に役立つと思います。

【関連書籍】

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2016年6月5日日曜日

歴史的写真を自動彩色AIで彩色してみた

早稲田大学理工学術院の石川博教授のチームが、人工知能を用いた白黒写真の自動色付け研究を発表して、そのソースコードを公開した。


ディープネットワークを用いた大域特徴と局所特徴の学習による白黒写真の自動色付け


非商用なら使えるということで、パブリックドメイン入りした歴史写真(戦争もの)をとにかくつっこんで遊んでみた。自分は彩色に関する知識は全くなく、彩色は完全にAI任せである。やったことは、画像サイズの縮小くらい。長辺640ピクセルくらいに画像サイズを落とさないと、メモリ使用量がとんでもないことになるので、やろうとする人は注意しよう。


【わりと成功したもの】





マッカーサーのフィリピン上陸。再現性は?だけど、雰囲気は出ている。




モロトフ=リッベントロップ協定の調印の様子。「これから毎日ポーランド割ろうぜ?」という悪い奴ら感が出ている。




 北アフリカのロンメル将軍。正直、この白黒写真からカラー化がむずいような気がしてたが、思いの外良い雰囲気のカラー写真になった。




空母上の米海軍機。飛行甲板の色がこれで正しいのかちょっとわからないけど、機体と海の色は良い感じ。




沖縄戦でロケット弾を発射する米軍機。機体と空と陸をきっちり認識して彩色してて、当時のカラーフィルムと言えば信じてしまいそう。




パリに入城するドイツ軍を涙目で見ているおじさん。通称スンスンおじさん。セピア退色したカラー写真と言えばそれっぽいけど、ディープラーニングで本来の色でなく、退色まで学習したってことなのん? 実はパリで撮られたものではない説があるが、アメリカのアーカイブにはパリと日付まで書いてあり謎。




ヒトラーとエッフェル塔。ヒトラーら手前の人物らのカラー化は良いけど、エッフェル塔の上部が黄色くなっていたりして少し変。




日本の降伏でお祭り騒ぎのニューヨーク・タイムズスクエアでのキス。良い雰囲気だけど、これも本来の色というより、古いカラーフィルムの色といった再現。なお、この写真が撮られた時期は、実は対独戦勝の日じゃないかという説もあったはずだけど、どう決着したのかな。


 【ちょっと微妙なの】



 硫黄島に揚がる星条旗。星条旗のカラーは認識されているけど、本来の色というより、当時のカラーフィルムの色再現って感がかなり強い。空の色もちょっと微妙。



同じく硫黄島。遠くに摺鉢山が見える。元の写真がはっきりしているせいか、写真も雰囲気がよい。






 アメリカ義勇軍(フライング・タイガース)の戦闘機を警備する中国兵。このP-40の配色は正しいんだろうか。自然風景は割と再現度高いが、人工物の彩色はかなり怪しい傾向にある。








上から戦艦大和、駆逐艦雪風、戦艦長門。いずれも艦橋がサビっぽくなり、船体が青味が強くなる傾向がある。





 砲撃する戦艦アイオワ。炎や爆発の彩色に弱い傾向が見られた。





 真珠湾攻撃。かなりビビッドな感じで、同じく爆発も微妙。


【問題あり】




 ヒトラーによるオーストリア併合の発表。これはホント酷い。けばけばしいピンクの悪趣味度がごっつい。




 進行するアメリカ戦艦。風景写真はわりと成功するのだけど、この写真に限っては空の青が黄色く、いろいろとアレ。




 ヤルタ会談での3巨塔。全体的には決して悪くないのだけど、真ん中のルーズベルトが生ける死体と化している。ほんとにこのすぐあとに死ぬので、本当にこんな色だった可能性もあるかと思ったが、この時の写真はカラーも結構残っていて、それと比較しても変だった。




真珠湾攻撃に空母から発艦する日本軍機。元の写真が悪いせいも大きいと思うけど、これも相当おかしい。



とりあえず総評として、人工物については結構成功失敗が別れるのと、元の画像がちゃんと撮れているか否かも結果に響いてくる。シャープなアメリカの写真は成功例が多かったが、日本の写真はちょっと悲しい結果(そもそも使えるのが少ないけど)。

個人やプロによる彩色で、本当に鮮やかで美しい写真も多くあるが、それにはまだまだAIは達していない状況。しかし、だいたい数秒でまあまあの結果を返してくるのはさすが。個人でも十分使えます。

戦争写真だから人工物が多いけど、この研究だとむしろ風景写真が主らしく、その再現度はかなり高いのでググってそっち見てください(なげやり)。

2016年6月1日水曜日

第三者の善意と企業の社会的信用を用いて、人の安否をダシに宣伝する事の是非

6月1日0時。株式会社イード【6038】が運営するゲームニュースサイト「インサイド」に、編集部名義による一つの告知が載りました。現在は文面が変わっていますので、以下にキャッシュのスクリーンショットを貼ります。

【お知らせ】フリーライター内川たまき氏と連絡可能な方を探しています(※一部伏せ字加工)

自社サイトに掲載していたライターと連絡が取れなくなり、連絡取れる方を探しているという告知です。Twitterのインサイド公式アカウントでもツイートが行われ(現在は削除)、それには「【お知らせ】フリーライター内川たまき氏と連絡可能な方を探しています」という告知タイトルと、URLだけしか書かれていません。告知本文を読むと、そのライターが書いたとされる記事をプッシュする感がありありと見て取れ、この告知を訝しむ声も見られましたが、これが架空と断じれる情報は公式に一切ありませんでした。

ところがこれ、騒動が広がったためか、'''全くの架空であり、ライターは元から存在せず、宣伝目的の告知だった'''事をインサイド公式アカウントが明らかにし、謝罪しました。


【お詫び】先ほど公開いたしました「フリーライター内川たまき氏と連絡可能な方を探しています」は『(削除)』の企画記事として弊誌が独自に記事を作成したものです。一部の読者様に誤解を与え、ご不快に思われる表現がありましたことをお詫び申し上げます。
インサイド公式Twitterアカウント


企業の公式アカウントが連絡の取れない関係者の情報提供をSNSで求めた場合、消息不明という人の安否への心配と、社会的信用を持つ企業(それも上場)による情報発信なら、精査せずに情報を拡散してしまう事もあるでしょう。

記事のような形態をとる宣伝という手法は、紛らわしいという問題はありますが、広く行われている手法です。新聞でも見ますし、ネットでもあります。しかし、それには宣伝あるいは広告である事が明示されています。例えば、Yahoo!ニュースのスマホアプリでYahoo!ニュースを閲覧した場合、下のスクリーンショットのようにどれが広告か分かるようになっています。

Yahoo!ニュース上の広告。上から3番目が広告だと分かる

しかし、今回の例では公式サイト・SNSでの告知の双方で宣伝・架空である旨の表記無く、それを社会的信用のあるニュースサイトが人の安否をネタにして掲載し、第三者の善意を悪用したことが問題です。

SNSの普及により、個人による情報拡散の敷居も下がりましたが、行方不明者の情報というのはセンシティブなものです。たまに、SNSで行方不明者の情報提供を呼びかける個人アカウントを見かける事があります。しかし、個人アカウントが行方不明者の情報を求めていても、その個人と行方不明者の関係をSNS上で立証するのは困難です。そして、ストーカーが関係者を装って情報を集めている可能性もあり、慎重な人は信用が無い個人アカウントへの協力は控えるでしょう。

ところが、発信元やアカウントに社会的信用がある場合、話は違ってきます。告知を見た人は、発信者の社会的信用に応じて、その情報の信用性を見積もる事が出来るため、情報の拡散にリスクが無いと判断することになります。今回は、上場企業が運営するニュースサイトの編集部による告知です。おまけに、これを創作とする表示は一切ありません。社会的信用のある存在が、ネットで嘘か真か分からない情報を発信し始めたら、ネットでの情報の信頼性が揺らぐ恐れすらあります。

社会的信用を持つ企業が、ネットでこのような宣伝行為に及ぶこと。それ自体がネット情報への信頼性の毀損に繋がりかねない事だと思うのですが、いかがでしょうか?

今回、インサイドが社会的信用を投げ打ってまで偽告知を用いた宣伝に出たのか理解に苦しむ所があるのですが、ネット情報への信頼性に対する自爆テロでもあるので、少しは考えて欲しいものです。


※本記事では、インサイドが宣伝しようとした記事・ゲームの名称・リンクにつきましては、炎上商法の可能性を考え、一切を削除してあります。







怒りの余り、深夜に記事をアップしてしまいましたが、まだ艦これ春イベントのE7攻略中です。あと6時間でイベントが終了してしまいますが、これでIowa手に入らなかったら、インサイド絶対に許さん。

2016年5月28日土曜日

ガールズ&パンツァー劇場版 大洗市街戦 戦闘経過をGoogle Maps上で再現してみる

ついにガルパン映画のブルーレイが発売されましたね。

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(2016-05-27)
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ブルーレイ発売になっても、今月いっぱい各地で映画は上映されているのが色んな意味でおかしいですが、これで映画館に通わずに済むとなると超ハイコストパフォーマンスな映像ソフトと言えます。無限に観れるから実質タダである。

と思いきや、それでも我慢できなくて映画館行っちゃうんだ……。

で、ブルーレイで細部までガン見出来るようになったため、映画冒頭のエキシビションマッチ大洗市街戦をずっと繰り返し見てました。



大洗の町並みがよく再現されてあるらしいのだけど、自分が最後に大洗に行ったのは10年以上前の話なので、正直よくわからない。

とりあえず、Googleストリートビューその他で確認すればいいかと色々弄っていたら、西住みほ搭乗のⅣ号戦車の足どりを再現すれば、戦闘経過や各人の意図が分かるんじゃね?と思ったので、Google Maps上にプロットしてアニメ化してみたら、思いの外戦闘経過の理解に繋がった(個人の感想です)ので、公開してみる。


ガールズ&パンツァー劇場版 大洗市街戦 戦闘経過をGoogle Maps上で再現してみる
http://dragoner.heteml.jp/girlsundpanzer/

【大洗市街戦 各経過】


その1 大洗市街戦 戦闘経過1(大洗GC~県道2号線を西へ)

その2 大洗市街戦 戦闘経過2(掘割集会所周辺)

その3 大洗市街戦 戦闘経過3(大洗駅周辺)※5/28 23:00 ルートを微修正しました


その4 大洗市街戦 戦闘経過4(OY12通過)

その5 大洗市街戦 戦闘経過5(クルセーダー小隊と遭遇)

その6 大洗市街戦 戦闘経過6(クルセイダー小隊の追撃と形勢逆転)

その7 大洗市街戦 戦闘経過7(ローズヒップを追撃~肴屋本店)

その8 大洗市街戦 戦闘経過8(肴屋本店~大洗磯前神社)

その9 大洗市街戦 戦闘経過9(大洗磯前神社~大洗海水浴場)

その10 大洗市街戦 戦闘経過10(大洗公園~大洗水族館)


Bloggerには仕様上、Google Maps APIで作成したマップを貼ろうとすると、すんごい面倒いらしいので別に建てたサーバで動かしています。まだⅣ号だけだけど、将来的にはどうしよう。

とりあえず、みほがどう考えて行動し、その意図を読み合う他の面々が、ちょっとはビジュアル的に分かるようになったかなと思います。今まで出ている本だと、ビジュアル込みで戦闘経過の解析しているのが月刊戦車道くらいしか見ていないんですが、月刊戦車道ってバンダイ専用サイトでしか買えず、今は売ってないのがつらい。

もう一つの意図として、実際にほとんど知らない場所に行かずに、ネットだけでどこまで状況を推測出来るかという実験でもあったが、割りとこの目論見は達成出来たと思う。ハッキリ言えば、Googleストリートビューによるところが大きいが、幸いなことに大洗町はかなり細かい路地までGoogleカーが撮影していた。映画で描かれていた建物が更地になっていたりと、町の変化を感じさせる事柄も確認出来て楽しかった。

こうして実際にGoogle Mapsにプロットすると、ガルパン映画がかなりの計算の元に製作されていることが分かる。実在の都市を扱った映像作品では、地理的に無茶苦茶な構成が出てくるものはまま見られるが(新宿で戦っていた次の瞬間に湾岸にワープするとか)、ガルパン映画は実際の大洗町を基に、戦闘・演出で使えるポイントを的確に割り出した上で映像に反映しており、作中における大洗町の地理的な破綻が見られなかった。これが分かっただけでも、結構満足度が高かった。

先日行われた日本映画批評家大賞授賞式では、ガルパン映画が複数受賞しており、そこに大洗町長や商工会長も駆けつけるなど、町ぐるみの協力が窺える。
ガルパンはご当地アニメとしても頭抜けた成功作ではあるが、ここまで来るには関係者並々ならぬ苦労があっただろう。とりあえず、映画スタッフの努力の一旦が垣間見ることが出来たのは嬉しい。


なお、これのおかげで艦これイベントに手がつけられていません。イベント終了する31日までにIowa手に入らんかったら死ぬしかない。

【関連】


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