ラベル オーストラリア の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル オーストラリア の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2015年5月28日木曜日

過熱するオーストラリアの潜水艦商戦。日本の商機は?

日本単独から日独仏の競争入札へ

これまでも「オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ」「日本からの潜水艦導入を巡るオーストラリアの事情」と、オーストラリアの次期潜水艦と日本の潜水艦輸出の可能性についてお伝えしてきましたが、ここにきて事情がだいぶ変わってきました。

昨年末にオーストラリアのジョンストン前国防相が、潜水艦の建造に携わる国営企業ASCについて、「カヌー造りも信頼出来ない」と発言した事で批判を受け、辞任に追い込まれました。それまで日本から潜水艦の輸入を計画していたと報じられていましたが、国防相辞任を受けてアボット内閣は外国との共同開発・生産を行う方針に切り替え、コンペによって今年末までに潜水艦を決定する事になりました。

このコンペにはドイツとフランスが手を挙げ、日本も参加する方針と伝えられています。日独仏の3カ国によるコンペという形になるようです。数百億ドル規模とまで言われている「オーストラリア海軍史上最大の計画」獲得に向け、3国の熾烈な戦いが始まります。

そこで今回は、各国の提案や施策がどのようなものになるか、現時点でわかっている事をまとめた上、比較してみました。


ベストセラー潜水艦の大型化を提案するドイツ

今回の入札に対して、ドイツ鉄鋼・機械大手ティッセン・クルップのグループ企業、ティッセン・クルップ・マリンシステムズ(TKMS)は、U214型潜水艦を基に大型化したU216型を提案しています。原型のU214型はTKMSの輸出用潜水艦の最新モデルで、前のモデルである209型は50隻以上が海外に輸出され、戦後世界で最も普及した通常動力潜水艦です。

ドイツ提案のU216型潜水艦(TKMSサイトより)

U216型は永久磁石を採用する事で従来よりモーターを小型軽量化し、鉛電池より蓄電性能に優れたリチウムイオン電池を採用する等、新機軸を採り入れています。日本との単独契約が伝えられていた頃のオーストラリアは、リチウムイオン電池推進に関心を持っていたと伝えられているので、最新のドイツ潜水艦の特徴であった燃料電池でなく、リチウムイオン電池を搭載してきたのは、大きなアピールポイントになるかもしれません。

潜水艦の輸出大国であるドイツは、豊富な海外輸出経験に加え、高い技術力を持つなど、有力な対抗馬と言えます。


原子力潜水艦の通常動力型を提案するフランス

フランスのDCNSが提案する潜水艦は、現在フランス海軍向けに建造が進められている次期原子力潜水艦シュフラン級(計画名バラクーダ型)の船体を基に、機関を通常動力型に変更したものを提案しています。

フランスが提案するバラクーダ型の原型の原子力推進型(DCNSサイト(PDF)より)

原子力から通常動力に変更されることで、どのくらい原型から変わるのかはまだ明らかではありませんが、原子力型では静粛性に優れたポンプジェットプロペラ推進を採用し、特殊部隊の作戦も考慮した居住スペースを設けており、将来の改良についても柔軟に行える事をウリにしています。



日本の提案と有利なポイント

日本の提案は明らかにされていませんが、オーストラリア側がそうりゅう型潜水艦に興味を示していた事、日本はそうりゅう型そのままの輸出に抵抗を持っていたと報じられていた事から、そうりゅう型を原型としたオーストラリア向け仕様の潜水艦になるのではと推測されます。

海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦(海自写真ギャラリーより)

日本が有利な点としては、オーストラリアへの潜水艦技術の輸出にアメリカ側から好意的な反応がある事です。オーストラリア海軍は装備やシステム面でアメリカとの関係が強く、アメリカの協力が得られるならば日本にとり大きな「援軍」となる上、日本も秘密の多い武器システムを渡す事は避けられるので、日豪両国にメリットがあります。

また、オーストラリアが望んでいる水中排水量4,000トン級の通常動力型潜水艦の建造・運用実績は、日本以外に無いのも強みと言えるでしょう。ドイツとフランスも設計案は出しているものの、以前も拙稿「日本からの潜水艦導入を巡るオーストラリアの事情」でお伝えした通り、オーストラリアは過去に潜水艦、防空駆逐艦調達で実績の無いペーパープランを採用して多数のトラブルに見舞われています。高い買い物の潜水艦で、これらの轍を踏む事は避けたいところでしょう。

気になるのは、そうりゅう型の特徴とされるスターリング機関をどうするかです。スターリング機関は非大気依存推進(AIP)機関の一種で、外気を取り込まずに推進力を得る事が出来ます。通常動力型潜水艦の水中での活動時間を向上させる効果があると考えられており、そうりゅう型ではディーゼル機関の補助として搭載されています。しかし、海上自衛隊の次期潜水艦ではスターリング機関を搭載せず、リチウムイオン電池を採用する事で飛躍的に性能が向上すると報じられており、スターリング機関は過渡的な機関として終わる事になりそうです。オーストラリアも過渡的なスターリング機関ではなく、リチウムイオン電池の搭載を望むかもしれません。


受注に向け動いている独仏


元々は日本と単独契約すると伝えられていただけに、日本有利なポイントもある潜水艦商戦ですが、油断はなりません。すでにライバルは受注に向けた布石を打っています。

フランスのDCNSは昨年11月、オーストラリアに現地法人を設立しました(DCNS公式リリース)。狙いはもちろん次期潜水艦です。現地法人設立にあたっては、アンドリュー豪国防相の訪問を受けています。

ドイツは更に踏み込み、TKMSによる豪ASCの取得を検討しているとIHS Jane'sが伝えています(IHS Jane'sリンク)。ASCはその技術力が疑問視されてはいますが、オーストラリアで潜水艦の保守整備を行うのには欠かせない企業です。ASCを手中にすれば、TKMSは製造から保守サポートまで一貫した提案が可能になり、商戦にあたっての強みとなるでしょう。

独仏が既に大きく動き出している中、日本は政治的な繋がりはあるものの、獲得に向けた具体的な施策では出遅れているのではないでしょうか。オーストラリアは防衛分野でアメリカに次ぐパートナーとなると見られているだけに、今回は是非とも日本案を採用してほしいところ。そのためには、日本も思い切った提案が必要になるかもしれません。



【関連記事】

「元艦長に聞く、潜水艦の世界」講演要旨
海上自衛隊の元潜水艦艦長による講演の要旨。日本の通常動力潜水艦の運用や、その優位点、性能等の貴重な話です。


「日本からの潜水艦導入を巡るオーストラリアの事情」
オーストラリアが日本の潜水艦を欲する事情として、過去の艦艇調達プログラムの失敗について紹介。


「オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ」
オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つ理由について解説した過去記事です。理由はオーストラリアの広大な排他的経済水域にありました。


【関連書籍】





2014年12月2日火曜日

各国軍を悩ます秘密と知的財産権

豪国防相の失言の背景

今年4月に日本の武器輸出が事実上解禁されてから、初の大型案件になるかと注目されているオーストラリアへの潜水艦輸出ですが、当事国オーストラリアで一騒ぎ起きているようです。オーストラリアのデビット・ジョンストン国防相が自国の造船会社ASCについて、「カヌーも造れない」と失言の後に撤回したそうです。


【AFP=時事】オーストラリアの国営造船会社ASCについて「カヌーを造る」能力さえ信用できないと発言した同国のデビッド・ジョンストン(David Johnston)国防相は26日、辞任要求を浴びせられつつ発言を撤回した。



オーストラリア海軍の次期潜水艦計画については過去に拙稿 「オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ」「日本からの潜水艦導入を巡るオーストラリアの事情」でもお伝えしましたが、競争入札を実施せず、指名でオーストラリア国外で建造して輸入する方向で話が進んでいるとされています。2日にはオーストラリア政府高官が潜水艦調達では入札を実施しない旨を重ねて明らかにしています。

[シドニー 2日 ロイター] - 複数の豪政府高官は2日、次期潜水艦建造計画で、競争入札は行わないと発言した。日本企業が受注する可能性が高まったと言えそうだ。ロイターは9月、関係筋の話として、豪政府が、日本企業に建造を発注し、完成品を輸入する方向で日本と協議している、と伝えている。


仮に入札が行われず、オーストラリア国外(日本の可能性が高い)で大部分が建造された場合、ASCと造船所を抱える南オーストラリア州の製造業に深刻な影響を与えるため、オーストラリアでは国内での建造を求める声が根強くあります。


豪政府が希望しているとされるそうりゅう型潜水艦(海上自衛隊写真ギャラリーより)

しかし、ジョンストン国防相が揶揄したように、ASCが技術的・能力的に様々な問題を抱えているのは事実です。ASCは元々、オーストラリア国内でコリンズ級潜水艦を建造するために設立されたオーストラリア潜水艦企業体(Australian Submarine Corporation:ASC)がその前身となっています。しかし、ASCで建造されたコリンズ級は深刻な問題が頻出し、問題解決に追加費用と長い時間を取られる事になりました。

また、ジョンストン国防相が失言する際に例に出していたホバート級イージス駆逐艦もASCで建造中ですが、計画3隻で2億9900万ドル(約350億円)の予算超過がすでに生じています。建造段階で1隻あたり100億円以上の予算超過するのは日本ではまず考えられませんが、ASCはコリンズ級潜水艦に続き、ホバート級イージス駆逐艦でも問題を起こしている事になります。元々、競争入札で対立候補より安い事が決め手となり採用されましたが、結果的には高く付きました。

ホバート級原型のスペインのアルバロ・デ・バサン級フリゲート(Brian Burnell撮影


ASCだけの問題? 多国籍多企業に跨る知的財産権

では、問題はASCの技術力にあるのでしょうか? 恐らくその通りだと思いますが、理由はそれだけではないでしょう。それを窺わせる記事がオーストラリアの全国紙The Australianにありました(オンライン版の記事が既に有料化し、閲覧出来ません)。オーストラリア次期潜水艦計画を巡る各国の状況を解説した記事で、コリンズ級潜水艦の設計や改修に関わったスウェーデンについてこう書かれていました。


「スウェーデンは良い潜水艦を作るが、スウェーデンの設計を基にしたコリンズ級の改修で、法的な問題により海軍は必要なIP(知的財産権)の取得に数十年を要した。スウェーデンはそれが再び起こらないと主張している」



コリンズ級改修の問題に、知的財産権を巡る法的問題があった事を示唆しています。

問題になったコリンズ級はスウェーデンの設計を基にオーストラリアで建造されましたが、この艦の特色として多くの国・企業が建造に関わっており、建造企業のASCにしても豪欧米企業の出資により設立された事からもそれが窺えます。このような形態の防衛装備開発を各国・各企業の優れた技術を組み合わせた、と書くと一見良い事のように思えます。しかし、建造に参加する企業をまとめるプライム企業(ASC)には、機材の仕様から言語、商習慣に至るまでの様々な違いを乗り越えてまとめ、一つの製品として完成させる為の高いインテグレーション能力が求められます。この障害となるのが、各国・各企業の持つ技術・製品の知的財産権です。

民間企業でも知的財産権の蓄積や管理は、企業の競争性を左右する重要な事項ですが、軍事の世界でもそれは同じです。各国共に秘密や特許により知的財産権を保護し、自国の技術的優位性を確保しようとしています。近年はその傾向はますます高まり、武器を購入して配備している国でも触る事の出来ない「ブラックボックス」と呼ばれる部分が増加しています。下の写真は外国から製造ライセンスを購入し、日本で生産している装備品内部の基板ですが、回路の集積化等によりブラックボックスの範囲が拡大し、日本側で弄る事の出来る部分が僅かになっているのが分かります。


装備品のライセンス生産の基板(防衛省資料より)

このような知的財産権を巡る事情から、コリンズ級の改修に必要な多国籍多企業に渡る知的財産権の取得に豪海軍が苦労したのも頷けるでしょう。製品を購入したとしても、知的財産権から情報開示部分が少なかった場合、その装置の問題を解決するのも難しいでしょう。潜水艦の調達を競争入札で行った場合、多国籍多企業に渡る提案が価格競争上優位になる可能性があるので、限られた国・企業が提供する潜水艦(例:日本製)を安全牌として購入した方がトラブルも無く、安上がりで済むのではないかというオーストラリア政府・軍の思惑もありそうです。現実にコリンズ級潜水艦、ホバート級イージス駆逐艦は共に競争入札で決定されましたが、いずれも中核的部分に多国籍に跨る製品を搭載して問題を引き起こしたのですから、ASCへの不信感と並んで、政府・軍の競争入札への不信感は大きいのではないでしょうか。



求められるASCの能力強化

しかし、仮にオーストラリア国外(日本)での建造が行われた場合、前述したような雇用の問題の他に、配備後のメンテナンス問題があります。現在、オーストラリアで潜水艦のメンテナンスを行っているのはASCであり、次期潜水艦は現行の潜水艦より増勢される見込みですから、ASCのメンテナンス能力の強化は必須となります。仮に日本が潜水艦を受注しても、受注で対立関係にあったASCとは配備後のメンテナンスで何らかの協力関係を持たざるを得ません。

この場合、日本が取るべきは、ASCの能力強化を含むパッケージで潜水艦を提案し、雇用への配慮とオーストラリア国内での継続的なメンテナンスを行える環境作りを支援する姿勢を示す事ではないでしょうか。防衛装備はただ売って終わりという性格のものでなく、より2国関係を深化させる作用も持ちます。現在、日本はアメリカに次ぐ安全保障パートナーとして、オーストラリアとの関係を強化しようとしており、その最中に露骨にオーストラリアの雇用を奪って禍根とするのは避けたいところでしょう。長期的視野に立ち、オーストラリアとの関係を維持し深めていく方策が必要となるでしょう。



これから知的財産権と秘密の壁にぶち当たる日本

ここまで主にオーストラリアの例を挙げて解説しましたが、日本も近々オーストラリアに近い問題が起きるかもしれません。航空自衛隊のF-4EJ改戦闘機の後継として、F-35ステルス戦闘機の導入が決定しており、世界でアメリカとイタリアにしかないF-35の最終組立・修理点検施設(FACO)が日本にも建設される事になりました(FACOの詳細は拙稿「日本に設置されるF-35の”整備拠点”と武器輸出三原則見直し」を参照)。F-35の大規模な修理点検はFACOでしか出来ず、イタリアのFACOはヨーロッパ、地中海諸国のF-35の整備を一手に担い、日本のFACOも日本のみならず、アジア、太平洋沿岸国のF-35の整備を行います。


イタリア。カーメリ空軍基地内のFACO(Google Earthより)

ですが、このFACOという仕組みは、配備国にF-35の重要な整備をさせず、ステルスの秘密をアメリカ国外に漏らさない為のシステムでもあります。FACO設置国も例外ではなく、既に稼働しているイタリアのFACOでは、重要な部分は米ロッキード・マーティン社以外触れないとイタリア側が不満を漏らしているとされています。日本もイタリア同様、秘密の壁にぶち当たり、運用上の問題が出る事になるかもしれません。

このように知的財産権と秘密に縛られたF-35の導入と並行して、F-2支援戦闘機の後継として、日本独自開発の次期戦闘機を選択肢に入れる為の研究は既に始まっています。実際に独自開発に移るかはまだ不明ですが、平成30年頃には方針が決まる予定です。高いコストをかけてまで自国開発の道を残すのは、外国機は高性能でも、前述のとおり自国で触れない部分が増えているという事情があります。機体を知る事は運用や稼働率にも関わるため、出来るだけ自国で弄れる部分の多い装備品を求めるのは当然の欲求でしょう。


防衛省技術研究本部で構想中の次期戦闘機コンセプト

近年、装備品価格は高騰の一途を辿っていますが、日本は防衛費の大幅な増額が見込めない以上、どこまで装備品を国産化し、どこまで外国製で任せるかという難しい取捨選択を迫られる事になると思います。国産化によるメリットが高いと判断出来る装備品や技術に対し、有効な投資を継続し、維持発展させていく事が重要となるでしょう。


【関連】

森本敏 編「武器輸出三原則はどうして見直されたのか?」

元防衛大臣の森本敏氏による武器輸出三原則見直しの背景解説(というか、防衛関係者の対談)。三原則見直しにとどまらず、FACOによるアメリカの技術囲い込み、自国技術の維持問題、価格重視の競争入札により性能が犠牲にされている件など、様々な防衛装備品に関する問題について触れられており必読。

毒島刀也「図解 戦闘機の戦い方」

本題から少しずれるけど、現代の戦闘機がどうやって戦うのか、その戦法やテクニック、技術的背景から解説した、ありそうで今まであまり無かったタイプの本。技術的優位の確保も重要な問題になっていると理解出来ます。良著。







2014年10月15日水曜日

日本からの潜水艦導入を巡るオーストラリアの事情

日本を念頭に進むオーストラリア次期潜水艦計画

武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則を制定し、日本が防衛装備品の輸出を事実上解禁して半年が経ちました。この半年で、早くもオーストラリアとの間で大型商談が浮上しています。今月16日に来日するオーストラリアのデービッド・ジョンストン国防相は、次期潜水艦導入に向けて日本側と協議を行うそうです。「オーストラリア史上最大の防衛調達プロジェクト」とも言われる200億ドルを投じる次期潜水艦計画は、競争入札を経ずに日本のそうりゅう型潜水艦を念頭に交渉が進んでいるとも報じられています。


そうりゅう型潜水艦2番艦「うんりゅう」(海上自衛隊ギャラリーより

オーストラリアが求めているのは、現用のコリンズ級潜水艦の代替となる、長期の作戦が可能な大型潜水艦です。これは、オーストラリアが世界でも有数の排他的経済水域を持ち、その防衛・警備の為に長期作戦可能な大型潜水艦を必要としている為です(詳細は拙稿「オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ」を御覧下さい)。2014年現在、水中排水量4,000トンを超える大型潜水艦は原子力潜水艦を除くと、日本でしか製造・運用されておらず、オーストラリアの要求に応えられるのは日本のみという事になります。



ドイツの対抗案

ところが、戦後で最も成功した潜水艦輸出国のドイツが対抗案を出してきました。News.com.auによると、ドイツで潜水艦を建造しているホヴァルツヴェルケ=ドイツ造船(HDW)社を傘下に持つティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)社は、韓国、ギリシャ等で採用実績のある輸出向け潜水艦の214型潜水艦(水中排水量2,000トン前後)を基にした4,000トンの216型を提案するそうです。この提案ではオーストラリア国内で建造を行う旨が示されており、アデレードの造船所で潜水艦を建造する選挙公約を掲げていた現政権にとっては重要な点と言えます。報道では日本で潜水艦建造が行われた場合、3,000人の雇用が失われるとしており、野党を中心に日本からの購入に反対する動きが見られます。


韓国海軍の214型潜水艦「孫元一」(韓国海軍写真ギャラリーより)


対する日本はどのような方法でオーストラリアに潜水艦、あるいは潜水艦技術を提供するのでしょうか。日本国内で製造した潜水艦を輸出する方が日本企業の利益となりそうな上、情報保全の観点からは出来るだけ日本で製造したい思惑もありそうですが、そもそも潜水艦建造には高い技術が求められる為、容易に技術移転出来ないという問題もあります。

また、現代の潜水艦は特殊な鋼材を船体に用いている為、建造には高い溶接技術が求められます。中でも日本の潜水艦に使われている”NS鋼”は日本でしか使われていないので、NS鋼を溶接出来る技術者が国外にいません。潜水艦を建造する川崎重工では、溶接の8割以上をロボット化していますが、仮にこの溶接ロボットをオーストラリアに輸出して溶接技術者問題をクリアしたとしても、オーストラリアは高い初期投投資を行う事になります。もちろん、自国建造では国内産業へのリターンもあるので単純な比較は出来ませんが、輸入より割高な物になるのは避けられそうにありません。



過去に潜水艦で痛い目を見たオーストラリア

そして、過去に潜水艦建造で痛い目を見たオーストラリアの事情もあります。競争入札を経て採用された現用のコリンズ級潜水艦は、スウェーデンのコックムス社の技術をベースに、西欧・米国の様々なメーカーの製品を組み合わせ、オーストラリア国内で建造した大型潜水艦です。ところが、船体溶接の問題、騒音問題、戦闘システムの不具合などの様々な問題に悩まされ、その解決に多くの追加投資と時間を費やす羽目になりました。このような過去の失敗から、オーストラリア政府には自国の建造技術と、現物の無い設計案のみのプランへの不信感があるのではないかと思われます。また、オーストラリアと日本は安全保障上の関係を強化しており、日本から潜水艦を輸入する事で両国の結びつきを強めるという思惑もあるかもしれません。


オーストラリアのコリンズ級潜水艦(米海軍撮影)


ここまでのオーストラリアの事情と、各国の強み、弱みをまとめてみましょう。

オーストラリアが求めるもの:長期の作戦が可能な大型潜水艦。
オーストラリアが心配する事:コリンズ級の失敗を繰り返さない。国内雇用の確保。

日本の強み:大型潜水艦の建造実績が豊富。豪と安全保障関係強化中。
日本の弱み:海外販売経験が無く、サポート体制が未知数。

ドイツの強み:豊富な海外への販売実績とサポート体制。
ドイツの弱み:大型潜水艦建造経験無し。ペーパープランのみ。

また、オーストラリア国内では日本の潜水艦を採用することで、中国との関係悪化を懸念する向きが与党の中にもある点に注意が必要でしょう。競争入札を行わないで潜水艦導入を決める事への反対論も多く、14日に開かれた議会公聴会の外では日本を含む外国での潜水艦建造に反対する労働団体のデモも行われています。オーストラリア国内の状況によっては、日本との交渉も白紙になる可能性もあるかもしれません。

日本としても、秘密の多い潜水艦は出来る限り日本で建造したいところでしょうが、オーストラリアとの安全保障関係強化を優先して譲る所も出てくるでしょう。この場合、どこまで相手を信頼するかという難しい舵取りを日本政府は迫られそうです。



【関連記事】

「元艦長に聞く、潜水艦の世界」講演要旨

海上自衛隊の元潜水艦艦長による講演の要旨。通常動力潜水艦の運用や、その優位点、性能等の貴重な話です。



オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つ理由について解説した過去記事です。理由はオーストラリアの広大な排他的経済水域にありました。



【関連書籍】


浅野亮 (編集), 山内敏秀 (編集) 「中国の海上権力 海軍・商船隊・造船 その戦略と発展状況」

前述の元潜水艦艦長である山内氏による中国の海上権力の分析本。軍に留まらず、商船等の中国海洋勢力に言及している貴重な本です。


中村秀樹「これが潜水艦だ―海上自衛隊の最強兵器の本質と現実 (光人社NF文庫)」

やや潜水艦びいきかなと思う点はありますが、海上自衛隊の元潜水艦艦長による著書で、海上自衛隊内での潜水艦の位置付けや乗員の訓練生活が分かります。


白石光「潜水艦 (歴群図解マスター)」

潜水艦とはなんぞや? という解説本において、歴史からメカニズム、運用まで一冊でカバーした手軽な入門書。



2014年6月2日月曜日

オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ

最近、イギリス旅行にかまけて記事更新を怠ってきましたが、そろそろ通常モードへ移行したいと決心を新たにするdragonerです。

さて、ロイター通信が伝える所によれば、オーストラリアは日本の潜水艦技術に関心を持ち、潜水艦の共同開発等について調整を行っているようです。

[東京/キャンベラ 29日 ロイター] - オーストラリアが関心を寄せる日本の潜水艦技術をめぐり、両国間の協議が本格的に前進する可能性が出てきた。防衛装備品の共同開発に必要な、政府間協定の年内締結が視野に入りつつある。エンジンを供与するだけでなく、日本が船体の開発にも関わる案など、具体的な話も聞かれるようになってきた。ただ、日豪ともに国内での調整課題が多く、実際に計画が合意に至るには、なお時間がかかる見込みだ。

以前からオーストラリアが日本の潜水艦技術に高い関心を示している事は国内外で報道されていましたが、日本政府との調整や潜水艦開発の具体的な内容が報道されるまで話が進んできたようです。現在のところ、オーストラリアは12隻の新型潜水艦の導入を検討していますが、これにどのような形で日本が関わるかはまだまだ予断を許しません。


海上自衛隊の最新鋭潜水艦 そうりゅう型

では、オーストラリアは何故日本の潜水艦技術に興味を持っているのでしょうか。それを考えると、オーストラリアの置かれた立場や狙いが見えてきます。


数か国しかない潜水艦開発国

潜水艦は高い技術が要求される上、秘密にされる部分が多く、自国で建造できる国は限られています。

今現在、潜水艦を自国で開発・建造できる国としては、米英露仏中の核保有国の他にドイツ、イタリア、スペイン、スウェーデン、インド、そして日本が挙げられます。このうち、現在は原子力潜水艦のみ建造している国は米英印で、ディーゼルエンジンを搭載した通常動力型潜水艦の建造技術を持つのはそれ以外の8カ国となります。更に言うなら、イタリアとスペインは共同開発という形で、主要技術をドイツ、フランスに委ねていますので、自力で開発できる国はもっと少なくなります。

また、政治的事情として、アメリカと関係の深いオーストラリアが、ロシアや中国から潜水艦を導入するとは考えられません。よって、これらの国は除外されます。すると、オーストラリアが取れる選択肢はドイツ、フランス、スウェーデン、日本の4つに限られてきます。



オーストラリアの求める潜水艦像

では、オーストラリアが求めている潜水艦とは、どのようなものなのでしょうか?

オーストラリアのコリンズ級潜水艦。多くの不具合が明らかになっている

現在のオーストラリア海軍に配備されている潜水艦は、スウェーデンのコックムス社の協力により1990年代にオーストラリアで建造されたコリンズ級です。スウェーデンは自国での潜水艦開発が出来る数少ない国で、これまでもヴェステルイェトランド級、ゴトランド級などを開発していますが、いずれも排水量は1,000トン台の小型潜水艦でした。しかし、コリンズ級は3,000トン級の通常動力型としては大型の潜水艦で、オーストラリアが単なるスウェーデン海軍仕様のままの小型潜水艦を欲していなかった事が窺えます。しかし、現在配備されているコリンズ級は、開発当初から様々なトラブルに見舞われており、改善事業に多くの予算を費やしていて、評判は今ひとつよくありません。

冒頭のロイターの記事によれば、コリンズ級後継は4,000トン級という条件が付けられており、オーストラリアの強い大型潜水艦志向が窺えます。通常動力型で4,000トン級もの排水量を持つ潜水艦は、現在は日本以外作っておりません。

大型潜水艦は小型潜水艦より取得コスト・維持コストが高くなります。オーストラリアはリーマンショック以降の財政難により、大幅な国防費削減に見舞われています。そのような状況にも関わらず、なぜ高コストな大型潜水艦を望むのでしょうか。


広大な海域を守らなければならないオーストラリア

潜水艦はミサイル攻撃や魚雷攻撃等の派手なイメージがありますが、その主な任務はパトロール、情報収集、哨戒といった隠密性を活かしたものです。これらの任務は平時有事問わず、継続的に長期間行われるため、潜水艦には長期間作戦可能な能力が求められます。この長期作戦能力に重要な要素となるのが、潜水艦の規模です。潜水艦の内部容積が大きいほど、人員や食料、バッテリーが収容できるので、長期の作戦行動に有利になります。オーストラリアの領海と排他的経済水域を足した面積は、世界第2位の約899万平方キロメートルと広大で、6位の日本の倍の広さを誇ります。

排他的経済水域面積、上位7カ国


この広大な海域の権益を守るため、オーストラリアは長期行動可能な大型潜水艦を求めているのです。

では、ここでオーストラリアが取れる選択肢をリストアップして、比較してみましょう。

オーストラリアの潜水艦選択肢

この比較から、オーストラリアが求める大型潜水艦を建造しているのは、選択肢にあるのは日本のみという結果になります。コリンズ級の時と同じく、拡大した設計をヨーロッパのメーカーに求める手もありますが、コリンズ級の開発で失敗した手前、同じ手で失敗を繰り返すリスクを避けたい思惑から、自国で大型潜水艦を設計・開発・運用している日本に大きな関心を抱いても不思議ではないでしょう。

コリンズ級後継艦計画は、現用のコリンズ級6隻を新型潜水艦12隻で置き換える大規模なもので、「オーストラリア海軍史上最大の計画」と呼ばれています。財政難の中でもこのような計画を持っているのは、それだけオーストラリアが海洋とそこから得られる利益を重視しており、莫大な投資に見合うものだと考えている事の証左と言えます。

問題は日本がどこまでオーストラリアに技術を提供できるのか、という判断にかかってきます。オーストラリアはコスト低減や自国企業の利益の為に、自国での建造を含めた技術移転を要求すると思われます。日本にしてみれば、潜水艦は秘密の部分が多いので、出来るだけ技術を国内に留めたいでしょう。この手の技術交渉は破談する事も多々あり、最近も戦車エンジンの技術供与を申し入れていたトルコの提案を、日本は断っています。

まだまだ課題は山積みですが、潜水艦のようなセンシティブな技術情報を共有する事は、それだけ両国の関係が緊密化した事の証であるとも言えます。オーストラリアは日本が情報保護協定を結んだ3カ国目の国で、秘密情報の共有の素地は整っています。あとは政治的決断にかかってきますが、その決断が両国にとって良い結果となればと思います。



【関連書籍】

本当の潜水艦の戦い方―優れた用兵者が操る特異な艦種 (光人社NF文庫)

これが潜水艦だ―海上自衛隊の最強兵器の本質と現実 (光人社NF文庫)


上記2冊はいずれも海上自衛隊の元潜水艦艦長による、潜水艦の任務や戦い方についての本。多少、潜水艦贔屓に過ぎるのではないかというきらいはあるものの、潜水艦の特性を知り尽くした人が書くだけあって、示唆に富んでいます。


潜水艦を探せ―ソノブイ感度あり (光人社NF文庫)


先ほどとは変わって、潜水艦を狩る側からの本。潜水艦がいかに厄介か、それを探知するのにどれだけ苦労するかを知ることで、逆に潜水艦の価値がどういうものか分かります。