2014年12月11日木曜日

CIAはなぜ「効果無し」の拷問に走ったか。肥大化する対テロ産業

同時多発テロ以降、対テロ戦争におけるテロ容疑者への拷問をアメリカの軍・情報当局が行っていた事は以前から知られていましたが、米中央情報局(CIA)が行ってきた尋問について、米上院の情報特別委員会は9日に報告書を公表しました。


ワシントン(CNN) 米上院情報特別委員会は9日、米中央情報局(CIA)が2001年の同時多発テロ以降、ブッシュ前政権下でテロ容疑者らに過酷な尋問を行っていた問題についての報告書を公表した。報告書は拷問が横行していたことを指摘し、その実態を明かしたうえで、CIAが主張してきた成果を否定している。



報告はこれまでCIAが主張してきた拷問の成果を否定する内容でした。報告で明らかにされたCIAの「強化尋問」と呼ばれる尋問法は、ベトナム戦争で拷問された経験を持つマケイン上院議員も拷問に相当するものだと証言しています。現代においてもなお、民主主義国家で拷問が行われていたという事実に背筋が寒くなります。

しかし、報告書を巡る報道は、残虐な拷問法をセンセーショナルに伝えているのが目立ちます。その反面、「成果無し」と烙印を押される手法にどうしてCIAが拘り続けていたのか、その点に踏み込んでいないように感じます。そこで今回は虐待の実態ではなく、CIAがどう組織的に問題を起こしていたかに焦点を当てて問題を探っていきたいと思います。


「強化尋問」プログラム。4つの問題

5年に及ぶ調査では、CIAの630万ページ以上に及ぶ記録が精査され、CIAの強化尋問の手法や成果と主張されるものが検証されました。今
回公表されたのは、安全保障上公表に差し支えのある情報を黒塗りした編集版ですが、それでも525ページに及ぶ長大なものです。



米上院情報特別委員会報告書(上院情報特別委員会サイトより)


報告書の作成に携わったダイアン・ファインスタイン上院情報特別委員長のサイトに、報告書の要約が掲載されています。その中でCIAの「強化尋問」プログラムの問題を、以下の4つに集約できるとしています。


  1. CIAの「強化尋問技術」は、'''有効ではなかった'''。
  1. CIAはプログラムの運用とその効果について、政策立案者や国民に'''不正確な情報を提供'''した。
  1. CIAのプログラム管理は、'''不適切かつ深刻な欠陥'''があった。
  1. CIAのプログラムは、CIAが政策立案者や国民に行った'''説明よりはるかに残酷'''だった。



この4つの問題がどのようなものだったのか、ざっと見て行きましょう。



CIAの「強化尋問技術」は、有効ではなかった

強化尋問そのものの有効性については、CIAが強化尋問の成功事例として挙げた例を調査し、CIAが容疑者から有効な証言を得たのは強化尋問を行う前だった事が明らかになった。また、監察官やライス大統領補佐官からプログラムの有効性について検証を行うよう要求されたにも関わらず、それを行っていなかった事をCIAは認めた。



政策立案者や国民に不正確な情報を提供

承認を得るために政策立案者や国民に行われた説明は不正確で、それはホワイトハウスに対しても同様だった。ホワイトハウス当局者から質問が来ても、正直に、あるいは完全に答えない例もあった。
そして、強化尋問は必要であり、その権限が失われた場合、アメリカ人の死を招く結果になると表明した。



CIAのプログラム管理は、不適切かつ深刻な欠陥があった

CIAは十分に訓練・経験を積んだ人材を雇用せず、暴行や虐待歴のある適正に問題がある人材を雇用していた。
CIAはプログラムの開発運用のために外部の心理学者2人と契約したが、彼らに尋問の豊富な経験や、アルカイダや対テロ作戦についての知識はなく、後に2人が設立した会社にCIAは8000万ドルを払って外部委託させた。
CIAの管理下にあったと分かってる119人の拘禁者のうち、少なくとも26人が不当に拘束されていた。CIAは勾留すべきでないと決定した後も、何ヶ月も勾留し続けた。



CIAが政策立案者や国民に行った説明より残酷だった

司法省へのCIAの説明に反して、水攻めは有害で、痙攣や嘔吐を誘発しており、アブ・ズバイダ容疑者は水攻めで口から泡を吹いて意識を失った。
また、必要に応じて最低限行われることになっていた強化尋問も、多くの場合は尋問の最初から止まること無く行われていた。強化尋問を受けた拘禁者は、幻覚、妄想、不眠、自傷等の心理的、行動的な問題を示していた。



昔から知られていた脅迫的尋問の非効率性

上院委員会報告では、虐待を含む強化尋問法の有効性を否定しています。ところが、報告の結論を待つまでもなく、ずっと以前から脅迫的手法による尋問は非効率だという事が知られていました。

第二次世界大戦中、日本兵捕虜の尋問にあたった米海兵隊の調査では、脅迫的な尋問官より、紳士的で捕虜を人間として扱う尋問官の方が成績が良い事が明らかされていて、後の尋問法のセオリーにもなっています。



対テロ産業の巨大化とCIA分析官の能力低下

しかしながら、現実的な問題として、相手国の言語や文化に深く通じた人間がいない限り、穏健で有効な尋問を行うのは難しいでしょう。ワシントン・ポスト紙のデイナ・プリーストによれば、同時多発テロ以降のCIAでは優秀なベテラン分析官が待遇の良い民間へ流出した結果、分析官の3分の2が5年未満の経験しかなく、全分析官が所属する部署の3分の2も多発テロ以後に新設されているなど、人材・組織両面で大きな断絶が生まれているようです。

また、前述したプログラムに関わった外部の心理学者のように、アメリカの情報機関では人員リソースの外部化が進んでおり、対テロ産業とも言うべき巨大産業を形成しています。アメリカの各情報機関の予算総額(軍事情報機関除く)を表す国家情報活動プログラムは、2014年度は505億ドル(約6兆円)と、日本の防衛予算を超える規模にまでなっており、いかに巨大なものかが分かると思います。

アメリカのインテリジェンスコミュニティ。2004年の法改正から、中央の国家情報長官が統括する

このような対テロ産業の巨大化により、従来CIAが保持していた人的リソースが分散してしまい、経験を有するプロパーの専門家が育ちにくくなっているのも、安易に不毛な拷問に走る理由の一端ではないでしょうか。対テロ能力を上げる為に莫大な予算を投じたら、逆に非効率の塊になってしまったこの例は、色々と考えさせるものがあります。

報告が明らかにしたのは拷問の実態と言うより、無駄な拷問をやってしまうような組織力の低下ではないでしょうか。明らかにされた4つの問題でも、無視や糊塗、命令の未実施等があり、組織として問題だらけというのが分かります。この報告を契機に、改善のメスが入れば良いのですが。



【関連】

デイナ・プリースト「トップ・シークレット・アメリカ: 最高機密に覆われる国家」

偉大なる種本。同時多発テロ以降のアメリカで、情報機関とそれにまつわる産業の巨大化により、誰も全容を窺え知る事の出来ないジャングルと化し、国益を逆に損ねている事態にまでなっている事を明らかにしている。矢継ぎ早に通された対テロ予算が莫大すぎて審議出来ないという、多くの国にしてみれば羨ましすぎる話でも、度を超えると喜劇になるというか。


ティム・ワイナー「CIA秘録〈上〉―その誕生から今日まで (文春文庫)」

ティム・ワイナー「CIA秘録〈下〉-その誕生から今日まで (文春文庫)」

文中、「昔のCIAは専門的だった」的な匂わせ方した書き方しましたが、実は昔から無茶苦茶でしたよという身も蓋も無い事実が明らかにされる書。前述の「トップシークレットアメリカ」だと、インテリジェンス・コミュニティ全体の肥大・硬直化が問題にされていますけども。


「SAS・特殊部隊 図解 追跡捕獲実戦マニュアル」

海兵隊による日本兵の尋問調査についてはこちらに少々出ている。本自体は色んなのの焼き直しなんだけどね……。