週刊オブイェクト「03式中距離地対空誘導弾(改)」
このパンフPDFは防衛技術シンポジウムの会場でも配られたものと同じなので、未見の方は是非読まれると良いと思います。
さて、今日は防衛技術シンポジウムで公開されていた技術で、中SAM改にも関連するミサイルのロケットモーター技術について紹介したいと思います。
直巻マルチセグメント・ロケットモータ
ミサイルの推進方式は、ジェット推進、ロケット推進の2方式(あるいは両方)に大別できます。このうちジェット推進が外気を酸化剤に利用するのに対し、ロケット推進では搭載された酸化剤を推進剤と燃焼させて飛行します。
現在使われている固体ロケットは、点火後の推力変更が容易な液体ロケットと比べ、点火後の推力調整が難しいという問題があります。このため、固体ロケットは推進剤内部に「光芒」と呼ばれる星形の切り込みを成型しており、ロケットに求められる推力の変化をこの光芒を拡げたり、狭めたりして実現しています。光芒により、燃焼する速度や面積を調整しているのです。
光芒の説明 |
ところが、この方法には問題があります。推進剤は金属あるいはCFRP製のケースに充填されていますが、光芒として削った分、推進剤は減る事になり、当然ロケットの飛翔距離が短くなるのです。
もう一つの問題として、推進剤の熱収縮による応力緩和の為のスリットの問題があります。
熱収縮と応力緩和スロット |
ロケットの製造時、推進剤は熱せられて液状でケースに充填され、時間を置いて推進剤を冷却・固体化します。推進剤が充填時に摂氏60度で液状化していた場合、それを充填したロケットモーターが気温マイナス30度の高空を飛行すると、推進剤には90度分の熱収縮が発生します。この収縮で推進剤にクラック・隙間が発生し、燃焼に問題が出る可能性があります。これを防ぐために、あらかじめ推進剤に応力緩和スリットを設け、クラックの発生を予防します。このスリット分の隙間は、推進剤は詰められませんので、これも飛翔距離が短くなる原因となります。
この2つの問題を解決できる研究が、直巻マルチセグメント・ロケットモーターです。ここでは2つの技術が使われていますので、それぞれ見て行きましょう。
推進剤のマルチセグメント化
まず、光芒の問題に対しては、推進剤のマルチセグメント化が解決策としてあります。カットモデルの説明 |
このマルチセグメントとは、燃焼特性の異なる推進剤を分けて充填することで、点火後の推力変化を可能にする技術です。これにより、推進剤間の耐熱材(サーマルバリア)のスペースは増えますが、複雑な光芒は不要になりケースに充填出来る推進剤の量が増加する事になります。
カットモデル |
直巻Filament Winding技術
前述しましたが、従来の固体ロケットモーターは、金属・CFRP製のケースに熱して液体化した推進剤を充填し、固体化させる製法をとっていました。この製法は充填時の温度と、高空で想定される温度に大きな差があり、温度差による熱収縮対策に応力緩和スロットを設ける必要がありました。
直巻FW製法の説明 |
この熱収縮の問題を解決するための技術が、直巻Filament Windingです。これは常温で固体化している推進剤を、樹脂を含んだ炭素繊維で巻いて樹脂を硬化させて、ケースとして用いるという製造法です。
直巻FW法により、熱収縮が小さくなる |
これにより、20度の気温で製造したロケットモーターは、外気温マイナス30度の環境でも熱収縮は50度分で済み、応力緩和スロットが不要または小さくなります。これにより、充填率が向上し、飛翔距離が増大します。
直巻ケースの外観 |
拡大。繊維が巻きつけられているのが分かる |
この2つの技術が用いられているのが直巻マルチセグメント・ロケットモータで、両技術は着火後の推力変更を可能にしつつ、ケース内部の推進剤充填率を上げる事になります。推進剤を詰めるため、僅かな隙間を削る涙ぐましい努力とも言えるでしょう。
まだこの技術が装備に応用されるのは先のことですが、同サイズでより長射程化が達成できそうです。
全般説明 |
Q.燃焼特性の異なる複数の推進剤を詰んで、トータルの飛翔距離は悪くなったりしないのか?
A.トータルで悪くはならなかった。所定の推力パターンも実現できた。
Q.ケースが金属製 or CFRP製から炭素繊維+樹脂製になるが、強度的に問題なかったのか?
A.問題は無い。
Q.製造方式が従来と異なるが、製造期間に差はあるのか?
A.従来と同じくらい。充填した液体を硬化させる手間等は無いが、巻きつけや樹脂の硬化で時間はかかる。
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