2013年12月1日日曜日

自衛隊の暗号携帯はAndroidスマホ?

秘密保護法案成立を巡って、色々と騒がしい昨今ですが、秘密保護法の保護対象となる自衛隊暗号に関連する、ある情報が防衛省から公開されました。

陸海空の3自衛隊を束ねる組織である、統合幕僚監部が11月25日付けで公告した入札情報に「秘匿携帯電話プログラムの改修等」というのがあり、入札対象となる携帯端末の性能要求仕様が書いてありました。主な部分を抜粋してみましょう。

  1. OS:Android4.x以上
  2. CPU:1.7GHz以上、クアッドコア以上
  3. メモリ:RAM 2GB以上、ROM 32GB以上
  4. 外部メモリ:microSD、microSDHCに対応していること。
  5. 通信方式:GSM、3G(HSPA)、LTEに対応していること。
  6. GPS:GPS機能を有すること
  7. ディスプレイ:解像度720×1280ピクセル以上
  8. 専用線対応:専用線データ通信サービスが利用できること

Android4.x以上で1.7GHzのクアッドコアと、最新のフラッグシップ・モデルには届かないものの、液晶の解像度以外は高いスペックが要求されています。ハードウェアとしては、市場モデルに若干の改修と暗号化プログラムがインストールされたもので、3G通信はHSPAを使うので、キャリアはNTTドコモ・ソフトバンクのどちらかと思われますが、国とNTTグループとの関係から、恐らくドコモがキャリアでしょう。

様々な機能が要求されていますが、一方で情報漏洩対策で、制限も課せられています。管理装置からの遠隔操作により、携帯端末の通話やメールの送受信、Wi-FiやBluetoothといった無線機能等を制限できることを要求しています。もちろん、電話帳や履歴などのデータを遠隔消去することも要求に含まれています。

結構色々細かいところまで書かれているのですが、秘密保護法案が成立すると、このような情報も公開されなくなるのでしょうか?

もし、法案が正しい運用をされるのであるならば、このような情報は秘密の対象とならないと考えられます。と言うのも、既に自衛隊法によって、「我が国の防衛上特に秘匿することが必要」とされるものは防衛秘密に指定されており、「防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法」と「防衛の用に供する暗号」は防衛秘密に該当します。ですが、暗号化のキモである秘匿用規約(プロトコル)の仕様は公開されておりません。つまり、この程度の情報を公開したところで、暗号の健全性への脅威にはならないので、国家の安全には問題ないと判断されているのです。また、競争入札である以上は公示の必要があるため、今後もある程度詳細なスペックが公開されることでしょう。むしろ、これまで公開に問題がなかったこのような情報まで秘密にされた時は、秘密保護法が不健全な運用をされている可能性があります。

秘密保護法の理念としては、秘密により国家・国民の安全を担保することですが、秘密指定の乱用は逆効果に陥る事がしばしばあります。実際、アメリカでは同時多発テロ以降に爆発的に秘密指定を受ける情報が増加し、情報のチェック機能は失われ、有益な情報が組織間で共有されることもなく、却って秘密がアメリカの政策と国益に深刻なダメージを与えていることが、ワシントン・ポスト紙のチームによって明らかにされています(詳細はデイナ・プリースト「トップ・シークレット・アメリカ: 最高機密に覆われる国家」を参照)。

我々が注意すべきは、秘密保護法案がその理念から外れ、ただただ失敗を糊塗するための法案に成り下がってしまうことです。このような事態に陥らないためにも、これまで公開されてきた情報と法案施行後の公開情報にどのような違いがあるかを比較し、なにが秘密にされているかを明らかにし、その秘密指定の妥当性を検討する働きが重要になってくるでしょう。第三者機関を政府内に置くことを安部総理は考えているようですが、秘密を作る当人である政府よりも、国民の代表である議会による機関と、規則に基いて秘密情報をチェックする国の機関として設置するのが望ましい形になると思われます。


【関連】
アブグレイブ刑務所での虐待をスクープし、ピューリッツァー賞を受賞したワシントン・ポスト記者と、冷戦時代に電話帳などの公開情報のみで在欧米軍の核兵器貯蔵庫を明らかにした元米軍情報アナリストの共著。911以降のアメリカで、秘密情報の飛躍的増加と、情報機関の相次ぐ拡大により、アメリカの国益は損なわれていく様を克明に明らかにしています。必読。

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