2014年12月25日木曜日

【C87】冬コミのお知らせ

年末に魔物がたくさん出てきたので進行が色々ヤバかったですが、なんとか冬コミの本が入稿出来ましたのでお知らせ致します。


機動戦闘車の本と告知しましたが、将来装輪戦闘車両ファミリーの本と相成りました。
時間がなかったので、表紙はシンプルイズベスト。

機動戦闘車が将来装輪戦闘車両ファミリーでないとする書籍もありますが、機動戦闘車だってちゃんとファミリーなんです一応、というお話。20ページほどのコピ本のあっさりめ本。頒布価格は決めていませんが、300円以内です。

お品書き

新刊:「将来装輪戦闘車両の一族 そのユルい家族関係」
委託:「艦娘のいちばん長い日・決定版」

夏コミで出した10式本既刊は既に尽きていますので、新刊と委託のみになります。

あと、今回は書店委託・電子化は未定というか、多分やりません。もうちょっと資料集めてボリューム足せたらやると思いますが。

1日目(日)西い09b 『ドラゴニア』(Webカタログ内ページ)


でお待ちしております。






2014年12月23日火曜日

狩猟税減免(但し一部)。それってハンター減少の歯止めになる?

野生鳥獣による被害増大を受け、ハンターを増やそうと環境省が狩猟税免除を求めていましたが(リンク:毎日新聞「環境省:狩猟税廃止を要望へ 作物被害でハンター増狙う」)、政府方針の話がそろそろ出てきました。

    ハンターが納める狩猟税について、政府・与党は、シカやイノシシなどの鳥獣駆除に携わる人を対象に、来年度から全額免除または半額にする方針を固めた。増えている野生鳥獣による農作物被害を防ぐため、担い手の減少傾向を止める狙いがある。

現在、狩猟者が狩猟者登録申請時に各都道府県に納める狩猟税は以下の通りになっています。

第一種猟銃(散弾銃・ライフル・空気銃):16,500円

第二種猟銃(空気銃のみ):5,500円

わな猟:8,200円

網猟:8,200円

上記の金額は1県のみの場合で、複数の県で狩猟を行う場合は、各県で行う狩猟に応じた狩猟税をそれぞれ納付しなければいけません。この納税額から全額免除、または半額免除を行うという事ですが、この条件に以下のような但し書きが付きます。

税制改正では、改正鳥獣保護法で新たに設置された、シカやイノシシなどの駆除を専門に行う認定捕獲事業者と、鳥獣被害防止特措法で市町村から任命される対象鳥獣捕獲員について、狩猟税を全額免除する。一般のハンターのうち有害鳥獣駆除に協力する人は半額にする。その他は、これまで通り納付が必要。

ハンター減少阻止へ、狩猟税を軽減 政府が鳥獣駆除対策

捕獲事業者と鳥獣捕獲員は全額免除、どういった人が対象になるかは詳細不明ですが「鳥獣駆除に協力する人」が半額という面で、それ以外のハンターは従来と同じ税額なのだそうです。

ただ、これがハンター減少の歯止めになるかは疑問符が付きます。と言うのも、鳥獣捕獲員は数年の狩猟経験を持つ猟友会員がなるのが通例で、1年生ハンターがすぐになるものではないからです。この免除方針で負担が軽減するのは経験を積んだハンターだけで、新米ハンターやこれからハンターになろうとする人の負担は変わりません。

今回報じられた減免方針では、経験を積んだハンターの減少を食い止めるのに一定の効果があるとは考えられます。しかし、ハンターは高齢化が進んでおり、2011年度の調査では全狩猟免許保持者のうち、60歳以上の占める割合が66%にまで達しています。

狩猟免許所持者の年齢別推移(環境省資料より)

現役世代の三分の二が60歳以上と考えると、どれだけハンターの高齢化が進んでいるかが分かると思います。高齢化が進む中、経験者のみ対象の免税措置を取ったとしても、新規にハンターなろうとする人の助けにはならず、ハンターの高齢化が進むだけではないでしょうか。

狩猟は野生鳥獣の生息数に関連する事から、その社会的な意義が注目されていますが、ハンター個人としては趣味でやっている事に変わりありません。野生鳥獣という公共資源を獲る事について、その資源(野生鳥獣)が限られている状況なら税を課すのは公正と言えます。しかし、その資源が増え過ぎて害になっている状況で、ほとんどのハンターに影響しない免税措置をして、もっと獲れと国が言うのもどうかと思います。

国としてハンターを増やし、今後も野生鳥獣の生息数管理に繋げたいのでしたら、もう少し長期的な視野に立つべきではないでしょうか。



【関連】

「クレー射撃、狩猟へのファーストステップ!猟銃等講習会(初心者講習)考査―絶対合格テキスト」

最近、狩猟関連の本が相次いで出ていますが、IT系テキスト・解説書で有名な秀和システムから、猟銃取得テキストが出ていたのを見た時は驚きましたですよ。恐らく、最近の猟銃講習会試験に対応した唯一の商業本。


「狩猟 始めました --新しい自然派ハンターの世界へ-- YS007 (ヤマケイ新書)」

ハンターの高齢化が言われる中、50歳未満のハンター3万人と関連する人々に焦点を当てた書。最近出た狩猟関連の本の中で、一番おもしろかったです。 


岡本健太郎「山賊ダイアリー(1)」

最近になって狩猟が注目されはじめた原因の一つ、著者自身の経験に基づく狩猟マンガ。話としても面白いが、作者周囲にアクの強い人物達が集まりすぎて、ある種のさくらももこエッセイ的な雰囲気を醸し出している。



2014年12月18日木曜日

北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦開発。日本への影響は?

衛星が捉えた謎の潜水艦

少し前から、海外メディアで北朝鮮が弾道ミサイル発射可能な潜水艦の開発を進めているとの報道がなされています。

北朝鮮が弾道ミサイル潜水艦の開発を進めている、との観測が浮上している。日本ではほとんど報じられていないが、韓国メディアは盛んに取り上げている。



実際、北朝鮮東部の咸鏡南道新浦市内をGoogle Earthで確認したところ、これまで北朝鮮海軍が保有すると考えられているロメオ型潜水艦(全長約76m)とサンオ型潜水艦(全長約35m)、いずれの全長とも異なる全長約65mほどの潜水艦が停泊しているのが確認できました。

北朝鮮東岸部での潜水艦写真(Google Earthより)




上の写真は同じ場所を異なる時間で撮影したものの比較になります。右が2013年の10月に撮影された写真で、全長40m以下の潜水艦(恐らくサンオ型潜水艦)と見られる物体が写っています。左が今年の7月に撮られたもので、昨年10月に同じ場所にいた潜水艦より大きい、全長は約65mほどの潜水艦が見られます。北朝鮮が保有する最も大型の潜水艦であるロメオ型は全長約76mですので、サンオ型とロメオ型の中間にある、これまで知られていなかった未知の潜水艦という事になります。



北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦?

この謎の潜水艦について、アメリカのジョン・ホプキンス大学の北朝鮮情報分析サイト”38 NORTH"は、周辺の施設の分析と合わせ、北朝鮮が潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の開発を進めているとの見解を示しています。その発射母艦となるのが、確認された未知の潜水艦と見られています。



日本への脅威は?

北朝鮮が弾道ミサイル潜水艦とSLBMの開発を進めていたとして、それが日本への新たな脅威となるのでしょうか? 現実的には、日本にとって差し迫った脅威ではないと考えられます。

まず、弾道ミサイル潜水艦とSLBMの開発には高い技術力が必要で、そのいずれも実用域に入るには、まだ長い時間が必要と考えられます。

そして、既に日本全土が北朝鮮の陸上発射型中距離弾道ミサイルの射程圏内にある為、北朝鮮が新たに日本へ向けた新型ミサイルを開発する理由が薄いという点です。

弾道ミサイル潜水艦とSLBMとは、敵による核の第一撃を生き延びて、確実に核による報復を行うための高い生存性を備えた兵器システムです。日本が核武装していない以上、日本を相手に北朝鮮が新規で開発する類の兵器ではありません。

では、北朝鮮はなぜSLBMの開発を行っているのでしょうか。北朝鮮の目は、アメリカに向いているものと見られます。



アメリカ本土へ届こうとする北朝鮮の核

2012年12月12日、北朝鮮は人工衛星「光明星3号2号機」の打ち上げと称し、ロケット「銀河3号」の発射を行いました。この打ち上げに使われた銀河3号は、弾道ミサイル「テポドン2」の派生型と見られる3段型のロケットで、弾道ミサイルとして使われた場合、その射程は約1万kmに及ぶのではないかと防衛省は見ています(詳細は、防衛省「北朝鮮による「人工衛星」と称するミサイル発射について」を参照)。1万kmと言う数字はハワイやアラスカのみならず、アメリカ西海岸までその射程に収める事になり、アメリカ本土にまで北朝鮮の核が到達出来る事を意味しています。

北朝鮮を中心とした半径1万km以内の地域

テポドン2とその派生型は、アメリカの目を再び北朝鮮へと向かせましたが、今度はこれに弾道ミサイル潜水艦とSLBMが加わると、アメリカにとって北朝鮮の脅威は無視出来ないものとなってきます。まだ実用化の段階には無いでしょうが、これまでの北朝鮮が着実に弾道ミサイルの射程を伸ばし続けてきた事からも、SLBMの開発も現実味を帯びてくるのかもしれません。

日本にとって、北朝鮮のSLBM開発そのものは脅威としては目新しいものではありません。ですが、北朝鮮がアメリカ本土への核投射能力を増強する事は、アメリカの対北朝鮮外交、ひいては極東におけるアメリカの安全保障政策に影響を与える可能性が出てきます。そうなった場合、一番影響を受けるのが日本になりますので、間接的な意味での「脅威」と言えます。

では、なぜ北朝鮮はここまでアメリカを意識した核とその運搬手段の開発を続けているのでしょうか。今年7月に来日した、世界的に著名なイスラエルの軍事史家であるマーチン・ファン・クレフェルト氏が、イランの核開発について語った言葉がそのヒントとなりそうです。以下に引用してみましょう。


……イランが(核を)求める理由は、イスラエルを恐れているのではなく、アメリカであり、それは当然の理由であると思う。
1980年以降のアメリカは世界各地に侵攻し、次のアメリカの大統領がどこに侵攻するか分からないからだ。
ミロシェビッチ、カダフィ、フセインと言った人々を見れば分かるが、アメリカに対抗できる力を持ってなかった人々だ。
アメリカに抵抗するには、核兵器とその運搬手段が必要となる。



これはイランの核開発についての言葉ですが、北朝鮮についても同様の事が言えます。北朝鮮は過去、実際にアメリカと戦争(朝鮮戦争)、朝鮮戦争は現在もなお「休戦」状態です。後ろ盾だったソ連が崩壊し、中国とも疎遠になる中、北朝鮮は自力で体制を維持しようとしています。その北朝鮮の体制維持にとって最大の障害となるのはアメリカで、アメリカに届く核を持つ事は北朝鮮にとっての死活問題でもあったのです。

2期目のオバマ大統領の任期も残り2年。2016年に行われる次の大統領選挙を見据えた動きが活発化していますが、その中で北朝鮮問題がどう扱われるか、日本にとって目を離せないポイントとなるのではないでしょうか。



【関連】

ロバート・ケネディ「13日間 - キューバ危機回顧録」(中公文庫)

圧倒的な核戦力を持ってもなお、ミサイルの射程圏に本土が収められる事が明示されると過敏に反応してしまうのは人のサガ。そういう過去にあったキューバ危機の例を振り返りましょう。長らく絶版でしたが、今年になって中公文庫から復刊されましたよ。


マーチン・ファン・クレフェルト「戦争の変遷」

クレフェルトで最も知られている著作(日本では「補給戦」なんだろうけども)。戦争を国家の営みとしたクラウゼビッツに対し、戦争は人の営みじゃ刺激的で楽しいんじゃと挑戦的な主張を展開。冷戦後は国家と非国家間の戦争が中心となると書くなど先見の明が光るが、出版されたその日にイラクがクウェートに侵攻したといういわくつきの本。
イスラエルの研究者でありながら、敵対するイランと核抑止による共存は可能と見る冷徹な思想の根源があるかもだ。




2014年12月11日木曜日

CIAはなぜ「効果無し」の拷問に走ったか。肥大化する対テロ産業

同時多発テロ以降、対テロ戦争におけるテロ容疑者への拷問をアメリカの軍・情報当局が行っていた事は以前から知られていましたが、米中央情報局(CIA)が行ってきた尋問について、米上院の情報特別委員会は9日に報告書を公表しました。


ワシントン(CNN) 米上院情報特別委員会は9日、米中央情報局(CIA)が2001年の同時多発テロ以降、ブッシュ前政権下でテロ容疑者らに過酷な尋問を行っていた問題についての報告書を公表した。報告書は拷問が横行していたことを指摘し、その実態を明かしたうえで、CIAが主張してきた成果を否定している。



報告はこれまでCIAが主張してきた拷問の成果を否定する内容でした。報告で明らかにされたCIAの「強化尋問」と呼ばれる尋問法は、ベトナム戦争で拷問された経験を持つマケイン上院議員も拷問に相当するものだと証言しています。現代においてもなお、民主主義国家で拷問が行われていたという事実に背筋が寒くなります。

しかし、報告書を巡る報道は、残虐な拷問法をセンセーショナルに伝えているのが目立ちます。その反面、「成果無し」と烙印を押される手法にどうしてCIAが拘り続けていたのか、その点に踏み込んでいないように感じます。そこで今回は虐待の実態ではなく、CIAがどう組織的に問題を起こしていたかに焦点を当てて問題を探っていきたいと思います。


「強化尋問」プログラム。4つの問題

5年に及ぶ調査では、CIAの630万ページ以上に及ぶ記録が精査され、CIAの強化尋問の手法や成果と主張されるものが検証されました。今
回公表されたのは、安全保障上公表に差し支えのある情報を黒塗りした編集版ですが、それでも525ページに及ぶ長大なものです。



米上院情報特別委員会報告書(上院情報特別委員会サイトより)


報告書の作成に携わったダイアン・ファインスタイン上院情報特別委員長のサイトに、報告書の要約が掲載されています。その中でCIAの「強化尋問」プログラムの問題を、以下の4つに集約できるとしています。


  1. CIAの「強化尋問技術」は、'''有効ではなかった'''。
  1. CIAはプログラムの運用とその効果について、政策立案者や国民に'''不正確な情報を提供'''した。
  1. CIAのプログラム管理は、'''不適切かつ深刻な欠陥'''があった。
  1. CIAのプログラムは、CIAが政策立案者や国民に行った'''説明よりはるかに残酷'''だった。



この4つの問題がどのようなものだったのか、ざっと見て行きましょう。



CIAの「強化尋問技術」は、有効ではなかった

強化尋問そのものの有効性については、CIAが強化尋問の成功事例として挙げた例を調査し、CIAが容疑者から有効な証言を得たのは強化尋問を行う前だった事が明らかになった。また、監察官やライス大統領補佐官からプログラムの有効性について検証を行うよう要求されたにも関わらず、それを行っていなかった事をCIAは認めた。



政策立案者や国民に不正確な情報を提供

承認を得るために政策立案者や国民に行われた説明は不正確で、それはホワイトハウスに対しても同様だった。ホワイトハウス当局者から質問が来ても、正直に、あるいは完全に答えない例もあった。
そして、強化尋問は必要であり、その権限が失われた場合、アメリカ人の死を招く結果になると表明した。



CIAのプログラム管理は、不適切かつ深刻な欠陥があった

CIAは十分に訓練・経験を積んだ人材を雇用せず、暴行や虐待歴のある適正に問題がある人材を雇用していた。
CIAはプログラムの開発運用のために外部の心理学者2人と契約したが、彼らに尋問の豊富な経験や、アルカイダや対テロ作戦についての知識はなく、後に2人が設立した会社にCIAは8000万ドルを払って外部委託させた。
CIAの管理下にあったと分かってる119人の拘禁者のうち、少なくとも26人が不当に拘束されていた。CIAは勾留すべきでないと決定した後も、何ヶ月も勾留し続けた。



CIAが政策立案者や国民に行った説明より残酷だった

司法省へのCIAの説明に反して、水攻めは有害で、痙攣や嘔吐を誘発しており、アブ・ズバイダ容疑者は水攻めで口から泡を吹いて意識を失った。
また、必要に応じて最低限行われることになっていた強化尋問も、多くの場合は尋問の最初から止まること無く行われていた。強化尋問を受けた拘禁者は、幻覚、妄想、不眠、自傷等の心理的、行動的な問題を示していた。



昔から知られていた脅迫的尋問の非効率性

上院委員会報告では、虐待を含む強化尋問法の有効性を否定しています。ところが、報告の結論を待つまでもなく、ずっと以前から脅迫的手法による尋問は非効率だという事が知られていました。

第二次世界大戦中、日本兵捕虜の尋問にあたった米海兵隊の調査では、脅迫的な尋問官より、紳士的で捕虜を人間として扱う尋問官の方が成績が良い事が明らかされていて、後の尋問法のセオリーにもなっています。



対テロ産業の巨大化とCIA分析官の能力低下

しかしながら、現実的な問題として、相手国の言語や文化に深く通じた人間がいない限り、穏健で有効な尋問を行うのは難しいでしょう。ワシントン・ポスト紙のデイナ・プリーストによれば、同時多発テロ以降のCIAでは優秀なベテラン分析官が待遇の良い民間へ流出した結果、分析官の3分の2が5年未満の経験しかなく、全分析官が所属する部署の3分の2も多発テロ以後に新設されているなど、人材・組織両面で大きな断絶が生まれているようです。

また、前述したプログラムに関わった外部の心理学者のように、アメリカの情報機関では人員リソースの外部化が進んでおり、対テロ産業とも言うべき巨大産業を形成しています。アメリカの各情報機関の予算総額(軍事情報機関除く)を表す国家情報活動プログラムは、2014年度は505億ドル(約6兆円)と、日本の防衛予算を超える規模にまでなっており、いかに巨大なものかが分かると思います。

アメリカのインテリジェンスコミュニティ。2004年の法改正から、中央の国家情報長官が統括する

このような対テロ産業の巨大化により、従来CIAが保持していた人的リソースが分散してしまい、経験を有するプロパーの専門家が育ちにくくなっているのも、安易に不毛な拷問に走る理由の一端ではないでしょうか。対テロ能力を上げる為に莫大な予算を投じたら、逆に非効率の塊になってしまったこの例は、色々と考えさせるものがあります。

報告が明らかにしたのは拷問の実態と言うより、無駄な拷問をやってしまうような組織力の低下ではないでしょうか。明らかにされた4つの問題でも、無視や糊塗、命令の未実施等があり、組織として問題だらけというのが分かります。この報告を契機に、改善のメスが入れば良いのですが。



【関連】

デイナ・プリースト「トップ・シークレット・アメリカ: 最高機密に覆われる国家」

偉大なる種本。同時多発テロ以降のアメリカで、情報機関とそれにまつわる産業の巨大化により、誰も全容を窺え知る事の出来ないジャングルと化し、国益を逆に損ねている事態にまでなっている事を明らかにしている。矢継ぎ早に通された対テロ予算が莫大すぎて審議出来ないという、多くの国にしてみれば羨ましすぎる話でも、度を超えると喜劇になるというか。


ティム・ワイナー「CIA秘録〈上〉―その誕生から今日まで (文春文庫)」

ティム・ワイナー「CIA秘録〈下〉-その誕生から今日まで (文春文庫)」

文中、「昔のCIAは専門的だった」的な匂わせ方した書き方しましたが、実は昔から無茶苦茶でしたよという身も蓋も無い事実が明らかにされる書。前述の「トップシークレットアメリカ」だと、インテリジェンス・コミュニティ全体の肥大・硬直化が問題にされていますけども。


「SAS・特殊部隊 図解 追跡捕獲実戦マニュアル」

海兵隊による日本兵の尋問調査についてはこちらに少々出ている。本自体は色んなのの焼き直しなんだけどね……。





2014年12月7日日曜日

AmazonのKindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)で、ロイヤリティ70%を設定する条件について

先日、夏コミで出した同人誌を電子化して、アマゾンのKindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)で配信を開始しました事は以前も書きました(以下の本)。



すると、著述活動されている複数名の方から、方法を教えて欲しいという話を頂きました。私も、税務その他で引っかかったポイントがありましたので、これからKDPで電子書籍をリリースを考えている方の為に、手続きやポイントを書いていきたいと思います。



電子書籍をKindle ダイレクト・パブリッシングで出すメリット

まず、KDPで電子書籍を出す事そのもののメリットについて触れたいと思います。


圧倒的な購入機会

電子書籍が日本のみならず、世界最大級のAmazon販売網で配信されます。この利点は細かく言う必要も無いと思いますが、私の場合はKDPでの配信を開始して1ヶ月以上経過した今でも、ほぼ毎日なんらかの売上があり(「売上」に相当するものは複数ありますが、これは後述します)、Amazonの強力な販売力を実感します。

一番多い初期の売上の相当数は、私の活動をご存知の方による売上だと思うのですが、現在もコンスタントに売れているのは、Amazonで興味分野の検索して見つかった方によるものだと考えています。

見ず知らずの方の目に留まる機会、購入機会を提供するという意味で、Amazonは強力な媒体ではないかと思います。

高いロイヤリティ(条件付き)

また、KDPは出版者へのロイヤリティを小売価格の70%と高く設定してあります。但し、これには条件があって、そのまま70%がポンと入る事はありません。また、70%条件を満たさない場合は、35%での配信となります。


ここでは、70%配信するために必要な事項や、同意する必要のある追加コストを含め、「70%条件」として説明します。

70%条件(その1):KDPセレクトへの登録

70%のロイヤリティ獲得には、電子書籍のKDPセレクトへの登録を承認しなくてはなりません。

KDPセレクトへの登録に必要な条件は、

1.Kindleストアに独占販売権を与える

Amazon以外で電子書籍を売るな、という事です。この独占販売権は電子版のみで、紙の書籍まで拘束されるものではありません。


2.電子書籍のKindle Unlimited、Kindle オーナー ライブラリー (KOL) への登録

いずれも、KDPセレクトへの登録を承認したら、自動で登録が行われます。

Kindle Unlimitedはアメリカでは既にスタートしているサービスで、月10ドルで電子書籍が読み砲台になるサービスです。もっとも、読み放題対象となる書籍は同意した出版社のみで、Amazonが扱う全書籍の一部です。日本では始まっていないので、今のところあまり考える必要はありません。

KOLは日本でも既に始まっているサービスで、Amazonプライム会員でかつKindle端末を持っている人は、月に1冊に限って無料でKOLに登録されている電子書籍を読む事が出来ます。KOLに登録している電子書籍が無料DLされた場合、その電子書籍のページ数の10%以上が既読になれば、KDPセレクトグローバル基金より分配金が出版者に配当されます。基金の配当金はロイヤリティより低くなるものの、出版者がタダで提供するという事ではありません。


KDPセレクトへの登録は、電子書籍のアップロード後に個別に登録を行います。



70%条件(その2):70%条件が適用される国のAmazonでの販売

ほとんどの方は関係無いと思いますが、仮に電子書籍が海外の特定国のAmazonで購入された場合、70%条件が適用されない事があります。70%条件が適用される国の一覧については、Amazonで説明されていますので、最新状況をご確認下さい。まあ、ほとんど気にする必要は無いと思いますが……。

70%条件(その3):配信コストの出版者負担(除外条件あり)

70%条件では電子書籍の配信コストを出版者が負担します。配信コストは販売国により異なりますが、Amazon.co.jpの場合、「電子書籍ファイル1MBあたり1円」と規定されており(2014年12月7日現在)、容量が1MB以下でも最低配信コストとして1ファイル1円かかります。つまり、カラー図版を多用した容量の大きい電子書籍の場合、配信コストが増大する事を理解する必要があります。逆に言えば、適切に容量削減を行う事で、配信コストを減らせる事も出来るのです。なお、35%配信の場合、配信コストはAmazonが負担します。

しかしながら、日本のKDPは特殊で、10MB以上の電子書籍には逆に配信コストが加算されません(2014年12月7日現在)。恐らくは容量が嵩むマンガが多い日本の出版事情に合わせたのでしょうが、今後変わるかもしれないので、KDPの価格設定を頻繁に確認される事をお勧めします。

70%条件(その4):パブリックドメインから構成された電子書籍でない事

最近、著作権切れによるパブリックドメイン入りを電子書籍化する業者がいますが、パブリックドメインから構成された電子書籍は35%のロイヤリティに限られます。但し、「独自のコンテンツを大幅に追加した結果、本の内容の大半がパブリック ドメインの素材でなくなった場合は、適用の可能性があります。原文の翻訳は、主にパブリック ドメインのコンテンツで構成されているとは見なされません。」とあり、コンテンツの追加や翻訳による他言語化の場合は、その限りではないそうです。ここは現物をKDPに申請して審査がどうなるかによるでしょう。

70%条件(その5:重要)米国への源泉徴収税30%(回避法あり

これが一番重要ではないでしょうか。米国以外の国の居住者には支払額の30%が源泉徴収されます。つまり、1000円の電子書籍を70%条件で販売しても、受け取れる700円(配信コスト等は無視する)のうち210円が天引きされ、実際の受取額は490円となります。実質49%ロイヤリティになります。

しかし、日本で生計を立てている日本人の場合、日米間には所得税に関する租税条約が結ばれており、軽減税率を適用する事で課税は免除されます。その場合でも、日本の税務当局にはきちんと申告の必要がありますが(雑収入扱いで年20万円未満除く)、いきなり30%天引き、あるいは二重課税の可能性を回避できます。

この手続は結構面倒なので、別項で設けたいと思います。


なお、この手続に関しては、東京で消耗したくない人が「電子書籍で印税生活は十分可能かもしれません。端末がいい感じに浸透しているであろう来年あたりに、一冊電子書籍で書いてみたいところ」と、KDPで70%印税収入を夢見ていたようですが、今年になって「噂によると、米国と日本で2重課税されるのを回避するには、米国にFAXするらしいですよ。FAXですよ!めんどくさすぎますよね」と、高知に引っ越すよりアメリカにFAXする方がハードル高い不思議ちゃんと化しております。貴方もアメリカにFAXするのが嫌で、田舎に引っ越す事にならないようにしましょう。

また、ネットで見かける事の無かった米国社会保障番号(Social Security Number:SSN)を持っている方の場合の手続き(FAXしなくてよい)についても、述べたいと思います。

つづく





2014年12月2日火曜日

各国軍を悩ます秘密と知的財産権

豪国防相の失言の背景

今年4月に日本の武器輸出が事実上解禁されてから、初の大型案件になるかと注目されているオーストラリアへの潜水艦輸出ですが、当事国オーストラリアで一騒ぎ起きているようです。オーストラリアのデビット・ジョンストン国防相が自国の造船会社ASCについて、「カヌーも造れない」と失言の後に撤回したそうです。


【AFP=時事】オーストラリアの国営造船会社ASCについて「カヌーを造る」能力さえ信用できないと発言した同国のデビッド・ジョンストン(David Johnston)国防相は26日、辞任要求を浴びせられつつ発言を撤回した。



オーストラリア海軍の次期潜水艦計画については過去に拙稿 「オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ」「日本からの潜水艦導入を巡るオーストラリアの事情」でもお伝えしましたが、競争入札を実施せず、指名でオーストラリア国外で建造して輸入する方向で話が進んでいるとされています。2日にはオーストラリア政府高官が潜水艦調達では入札を実施しない旨を重ねて明らかにしています。

[シドニー 2日 ロイター] - 複数の豪政府高官は2日、次期潜水艦建造計画で、競争入札は行わないと発言した。日本企業が受注する可能性が高まったと言えそうだ。ロイターは9月、関係筋の話として、豪政府が、日本企業に建造を発注し、完成品を輸入する方向で日本と協議している、と伝えている。


仮に入札が行われず、オーストラリア国外(日本の可能性が高い)で大部分が建造された場合、ASCと造船所を抱える南オーストラリア州の製造業に深刻な影響を与えるため、オーストラリアでは国内での建造を求める声が根強くあります。


豪政府が希望しているとされるそうりゅう型潜水艦(海上自衛隊写真ギャラリーより)

しかし、ジョンストン国防相が揶揄したように、ASCが技術的・能力的に様々な問題を抱えているのは事実です。ASCは元々、オーストラリア国内でコリンズ級潜水艦を建造するために設立されたオーストラリア潜水艦企業体(Australian Submarine Corporation:ASC)がその前身となっています。しかし、ASCで建造されたコリンズ級は深刻な問題が頻出し、問題解決に追加費用と長い時間を取られる事になりました。

また、ジョンストン国防相が失言する際に例に出していたホバート級イージス駆逐艦もASCで建造中ですが、計画3隻で2億9900万ドル(約350億円)の予算超過がすでに生じています。建造段階で1隻あたり100億円以上の予算超過するのは日本ではまず考えられませんが、ASCはコリンズ級潜水艦に続き、ホバート級イージス駆逐艦でも問題を起こしている事になります。元々、競争入札で対立候補より安い事が決め手となり採用されましたが、結果的には高く付きました。

ホバート級原型のスペインのアルバロ・デ・バサン級フリゲート(Brian Burnell撮影


ASCだけの問題? 多国籍多企業に跨る知的財産権

では、問題はASCの技術力にあるのでしょうか? 恐らくその通りだと思いますが、理由はそれだけではないでしょう。それを窺わせる記事がオーストラリアの全国紙The Australianにありました(オンライン版の記事が既に有料化し、閲覧出来ません)。オーストラリア次期潜水艦計画を巡る各国の状況を解説した記事で、コリンズ級潜水艦の設計や改修に関わったスウェーデンについてこう書かれていました。


「スウェーデンは良い潜水艦を作るが、スウェーデンの設計を基にしたコリンズ級の改修で、法的な問題により海軍は必要なIP(知的財産権)の取得に数十年を要した。スウェーデンはそれが再び起こらないと主張している」



コリンズ級改修の問題に、知的財産権を巡る法的問題があった事を示唆しています。

問題になったコリンズ級はスウェーデンの設計を基にオーストラリアで建造されましたが、この艦の特色として多くの国・企業が建造に関わっており、建造企業のASCにしても豪欧米企業の出資により設立された事からもそれが窺えます。このような形態の防衛装備開発を各国・各企業の優れた技術を組み合わせた、と書くと一見良い事のように思えます。しかし、建造に参加する企業をまとめるプライム企業(ASC)には、機材の仕様から言語、商習慣に至るまでの様々な違いを乗り越えてまとめ、一つの製品として完成させる為の高いインテグレーション能力が求められます。この障害となるのが、各国・各企業の持つ技術・製品の知的財産権です。

民間企業でも知的財産権の蓄積や管理は、企業の競争性を左右する重要な事項ですが、軍事の世界でもそれは同じです。各国共に秘密や特許により知的財産権を保護し、自国の技術的優位性を確保しようとしています。近年はその傾向はますます高まり、武器を購入して配備している国でも触る事の出来ない「ブラックボックス」と呼ばれる部分が増加しています。下の写真は外国から製造ライセンスを購入し、日本で生産している装備品内部の基板ですが、回路の集積化等によりブラックボックスの範囲が拡大し、日本側で弄る事の出来る部分が僅かになっているのが分かります。


装備品のライセンス生産の基板(防衛省資料より)

このような知的財産権を巡る事情から、コリンズ級の改修に必要な多国籍多企業に渡る知的財産権の取得に豪海軍が苦労したのも頷けるでしょう。製品を購入したとしても、知的財産権から情報開示部分が少なかった場合、その装置の問題を解決するのも難しいでしょう。潜水艦の調達を競争入札で行った場合、多国籍多企業に渡る提案が価格競争上優位になる可能性があるので、限られた国・企業が提供する潜水艦(例:日本製)を安全牌として購入した方がトラブルも無く、安上がりで済むのではないかというオーストラリア政府・軍の思惑もありそうです。現実にコリンズ級潜水艦、ホバート級イージス駆逐艦は共に競争入札で決定されましたが、いずれも中核的部分に多国籍に跨る製品を搭載して問題を引き起こしたのですから、ASCへの不信感と並んで、政府・軍の競争入札への不信感は大きいのではないでしょうか。



求められるASCの能力強化

しかし、仮にオーストラリア国外(日本)での建造が行われた場合、前述したような雇用の問題の他に、配備後のメンテナンス問題があります。現在、オーストラリアで潜水艦のメンテナンスを行っているのはASCであり、次期潜水艦は現行の潜水艦より増勢される見込みですから、ASCのメンテナンス能力の強化は必須となります。仮に日本が潜水艦を受注しても、受注で対立関係にあったASCとは配備後のメンテナンスで何らかの協力関係を持たざるを得ません。

この場合、日本が取るべきは、ASCの能力強化を含むパッケージで潜水艦を提案し、雇用への配慮とオーストラリア国内での継続的なメンテナンスを行える環境作りを支援する姿勢を示す事ではないでしょうか。防衛装備はただ売って終わりという性格のものでなく、より2国関係を深化させる作用も持ちます。現在、日本はアメリカに次ぐ安全保障パートナーとして、オーストラリアとの関係を強化しようとしており、その最中に露骨にオーストラリアの雇用を奪って禍根とするのは避けたいところでしょう。長期的視野に立ち、オーストラリアとの関係を維持し深めていく方策が必要となるでしょう。



これから知的財産権と秘密の壁にぶち当たる日本

ここまで主にオーストラリアの例を挙げて解説しましたが、日本も近々オーストラリアに近い問題が起きるかもしれません。航空自衛隊のF-4EJ改戦闘機の後継として、F-35ステルス戦闘機の導入が決定しており、世界でアメリカとイタリアにしかないF-35の最終組立・修理点検施設(FACO)が日本にも建設される事になりました(FACOの詳細は拙稿「日本に設置されるF-35の”整備拠点”と武器輸出三原則見直し」を参照)。F-35の大規模な修理点検はFACOでしか出来ず、イタリアのFACOはヨーロッパ、地中海諸国のF-35の整備を一手に担い、日本のFACOも日本のみならず、アジア、太平洋沿岸国のF-35の整備を行います。


イタリア。カーメリ空軍基地内のFACO(Google Earthより)

ですが、このFACOという仕組みは、配備国にF-35の重要な整備をさせず、ステルスの秘密をアメリカ国外に漏らさない為のシステムでもあります。FACO設置国も例外ではなく、既に稼働しているイタリアのFACOでは、重要な部分は米ロッキード・マーティン社以外触れないとイタリア側が不満を漏らしているとされています。日本もイタリア同様、秘密の壁にぶち当たり、運用上の問題が出る事になるかもしれません。

このように知的財産権と秘密に縛られたF-35の導入と並行して、F-2支援戦闘機の後継として、日本独自開発の次期戦闘機を選択肢に入れる為の研究は既に始まっています。実際に独自開発に移るかはまだ不明ですが、平成30年頃には方針が決まる予定です。高いコストをかけてまで自国開発の道を残すのは、外国機は高性能でも、前述のとおり自国で触れない部分が増えているという事情があります。機体を知る事は運用や稼働率にも関わるため、出来るだけ自国で弄れる部分の多い装備品を求めるのは当然の欲求でしょう。


防衛省技術研究本部で構想中の次期戦闘機コンセプト

近年、装備品価格は高騰の一途を辿っていますが、日本は防衛費の大幅な増額が見込めない以上、どこまで装備品を国産化し、どこまで外国製で任せるかという難しい取捨選択を迫られる事になると思います。国産化によるメリットが高いと判断出来る装備品や技術に対し、有効な投資を継続し、維持発展させていく事が重要となるでしょう。


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元防衛大臣の森本敏氏による武器輸出三原則見直しの背景解説(というか、防衛関係者の対談)。三原則見直しにとどまらず、FACOによるアメリカの技術囲い込み、自国技術の維持問題、価格重視の競争入札により性能が犠牲にされている件など、様々な防衛装備品に関する問題について触れられており必読。

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