2013年10月30日水曜日

防衛技術シンポジウム2013 軽量戦闘車両システム

展示品は無い、ポスターセッションで紹介されていた研究ですが、なかなか興味深かったのでご紹介します。


軽量戦闘車両システムは、軽量コンパクトかつ多様な事態に対処する戦闘車両シリーズで、下記のような共通特徴があります。
  • 火砲型、耐爆型の2種
  • いずれも重量約15トンで、C-2輸送機に2両搭載可能。
  • インホイールモーター採用で、各タイヤが独立し動作。





火砲型に搭載される低反動砲は来年度から試験を行うようで、面白いのは、直接照準射撃・間接照準射撃の両方が可能ということで、ここらへん気になって色々聞いてみました。

まず、直接射撃/間接射撃の両方を行う火砲が今まで無かった理由について、運用面の問題か、技術的な問題かを尋ねた所、運用の問題からだろうという答えでした。直接照準と間接照準を分けた方が運用の効率が良かったのだろうと。しかし、輸送で制約があるような状況だと、2つの機能を1両にまとめているものも考えられるのではないか、ということでした。

肝心の口径は105ミリということで、機動戦闘車並で驚いたのですが、機動戦闘車の26トン8輪という構成に対し、軽量戦闘車両システムは15トン6輪とかなり重量、車体規模に開きがあります。この問題を解決するために、2重の駐退機(デュアルリコイル)の構成となっており、前方に従来型の駐退機、後方(というよりも基部)にも駐退機能を付けており、仰角を付けて発砲した場合、まず前方の駐退機が砲軸に沿った反動を受け止め、続いて後方・基部の駐退機が後方に下がることで、反動が足回りに行かないようにするそうです。後方に流す感じですね。




この反動を逃すシステムだと、砲塔が旋回出来ないんじゃないかと思って確認したら、360度旋回可能で、側方射撃も出来るとのことでした。砲塔そのものが動くかのようなニュアンスがありまして(この辺、ちょっと確認できませんでした)、この砲塔は完全な無人砲塔だそうです。オーバーヘッド砲塔の登場となるでしょうか。

火砲型の乗員が4名だったので、1名は装填手かと思っていたんですが、無人砲塔である以上、装填手は不要とのこと。この1名は、問題があった場合に対応する要員とのことでしたが、緊急時専属の乗員がいるとは考えにくかったので、この点はどうもよく分かりませんでした。研究品だから、なのかなあ。



つづいて、耐爆型です。こちらは兵員輸送車で、乗員は8名となっています。

いわゆる、V字型の底面をしており、地雷などの爆発の際、車体側面・上方に爆風を逃す仕組みになっていますが、この設計のためにインホイールモーターが採用されたのも大きいとのことです。

モーターが各駆動輪に別個で接続されているインホイールモーターは、機関からの動力伝達の為の軸やギアを必要とせず、設計の自由度が増します。車体底部を通る軸が一掃されたことで、V字型の底面にしやすくなったとのことでした。

また、インホイールモーターは、一つのタイヤが地雷でやられても、各タイヤにモーターがありますので、機動が継続できるという利点があります。地雷で軸ごとやられた場合、最悪動けなくなりますので、インホイールモーターは生存性向上でも利点があります。




これまでにシミュレーションを実施し、耐爆型が被爆時、乗員が天井に頭をぶつけて負傷する結果が出たため、天井高を上げたなどの改良が行われました。実車は平成27年度に制作され、試験されるとのことです。

軽量戦闘車両システムは、直接射撃と間接射撃を両方こなせるという点で、なかなか興味深い車両です。将来の戦闘車両開発に資する点も大きいと思うので、良い成果が残せるといいですね。


【関連書籍】




日本じゃなくて、ドイツ連邦軍の戦車開発ですが、軽量戦闘車両システムと同じ砲塔の実装法である、頭上砲について丸々1章割かれています。




戦車本ですが、これは歴史・機構・運用・現代の状況がコンパクトにまとまっており、戦闘車両そのものへの理解を深める良書だと思います。

防衛技術シンポジウム2013 RWSまとめ

防衛技術シンポジウム2013で展示されていたRWSについて、得られた情報、聞いた話をまとめてみました。


RWS外見

【陸幕からの要求事項】

・5.56mm、7.62mm、12.7mm機関銃、40mmてき弾銃を1つのプラットフォームで撃てること。

・小型の車両にも搭載可能なこと。


【要目】

・重量160kg(銃、弾薬未搭載で)

・5.56mm、7.62mm、12.7mm機関銃を搭載するプラットフォームと、40mmてき弾搭載のプラットフォームがある。機関銃とてき弾銃は構造が違いすぎて、共通プラットフォームでは無理だった。

・展示品は機関銃用。

・搭載センサーは光学、赤外線、レーザー測距儀。


【機能】

・視察モードは高視野角、射撃モードで高倍率ズーム。

・「自動追尾」では、指定されたターゲットに照準を合わせ続ける事が可能。マン・ターゲット、ハード・ターゲット双方で可能。

・機関銃はボルトの動作がRWSで可能(下写真の中央部分が動く)。40mmてき弾銃は人が操作する必要がある。

・揺動制御により、不整地走行中でも安定した射撃が可能。


写真中央部の物体がボルトを下げる

【操作】


・軽装甲車では後部座席に操作盤を搭載、操作する。

・RWSと操作盤間は有線操作。将来的には無線も検討(UGVへの搭載など)。

・表示部に物理ボタンは少なく、タッチパネルで操作。

・照準はジョイスティックで行う。

・ジョイスティックは精密操作に向かないが、車体の揺れなども考慮した結果採用。

・特に操作系に関して、陸幕より要求は無い。


表示盤

【その他】

・小型の車両にも積める事が要求だったので、軽装甲機動車で実験。他の装甲車両にも搭載可能。

・軽装甲機動車に搭載時、重量200キロ以上のモノを最上部に載せることについては、重心移動は5センチ程度で済むとのこと。

・陸幕からの要求で、最大で12.7mm機関銃を撃てるようにするために大型化したが、より小さい口径専用にすれば、小型軽量化は可能。

・陸幕から開発移行への要求はまだ無いが、装輪装甲車(改)の開発が来年度の予算要求でなされたので、それに合わせてRWS開発も要求があるかもしれない。96式40mmてき弾銃は、96式装輪装甲車とセットでの開発だったので、RWSもそうなるかもしれない。



2013年10月29日火曜日

防衛技術シンポジウム2013 全天候対応駆動システムの研究

この研究は、ヘリ全般への汎用性に優れた研究で、中々期待できるのではないかと感じました。
ちなみに、「全天候」と言いますが、対応しているのは強風だけで(もっとも悪天候は風強いですが)、「全天候」が付いたのは予算獲得上の措置だそうですw


発表要旨(PDF):全天候対応駆動システムの研究



ヘリの主要駆動系統(MDC)の研究

MDC概要
・エンジンの動力をロータ、補機に分配する
・単なるギアボックスだけではなく、ロータと胴体をつなぎ飛行荷重を支える役割を持つ
・ブレードの3軸運動により、操縦を実現
・運用自重の10%以上を占める


施策


揺動制御システム
・ロータ面傾斜を光学センサで計測し、制御することで高い安定性と操縦応答性を両立。
・従来:ローター面が変化→胴体運動のフィードバック
・揺動制御:ローター面が変化→ローター面のフィードバックによる迅速な振動制御(胴体運動分のロスが無い)

最適ロータ・ハブ
・複合材製ロータ・ハブにより、軽量化、長寿命化及びヒンジオフセットの最適化を図る。

スプリット・トルク型トランスミッション
・ギアの薄型化等によりトランスミッションの軽量化、薄型化及び部品点数の削減を図る。

内蔵型コントロール・システム
・コントロール・ロッドを大口径マスト内部に配置することでコンパクト化及び空気抵抗低減を図る。

複合材製大口径マスト
・大口径中空のマストにより、コントロール・ロッドを内蔵するとともにロータ・ハブに効率的な動力伝達を図る

以上の5施策ですが、発表の時間のかなりが揺動制御と最適ロータ・ハブに割かれていたと思います。
最適ロータハブ以降の説明部分は、要旨からのコピペです……。
ちょっと、自分には説明できるだけのヘリ構造知識に自信がないです。


この研究により、OH-1への適用を想定した場合、ローター位置が10%下がり、空気抵抗の減少につながったとの事です。
なお、別に現実のOH-1にこの技術を適用する、という話はありません。念のため。




揺動制御については、シミュレーターを陸自パイロットに操縦してもらい、15ktの風が吹く中でのホバリングを行ったところ(映像上映)、
従来型は大きく揺れていたのに対し、揺動制御システム搭載型は「あまり風が吹いていないようだ」とパイロットがコメントするほど安定していたそうです。
また、操縦応答性も向上し、レスポンス良くコースを飛行するなど(シミュレータ上ですが)のデモを見せています。

防衛技術シンポジウム 先進技術実証機&将来戦闘機機体構想

既に以前のシンポジウムでも展示されていた先進技術実証機のモデルですが、今回は研究発表にて一歩進んで将来戦闘機機体についての発表がありました。


写真撮影禁止だったので、発表要旨をマトメます。

将来戦闘機機体構想研究
→将来戦闘機(F-2後継、という話も)の目標設定に資する研究
戦術、戦域のシミュレーションを3Dデジタル・モックアップに反映。

従来戦闘:自分でロックオンして戦う。
将来戦闘:専用データリンクで射撃に必要なデータ共有。だれでも撃てる。

平成23年度に制作したデジタル・モックアップ(23MDU)
・先進技術実証機を基に作成。
・ミサイル並列(内装)、前方ステルス性
・機体形状は先進技術実証機とF-22の間の子のような感じ。直線的な印象を与える。

将来アビオニクスシステム(シミュレーション環境)を用いて、23MDUと従来戦闘機・ステルス戦闘機の戦闘をシミュレート。

結果1:従来機に対しては23MDU圧勝。従来戦闘機のセンサーでは、23MDUを探知追尾が困難。

結果2:ステルス戦闘機に対しては23MDUと互角。先進統合センサーによって、ステルス機を補足可能。


24MDU
・23MDUの結果を基に、運用者の意見・改善事項を反映。
・側方ステルス性、ミサイル縦列内装(搭載弾数増加)
・機体形状はYF-23のようななだらかな曲線形状。


分析結果
・センサ能力の向上:先進統合センサー
・攻撃能力:
・・ミサイル搭載数增加
・・統合火器管制
・・ミサイル誘導の全球覆域指定送信
・防御能力
・・上昇、加速、旋回能力の向上
・・ステルスとのトレードオフ

24MDUの結果を基に、25MDUに反映。

研究結果を航空自衛隊に提示し、将来戦闘機の仕様決定の資とする。

従来機の想定:特になし。
ステルス戦闘機:T-50、J-20といった第五世代戦闘機の公表されているデータからシミュレート。

防衛技術シンポジウム2013 IED対処システム

IED(即席爆弾)対処システム

ミリ波レーダー、マイクロ波レーダー、レーザーの複合システム。
展示してある四角い箱は、レーザー発振・受光部。

マイクロ波レーダー:地中に埋設されたIEDを捜索。

ミリ波レーダー:地表に置かれたIEDを捜索。

レーザー:ミリ波レーダーが発見したオブジェクトを、より解像度の高いレーザーで確認。
          
レーザーで確認したオブジェクトの形状をデータベースに照合し、IEDか判断。

マイクロ波・ミリ波で広範囲を確認し、地表に怪しいのがあったらレーザーがピンポイントで走査するそうです。


防衛技術シンポジウム2013 水中グライダー

水中グライダー

推進器を持たず、水の吸入・排出により浮力を調整してグライダーのように潜行する。

機械的な動作は少ないので、静粛性に優れる。

この形状が最も水中での滑空(?)性能が良い。遠くまで届く。

この形状ならば、センサ類を前に置ける。魚雷型では側面になってしまう。

しかし、この形状は地上・船上での運搬・取り扱いが面倒。

純粋に潜行するだけなら、月単位で運用が可能。

センサー類を搭載した場合、日単位。

上面に柔軟性のある太陽電池を取り付け、水深数センチのところまで浮上して充電する実験を今後行う。

速度は遅いが、例えば海流に定期的に乗せた場合、列島線を監視できる。

モデルを2機作成。最初は合成木材、2機目はFRP。

さらに大型のモデルを今後駿河湾で実証実験。







【写真速報】防衛技術シンポジウム2013 RWS関連

RWS聞いたことマトメ。

M2重機関銃、74式7.62mm車載機関銃、5.56mm機関銃、40mm自動擲弾銃銃を搭載可能。

センサーは光学、赤外線、レーザー測距儀。

重量は160キロ(銃・弾薬除く)

搭載車両は軽装甲機動車。他の車両は改造すれば搭載できる。

特に機動戦闘車に載せることを想定はしていない。

安定化装置を搭載。(補正軸について「4軸ですか?」と聞いたら、「そのくらい」という答え)

映像で動揺中の台座からの安定化デモ。銃身はかなり安定してました。

※【追加】重要なの入れ忘れてました

このRWSで想定する最大の火器はM2重機関銃。台のゴツさから機関砲も載せるか確認したんですが、
このRWSではM2が最大として作っているそうです。













防衛技術シンポジウム2013【写真速報】




写真は随時追加します

2013年10月26日土曜日

秘密保護法案、同じ穴のムジナが反対したって、誰も信用しないんじゃね?

トップ・シークレット・居酒屋

特定秘密保護法案を巡る日本政府の動きが活発なこの頃ですが、ちょうど先日、 「トップ・シークレット・アメリカ 最高機密に覆われる国家」という本が翻訳・出版されました。ピューリッツア―賞を2回受賞したワシントン・ポストのベテラン記者と、元陸軍情報局の分析官による共著で、ワシントン・ポスト紙での連載記事が元になっています。

本書では、911以降のアメリカの対テロ戦争で秘密情報が飛躍的に増大、細分化し、秘密によって情報が組織間で共有されず、アメリカ政府の決定や軍の作戦等に深刻な悪影響を与えている現実が明らかにされています。そして、それらの秘密情報をチェックする議会情報委員会や政府機関は、増加する秘密情報に追いつけず、その全貌は「神のみぞ知る」とまで表現されています。

このようなアメリカの秘密情報の扱いの問題は、秘密とする情報の放漫な拡大が却って国家の利益を損ない、一部の機関・情報関連企業による利権になっている点にあります。私は日本にも特定秘密保護は必要とする立場ですが、日本でも特定秘密保護法により、このような問題が生じるのではないか――と危機感を抱かせるに十分なインパクトが本書にはありました。ところが、マスコミの危機意識は別のところにあるようです。

この法案に反対するマスコミに朝日新聞がありますが、同じく法案に反対する弁護士と共に、法案の問題点として記事に挙げた例が、あまりにも的外れではないかと驚きました。


大阪府東大阪市の町工場の専務Aさんは、大学時代の友人と久しぶりに居酒屋で飲んでいた。互いの仕事の話題になり、友人がAさんに尋ねた。

「確か、お前の所は特殊素材作ってるんだよな」

「ああ、原発に使う世界最高強度の素材だよ」

「そんなすごいもん、どうやって作るんだ?」

Aさんは素材の情報が原発テロ防止に関わる特定秘密だと社長から聞いていたが、こんな専門的な話を友人が誰かに言うことはないと思い、製法の一端を話した。ところが――。

Aさんは、業務で知り得た特定秘密を漏らしたとして警察に逮捕された。最長で10年の懲役。友人も特定秘密と知りながら聞き出そうとしたと疑われ、長時間、事情を聴かれた。実はあの居酒屋で、非番の警察官が近くの席で飲んでいた。《原発? テロ防止に関わる情報かも》。ICレコーダーで会話を録音し、捜査していたのだ。


この事例、業務上知り得た情報を関係者以外に、それも他者の目がある所で話すという、企業の情報保全でやっちゃいけない典型例を簡単に破った専務の責任に帰すべき問題であり、法案の問題以前の話です。情報処理推進機構が公開している「情報漏えい対策のしおり」でも、『業務上知り得た情報を、許可なく、公言しない』と注意されているくらい、社会人にとって基礎的かつ常識的な話です。

このような単純かつ論外な事例で、法案の危険を煽る姿勢は如何なものでしょうか。この法案の問題は他にもあるのに、居酒屋で口が滑った程度の単純な話を取り上げることで、却って問題を矮小化しているのではないでしょうか。


権力と同じ不正を働く「権力の監視者」

話が少し変わります。私が大学院にいた時の話です。
メディア論について講義を担当していた著名なジャーナリストでもある教授が、講義の冒頭で報道メディアの使命とは何かを語りました。それによると、報道の使命とは「権力の監視」であり、民主主義の担い手であるそうです。この教授の言葉について、確かにそうだがしかし――と、ずっと喉の奥で引っかかる違和感が拭えないでいました。

この違和感の正体について、最近の秘密保護法を巡る報道の中で、西山事件を例に上げるメディアやジャーナリストが相当数おり、彼らの発言を見ていくうちに、段々分かってくるようになってきました。では、西山事件についての記事や、著名ジャーナリストの江川紹子氏の発言を見てみましょう。


特定秘密保護法案の国会審議を担当する森雅子少子化担当相は22日の記者会見で、沖縄返還に伴う密約を報じて記者が逮捕された西山事件は同法の処罰対象になるとの認識を示した。これに対し、密約を報じた元毎日新聞記者、西山太吉氏は「森担当相の発言は全体的な捉え方をしておらず、的外れだ」と指摘した。







西山事件は毎日新聞の西山記者が、沖縄返還で土地返還関連費を巡る日本政府とアメリカの密約をスクープした事件ですが、その情報の入手に問題がありました。西山記者は外務省の女性事務官を酒に酔わせて泥酔状態にした上で肉体関係を結び、その関係から女性事務官から情報を引き出していました。

この手の男女の関係を用いた情報収集手段、古くから各国の情報機関が行っている、最も汚い類の情報活動と同じなんですが、それは……。

もし、報道機関が「知る権利」を盾に、西山事件のようなマキャベリズム的とも言うべき、手段を問わない情報収集を肯定するならば、アメリカの情報機関がやっているような同様の情報収集を、報道が否定する事って出来るんでしょうか。当時の日本政府が、西山事件の本質を密約問題から報道倫理問題に誘導しようとしたのは事実であり、政府の密約は国民への重大な裏切り行為であることには変わりません。しかし、人の尊厳を踏みにじる取材活動を正当化する人々が、同じ口で人の尊厳を踏みにじる情報収集を行う政府を批判するのは、どういうことなんでしょうか。メディアの「知る権利」の為にという抗弁と、政府の「テロ防止と国民の安全」の為という抗弁に、本質的な差異は少なくとも私には見いだせません。

権力の監視者、民主主義の担い手を自称するメディアやジャーナリストが、道義的に問題のある手法を正当化するのであるならば、メディアの行為を監視するのは誰になるのでしょうか。先日、週刊朝日編集長が「重大な就業規則違反」を理由に更迭される事態がありましたが、その理由について朝日新聞グループは「プライバシーに関わる」事として明らかにしていません。週刊誌などの報道によれば、女性契約社員に対して、正社員にする事と引き換えに執拗に関係を要求した等のパワハラ・セクハラ行為によるものだそうですが、こういう都合の悪い事を、権力の監視者様がプライバシー(もっと言えば、個人情報保護法)を盾に公開しないのは如何なものでしょうかと、社会の底辺の1ブロガーとして思うわけです。



信頼関係破壊を良しとする日本のメディア

最初の話に戻りますが、「トップ・シークレット・アメリカ」において、匿名証言者は数多く登場し、自分の行動が内部規則に違反することを理解した上で取材に応じています。匿名証言者自身もアメリカの秘密情報政策に危機感を抱き、問題を広く知ってほしいと願っている事から、あえて危険を冒して取材に応じているのです。その背景に窺い知れるのは、取材対象者と記者間の強い信頼関係ですが、取材対象を踏みにじる事を肯定する日本のメディアやジャーナリストとの間に、このような信頼関係は生まれるんでしょうか。

また、「トップ・シークレット・アメリカ」では、新聞連載、出版した本のみならず、膨大なデータがインターネットで無料で閲覧可能で、広く問題を知らしめる為の活動であることが伺われます。

ワシントン・ポスト: http://projects.washingtonpost.com/top-secret-america/

翻って日本はどうでしょうか。先に挙げた朝日新聞の記事中では、連載[http://digital.asahi.com/articles/list/prometheus.html 「プロメテウスの罠」]での取材事例を挙げて、秘密保護法が成立するとこんな取材ができなくなってしまうと書いているんですが、朝日新聞が総力を挙げた特集記事で、「米軍は4号機が危ないと考えている」とか「大統領は心配している」レベルの証言しか取れていない事実は、ものっそい寂しい物があります。日本の記者は、取材対象とこの程度の信頼関係しか結べないんだなと思うと、暗澹たる思いがあります。

キレイ事も大事だし必要だけどさ、もう少し鏡見てから言おうな? と思います。



【関連文献】

トップ・シークレット・アメリカ、アメリカの秘密保護の実態や、日本の秘密保護法を考える上でも、なかなか刺激に富む本です。






ところで、Yahoo!ニュース個人のオーサー一覧なんですが、


なんか、江川紹子氏には申し訳ない気持ちで一杯です。

2013年10月19日土曜日

戦車に代わり得るモノは何か? 機甲戦理論における戦車と将来戦

いやねえ、この話題、最近は避けてきたつもりだったんだけど、向こうから名指しされたらねえ。

このブログで、陸戦関係の記事を書くと、JSF氏やdragoner氏を始めとした、戦車大好き派の方々から多数のご意見を頂ける状態でした。

その主な理由は、私が戦車の削減を主張していたからですが、私が機動戦闘車を推していたからでもあります。


久遠数多氏、「陸戦関係の記事を書くと、ご意見頂ける状態でした」とか言うていますが、そもそもの発端は氏が「H25概算要求-その5_10式戦車はせいぜい3両でOK」みたいなエントリを繰り返した挙句、「戦車増強論者に提示する5つの命題: 数多久遠のブログ」で、「反論ある方はぜひ答えていただきたい」とドヤ顔が見て取れる事仰ったので、戦車増強論者じゃないけど初めてエントリに付き合ってあげただけなんですが、そういう身から出た錆的な経緯はさっぱり失念なさっているようです。

私は戦車の定数削減に反対していますが、少なくとも増強を主張してはいません。ところが、なんか増強論者の様にカテゴライズされちゃってるので、「戦車は3両で充分」と小隊編成未満の年間調達数(1個連隊編成に20年もかかる)を提示してきた氏に対して、もう戦車不要論者と言っていいなとカテゴライズさせて頂いた訳です。

で、最近。ツイッター界隈が妙に戦車不要論で賑やかになってきた。ああ、またあの人やらかしたのかあ、と思いつつあんま関わらないようにしようかなー、と思っていたのですが……


わあ、軍事評論家の江藤巌先生もドン引きしちゃってるナリ……。久遠数多氏のあまりの戦闘的ファッションに、皆さんドン引きになっていたので、相手しなきゃいけないのかなあ、とウネウネ動き始めた次第です。

さて、ツイッターで局所的に話題騒然だった氏のエントリをじっくり確認すると、話題の中心はエントリの題でもある、「戦車に引導を渡す機動戦闘車」でした。

機動戦闘車
先日公開されたばかりの機動戦闘車ですが、氏の言う通りに戦車に代わり、引導を渡す存在になるのでしょうか?

ここではさんざ繰り返された「●●における戦闘では~」というミクロな視点ではなく、今回は機甲戦理論が歴史的にどう形成された過程を振り返り、戦車に求められているものは何だったのかを明らかにしたいと思います。その上で、機動戦闘車等の装輪装甲車で代替が可能なのかを考えていくとともに、将来戦理論においてどのような位置づけを戦車は担うのかも触れたいと思いますよ。



機動が出来て、ずっと機動出来たらいいのに……

海空戦と異なり、陸戦での最小単位にして最も重要、かつ脆弱なのは人間です。陸戦の歴史は、人間という極めて制約の多い”兵器”の限界を、いかに超えるかの試行錯誤でした。その成果として生まれたのが、人間以上の機動を有する騎兵でした。

ところが、第一次大戦に至り、鉄条網と機関銃に騎兵は阻まれ、機動を完全に封じてしまう戦場が生起してしまった。機動が失われ、最も脆弱な兵器である人間が磨り潰し合う戦場が生まれた。この一次大戦の戦訓を踏まえ、人間が機動できない環境下でも機動し、敵戦力そのものより、指揮・統制を麻痺させる機甲戦理論が生まれました。その主たる先駆者はドイツとソ連です。ドイツの電撃戦により、一次大戦の教訓を火力主義として結実していたフランスは頼みのマジノ要塞線をさらりとスルーされ、1ヶ月で降伏に至ります。

機甲戦にはこのような歴史があるわけですが、戦車に替わって装甲車を使うという主張は、未だにこの歴史的経緯で、自説がどのような位置にあり、どの流れを汲むのかを明らかにしていません。

機甲戦理論は現在も形を変え、米海兵隊の機略戦等に発展しています。現代世界で最も機動を重視している軍隊である米海兵隊は空中機動化でも先端を走り、長い年月をかけオスプレイを開発しました。他にも機動性に優れた水陸両用車、LAV-25のような装輪戦闘車両も保有しています。ところが、こんなに機動重視の海兵隊であってさえ、未だに戦車戦力を手放していない。

なぜかって、そりゃ代替できるものがないからです。

ドイツ機甲部隊の生みの親、グデーリアンは「電撃戦」でこう書いています。

装甲兵器による攻撃によって従来よりも機動性が高まり最初の突破が成功した暁に、なおその機動を継続することが可能なこと、この点こそ”奇襲戦法”の必須条件だと信じているのである。


「機動を継続すること」、ここが戦車の最大の存在意義です。敵の抵抗に抗する装甲、敵の抵抗を粉砕する砲火力、いずれも欠けては機動は敵に阻まれ、継続できないのです。オスプレイ、水陸両用車、装輪戦闘車両、いずれも高い機動力を持ちますが、最初の突破口を開けたとして、その勢いを継続できるでしょうか。米海兵隊が戦車等の重戦力を保持しているのは、機動継続の意志があるからです。そして、海兵隊の後には、更に重武装の米陸軍がやってきます。戦車とともに。

つまり、戦車を理論的に代替できる存在は、未だに見つかっていないのです。

もし、小口径火砲に耐える程度の装甲の機動戦闘車によって、戦車を代替できると考えているのなら、それは根拠に欠けた話だと思います。もし代替が可能ならば、新たな理論を根拠付きで主張して頂きたいと思いますが、たちの悪いことに、久遠数多氏は戦車は機動戦闘車に代替されると主張する節において、一切の根拠を示していません。

しかしながら、新大綱の次の大綱が発表される頃には、90式の退役を見越した装備調達になるはずで、その時には、ロシアが北海道への侵攻の構えでも見せない限り、機動戦闘車は、90式に替わる装備として位置づけられるでしょう。

現在は、まだ試作車が公開されただけの状態で、陸自の中でも、機動戦闘車の評価が出来ている訳ではありませんから、まだまだ紆余曲折はあるはずですが、開発が順調に進めば、機動戦闘車は、戦車に引導を渡す車両となるはずです。


何故、90式に替わる装備に位置づけられるのか、どうやって戦車に引導を渡すのか、HOWの点が完全に抜けきっており、全く主張として成立していないのです。



俺はもう、このマシン(戦車)には頼らない。未来は保証されていないけれど

現代における戦車が、非常に高価なユニットであるのは間違いありません。優先度も、その他の兵器と比べ、高いものではありません。しかし、他の兵器で代替できる、不必要であるというのなら、その根拠を現代戦における理論的枠組と共に提示の上、ご説明頂きたいものです。

なお、将来戦における戦車の役割については、将来の戦闘様相として議論が進んでいるネットワーク中心の戦い(NCW)においても説明ができます。プラットフォーム中心の戦い(PCW)の頂点として生まれたイージス艦が、海戦におけるNCWの中核として機能する事実がまさにそれです。将来の陸戦様相は、現代の海戦の様相を呈すると予想されており、将来戦においても、生存性の高い戦車は生き残る可能性が高いと言えます。


最後に。

戦車不要論に対して反論を行う人に対し、戦車絶対主義かのような扱いをする意見がありますが、私は明確にこれを否定します。全ての兵科・職種には時代的意味があり、時代的必然から淘汰或いは変化していきました。私は現状の維持と漸進的発展を願っているのであり、革命ではありません。歴史的に形成された1つの主要な理論に対して、唐突にそれが不要であると主張する人は、メインストリームの理論に反発するエセ科学やホメオパシーと何が違うのでしょうか。過去の戦車不要論者達が統一的理論を形成せず、その場限りの説明に終始してきたことは、まさにエセ科学のそれと同じでしょう。


武器マニアの方々は、技本開発官の言葉で舞い上がってますが、日本の防衛を効率的に行うためには、機動戦闘車が戦車に引導を渡してくれることが適切でしょう。


分かったから、その「効率的防衛」とやらのフレームを、現状議論されている将来戦理論との関連性・ケーススタディ・先行研究込みで示して下さい。まずはそれから。




【関連書籍】

戦車とミサイルの比較について書こうとしたが、長くなるので辞めた。古いデータではあるが、ジェイムズ・F・ダニガンは「新・戦争のテクノロジー」において、戦車とミサイルの時間あたり投射量を比較し、戦車の優位性を示している。この点において、現代もミサイルの次発装填が人力・あるいは限界のある多連装ランチャ式に頼っている以上、状況は変わらない。



また、機甲戦理論の成果、電撃戦については、文中であげたハインツ・グデーリアンの回想録「電撃戦」を参照。



ただし、実際の電撃戦で見られた混乱と破綻の予兆についての批判的検討として、「電撃戦という幻」をチェックしておくとなお良いと思います。理論と実際の違いは、どの業界にも……。



手軽に機甲戦理論の歴史的形成過程について知りたいなら、「機甲戦の理論と歴史 (ストラテジー選書)」が良いと思います。オヌヌメ。



また、現代の米海兵隊のドクトリンについては、「アメリカ海兵隊のドクトリン」を参考に。基本は電撃戦だと分かります。





深夜に狂って書いたとしか思えネぇノリだぜェ!

2013年10月18日金曜日

機動戦闘車、岩崎陸将式辞全文

なんか、機動戦闘車について、この人全然人の話聴いてねえんじゃね? という人見かけたので、YouTubeに上げた動画の岩崎陸将スピーチをテキストとして載せておきます。





司会:
機動戦闘車、入場

防衛省技術研究本部、技術開発官、陸上担当
陸将、岩崎親裕より挨拶をさせていただきます。


岩崎陸将:
おはようございます。
技術研究本部技術開発官陸上担当の岩崎であります。

本日は機動戦闘車試作車両の完成に伴う報道公開を計画致しましたところ、防衛記者会、防衛省市ヶ谷記者クラブ、また防衛省関係各社をはじめ、多数ご参加頂きましたことに、まずもって御礼申し上げます。

機動戦闘車は、平成20年度から4段階に分けて試作を実施して参りましたところ、先月末、最終形態の試作車両が完成し、本日の報道公開に至った次第であります。

この報道公開実施にあたり、開発官として一言ご挨拶を申し上げます。

さて、技術研究本部は、昭和27年に保安庁技術研究所として発足以来、現在は防衛省技術研究本部として、防衛技術のフロントランナーたるべく、陸海空自衛隊が使用する広範な装備品等について一元的に研究開発を行っている次第であります。

我が国の戦闘車両を顧みますと、61式戦車を皮切りに、74式戦車、87式偵察警戒車、89式装甲戦闘車、90式戦車、96式装輪装甲車、10式戦車などが開発されてきましたが、

このたび公開致します機動戦闘車は、105ミリ級の砲を搭載した装輪戦闘車両としては、我が国初のものとなり、陸上装備の中で重要な役割を果たすものと期待しております。

この機動戦闘車は戦闘部隊に装備し、多様な事態への対処に、優れた機動力をもって速やかに展開して、敵装甲戦闘車両等を撃破するために開発されました。

このような開発目的の下、大口径火砲の低反動化技術、車両の安定化技術、高剛性・耐弾性を確保した小型軽量車両技術、及び装輪車両に適合した射撃統制機能の適正化技術、の主要な技術的課題を段階的に克服し、この度の試作車両完成に漕ぎ着ける事ができました。

現時点におきまして、この機動戦闘車が世界において最高水準の105ミリ級の砲を搭載した装輪戦闘車両であると自負しております。

機動戦闘車の開発は、本日を1つの節目とするものでありますが、引き続き厳格な試験評価を行うと共に、得られました成果を今後の主要装備の技術開発等に反映させ、不断の進化・発展を図っていく所存であります。

あらためて機動戦闘車の開発成就を期待するものであります。

最後に、本日の報道公開へ多数の皆様がご参加頂きました事に、あらためて感謝致しまして挨拶と致します。

平成25年10月9日、防衛省技術研究本部、技術開発官、陸上担当、陸将岩崎親裕。

どうもありがとうございました。
後でゆっくりご見学下さい。
以上

機動戦闘車公開の動画に字幕を付けました

YouTubeにアップした機動戦闘車公開式典の動画に字幕を付けました。




開発官(陸上担当)の岩崎陸将の式辞を、日本語で書き起こししています。

が、YouTubeは字幕翻訳機能がありますので、こんな風に表示できます。




これで中国の憤青からマニアまで、動画を楽しめる人が増えるよ! やったねたえちゃん!

2013年10月17日木曜日

武器輸出問題は完成品の輸出より、今も行われている汎用品に目を向けた方がいいんじゃね?

先日、こんなニュースがありました。

川崎重工業が製造する海上自衛隊艦船用エンジン部品を、英海軍艦船向けに提供することを日本政府が認めたことが分かった。政府関係者が14日、明らかにした。同部品は民生用としても広く使用されていることから、政府は紛争当事国やその恐れのある国への兵器売却を禁じた武器輸出三原則には抵触しないと判断した。



政府判断により、英国海軍に川崎重工が製造するエンジン部品を供給を、武器輸出三原則に抵触しないとして許可したという報道です。その判断の鍵となったのが、当該の部品が民生用としても広く使われている部品であることでした。

ここで、武器輸出三原則とは何かを整理してみましょう。

武器輸出三原則は1967年に佐藤栄作首相が表明したもので、次の3点の場合に武器輸出は認められないとした規定のことです。

  1. 共産圏諸国向けの場合
  2. 国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
  3. 国際紛争当事国又はそのおそれのある国向けの場合

この3条件を厳格に適用した場合でも、かなりの国(西側諸国はほぼOK)への武器輸出が可能と解釈できますが、1976年に三木武夫首相が三原則について追加で以下の政府方針を表明しています。

  • 三原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない。
  • 三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
  • 武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。

現在言われている「武器輸出三原則」は佐藤首相が示した原則より、三木首相が示した方針の方に沿った運用が今もなされており、経済産業大臣の許可を必要とする事で、いくつかの例外(米国向け技術供与、ミサイル防衛等)を除いて武器輸出は行われてきませんでした。

最近は武器輸出三原則を巡って、国際共同開発への参画や航空宇宙産業の振興などの観点から、三原則を緩和しようという動きが出ています。2011年の野田内閣で三原則の一部が緩和され、武器の国際共同開発に道が開かれました。これにより、航空自衛隊の次期戦闘機に内定しているF-35の部品製造に日本企業が参加するため、F-35の部品輸出を三原則の例外にする事や、海上自衛隊の救難飛行艇US-2のインド向け輸出の検討、航空自衛隊のC-2輸送機の民間型輸出などの構想が浮上しています。


民間型のインドへの輸出が検討されている、海上自衛隊の救難飛行艇US-2

しかし、武器輸出の問題は、政府によるコントロールがしやすい上記のような完成品よりも、コントロールが難しい製品にあると言えます。例えば、武器とそうでないものの区別が難しい輸出品がそれです。自動車がその代表で、チャド内戦は政府軍と反政府軍双方がトヨタ製ピックアップトラックに武装を施して戦闘をしている様子が報道されたために「トヨタ戦争」と呼ばれていましたし、アルカイダの指導者だったウサマ・ビン・ラディンはランドクルーザーで移動し、それを捜索する側の米軍もハイラックスの北米仕様であるトヨタ・タコマを使っていました。これらの乗用車やトラックは、軍用と民間用に差がほぼ無く、現在も世界各国で日本製自動車が軍用として使われています。紛争地への小型武器輸出が国際的な問題になっていますが、しばしば紛争地で主力兵器として日本製車両が使われている事実は、あまり好ましいことではありません。




このように、元々武器との区別が曖昧だった製品もある中、近年はさらに問題が複雑化しています。それは、武器開発分野において、標準化・汎用化された民生の汎用品を用いてコスト低減を行う、COTS(Commercial Off The Shelf:商用オフザシェルフ)と呼ばれる開発手法が広まったことです。従来、武器開発では信頼性等の問題から専用部品が多く使われていたのですが、武器開発へのCOTSの普及により、全く武器を連想させないような民生品でも、武器部品として使われる恐れが出て来ました。これに絡んで、先日はこんな報道もありました。

トルコが中国の「紅旗9型(HQ-9)」長距離地対空ミサイル(輸出型FD2000)の購入を決定したというニュースに世界中が注目する中、ネット上でその画像を見た海外のネットユーザーから「HQ-9には、日本製のAZ8112型リミットスイッチが採用されている」との指摘が上がっている。29日付で環球網が伝えた。
出典:中国の「HQ-9」ミサイルに日本製の電子部品、海外ユーザーが指摘―中国メディア

中国製の地対空ミサイルに日本製の電子部品が使われていたという、中国メディアの報道です。ロケット・ミサイルにも使われる部品のうち、経済産業省が定める仕様にあるものは輸出貿易管理令で大臣の許可が必要になりますが、汎用品である場合はそれに引っかからない物も多くあると考えられます。しかし、武器輸出三原則に照らしても、共産圏諸国の中国(今もそうかは議論があるでしょうが)で日本製品が武器部品として使われる事態は、好ましくないものです。

ここで問題になったリミットスイッチを含め、スイッチ・センサーはあらゆる機械製品に使われている部品であると同時に、日本メーカーはこの分野で大きな市場シェアを持っています。他にも、日本メーカーが大きなシェアを持つ半導体や無線通信、光学機器、発動機、バッテリーといった分野の製品が、海外で武器の部品として使われている可能性がありますが、それらの汎用品の武器転用を規制するのは実際には困難でしょう。汎用品とは、言い換えれば何にでも使える部品なのですから、武器開発で汎用品が使われるようになった以上、武器転用される事は避けられません。

では、このような日本製品や汎用品が、紛争地や軍事的緊張下にある国で武器に転用される恐れに対し、日本はどのように臨めば良いのでしょうか。民生品や汎用品として輸出される以上、その武器転用を規制するのは困難です。武器転用する恐れのあるユーザーへの販売に制限をかけるような、従来からの武器輸出規制のスキームをより洗練させる方式にはおのずと限界があります。

むしろ、単純に規制で出口を絞るのではなく、日本製部品の武器転用の事実を把握したなら、その使用者を日本のコントロール下に置くようなアプローチが必要になってくるかもしれません。例えば、継続的メンテナンスが必要となる消耗部品が武器転用されていた場合、その部品の流通をコントロールすることで武器の稼働率に影響を与えられます。また、使われている部品が判明することで、武器の性能や生産数を推測する手がかりになります。使われている部品一つで、武器をコントロール下に置くことが可能になり、武器転用したのが日本と軍事的に緊張関係にある国であった場合、日本の防衛にとっても大きなメリットとなります。そういった事から、これからは輸出規制に加え、輸出された製品の監視・追跡を行い、最終製品が何であるかを把握するトレーサビリティーシステムの構築が、より重要になってくるのではないでしょうか。


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2013年10月13日日曜日

防衛技術シンポジウム2013のプログラムにRWS


防衛技術シンポジウム2013のプログラムが公開されましたが、リモートウェポンシステム(RWS)の写真がちらりと載ってます。どうやら、シンポジウムに実物展示される臭いですね。

12.7mmM2重機関銃に、可視・赤外の2種センサー搭載のように見えますが、どうなんでしょう。

2013年10月11日金曜日

化学兵器禁止機関のノーベル平和賞受賞と、ノルウェーの戦略

2013年のノーベル平和賞は、化学兵器禁止機関(OPCW)に授与されることが、ノーベル賞委員会から発表されました。

(CNN) ノルウェーのノーベル賞委員会は11日、2013年のノーベル平和賞を化学兵器禁止機関(OPCW、本部オランダ・ハーグ)に贈ると発表した。 化学兵器の除去に長年努めてきた活動が評価された。 OPCWは現在、シリアが保持する化学兵器の検証や廃棄に当たっている。1日には査察団がシリア入りし、ミサイルの弾頭や空爆で使用する爆弾、化学薬品の充てん装置など、化学兵器の廃棄を監督している。


ところが、この選考に対してロシアから異議が上がっています。

化学兵器禁止機関がノーベル平和賞を受賞したことに、ロシアのコブゾン下院議員は厳しい意見。インタファクス通信の取材に、「化学兵器禁止条約という仕組みを利用することを思いつき、アサド政権を説得して加盟させたのはプーチン氏だ。思いついた人がもらえず、仕組みが受賞した」と批判しています。


内戦が続くシリアでの化学兵器使用情報を受け、アメリカ・フランスによるシリアへの軍事介入が迫っていた9月9日、シリアの化学兵器を国際管理の下に移し、化学兵器禁止条約(CWC)に加盟させることをロシアのラブロフ外相が提案し、シリアが提案に合意しました。この合意により、シリアへの軍事介入は回避され、シリア国内での化学兵器問題も解決への道筋が開かれます。

このシリア問題の好転は、ロシア政府による提案・説得によって成し遂げられたのは事実で、化学兵器管理の実行組織に過ぎないOPCWが受賞するのはおかしいというロシアの不満も当然の事に思えます。しかしながら、チェチェン紛争やグルジア紛争に関わったプーチン大統領らロシア高官にノーベル平和賞を授与する事は相当の批判が予想され、ノルウェー・ノーベル委員会としては避けたかった事でしょう。そういう意味で、ロシアへの授与を回避するためにOPCWへ、という判断があったとしても不思議ではありません。


ノルウェー・ノーベル委員を任命するノルウェー議会議事堂(Wikipediaより)

ノーベル賞6分野のうち、唯一選考がノルウェー・ノーベル委員会によって行われる平和賞は、政治色が強いと言われています。その選考も、平和賞以外はスウェーデンの学術機関により選考されるのに対し、平和賞はノルウェー国会からの任命を受けたノルウェー・ノーベル委員会が行います。なお、現在のノルウェー・ノーベル委員会の委員5名は、いずれも国会議員・または閣僚経験者です。ノルウェーの政治的思惑が働くのは、ある意味で必然とも言えます。

しかし、過去のノーベル平和賞の選考でも、様々な批判や物議を醸しています。記憶に新しいのは、2010年の中国の人権活動家の劉暁波への授与で、中国とノルウェー間の外交問題にまで発展しました。他にもオバマ米大統領、ジミー・カーター元米大統領、ヘンリー・キッシンジャー米大統領補佐官、PLOのアラファト議長らへの授与も問題視されています。特にキッシンジャーとアラファト議長への授与は、いずれも受賞後に紛争が再開しており、平和賞に泥を塗る形になってしまいました。しかしながら、このような問題化する恐れがあることが分かっている選考を行う事は、逆説的に言えば、ノルウェー・ノーベル委員会は、政治的・外交的批判を恐れて選考しているのではないと言えます。

それでは、なぜノルウェー・ノーベル委員会は物議を醸す選考を行うのでしょうか。この理由として、選考により受賞者の理念や平和運動を後押ししよう、という意図が働いていると見る向きがあります。

例えば、2009年のオバマ大統領の受賞は核軍縮への取り組みを理由にしていましたが、就任1年目の受賞であり、実績も無いのに時期尚早ではないかとの批判がありました。しかしこれは、オバマ大統領に平和賞を与える事で、核軍縮の潮流を後押しする狙いがあったとされています。

他にも、1997年の地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)の受賞は10月に発表されましたが、発表後の12月にICBL最大の成果である対人地雷禁止条約(オタワ条約)が署名されました。オタワ条約は大国の署名が得られず、その実効性が疑問視されていましたが、ICBLの平和賞受賞により大きな注目を集め、現在は150ヶ国以上が署名しています。

結果的に失敗に終わったキッシンジャーやアラファトへの授与についても同様に、ギリギリで成立した危うい和平プロセスを、永続的に続けるための圧力としての意図があると言えます。そういう意味で、今の不透明なシリア情勢において、確実に化学兵器廃棄プロセスが働くように、実行機関であるOPCWに受賞を与えたとも考えられます。

軍事アナリストの小泉悠氏は、シリアが化学兵器廃棄を履行するか、また、実際の破棄プロセスが上手く回るかは以前不透明であり、依然としてアメリカ・フランスはシリアにCWCを履行させる為の軍事オプションも排除していない事から、シリアの化学兵器問題は大きな国際問題であり続けているとしています。(詳細は小泉悠氏の「シリアの化学兵器問題:CWCは「魔法の杖」にあらず」参照)つまり、シリアの化学兵器問題はスタートラインを切ったばかりであり、「これから」の問題なのです。

ノーベル平和賞はノルウェー・ノーベル委員会、ひいてはノルウェー議会にとり、国際平和へのインパクトを与える強力な「武器」となっています。持たざる国であるノルウェーにとって、国際平和への関与で存在感を出す為の最強の手段だと言えるでしょう。

OPCWのノーベル平和賞受賞により、今後のシリアでの化学兵器廃棄プロセスにも注目が集まると思います。OPCWはノーベル平和賞の威光を受けて、無事に化学兵器廃棄を成し遂げる事ができるでしょうか。ノルウェー・ノーベル委員会の判断が、良い方向に働くことを願っております。

2013年10月10日木曜日

機動戦闘車のファーストインプレッション

さて、昨日発表された機動戦闘車ですが、基本スペックから実際の動作、さらには自分でペタペタ触って色々と確認することができましたので、ちょっとまとめてみたいと思います。

外観


機動戦闘車の外観について。最初は写真の撮り方考なんで、軍事的なものは薄いですよ。

この写真、原寸大表示可能ですんで、細部見たい方はクリックしてください。但し、ディテールが分かる様に影になって潰れていた部分を部分補正で見えるようにしてあるので、そこいらはノイズ多め。あと、補正の仕事は雑です。

まず、上の写真。斜め前からのカットが一番キマって映る。ただし、かなり鋭角の斜め。


イタリアのチェンタウロのWikiからデータ引っ張ってくると、全長(砲身含む)は8.555mのチェンタウロに対し、機動戦闘車は8.45m。約10センチ機動戦闘車の全長は短いんだが、チェンタウロと較べて砲塔が非常に小さい。横から見ると、のっぺりした印象を与えてしまう。もちろん、車高が低い事は安定に寄与するので良い事だけど、横からの見栄えは良くないので、鋭角で前撮影した方が無難かも。

チェンタウロ3面図



右斜め後ろから。砲塔後部、車体後部共にハッチあり勘違いしてた。砲塔後部はどうみてもハッチじゃないや。車体の後部は人が入れないこともないけど、アクセス性から考えてメンテナンス用が主眼と推測。動画でもここから人は出てきていない。




で、外観から明らかになるのは、車体高の低さ。これにより、ファミリー化されたとしても、兵員輸送タイプが作られる可能性は低いんじゃないでしょうか。
発表会場では乗員4名以外に乗れない事を惜しむ声・ファミリー化を懸念する声がありましたが、先に装輪装甲車(改)が発表された以上、バッティングする兵員輸送タイプは機動戦闘車ベースでは無いと思われます。第一、これ内部容積きっついと思う。
近々開発されるであろう指揮通信車後継とかも、NBC偵察車ベースの方が向いていると思うし。


武装


105ミリライフル砲。この砲身に空いたマズルブレーキが特徴ですね。マルチポート式のマズルブレーキは、自衛隊では初めてでしょうか。ライフリングに沿って空けられています。よくよく見たら、砲身歪み検知用のミラーから根本まで、サーマルジャケットで覆われているようです。
90式戦車、10式戦車は自動装填装置を搭載していますが、機動戦闘車は手動装填です。重量・容積とトレードオフの結果だそうですが、105mm弾で120mmよりは軽いこと、バコスカ高速で撃つような性格の車両ではない事を考えると妥当と思います。砲塔がすごく小さいですしね。



12.7ミリ重機関銃座。銃自体はありませんが、この銃座、10式と同じみたいですね。銃座の写真だけ集めなきゃ…。


同軸機関銃は7.62mm74式車載機関銃。でも、そろそろ新型欲しい気も……。



センサ系




砲塔左に車長用パノラマサイト。10式のに似ているが、小さく感じる。10式の光学系はかなり高倍率(いずれ同人誌に書きます)のサイト搭載しているのですが、機動戦闘車は広角寄りなのか。配置は10式と逆で、10式は砲塔右後方にあったのに対し、機動戦闘車は砲塔左前方。
また10式にも見られたミサイル検知用と思しきセンサが砲塔左右正面にある。下で比較してみよう。

機動戦闘車 ミサイル検知器?

10式戦車 ミサイル検知器
同じセンサの様に見えるんだけど、実装方法が全然違う。10式がセンサを砲塔4隅の凸部分に設置しているのに対し、機動戦闘車で確認できたセンサは砲塔前面の2つ。しかも、凹んだ箇所に取り付けてあるんだけど、どういうことだろ、これ。数減らすのはコストカット等で説明付くにしても、センサが凹部分の底にあるのはなんでだろ。ただ、周りのパネルの形状見ても分かるように、試作車両だからか簡単に交換できるようになっているので、量産車でどうなるか不明。単純に、試作時は交換やりやすいからという理由なのかも。



砲塔右には砲手用の固定サイト。これも10式と逆配置で、より小さい気がする。砲手用サイトは、反射光の色から判別して、こちらから見て右にあるものが赤外線、左が可視光センサと思われる。


環境センサー。折りたたまれていたので、外観写真からは分かりづらかったかもしれませんが、10式と同じタレス製のセンサーです。型番も一緒でした。



防護力


車体側面を見ると、車体に防弾鋼板と思しき厚さごにょごにょくらいの板がボルトどめされています。追加装甲だと思われますが、ボルトどめや想定される鋼板の重量考えると、ほぼつけっぱなしになっていると思います。輸送条件に応じて、取り外しと言ったところかと推測。



そして砲塔周りの防護。これも10式と同様、砲塔本体に付加する装甲を付けていると考えられる。というか、砲塔本体と付加装甲の境界きっちり見えました。10式よりは付加装甲のスペースが薄い感じです。
それと、発煙弾発射機も砲塔側面に設置してあります。



足回り


言うまでもなく8輪のタイヤによる走行ですが、足回りがちらりと見えます。


プレートにピント合って無くてすみません(;´Д`)。ですが、ダイキン工業/三菱重工製の懸架ユニットです。ダイキンというと、油圧関連でしょうから、油気圧サスペンションでしょうか。反動抑制技術を考えると、10式戦車応用のアクティブ懸架の可能性が高いと思われます。



その他



砲塔上面なんですが、かなり念入りにすべり止めがなされています。あまり上面に登れた車両が無いのでなんとも言えんのですが……。


取り付けられているアンテナを確認するのを忘れていたのですが、恐らく10式と同じ東芝製JAT-S33。つまり、アンテナは10式並の通信をする能力が可能ということか。中に何を積むかは別として。

次は、今までの装甲車両にこんな装備あったっけ、ってなものを。


↑こいつです。砲塔後部の両側面についた収納スペースと思わしき専用空間。ある種のユーティリティースペースで偽装網などをここに入れたりするそうです。



中の人を見ると、偵察教導隊。機動戦闘車は新カテゴリの装備とはされていますが、87式偵察警戒車の後継装備としても考えられているのかもしれません。ユーザーとしては、普通科、機甲科も想定されているとのこと。

取り急ぎのファーストインプレッションはここまで。またなにか気づいたことあったら追加でお知らせします(・ω・)ノシ