死んだ″アカハラ″
Twitterでこんなツイートが話題になっていました。ツイートされたのは、神戸大学大学院の木村幹教授。比較政治学者で、朝鮮半島・韓国の地域研究で著名な研究者ですが、ツイートの内容はご専門ではなく、大学の会議での一コマについてです。木村教授より許諾を頂きましたので、ツイートを引用してみましょう。今日の会議から。100%実話。
事務方「ご報告しないといけない事が」
研究科長「急になんだ」
事務「アカハラです」
参加者A「まじか」
参加者B「勘弁してくれ」
事務方「アカハラが死んでいました」
研究科長「アカハラで死んだ!」
事務方「いえ、建物の裏でアカハラが死んでいました」
一同「鳥かよ!」
出典:木村教授のツイートより(※引用者一部改行)
大学の会議で事務方から「アカハラが死んだ」と報告され、学内で教職員による嫌がらせ行為「アカデミック・ハラスメント」で死者が出たかと騒然となったものの、死んだのは"野鳥の"アカハラだったという話です。アカハラは赤い腹部が特徴で、夏に北日本で繁殖し、冬は西日本、中国、台湾で越冬する渡り鳥です。
"鳥"のアカハラ(撮影:ISAKA Yoji ( cory )) |
さて、ここまでなら勘違い系の笑い話です。ところが、事務方が会議で報告した以上、それなりに対処が必要になるかもしれない事態ではあるのです。木村教授は事務方からの説明として、ツイートを続けています。
渡り鳥が死んでいる時には、鳥インフル等の可能性があるので、ちゃんと保健所に届けないといけない、というお話しでした。m(_ _)m
出典:木村教授のツイート
因みに事務方の説明によれば、渡り鳥の場合は1羽死んでいるだけでも通報する必要があり、それ以外の鳥の場合にも10羽死んでいる場合には通報する必要があるそうです(詳しくは保健所にご確認ください)。
出典:木村教授のツイート
法的な義務は無いものの、環境省や各都道府県では死亡している野鳥を発見した場合、最寄りの市町村や都道府県に通報することを呼び掛けています。都道府県によっては、施設管理者に対して、敷地内で死亡野鳥を確認した場合に通報を呼び掛けているところもあります。
このように死亡野鳥の通報を呼び掛けている理由に、ツイートにもあるように鳥インフルエンザがあります。
猛威を振るう高病原性鳥インフルエンザウイルス
国内の複数個所で高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された昨年の11月21日以降、環境省の野鳥に対する調査監視の対応レベルは、最高のレベル3となっています。今シーズン、環境省が確認した野鳥への高病原性鳥インフルエンザウイルスの発生(飼育鳥類、糞便、水検体含む)は、2017年1月25日17:30現在、18道府県186件に達しています。各地で猛威を振るう鳥インフルエンザで、国内でも養鶏場で飼育されている鶏の殺処分が相次いでいますが、世界的にも約40か国で野鳥・家禽への感染が確認されており、世界保健機関(WHO)が警告している旨も報じられています。
[ジュネーブ 23日 ロイター]- 世界保健機関(WHO)は23日、野生の鳥や家禽(かきん)の鳥インフルエンザウイルスへの感染を注意深く観察し、人間に感染した場合は、迅速に報告するよう全ての加盟国に呼び掛けた。パンデミック(世界的大流行)の始まりを告げるシグナルである可能性があるという。
出典:鳥インフル、大流行のシグナルを見逃すな=WHO
しかし、なぜここまで鳥インフルエンザが警戒されているのでしょうか。もちろん、家禽としてのニワトリへの経済的なダメージも計り知れませんが、警戒されているのは人への感染です。
鳥インフルエンザウイルス自体は多くの水鳥が保菌しているものの、野鳥に対する病原性は低く、死に至る事例はそうありません。しかし、野鳥から人に飼われている家禽に感染するなど、感染を経るに従いウイルスが変異し、高い病原性を持つ高病原性鳥インフルエンザウイルスとなる場合があります。
鳥から人へ高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染は、鳥と生活環境が近いなどの濃密な接触がなければ起きないと言われており、さらに人から人に対しても容易に感染はしないと考えられています。しかし、「これまでの新型インフルエンザウイルスは、すべて鳥世界からヒト世界に侵入したウイルスから発生していると考えられています」(国立感染症研究所インフルエンザ・パンデミックQ&Aより)とされており、変異により新たな感染症として世界的大流行(パンデミック)を引き起こすことが懸念されています。
鳥インフルエンザウイルスの変異(環境省「高病原性鳥インフルエンザウイルスと野鳥について」より) |
そして、上図のように飼育下にある家禽から野鳥への感染も考えられ、そこから広範囲にウイルスを拡大する恐れもあるため、死亡野鳥の調査監視が重要になってくるのです。
死亡野鳥を見つけたら
では最初に戻りましょう。死亡野鳥を見つけても、それが必ずしも高病原性鳥インフルエンザウイルスによる死とは言えません。野鳥も生き物ですから、様々な理由で死にます。1羽の死亡野鳥を一市民が発見しても騒ぐ必要性は薄く、環境省に確認したところ、死亡野鳥の通報はあくまで呼び掛けで、法的な義務ではないようです。しかし、一度に複数の死亡野鳥、あるいは同じ場所で連続して野鳥を確認した場合は、通報が推奨されています。では、不審な死亡野鳥や複数の死亡野鳥を発見した場合はどうすればよいのでしょうか。環境省では死亡野鳥に近づかず、都道府県や市町村に通報することを呼びかけています。死亡野鳥の回収や消毒、ウイルスの検査も行政が行うので、発見した市民が野鳥になにかを行う必要はありません。そもそも、高病原性鳥インフルエンザウイルスによる死か否かに関わらず、他の病原体や寄生虫の危険もあるので、環境省では触らぬよう呼び掛けています。
環境省「死亡した野鳥を見つけたら」より |
すでに国内の畜産業に大きな影響を及ぼしている高病原性鳥インフルエンザウイルスですが、特に行政や畜産業界でない我々も、このように感染拡大に留意することが出てきているようです。
※なお、神戸大学で見つかったアカハラが、高病原性鳥インフルエンザウイルスによる死亡と確認された訳ではありませんので、そこは注意してください。
【鳥インフルエンザについての情報サイト】
環境省:高病原性鳥インフルエンザに関する情報農林水産省:鳥インフルエンザに関する情報
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構:高病原性鳥インフルエンザ