2013年4月21日日曜日

IED(即席爆発装置)のお話(後編)

前編からの続き


自己鍛造弾型IEDの登場


さて、前編で紹介したIEDですが、その当初は、人員や車両などの装甲を施されていないか軽装甲の車両を標的としておりました。しかし、米軍などでMRAP等のIED対策を意識した人員輸送用の装甲車の配備が進んでくると、今度は装甲貫徹能力と長い射程距離が備わったIEDが出始めました。

その一つが下の写真です。

自己鍛造弾型IED(Wikipediaより


このIEDは自己鍛造弾と呼ばれる仕組みを利用しています。自己鍛造弾とは、ゆるい逆円錐形の金属ライナーの後方で爆発が起こると、金属ライナーが弾丸状になって秒速3000メートルほどのスピードで飛翔する成形炸薬弾の一種で、成形炸薬弾としては長距離である数十メートルの有効射程を持っています。


自己鍛造弾の金属変形過程(Wikipediaより

この自己鍛造型IEDの厄介なところは、装甲車の装甲を貫徹する能力があるだけでなく、金属製鍋を金属ライナーに流用できる点が挙げられます。鍋は生活必需品であり、武器弾薬と違って規制や流通の阻止が難しいことです。




IEDの無力化対策


IED対策については、乗員の防護性を上げること、IEDを誤作動させること、IEDを無力化することなどが考えられています。

このうち、乗員の防護については、先に上げたMRAP等のIEDに特化した兵員輸送車両や、戦車・IFV等の重装甲が施された車両による防護か考えられます。しかしながら、この対策には非常にコストがかかると共に、先に上げた自己鍛造弾型IEDに対しては、効果が保証できない問題があります。


MRAP(Wikipediaより

自己鍛造弾型IEDについては、車両前方に熱板を取り付け、熱板にIEDが反応して誤作動させる手段があります。この手法では爆発は起きますが、自己鍛造弾は車両前方の熱板に命中しますので、車両への被害は抑えられるという利点があります。しかし、武装勢力側も熱板を考慮して、IEDの作動を遅らせたり、熱板の後方を狙うようにIEDを調整するなどの対策をとっており、イタチごっこの様相を見せています。

IEDの無力化についての研究で、現在最も盛んに行われているのは。マイクロ波を用いるものです。
マイクロ波によりIEDの爆破指令電波を妨害する、あるいはIEDに使われる電子回路を焼損又は論理的に混乱させることで、IEDを無力化するなどの手法が取られており、米海軍では味方システムの電子回路への影響が考えられ、マイクロ波の出力や人体への影響などの問題も存在しており、決定的な無力化手段はまだ生まれていないのが現状です。



外傷性脳損傷(TBI)


IEDの特徴的な点として、攻撃を受けた多くの兵士に外傷性脳損傷(TBI:Traumatic brain injury)と呼ばれる脳障害が見られることが挙げられます。TBIとは、外部からの衝撃によって脳全体に損傷が生じ、記憶障害、コミュニケーション能力の低下や四肢の麻痺が生じる障害のことです。日本でも交通事故被害者に見られますが、認知度が低いために気づいていない患者が多いとされています。

TBIの恐ろしいところは、装甲車両や防護服で破片などから守られても、車両横転や爆破の衝撃によって脳に損傷を受けるケースなどが存在することです。この場合、目立った外傷は無く、意識の混濁などが見られないこともあるために障害が見過ごされるケースが多いのです。
IEDが使われる以前の主要な脅威であった地雷は、手足の損傷が主だった被害でしたので障害の判別は容易でしたが、TBIは外見的に異常が見られない上、MRIでも診断が難しく、障害が見過ごされる事が多くあります。歩行困難のみならず、コミュニケーション能力の低下によって、患者の社会生活が困難になるなどの問題も生じています。

アフガニスタン・イラクでの米軍におけるTBIの患者は、2001年から2010年にかけて14万人に達しており、両戦争に派遣された米軍兵士の7%に相当するとされております。

この状況を受け、米軍では以下の方針を定めました。
  1. 爆発などで破壊された車両に乗っていた
  2. 爆発から50メートル以内にいた
  3. 頭部に直接的な衝撃を受けた
以上に該当する兵士に対しては、爆発後24時間は安静と新たな任務に入らないように義務付け、早期発見の為の問診を受けるなどの対策をとるようになりました。


IEDの恐ろしい点は、爆発威力が大きいために周囲の民間人への被害も大きい点です。ありあわせの材料で作れてしまうため、根本的な解決策として、不安定地域の一刻も早い秩序回復が求められます。

以上

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