2014年6月2日月曜日

オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ

最近、イギリス旅行にかまけて記事更新を怠ってきましたが、そろそろ通常モードへ移行したいと決心を新たにするdragonerです。

さて、ロイター通信が伝える所によれば、オーストラリアは日本の潜水艦技術に関心を持ち、潜水艦の共同開発等について調整を行っているようです。

[東京/キャンベラ 29日 ロイター] - オーストラリアが関心を寄せる日本の潜水艦技術をめぐり、両国間の協議が本格的に前進する可能性が出てきた。防衛装備品の共同開発に必要な、政府間協定の年内締結が視野に入りつつある。エンジンを供与するだけでなく、日本が船体の開発にも関わる案など、具体的な話も聞かれるようになってきた。ただ、日豪ともに国内での調整課題が多く、実際に計画が合意に至るには、なお時間がかかる見込みだ。

以前からオーストラリアが日本の潜水艦技術に高い関心を示している事は国内外で報道されていましたが、日本政府との調整や潜水艦開発の具体的な内容が報道されるまで話が進んできたようです。現在のところ、オーストラリアは12隻の新型潜水艦の導入を検討していますが、これにどのような形で日本が関わるかはまだまだ予断を許しません。


海上自衛隊の最新鋭潜水艦 そうりゅう型

では、オーストラリアは何故日本の潜水艦技術に興味を持っているのでしょうか。それを考えると、オーストラリアの置かれた立場や狙いが見えてきます。


数か国しかない潜水艦開発国

潜水艦は高い技術が要求される上、秘密にされる部分が多く、自国で建造できる国は限られています。

今現在、潜水艦を自国で開発・建造できる国としては、米英露仏中の核保有国の他にドイツ、イタリア、スペイン、スウェーデン、インド、そして日本が挙げられます。このうち、現在は原子力潜水艦のみ建造している国は米英印で、ディーゼルエンジンを搭載した通常動力型潜水艦の建造技術を持つのはそれ以外の8カ国となります。更に言うなら、イタリアとスペインは共同開発という形で、主要技術をドイツ、フランスに委ねていますので、自力で開発できる国はもっと少なくなります。

また、政治的事情として、アメリカと関係の深いオーストラリアが、ロシアや中国から潜水艦を導入するとは考えられません。よって、これらの国は除外されます。すると、オーストラリアが取れる選択肢はドイツ、フランス、スウェーデン、日本の4つに限られてきます。



オーストラリアの求める潜水艦像

では、オーストラリアが求めている潜水艦とは、どのようなものなのでしょうか?

オーストラリアのコリンズ級潜水艦。多くの不具合が明らかになっている

現在のオーストラリア海軍に配備されている潜水艦は、スウェーデンのコックムス社の協力により1990年代にオーストラリアで建造されたコリンズ級です。スウェーデンは自国での潜水艦開発が出来る数少ない国で、これまでもヴェステルイェトランド級、ゴトランド級などを開発していますが、いずれも排水量は1,000トン台の小型潜水艦でした。しかし、コリンズ級は3,000トン級の通常動力型としては大型の潜水艦で、オーストラリアが単なるスウェーデン海軍仕様のままの小型潜水艦を欲していなかった事が窺えます。しかし、現在配備されているコリンズ級は、開発当初から様々なトラブルに見舞われており、改善事業に多くの予算を費やしていて、評判は今ひとつよくありません。

冒頭のロイターの記事によれば、コリンズ級後継は4,000トン級という条件が付けられており、オーストラリアの強い大型潜水艦志向が窺えます。通常動力型で4,000トン級もの排水量を持つ潜水艦は、現在は日本以外作っておりません。

大型潜水艦は小型潜水艦より取得コスト・維持コストが高くなります。オーストラリアはリーマンショック以降の財政難により、大幅な国防費削減に見舞われています。そのような状況にも関わらず、なぜ高コストな大型潜水艦を望むのでしょうか。


広大な海域を守らなければならないオーストラリア

潜水艦はミサイル攻撃や魚雷攻撃等の派手なイメージがありますが、その主な任務はパトロール、情報収集、哨戒といった隠密性を活かしたものです。これらの任務は平時有事問わず、継続的に長期間行われるため、潜水艦には長期間作戦可能な能力が求められます。この長期作戦能力に重要な要素となるのが、潜水艦の規模です。潜水艦の内部容積が大きいほど、人員や食料、バッテリーが収容できるので、長期の作戦行動に有利になります。オーストラリアの領海と排他的経済水域を足した面積は、世界第2位の約899万平方キロメートルと広大で、6位の日本の倍の広さを誇ります。

排他的経済水域面積、上位7カ国


この広大な海域の権益を守るため、オーストラリアは長期行動可能な大型潜水艦を求めているのです。

では、ここでオーストラリアが取れる選択肢をリストアップして、比較してみましょう。

オーストラリアの潜水艦選択肢

この比較から、オーストラリアが求める大型潜水艦を建造しているのは、選択肢にあるのは日本のみという結果になります。コリンズ級の時と同じく、拡大した設計をヨーロッパのメーカーに求める手もありますが、コリンズ級の開発で失敗した手前、同じ手で失敗を繰り返すリスクを避けたい思惑から、自国で大型潜水艦を設計・開発・運用している日本に大きな関心を抱いても不思議ではないでしょう。

コリンズ級後継艦計画は、現用のコリンズ級6隻を新型潜水艦12隻で置き換える大規模なもので、「オーストラリア海軍史上最大の計画」と呼ばれています。財政難の中でもこのような計画を持っているのは、それだけオーストラリアが海洋とそこから得られる利益を重視しており、莫大な投資に見合うものだと考えている事の証左と言えます。

問題は日本がどこまでオーストラリアに技術を提供できるのか、という判断にかかってきます。オーストラリアはコスト低減や自国企業の利益の為に、自国での建造を含めた技術移転を要求すると思われます。日本にしてみれば、潜水艦は秘密の部分が多いので、出来るだけ技術を国内に留めたいでしょう。この手の技術交渉は破談する事も多々あり、最近も戦車エンジンの技術供与を申し入れていたトルコの提案を、日本は断っています。

まだまだ課題は山積みですが、潜水艦のようなセンシティブな技術情報を共有する事は、それだけ両国の関係が緊密化した事の証であるとも言えます。オーストラリアは日本が情報保護協定を結んだ3カ国目の国で、秘密情報の共有の素地は整っています。あとは政治的決断にかかってきますが、その決断が両国にとって良い結果となればと思います。



【関連書籍】

本当の潜水艦の戦い方―優れた用兵者が操る特異な艦種 (光人社NF文庫)

これが潜水艦だ―海上自衛隊の最強兵器の本質と現実 (光人社NF文庫)


上記2冊はいずれも海上自衛隊の元潜水艦艦長による、潜水艦の任務や戦い方についての本。多少、潜水艦贔屓に過ぎるのではないかというきらいはあるものの、潜水艦の特性を知り尽くした人が書くだけあって、示唆に富んでいます。


潜水艦を探せ―ソノブイ感度あり (光人社NF文庫)


先ほどとは変わって、潜水艦を狩る側からの本。潜水艦がいかに厄介か、それを探知するのにどれだけ苦労するかを知ることで、逆に潜水艦の価値がどういうものか分かります。








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