2014年11月20日木曜日

防衛技術シンポジウム2014レポ 「軽量戦闘車両システム」

防衛技術シンポジウムから1週間経ってますが、ようやく崩してた体調が上向いたので、ぼちぼちレポートを消化したいと思います。まずは「軽量戦闘車両システム」です。



軽量車両システムは、C-130輸送機で1両、開発中のC-2輸送機で2両輸送可能な戦闘車両システムについての研究です。まず第一に、この輸送機に搭載可能という条件が設定され、そこから約15トンという重量が求められています。







軽量戦闘車両システムは大口径火砲を搭載する火砲型と、人員を輸送する耐爆型の2タイプが構想されています。技術的特徴としては、火砲型にデュアルリコイル、耐爆型に耐爆構造、2タイプ共通なものにインホイールモーターがあります。

それぞれ、防衛省技術研究本部の展示パネルや、実際の展示物を交えて解説しましょう。



低反動砲搭載の火砲型


デュアルリコイル

通常、火砲の径が大きい程、発射できる弾の重量を増やせる為、高威力化します。しかし、大口径・高威力化で発射時の反動が強くなるので、車両に搭載するには反動を緩衝する機構が必要になります。軽量戦闘車両システムの火砲型では、反動を2段階で緩衝する機構を設ける事で軽量車両への大口径砲の搭載を可能にしています。

上図のように1段目で砲の軸に沿って後座する事で緩衝し、2段目で水平方向に後座する事で反動を抑えます。これにより、従来は射撃に8輪装甲車が必要だった砲が、6輪装甲車でも撃てるようになったとのことです。

このシステムの問題としては、緩衝にかかる時間が1段式より長い為、弾を発射した後に次弾を発射するまでの間隔が1段式より長いということです。この事について説明にあたっていた技官に質問した所、「緩衝にかかる時間が従来より長いのは事実だが、次弾発射までの手順の一部にしか過ぎない。仮にデュアルリコイルの部分が従来の倍時間がかかっても、次弾発射までの時間が倍になるという事は無い」とのことでした。また、開発中の機動戦闘車と比較して、想定目標は低脅威であるため、発射速度はそこまで求められるものではないとのことです。

なお、この低反動砲は試作されていますが、砲身部は機動戦闘車用の流用で、105ミリ口径の砲となっています。仮にこのコンセプトが装備化された場合、砲は機動戦闘車と共用化するのかと尋ねた所、機動戦闘車より低脅威の目標を想定しているので、もっと短い砲身長になるだろうとのことでした。機動戦闘車と同じ砲を流用しているのは、あくまで現物があって都合が良かったからとのこと。

火砲には大別すると、直接照準して低い弾道を描く直接照準射撃と、観測情報に基いて山なりの弾道で射撃を行う間接射撃の2通りの射撃法がありますが、この軽量戦闘車両システムでは1両で直接・間接射撃双方行えるようになっています。

ところが、流用した機動戦闘車の砲は、低い弾道を描く直接照準射撃に主眼を置いており、山なりの弾道を描くには向いていません。そのため、砲弾の側に工夫がなされています。下の写真がその砲弾です。

105ミリ試験弾


この砲弾の先端部を見てみましょう。

抵抗板


先端部に空気抵抗を増大させる抵抗板を付けており、これにより意図的に弾道を山なりにしています。もっとも、今回試験に用いたほうが機動戦闘車の砲だっただけで、仮に装備化されるのならば、山なりの弾道を描くのに向いた短い砲身長の砲になるだろうとのことで、この抵抗板付き弾が出るかどうかは分かりません。


人員輸送の耐爆型

人員輸送を目的とした耐爆型では、大型地雷や即席爆発装置(IED)から人員を守る構造の研究が行われます。

耐爆車箱と呼ばれる構造では、底面をV字型にして爆風を側面に逃す構造にするだけでなく、爆発の衝撃で車内の人間がどう動かされるかについてもシミュレーションを重ねています。下の写真は爆発時に車内の人間が上に突き上げられた状態だそうで、頭や膝の保護についても考えなければなりません。


耐爆型の内部シミュレーション


また、先ほど底面がV字化する事で爆風を側面に逃す構造としましたが、それを更に有効化する機構があります。

耐爆型のV字型構造

底面のV字形状をより有効化するため、耐爆型では車高を高めに変化させる事が可能です。これにより、爆風が側面に逃れるための空間が増し、より効率的に爆発の威力を逃がす事が可能になります。

この車高可変機構については、車体の重心を上げる事になる為、爆発物の埋設の危険性が高い地域のみで使用する等が想定されているそうです。



共通技術 インホイールモーター

火砲型と耐爆型の2タイプごとの技術的特徴を述べましたが、最後は2タイプに共通する技術です。

インホイールモーター

従来の装輪車両では、エンジンからの動力を車輪にシャフト等を通じて機械的に伝達していました。インホイールモーターでは、各車輪にモーターが内蔵され、発電機からの電力によりモーター駆動します。これにより、軸が破損すると走行出来なくなる従来の車両と比べ、各車輪が独立したインホイールモーター式では一つの車輪が破壊されても残りの車輪で走行可能で、車両の生存性を大きく向上させます。また、車内に軸が通らない事により車体設計の自由度が増す事、より複雑な車輪制御による走破性の向上や、発電機を停止させてバッテリーの電力のみによる静音走行が出来る等の利点もあります。

写真はインホイールモーターの実物で、小松製作所の名前が貼ってありますが、小松製作所はプライムのためで、実際のモーター製作は日立とのこと。

試作試験は各要素のみ、試作車両は仮想空間で試験

この軽量戦闘車両システムの研究では、砲システムや耐爆車箱等の構成要素は試作して試験が行われますが、車両全体としては試作されません。従来、技術研究本部の戦闘車両システムの研究、例えば10式戦車の原型とも言える将来戦闘車両の研究では、90式戦車の試作車両を流用して試作車が製作されていましたが(この将来戦闘車両の研究については、拙著「10式戦車データ大全」に書いています)、今回の研究では各構成要素の試験データを元に、車両システムそのものはコンピュータ上のシミュレーションで組み立てられ、試験が行われます。


車両をシミュレーション


このシミュレーションにより、試作車両製作にかかるコストを抑え、様々な試験を行う事が可能となっています。今後、研究予算が限られていく中で、このようなシミュレーションを用いた研究がますます盛んになっていくものと思われます。


その他説明していた技官との会話で得た話。

「軽量車両システム」は陸上幕僚監部からの要求ではなく、技術的に提案可能なプランとして独自に立ち上げた。

デュアルリコイルと耐爆車箱を一つの車両に導入は出来ない。別個の車両になる。

火砲型・耐爆型で車両のファミリー化のように見えるが、ファミリー化と言えるほど共通部分は無い。足回り(インホイールモーター)が同じくらい。

オーストラリアから購入するブッシュマスター装甲車を使って、耐弾・耐爆試験もするかもしれない。



【関連】

「10式戦車データ大全」

本文中でも触れましたが、10式戦車開発に先立つ「将来戦闘車両の研究」について、唯一に近い本を夏コミで同人誌として出しましたが、このたびキンドルで電子書籍として配信しています。10式と将来戦闘車両の話ですね。


「陸上防衛技術のすべて (防衛技術選書 兵器と防衛技術シリーズ)」

航空と比べて本が少ない陸上装備開発については、こちらの本を。インホイールモーターについては、ちょっと少なめですが……。