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2014年12月2日火曜日

各国軍を悩ます秘密と知的財産権

豪国防相の失言の背景

今年4月に日本の武器輸出が事実上解禁されてから、初の大型案件になるかと注目されているオーストラリアへの潜水艦輸出ですが、当事国オーストラリアで一騒ぎ起きているようです。オーストラリアのデビット・ジョンストン国防相が自国の造船会社ASCについて、「カヌーも造れない」と失言の後に撤回したそうです。


【AFP=時事】オーストラリアの国営造船会社ASCについて「カヌーを造る」能力さえ信用できないと発言した同国のデビッド・ジョンストン(David Johnston)国防相は26日、辞任要求を浴びせられつつ発言を撤回した。



オーストラリア海軍の次期潜水艦計画については過去に拙稿 「オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ」「日本からの潜水艦導入を巡るオーストラリアの事情」でもお伝えしましたが、競争入札を実施せず、指名でオーストラリア国外で建造して輸入する方向で話が進んでいるとされています。2日にはオーストラリア政府高官が潜水艦調達では入札を実施しない旨を重ねて明らかにしています。

[シドニー 2日 ロイター] - 複数の豪政府高官は2日、次期潜水艦建造計画で、競争入札は行わないと発言した。日本企業が受注する可能性が高まったと言えそうだ。ロイターは9月、関係筋の話として、豪政府が、日本企業に建造を発注し、完成品を輸入する方向で日本と協議している、と伝えている。


仮に入札が行われず、オーストラリア国外(日本の可能性が高い)で大部分が建造された場合、ASCと造船所を抱える南オーストラリア州の製造業に深刻な影響を与えるため、オーストラリアでは国内での建造を求める声が根強くあります。


豪政府が希望しているとされるそうりゅう型潜水艦(海上自衛隊写真ギャラリーより)

しかし、ジョンストン国防相が揶揄したように、ASCが技術的・能力的に様々な問題を抱えているのは事実です。ASCは元々、オーストラリア国内でコリンズ級潜水艦を建造するために設立されたオーストラリア潜水艦企業体(Australian Submarine Corporation:ASC)がその前身となっています。しかし、ASCで建造されたコリンズ級は深刻な問題が頻出し、問題解決に追加費用と長い時間を取られる事になりました。

また、ジョンストン国防相が失言する際に例に出していたホバート級イージス駆逐艦もASCで建造中ですが、計画3隻で2億9900万ドル(約350億円)の予算超過がすでに生じています。建造段階で1隻あたり100億円以上の予算超過するのは日本ではまず考えられませんが、ASCはコリンズ級潜水艦に続き、ホバート級イージス駆逐艦でも問題を起こしている事になります。元々、競争入札で対立候補より安い事が決め手となり採用されましたが、結果的には高く付きました。

ホバート級原型のスペインのアルバロ・デ・バサン級フリゲート(Brian Burnell撮影


ASCだけの問題? 多国籍多企業に跨る知的財産権

では、問題はASCの技術力にあるのでしょうか? 恐らくその通りだと思いますが、理由はそれだけではないでしょう。それを窺わせる記事がオーストラリアの全国紙The Australianにありました(オンライン版の記事が既に有料化し、閲覧出来ません)。オーストラリア次期潜水艦計画を巡る各国の状況を解説した記事で、コリンズ級潜水艦の設計や改修に関わったスウェーデンについてこう書かれていました。


「スウェーデンは良い潜水艦を作るが、スウェーデンの設計を基にしたコリンズ級の改修で、法的な問題により海軍は必要なIP(知的財産権)の取得に数十年を要した。スウェーデンはそれが再び起こらないと主張している」



コリンズ級改修の問題に、知的財産権を巡る法的問題があった事を示唆しています。

問題になったコリンズ級はスウェーデンの設計を基にオーストラリアで建造されましたが、この艦の特色として多くの国・企業が建造に関わっており、建造企業のASCにしても豪欧米企業の出資により設立された事からもそれが窺えます。このような形態の防衛装備開発を各国・各企業の優れた技術を組み合わせた、と書くと一見良い事のように思えます。しかし、建造に参加する企業をまとめるプライム企業(ASC)には、機材の仕様から言語、商習慣に至るまでの様々な違いを乗り越えてまとめ、一つの製品として完成させる為の高いインテグレーション能力が求められます。この障害となるのが、各国・各企業の持つ技術・製品の知的財産権です。

民間企業でも知的財産権の蓄積や管理は、企業の競争性を左右する重要な事項ですが、軍事の世界でもそれは同じです。各国共に秘密や特許により知的財産権を保護し、自国の技術的優位性を確保しようとしています。近年はその傾向はますます高まり、武器を購入して配備している国でも触る事の出来ない「ブラックボックス」と呼ばれる部分が増加しています。下の写真は外国から製造ライセンスを購入し、日本で生産している装備品内部の基板ですが、回路の集積化等によりブラックボックスの範囲が拡大し、日本側で弄る事の出来る部分が僅かになっているのが分かります。


装備品のライセンス生産の基板(防衛省資料より)

このような知的財産権を巡る事情から、コリンズ級の改修に必要な多国籍多企業に渡る知的財産権の取得に豪海軍が苦労したのも頷けるでしょう。製品を購入したとしても、知的財産権から情報開示部分が少なかった場合、その装置の問題を解決するのも難しいでしょう。潜水艦の調達を競争入札で行った場合、多国籍多企業に渡る提案が価格競争上優位になる可能性があるので、限られた国・企業が提供する潜水艦(例:日本製)を安全牌として購入した方がトラブルも無く、安上がりで済むのではないかというオーストラリア政府・軍の思惑もありそうです。現実にコリンズ級潜水艦、ホバート級イージス駆逐艦は共に競争入札で決定されましたが、いずれも中核的部分に多国籍に跨る製品を搭載して問題を引き起こしたのですから、ASCへの不信感と並んで、政府・軍の競争入札への不信感は大きいのではないでしょうか。



求められるASCの能力強化

しかし、仮にオーストラリア国外(日本)での建造が行われた場合、前述したような雇用の問題の他に、配備後のメンテナンス問題があります。現在、オーストラリアで潜水艦のメンテナンスを行っているのはASCであり、次期潜水艦は現行の潜水艦より増勢される見込みですから、ASCのメンテナンス能力の強化は必須となります。仮に日本が潜水艦を受注しても、受注で対立関係にあったASCとは配備後のメンテナンスで何らかの協力関係を持たざるを得ません。

この場合、日本が取るべきは、ASCの能力強化を含むパッケージで潜水艦を提案し、雇用への配慮とオーストラリア国内での継続的なメンテナンスを行える環境作りを支援する姿勢を示す事ではないでしょうか。防衛装備はただ売って終わりという性格のものでなく、より2国関係を深化させる作用も持ちます。現在、日本はアメリカに次ぐ安全保障パートナーとして、オーストラリアとの関係を強化しようとしており、その最中に露骨にオーストラリアの雇用を奪って禍根とするのは避けたいところでしょう。長期的視野に立ち、オーストラリアとの関係を維持し深めていく方策が必要となるでしょう。



これから知的財産権と秘密の壁にぶち当たる日本

ここまで主にオーストラリアの例を挙げて解説しましたが、日本も近々オーストラリアに近い問題が起きるかもしれません。航空自衛隊のF-4EJ改戦闘機の後継として、F-35ステルス戦闘機の導入が決定しており、世界でアメリカとイタリアにしかないF-35の最終組立・修理点検施設(FACO)が日本にも建設される事になりました(FACOの詳細は拙稿「日本に設置されるF-35の”整備拠点”と武器輸出三原則見直し」を参照)。F-35の大規模な修理点検はFACOでしか出来ず、イタリアのFACOはヨーロッパ、地中海諸国のF-35の整備を一手に担い、日本のFACOも日本のみならず、アジア、太平洋沿岸国のF-35の整備を行います。


イタリア。カーメリ空軍基地内のFACO(Google Earthより)

ですが、このFACOという仕組みは、配備国にF-35の重要な整備をさせず、ステルスの秘密をアメリカ国外に漏らさない為のシステムでもあります。FACO設置国も例外ではなく、既に稼働しているイタリアのFACOでは、重要な部分は米ロッキード・マーティン社以外触れないとイタリア側が不満を漏らしているとされています。日本もイタリア同様、秘密の壁にぶち当たり、運用上の問題が出る事になるかもしれません。

このように知的財産権と秘密に縛られたF-35の導入と並行して、F-2支援戦闘機の後継として、日本独自開発の次期戦闘機を選択肢に入れる為の研究は既に始まっています。実際に独自開発に移るかはまだ不明ですが、平成30年頃には方針が決まる予定です。高いコストをかけてまで自国開発の道を残すのは、外国機は高性能でも、前述のとおり自国で触れない部分が増えているという事情があります。機体を知る事は運用や稼働率にも関わるため、出来るだけ自国で弄れる部分の多い装備品を求めるのは当然の欲求でしょう。


防衛省技術研究本部で構想中の次期戦闘機コンセプト

近年、装備品価格は高騰の一途を辿っていますが、日本は防衛費の大幅な増額が見込めない以上、どこまで装備品を国産化し、どこまで外国製で任せるかという難しい取捨選択を迫られる事になると思います。国産化によるメリットが高いと判断出来る装備品や技術に対し、有効な投資を継続し、維持発展させていく事が重要となるでしょう。


【関連】

森本敏 編「武器輸出三原則はどうして見直されたのか?」

元防衛大臣の森本敏氏による武器輸出三原則見直しの背景解説(というか、防衛関係者の対談)。三原則見直しにとどまらず、FACOによるアメリカの技術囲い込み、自国技術の維持問題、価格重視の競争入札により性能が犠牲にされている件など、様々な防衛装備品に関する問題について触れられており必読。

毒島刀也「図解 戦闘機の戦い方」

本題から少しずれるけど、現代の戦闘機がどうやって戦うのか、その戦法やテクニック、技術的背景から解説した、ありそうで今まであまり無かったタイプの本。技術的優位の確保も重要な問題になっていると理解出来ます。良著。







2014年11月13日木曜日

防衛技術シンポジウム2014 「将来戦闘機に向けたエンジンの研究実施状況と今後の展望」

将来戦闘機セッションの中で、エンジンについては単独の発表が行われました。






1970年代から研究され、実用機ではT-4練習機に搭載されたF3エンジンに、アフターバーナーを追加したXF3-400エンジン。


その2次元推力偏向ノズルの動作の様子は下記の動画にて。




動画のコメント見ると、将来戦闘機向けの開発と見ている人がいるようですが、これだいぶ昔の研究のはずです。要注意。


さきほどの二次元推力偏向と異なり、実証エンジンでは推力偏向パドルは三次元です。

また、エンジン前方のストラットの形状を、レーダー反射を返さない形状にしています。


ハイパワー、かつスリムなエンジンを追求しているようです。F/A-18E/Fに積まれているF414や、ユーロファイターのEJ200のようなアプローチ。


ご覧の通り、エンジンのスリム化によってレーダー反射面積を減らす、あるいは空いた容積に燃料やウェポンに割く事も出来ます。

でも、エンジンのスリムかつ高出力化って、排気速度向上がその手段になるけど、「騒音増す事になるんじゃ……」と訊いた所、「まだ実際に作った訳でないので、騒音は分からない」とお茶を濁されました。音響ステルスの問題もあるし、日本の基地環境で大丈夫なんだろうか。


あとはエンジンの高温化。より強い耐熱材料が必要になるとともに、排気温度の高温化に伴う赤外線放出量の増大は熱ステルス性の低下を招くので、これはこれで対策が必要という話。



また、流量を増大させるためのファンの大流量化も行う。


アフターバーナ部の保炎器は、実証エンジンでは環状の部分があり、ここが圧力の低下を招いていたけど、次世代ハイパースリムエンジンでは環状部分を無くして損失を抑えている。


こちらも平成30年度前後に要素技術と試作機エンジンの運転が行われる。


2014年11月12日水曜日

防衛技術シンポジウム2014 将来戦闘機セッション 「将来戦闘機に向けた航空機システムの研究実施状況 と今後の展望」

続いて、将来戦闘機の研究実施状況と今後の展望について。こっちの方を将来戦闘機セッションの一番最初に持ってきた方が良さそうな気も……。




将来戦闘機の概要について。赤枠が20年後に実現、青枠が30~40年後に実現されるとみられる要素技術。このうち、F-2後継機の開発で考慮されるのが赤枠。



要素技術のうち、電子戦に強いフライ・バイ・ライトは、既にP-1哨戒機で世界で初めて実用化しており、将来戦闘機に積むものも実用レベルにある。ここでは赤枠の3点を紹介。



クラウド・シューティングは高速かつ秘匿性に優れたデータリンクにより、戦闘機間で情報共有を行うことで、レーダーを照射する機体とミサイルを発射する機体を別々にする事が出来る。



ステルス性については、武装の内装化とダクトを曲げる事でよりステルス性を高める。


クラウドシューティング を実現する為、統合火器管制システムが研究される。

従来の戦闘機では、自分でロックオンして自分が撃つのが基本だが、将来戦闘機は別の機体がロックオンしていれば、両機の中で最適な発射位置にある機がミサイルを発射する事が出来る。



質問をした所、この僚機間のデータリンクは、ミリ波通信が有力であるということ。別のセッションでレーザー通信の話があったが、将来戦闘機用のデータリンクでレーザー通信は技術的問題が多いという話。 また、赤外線や相手側レーダー波を利用したパッシブ測位も行う。



続いてウェポン内装技術の詳細。ウェポンベイを開く際に衝撃波が発生するが、その気流を解析する事で最適な形状・構造等を決める。





また、ウェポンの短時間かつ確実 な分離を行うための機構についても研究。



ステルスインテークダクトの研究。

従来の戦闘機は吸気口からエンジンに至るまでストレートなダクト形状だったが、電波の大きな反射源となっていてステルス化には不利。そのため、ダクトを曲げることでレーダー反射波を散乱させる事でステルス性を高める。



ストレート形状でないため、流れを制御する必要がある。インテーク付近、ダクト付近で気流の一部を外に出すなどの制御を行う。



軽量化構造の研究。ステルス機は重くなりがちなため、従来より複合材率を高め、複合材・金属の接合に用いるファスナを削減する事で軽量化を図る。



これらのキー技術について、平成30年前後までに研究し確立させる。F-2後継機が開発される事になる場合、平成30年度開発スタート、平成40年度に開発完了となる見通し。


クラウド・シューティングを実現する統合火器管制システムは、平成30年ごろに飛行試験を行う。飛行試験に用いる機材は、現用戦闘機に搭載する形で行うものとされる。

「出来たばかりの先進技術実証機(心神)はどう関連するの?」と質問したところ、心神の実測データをフィードバックする形になるという話。


防衛技術シンポジウム2014 将来戦闘機セッション 機体研究

防衛技術シンポジウム2014の中で、一番聴講者が多かったと思われる将来戦闘機セッションについて、ちょっとまとめてみました。



将来戦闘機機体研究は、平成40年以降に更新される事になる現用のF-2支援戦闘機の後継について、要求される主要性能を策定するためのデータを集める研究。


インザループシミュレーションの手法で、デジタルモックアップ(DMU)を制作し、シミュレーションで戦闘能力を評価し、デジタルモックアップに改善・反映を繰り返していく。それで最終的に求められる仕様が決まる。


デジタルモックアップは制作された年度ごとに上の表の通りの特徴がある。25DMUはこの比較では分からないが、行動半径増大の為に23/24DMUより一回り大型の機体となっている。













23~25年度の研究成果を反映した3次元DMUを作成し、27年度に防空シミュレーションにより25/26DMUの評価を実施。空自が策定する将来戦闘機の仕様についての資料となる。