2014年1月15日水曜日

海上自衛隊輸送艦衝突事故、まずは冷静な報道を

本日の午前8時頃、広島県の阿多田島沖で海上自衛隊の輸送艦”おおすみ”と釣り船が衝突し、釣り船は沈没、釣り客2名が心肺停止の状態で病院に搬送されたと報道されています。

15日午前8時ごろ、広島県大竹市の阿多田島沖の瀬戸内海で、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」(艦長・田中久行2佐)と釣り船が衝突した。船は沈没し、客ら4人全員が救助されたが、うち2人は心肺停止状態という。


15 日午前8時ごろ、広島県大竹市の阿多田島(あたたじま)東側の瀬戸内海で、海上自衛隊呉基地(広島県呉市)所属の輸送艦「おおすみ」(艦長・田中久行2等 海佐)から「釣り船を避けようとしたところ釣り船が転覆し、乗組員を救助中」と、第6管区海上保安本部(広島市)に連絡が入った。防衛省はおおすみと釣り 船が衝突したと発表した。広島海上保安部によると、釣り船の船長1人と釣り客3人は付近にいた漁船やおおすみの搭載艇に救助されたが、うち2人が心肺停止 状態で、山口県岩国市内の病院に搬送された。


治療中の釣り客が快方に向かう事を願うと共に、事故の原因究明をしっかり行って頂きたいと思います。


釣り舟と衝突した”おおすみ”同型艦の”しもきた”(海上自衛隊写真ギャラリーより


事故発生から間もないので、この事故に対するマスコミの報道姿勢はまだ定まっていないように見えます。しかし、過去に発生した自衛隊の艦船と民間船舶の衝突事故において、マスコミの報道姿勢は一貫して自衛隊に否定的でした。

記憶に新しい2008年のイージス艦”あたご”と漁船の衝突事故では、事故発生の当初から、自衛隊を非難する報道ばかりだった事は皆様も承 知の事と思います。しかし、裁判では被告となった自衛官の無罪が証明され、昨年の6月には無罪判決が確定したという報道は、自衛隊バッシングの報道と比 べ、あまりにあっさりしたものでした。この事件が自衛隊に責任が無かった事を知っている方は、事故を知っている方と比べて少ないかもしれません。公判の過 程では、検察庁が検察側証人である漁船僚船乗組員の証言を捏造した上、海上保安庁も証拠となる漁船乗組員が作成したレーダー図を廃棄・隠蔽していた事も明 らかになっており、検察は極めて乏しい証拠と信頼性にかける証言のみで自衛官を訴追しておりました。

”あたご”の衝突事故の無罪判決については、被告側弁護人を務めた田中崇公弁護士がツイッターで詳しく発言しており、そのまとめが下記のリンクで公開されていますので、是非ご覧頂ければと思います。


イージス艦「あたご」事件弁護人田中崇公先生のつぶやき。


さ て、今回の衝突事故については、まだ発生間も無い事もあり、まだマスコミ各社の報道姿勢が定まっていないようです。しかし、過去の自衛隊の事故において は、事故の全容が明らかになっていない時点で盛大な自衛隊バッシングを行う反面、無罪判決は控えめに報道する事が行われてきました。これは他の事件報道に も言えますが、罪が確定していない状況で、マスコミが容疑者・被告を殊更にバッシングする必要はあるのでしょうか。

海難審判は専門的でその理解は難しく、事故当時の再現などの全容解明には時間がかかるものです。マスコミ各社におかれては、今回の事故について、過去の報道も鑑みて冷静な報道を心がけて欲しいものです。



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※訂正:記事の中で、あたご乗員の弁護を担当された田中崇公弁護士の肩書が抜けておりました。訂正の上、お詫び致します。

2014年1月14日火曜日

都知事選の最大の争点が脱原発とか、最初に言い出したのは誰なのかしら

猪瀬知事の辞職に伴い、来月9日に投票が行われる東京都知事選。そろそろ主要候補が出揃った感がありますが、不可思議なのは選挙戦の争点です。共同通信はこんな事書いています。


細川護熙元首相(76)が14日、脱原発を掲げて東京都知事選(23日告示、2月9日投開票)への立候補を表明し、自民、公明両党が支援する舛添要一元厚生労働相(65)らと争う首都決戦の構図が鮮明になった。脱原発を最大の争点に、2020年東京五輪に向けた取り組みや、首都直下型地震に備えた防災対策強化などが論戦のテーマとなる。舛添氏は14日、立候補を正式に表明した。民主党都連は細川氏支援を決めた。


今回の都知事選は、脱原発が最大の争点だそうです。でも、本当にそうなんでしょうか。1月14日現在、都知事選で有力候補と目される細川護煕氏、宇都宮けんじ氏、舛添要一氏のいずれも脱原発派であると表明しており、特に細川・宇都宮両氏は脱原発を選挙の焦点とする発言を繰り返しておりました。

しかし、現実問題として、東京都知事が国策であるエネルギー政策にどれだけ影響を及ぼせるのでしょうか。更に言えば、東京都に原発は無く、都内の水力・火力発電所の発電能力も都の電力需要に及ぼない、単なる電力消費地となっています。脱原発という国策に東京都が影響力を与えられるのは、電力の最大需要者として、省エネ政策を推し進める事以外に無いと思います。

ところが、メディアでは脱原発が都知事選の焦点になっている点は繰り返し報道されています。そこで説明に使われるのは、東京都が東京電力の主要株主であるという事実です。


都は東京電力の主要株主で、原発問題への影響力も大きい。


東京都が東京電力の株主である点は事実ですが、ここで実際に東京都がどの程度の議決権を持っているかを見てみましょう。

東京電力の議決権の割合(東京電力第90期第2四半期報告書より)



東京電力の主要株主のうち、東京都は議決権数は第4位、議決権全体に占める割合は1.34%しかありません。しかも、議決権全体の過半数は官民共同出資の原子力損害賠償支援機構が握っており、国が実質的な東京電力の経営権を持っております。なお、東京新聞は「主要株主」と書いていますが、「主要株主」の定義は『発行済株式の総数の100分の10以上の株式を有している株主』のことで、その意味では東京都は主要株主ですらありません。1%以上の議決権を有する場合は議案を提案できますが、事実上議決権の過半数を有している国と対立する議案の場合は、提案だけに終わるでしょう。

ここまで現実問題として、東京都知事が脱原発に及ぼせる影響力を見てみましたが、本当に脱原発は争点なのか、という問題に立ち返ってみましょう。この点について、東京新聞が都民の都知事選に対する意識調査を公表しました。


投票の際に重視する政策は「医療・福祉」「教育・子育て」「原発・エネルギー政策」「雇用対策」の順だった。


脱原発色を鮮明にしている東京新聞の調査ですら、東京都民にとって脱原発政策は「投票の際重視する政策」の第3位です。「投票の際重視する政策」は順番だけ公表し、割合を公表していない反面、原発の可否に関する調査は割合を公表しているので、東京新聞の予測よりも、脱原発が最重要の政策と答えた都民は少なかったのかもしれません。

このような都民の空気を感じ取ったのか、脱原発を訴える候補の1人である宇都宮けんじ氏の講演会サイトでは、以前まで政策一覧の中で原発絡みが1番目2番目を占めていたものが、最近差し替えられた基本政策では3番目に後退しており、脱原発以外を焦点に変えつつあるようです。

有権者の関心事に即して、候補が争点の軌道修正をすることは、有権者の意思を反映させるという点でとても正しい事だと思います。しかしながら、都知事選候補者に争点の変化が見られるようになった現在、依然として脱原発が争点とする報道は続いており、一向に減る気配を見せません。現実的に東京都に出来る事が限られている原発政策にばかりが報道され、肝心の都民の為の政策議論がおざなりにされている現状は、都民にとって不幸以外の何者でもないと思うのですが、いかがでしょうか。

候補者の皆様におかれましては、猪瀬前都知事の新刊「勝ち抜く力」をお読みになって、選挙戦を勝ち抜いてほしいものです。




2014年1月8日水曜日

護衛艦いずもは空母だって? ご冗談を

新年早々、朝日新聞がこんな記事を載せています。


海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」が昨夏、進水した。どう見ても空母だが、防衛省は「空母ではない」という。どういうこと?


”いずも”型護衛艦は、艦首から艦尾に至る長大な飛行甲板を持っており、この事をして見た目が空母と同じだから空母と言いたいようです。

進水時の護衛艦いずも

しかし、全通甲板を持つ事で空母(あるいは軽空母)である、またはその能力を持つという主張は、90年代に”おおすみ”型輸送艦が建造された際に加え、”いずも”型護衛艦の姉妹艦に相当する”ひゅうが”型護衛艦が計画されていた時も、朝日新聞は繰り返し報道しております。20年近くも同じネタを繰り返すのは、売れない芸人を見ているのに似て、憐憫の情が湧かなくもないですが、一体何回繰り返すつもりなんでしょうか。

全通甲板を持つ”おおすみ”型護衛艦(海上自衛隊写真ギャラリーより

また、こうも書いています。

船体の長さ約250メートル。排水量1万9500トン。真珠湾攻撃に参加した旧日本海軍の空母「翔鶴(しょうかく)」「瑞鶴(ずいかく)」に近い大きさだ。


まず、70年前の兵器と現代の兵器の分類を同列に語る時点でどうかしていると思います。自衛隊の90式戦車は50トンの重量がありますが、90式戦車より軽い大戦中のパーシング(アメリカ)、KV-1(ソ連)のように重戦車と呼ぶ事はありません。もっと身近に例えれば、現代のスマートフォンは、昔のスーパーコンピュータ以上の処理能力がありますが、スマートフォンをスーパーコンピュータと呼ぶ人はいないのと同じ事です。

現代における空母瑞鶴の画像検索結果

まあ、こんな茶々は置いときましょう。ところが、朝日新聞では、”軍事ジャーナリスト”という肩書の方のコメントを引っ張ってきて、空母であると言いたいようです。

軍事ジャーナリストの清谷信一氏は「世界標準では空母そのもの。政府は政治問題化するのを恐れ、なし崩し的に拡大解釈しているのでは」と指摘する。(谷田邦一)


世界標準で空母ですか、なるほど。

では、ここで朝日新聞と”軍事ジャーナリスト”氏の疑義の通りに、世界では”いずも”型に類する艦艇は、「空母」と呼ばれるのでしょうか? 近年、世界各国で配備が進んでいる似たような全通甲板を持つ艦艇が、各国でどのような呼称がされているのかを一覧にまとめました。


上の表をご覧頂ければ分かると思いますが、いずれも全通甲板を持ち、高い輸送能力を持つ艦艇ですが、各国とも「強襲揚陸艦」、「ヘリコプター揚陸艦」、「戦略投射艦」、「戦力投射艦」等、様々な呼称を用いており、海上自衛隊の「ヘリコプター搭載護衛艦」が際立っておかしい呼称・艦種でないことが分かると思います。何が「世界標準」なんでしょうかね?

このような様々な種別を用いる背景としては、各国の軍事思想や、国際環境の変化が挙げられます。例えば、フランスのミストラル級は、戦争任務に加え、災害救援、人道支援と言った「戦争以外の軍事作戦(MOOTW:Military Operations Other Than War)」にも使用できる多目的艦としての性格を持たせており、全通甲板と航空機積むだけで空母とするような単純な考えで建造されたものではありません。これは、海上自衛隊の”おおすみ”型、”ひゅうが”型、”いずも”型も同じで、実際に護衛艦”ひゅうが”は東日本大震災では洋上基地として、災害救助に活躍しました。

そもそも、技術も軍事思想も大きく進歩した現代において、70年前の第二次大戦水準でモノを語る必要性はありません。そもそも、第二次大戦時に実用的ヘリコプターの実戦投入はされていないため、ヘリコプター揚陸艦や強襲揚陸艦と言った艦種は存在していませんでした。そして、第二次大戦後に余剰となった空母をヘリコプターを運用できるよう改造したのが、今日の強襲揚陸艦の始まりでした。

さらに言うなら、70年前の軍事思想ですら「飛行甲板を持つ艦艇=空母」という図式は成り立っていません。先の一覧表にも載せましたが、第二次大戦中に'''日本陸軍'''が運用した揚陸艦”あきつ丸”は、揚陸艦でありながら、上陸部隊を航空機で支援するために全通甲板と航空機搭載能力を備えた、今日の強襲揚陸艦の先駆け的存在でした。

日本陸軍の揚陸艦”あきつ丸”

いずれも各国の呼称、そして戦前の日本陸軍の呼称も、実態としては外れているものではありません。むしろ、ヘタに揚陸艦を「空母」と呼ばない分、実態に即していると言えます。実態を反映しない名称を追いかける事に、イチャモン以上の意味は見い出せないでしょう。


【関連】




ここに挙げた「陸軍船舶戦争」は、陸軍船舶が戦争をどう戦ったのかを知る面白い本です。絶版ですが、中古入集はそれなりにできるので、興味ある方は読んでみてください。

2014年1月2日木曜日

必敗! 東浩紀式ゲリラマニュアル!

あけましておめでとうございます。dragonerです。
冬コミで買った艦これ同人誌、半分も読み終わってません。つらいです。

ところで、新年早々、ツイッターでこんなのがRTされてきました。



また東浩紀先生ですね。

私、東浩紀先生にはいろいろと思う所あります。私の指導教授(マーケティング論)が「動物化するポストモダン」に影響されて、付け焼き刃のオタク消費論を滔々と説き出した時は、俺は今地獄にいると確信するまで精神的に追い詰められました。今思い出してもホント辛いです。

一般に理解されていない界隈をインテリ向けに翻訳・紹介する人間は、界隈の生存には必要な事とは思いますが、理解したと勘違いしたインテリがよく知らん界隈の知識を中途半端に他人にひけらかす行為は傍目からは見苦しいものです。

もっとも、今回の場合は東先生ご自身がそれなんですが。前振り長くてすみません。

で、東先生のゲリラ論ですが、どうなんでしょうね。権力から嫌われるのはゲリラの常だと思いますが、市民からも非難され、味方は仲間以外にいないゲリラってのは。少なくとも、こういうゲリラ戦を展開して成功したゲリラって記憶にありません。

20世紀のゲリラ戦理論で欠かせない毛沢東は、「人民は水であり、解放戦士は水を泳ぐ魚である」と語り、文化大革命時の標語にも「軍は民衆を愛し、両者は魚と水の関係のように深く結びついている」と形容しているものがあります。水と魚のように、民衆と革命勢力は不可分の存在なんですね。戦時中、華北地域の日本軍はもっぱら中国共産党の浸透工作対応が主任務でしたが、最終的には破綻します。中国共産党は続く国共内戦でも、アメリカの支援を受けた国民党に勝利し、中華人民共和国の建国に至ります。

今の中国から想像も及ばないことですが、当時の中国共産党の軍事組織は規律・士気共に高く、民衆の支持を獲得しています。降伏した日本軍の中にすら、感銘を受けて教官になる士官もいました。現在の中国空軍の設立にあたっては、旧日本陸軍航空隊メンバーが協力しており、戦後も長期に渡って交流が行われていました。当時の中国共産党には、それほど寛容性と度量があったんですね。

ゲリラというのは、恐怖で民衆を支配する方法も選択肢にありますが、最終的に勝者となって完結するには民衆の支持が必要です。逆に言えば、ゲリラから民衆の心を引き離せば、ゲリラは消滅します。先の毛沢東の言葉に対し、米陸軍のJ・ネーグルは「水と魚を切り離す」アプローチと対ゲリラ戦を説明しています。

この「切り離す」アプローチは対ゲリラ戦の基本的な考え方です。旧日本(満州国)軍の間島特設隊や独立間もない韓国軍で対ゲリラ戦に従事した白善燁将軍は、ゲリラと民衆を分断することが対ゲリラ戦をする上で大事だと言ってますし、現在では批判される事の多いマクナマラが採用した戦略村構想(発案はテーラー)も、ゲリラと民間人を物理的に断絶し保護するための効率的手段としてマラヤ等で実績のあったものでした。

ゲリラ戦・対ゲリラ戦は、言い換えれば「民衆の支持と心(hearts and minds)の争奪戦」となり、ここにその難しさが集約されると言ってもいいでしょう。アフガニスタンやイラクでアメリカが手を焼いているのも、恐怖から宗教的動機まであらゆる手を駆使するゲリラ側の民衆支持獲得にアメリカが追い付いていない為とも言えますし、逆にゲリラ側が勝利(イスラム国家樹立)していないのも、民衆支持が無いためとも言えます。

気をつけなければいけないのは、闘争の勝利はゲリラ戦のみで成るものではない、ということです。ここは毛沢東もゲバラも指摘しています。ゲリラ戦により敵の力を削ぎ、自らの力を強化し、最終的には正規軍をもって打倒してこその勝利であり、ゲリラ戦はそのための手段の1つなのです。ゲリラ部隊はイデオロギーで連帯した同志のみで編成できるかもしれませんが、民衆からなる正規軍を整え、国家を打ち立てるには民衆の支持が必要なのです。

東先生のゲリラ戦理論がオリジナリティ溢れるものだった事は、ここまででお分かり頂けたと思います。東先生は権力にもなびかず、民衆からも嫌われる戦法だと開き直り、志を同じくするお仲間だけのインナーサークルに閉じこもると宣言しましたが、このパターンってアレですよ。いかなる集団からも孤立、先鋭化した先って、行き着くのは山岳ベース事件なんじゃないですかね。

これからの東先生に注目だ。


【関連書籍】



白善燁将軍による対ゲリラ戦の解説。自身の対ゲリラ戦の体験と、ベトナムにおける米軍の失敗、PKOについても分析を行っている。しかし、アマゾンの表紙画像はなんか変だ。もっと、普通の表紙のはずなんだけど……



前述の白将軍の本が対ゲリラ戦の本なら、こちらは近年和訳されたソ連軍によるゲリラ養成マニュアル。ずぶの市民を、戦士に変えるための書で、二次大戦後の革命戦術にも繋がっていく書。



20世紀のミラクルおじさん毛沢東の著書。上のマニュアルが現場レベルの闘争の書なら、これは強大な日本軍に中国が打ち勝つ為の戦略を説いた書。


出先で資料無しで記憶とネット検索のみで書いているから、間違っていた引用とかあったらごめんなさい。

2013年12月30日月曜日

ブログ100万PV御礼と10式戦車同人誌無料公開

先日、ツイッターの方もフォロワー1万人を超えたばかりでしたが、こちらのブログの方も100万PVを達成しました。やったねたえちゃん!

2013年中に1万フォロワー、100万PVとキリの良い数字を達成できたのも、飽きずにご覧頂いた皆様のお陰です。この1年、本当にありがとうございました。

さて、現在開催中の冬コミに出展する予定だったものの、申請ミスにより準備会からリジェクトを喰らったためサークル出展出来ず、完成させるさせるとこの1年言っていたばかりだった「10式戦車へのプレリュード」が未刊のまま転がっているのもアレな状況なので、次回の夏にはケリをつけたいと思います。

未刊のお詫びと、100万PVの御礼も兼ねて、「10式戦車へのプレリュード(準備号)」を無料公開致します。2012年の夏コミに出した同人誌で、10式戦車とその前段階で研究が行われた将来戦闘車両についての解説本(未完成)です。

当初出す予定だった魔法少女合同誌が間に合わず、慌てて1人でデッチ上げた個人誌で、初めての同人誌ということもあり、至らぬ点も多々ある上、解説も明確に間違っている点・今は判明した疑問点もございます。2014年の夏コミには加筆・修正・再構成を行い、きっちりオフセットで10式戦車本(+α)として仕上げたいと思います。


無料ダウンロードはこちらから(PDF)



無料公開ですが、DLsiteでの有料販売も継続しているので、読んで面白かった投げ銭程度はしてやるか、という奇特な方がいらっしゃいましたら、下の画像からDLsiteで購入して頂ければ嬉しく思います。

10式戦車へのプレリュード(準備号)

なお、ツイッターでも複数回告知致しましたが、今冬コミでのサークル参加は無しの一方、艦隊これくしょん合同誌の企画に、昨年の夏コミでご一緒した糸畑氏からお声がけ頂き、戦後の艦娘インタビューの体裁を取った小説同人誌「戦争は艦娘の顔をしていない」に拙稿を載せさせて頂きました。

この本は、ソ連軍女性兵士の二次大戦後インタビュー「戦争は女の顔をしていない」を艦これキャラで行ったパロディネタがツイッターで盛り上がり、そのネタをさらに広げて、小説同人誌の形でまとめたものです。(その当時のtogetterはこちら)


構成・編集を担当頂いた徳岡氏が『「紙に印刷した小説本」でなくてはできないことをやってみました。』とツイートされたように、バラバラの雑誌で掲載されていたインタビューを集めて収録したという趣向になっており、少数発行のコピー誌ながらも凝ったものになっております。

色々と罪深い本ですが、お陰様で本日持ち込み分はすぐ完売。14時20分に再販した増刷分50部も3分前後で完売となったようです。お手に取られていない方も多いかと存じますが、サークル「宇古木亭」主宰のa_park氏が、今後参加する艦これイベントで委託として再販するそうですので、読んでみたいという方はお手数ですが、そちらで入手をお願い致します。


最後になりますが、2014年も引き続きよろしくお願い申し上げます。



【関連】

10式戦車へのプレリュード(準備号)


2013年12月24日火曜日

南スーダンで進展している虐殺の危機

国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)に派遣されている自衛隊が、同じく派遣されている韓国軍の要請により、小銃弾1万発を韓国軍部隊に提供することになりました。


南スーダンのPKO活動に関連し、政府は、陸上自衛隊の銃弾1万発を、PKO協力法に基づき、国連を通じて韓国軍に提供する方針を決めました。
PKO協力法に基づき国連に武器が提供されるのは初めてで、政府は、緊急性が高いことから、いわゆる武器輸出三原則の例外措置として実施したとする官房長官談話を発表することにしています。


今回の措置は緊急性が強く、武器輸出三原則の対象外となるようです。韓国軍が弾薬提供を求めるまでに至った南スーダンで、どのような事態が進行しているのか、南スーダンの事情から現在の状況、韓国軍が提供を求めた背景について解説したいと思います。


南スーダン共和国の概要と内紛

南スーダン共和国は、2011年7月9日にスーダン共和国から分離独立した「世界で最も新しい国家」と言われ、国連を中心とした国際社会が協力して国造りを行っている最中です。日本も自衛隊の2012年1月から施設部隊を国連PKOに派遣し、インフラ整備に協力するなどの活動を行っております。

かつてイギリス植民地であったスーダンは、1956年にイギリスからスーダン共和国として独立しました。しかし、スーダン共和国は北部はアラブ系のイスラム教徒、南部はアフリカ系黒人の土着信仰・キリスト教徒といったように、人種・宗教の地域差が大きい国家で、アラブ系に占められていた政府と南部住民の間で対立していました。南北スーダンの対立は2度の内戦と和平を経て、2011年1月の住民投票により南部の独立が決定し、7月9日の独立に至ります。この時、南スーダンの政権を構成したのが、独立運動を主導したスーダン人民解放運動/軍(SPLM/A)でした。

南スーダンで見られる暴力の特色として、スーダン政府と南スーダン間の暴力に加え、南スーダン内部で住民同士でも苛烈な暴力が行われていた点にあります。

SPLA はディンカとヌエルと呼ばれる2つの民族が主流ですが、かつてスーダン政府は他の部族にSPLAと対立する民兵組織を結成させるなど、南スーダン内の民族分断対立を構造化させたため、現在でも南スーダン内にはSPLAに反発する部族がいます。また、当のSPLAも、ディンカ人が立ち上げた当初は、ヌエル人のアニャニャIIと呼ばれる反政府組織と敵対していた過去があります。SPLAは幾度もディンカ人の主流派(トリット派)とヌエル人の反主流派(ナシル派)の離散集合を繰り返していましたが、2002年1月にナシル派はSPLAに復帰し、南スーダン独立に至るまでは協力関係が続いていました。しかし、2013年7月に、ナシル派のトップであるマシャール副大統領が解任され、12月14日にはマシャール前副大統領によるクーデター未遂事件が発生に至ります。現在の南スーダンの状況は、このように複雑な民族間対立を背景にしたSPLAの内紛と言えそうです。



韓国軍の事情

さて、韓国軍が自衛隊に弾薬を求めてきた背景としては、韓国軍が活動している東部ジョングレイ州の州都ボルに反乱軍部隊1000名が接近しており、防衛体制を強化する必要に迫られた事と、日本と韓国が共に北大西洋条約機構(NATO)で標準化された5.56x45mm NATO弾と呼ばれる弾薬を使用している点にあります。UNMISSに兵力を派遣した国は、NATO弾を採用していない国が多く、大量に融通できる部隊が自衛隊しかなかった為とされます。なお、少数名展開中の米軍からも韓国軍は少量の弾薬の提供を受けています。

UNMISS参加部隊と展開地域(防衛省資料より

今回の小銃弾の提供は、国連を通じて行われます。これは、PKO協力法案で物資提供を国連組織に認めていますが、個別の国家に対しては認めていないためです。実は2012年に自衛隊と韓国軍の間で物資を相互に提供できる、物品役務相互提供協定(ACSA)を締結する予定でしたが、締結直前になって当時の李明博政権から延期の申し入れがあり、以後進展しておりません。ACSAでは弾薬を含む武器の提供は認められていませんが、今回のPKO協力法に基づく提供もこれまでの政府答弁で武器を含まないとしてきたため、仮に日韓ACSAが結ばれていたら、日韓で直にやりとりしていた可能性もあります。今回の事態を受けて、日韓ACSAに進展が出てくるかもしてません。

提供される小銃弾が1万発と聞いて「そんなに大量に!」と驚かれる方も多いと思いますが、派兵されている韓国軍兵士273名に1万発を均等に分けると、1人あたり40発以下で一般的な小銃の30発入り弾倉2個分にも満たないものです。全員が連射すると、数秒で撃ち尽くしてしまう量です。それほどの量でも弾薬を集めている韓国軍の状況は、かなり切迫しているのではないかと考えられます。元々、政府軍であった反乱軍はかなりの重装備を持っているものと思われますが、対するPKO部隊は重装備は限られています。現に避難民を保護していたインド軍が攻撃を受け、死者も出ているなど予断を許しません。



スレブレニッツァの虐殺に似た状況

軽武装の国連PKO部隊に重武装の武装勢力が迫る展開は、1995年のスレブレニツァの虐殺を彷彿とさせます。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中、オランダ軍を中心とする軽武装の国連PKO部隊が展開してたスレブレニツァで、8000名以上が虐殺されたスレブレニツァの虐殺は戦後ヨーロッパで最大の虐殺事件と呼ばれ、大きな衝撃を与えました。軽武装で人員、物資共に足りていなかった国連軍部隊は、重武装の武装勢力を前にして抑止力足りえず、虐殺を制止することが出来なかった事も問題になりました。今回、南スーダンで国連キャンプには難民が集まっているとされ、国連PKO部隊はその保護を行っており、状況はかつてのスレブレニツァをなぞっています。事態の進展によっては、比較的安定している首都ジュバに展開している自衛隊にも脅威が及ぶ可能性があります。

スレブレニッツァの虐殺被害者の墓地(写真:MichaelBueker)

今回の提供は、法的には問題が残るものの、その緊急性・重大性を鑑みれば妥当な判断と思います。韓国は25日には装備を空輸するとしており、それまで事態が急激に悪化しなければ、ある程度の抑止力として期待できるかもしれません。しかし、事態が好転しない限り、国連PKOと反乱部隊の衝突、あるいは住民虐殺の恐れは燻り続けるでしょう。

自衛隊、韓国軍を始めとする派遣国要員、そしてなにより南スーダンの人々のため、事態の一刻も早い収拾を望みます。



【参考】

大林一広「内戦後の暴力と平和構築  ―南(部)スーダンの予備的分析と研究課題の模索―」

栗本英世「「上からの平和」と「下からの平和」―スーダン内戦と平和構築」

また、スレブレニッツァの虐殺に関しては、長有紀枝「スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察」
が多分、日本語における唯一の専門書籍。

また、Wikipediaの「スレブレニッツァの虐殺」の項目は、無料で読めるにしては信じられないくらいクオリティが高いので必読。


2013年12月19日木曜日

中韓を嘲笑う前に、我が身を振り返ろうよ

少し前の話になるが、ある人(A氏)と何気なく政治について会話をしていた時、相手からこんな話題が出た。


「ところで、○○(ある野党政治家)って、在日らしいですね」


あまりに唐突で驚いたが、聞けばインターネットでその政治家の名前を検索すれば、在日外国人だという結果が出てきたからだという。確かに、その政治家の名前を検索エンジンにかければ、予測検索で「在日」「帰化」と言ったワードがすぐにサジェストされる。しかし、その政治家が在日外国人だという信用に足る記述はついぞ見たことがない。ネット上では他にも、左派・リベラルに近い政治家や文化人が在日外国人だとする書き込みも多く見られるが、彼らがそうだという話も同様に根拠が薄い。その話の根拠についてA氏に聞くと、ただネットに書いてあったから、というだけで、自分で来歴や家族関係を調べた訳ではないという。A氏は他にも、韓国や中国についての、ネガティブな話題を私に振って来た。

ここまで読んで、A氏は思慮も経験も足りない、ネット右翼被れの若者だと思われた方も多いかもしれない。ところが、A氏は初老と呼べる年齢で、海外経験も豊富で多くの外資系大手企業で勤務した経験を持つ取締役社長であり、左派・リベラルの文化人が(侮蔑を込めて)主張する「低所得・低学歴の若者」というネット右翼像からかけ離れていた人物であった。経営について深い洞察力を有しているはずのA氏が、ネット上の根も葉もない噂を何の疑問もなく他人に開陳した事に驚いたが、ある特定集団についてのネガティブな噂を、幅広い層の日本人が受容し、好んで「消費」されているのではないか、とこれ以後危機感を持つようになった。


中韓叩き記事が売れる今、戦争煽り記事が売れる戦前

現代中国に詳しいノンフィクション作家の安田峰俊氏が、最近の週刊誌事情について、こんなことをツイートされていた。

最近、複数の週刊誌関係の方に共通して出た話。「中韓叩き記事、正直僕らも大してやりたくないけど毎週のアンケートの人気高くて外せない。ここ一年ほど特に顕著」「『中韓はこんなに劣っている』か『日本は実はこんなにすごい』が受ける。毎回似た中身でも」。フリーの中国ライターには有難いけれどさ

2chのまとめサイトもそうだけど、情報の受け手がみずから望んで偏った情報を求めているんだもの。売る側はそういう人にお金落としてもらうために、偏ってるのを承知で煽り情報を売る。うーむ


そしてITか紙媒体かというギャップも意外とない。家でPCに張り付いてるアラサーニートも定年前後の不安におびえるおっちゃんも、「あまり考えずに気持ちよく消費する娯楽情報」についてはみんな(=少なくともビジネスが成り立つ規模の人数)欲するところは大して変わっちゃいねえとも言えるのよな


最近の週刊誌は、中国・韓国を叩く記事ばかり売れて、週刊誌側もそれを分かって中韓叩き記事ばかりを載せており、その傾向がこの1年が特に顕著だという。確かに、中国・韓国との外交問題による反発感情を受けてか、最近はその手の記事が誌面に載るのを多く見るし、書店に行けば中韓叩きの本と、日本がいかに素晴らしいか・他国から賞賛されているかという内容の本ばかりが平積みされているのが目立つ。相手を貶し、自分(が属する集団)を称える本が売れる傾向は、はっきり言えば自慰的で気味が悪い。

このように特定の記事ばかり売れるので、マスメディアもそれに追随した例は過去にもあった。先日の池上彰氏の戦争番組でも触れられていたが、第二次世界大戦前のマスコミは威勢のよい好戦的な記事が売れるからと、好戦的な戦争を煽る記事ばかり書いて国民を煽り続け、マスコミは未曾有の好況に湧いていた。当時のマスコミについて、社会学者で京都大学大学院の佐藤卓己准教授によれば以下の様な状況であった。

雑誌が売れて売れて仕方ない、しかも統制のおかげで返品がまったく無い、つまり出版社にとっては儲かって笑いが止まらないという状況でした。一方、新聞界でも、読売新聞の発行部数が100万に到達した時期であり、国民が戦況報道を求めて新聞に飛びついた時代です。メディア経営にしては好景気のバブル時代だったということです。



戦前の主要雑誌年間発行部数推移(佐藤卓己「教育将校・鈴木庫三の軌跡」より引用)

戦争を煽り続けた報道でバブルを味わったマスコミ人は敗戦後、軍にその責任をおっかぶせ、自分たちは言論統制の被害者であると装ったのだ。

また、現代中国の話ではあるが、ジャーナリストの福島香織氏のツイートによれば、中国でも日本をネタにした好戦的な記事はウケているらしい。
中国人が戦争をどう思っているかということについて、彼の意見が多数派を代表するものではありませんが、環球時報の1面に対日軍事強硬記事とかのると、売り上げがぐんと伸びるのは事実です。環球時報の編集者が言っとったよ。環球時報は低層社会に人気のある安価な新聞。


環球時報の話のみで、中国のメディアが全てが対日強硬論で売れていると言うつもりはない。しかし、日本の週刊誌に溢れる日中軍事衝突のシミュレーション記事を見て、これと同じことが中国でも起きていたら、と考えるのはあまり気分のいいことではない。現代史家の秦郁彦氏によれば、第二次世界大戦前の長い期間、日本とアメリカ双方のメディアでは、日米もし戦えばといった日米戦シミュレーション記事が賑わっていたとされる。秦氏はそれらの報道が当時広まりつつあった地政学概念と結びつき、日米必戦の雰囲気が醸成されたのではないかと指摘している。この指摘と、かつての日本のマスコミの大衆迎合の事実を合わせて考えると、それが意味するものは重い。



心地よい隣人のネガティブ情報

しかしながら、最近の中韓叩き記事はいささか事情が異なる。戦前はマスコミが記事需要を判断して自発的に煽ったものだが、近年の中韓叩きはネットが先導し、マスコミがそれを追随する形となっている。「在日特権を許さない市民の会」の会長も、元は韓国叩きサイトの管理人で、出版社から著書が刊行されるようになったのは最近のことである。

韓国叩きサイトが目立つようになったのは、2002年の日韓ワールドカップ前後からであるが、今や10年以上の蓄積によって、検索エンジンで「韓国」を検索すると、ネガティブ情報ばかり表示されるまでになった。安田氏も指摘しているように、「あまり考えずに気持ちよく消費する娯楽情報」として、韓国のネガティブ情報はネット上でその地位を確固たるものにしている。近年は尖閣問題・反日デモによる反中国感情も加わり、中国のネガティブ情報も消費されるようになったと見られる。仲間内でする他人の悪口は心地よいもので、その悪口の真偽も問われる事は無い。冒頭のA氏も、なんとなくネットで出会った情報をよく考えずに気持よく消費し、私との話題にも心地よい話題として取り上げようとしていたのではないか。



全国紙も中韓を侮る姿勢

もっとも、ここまであげてきた例は個人の会話だったり、ゴシップネタ・叩きネタは日常茶飯事の週刊誌の話だ。ところが、最近は中韓叩きが全国紙にまで見られるようにってきている。その最たる例が産経新聞だ。

安倍政権を「軍国主義の復活」などと非難する韓国だが、軍事費が国家予算の10%に上るなど自らは軍備増強にまっしぐらだ。ただその中身は何ともお寒い。新型の国産戦車「K2」は開発開始から18年を経てもエンジンが作れず、部隊配備は延期に次ぐ延期。水陸両用の装甲車は川で沈没するなど技術不足による欠陥品ばかりで、首都防衛の機関砲がパクリのコピー品で使い物にならないことも明らかになった。大阪では町工場が人工衛星を作る技術を持つが、“お隣り”は国家の威信をかけた軍備もパクリや偽造、ポンコツのオンパレードだ。(岡田敏彦)


かつての産経新聞と言えば、冷戦期は日本の全国紙きっての韓国擁護論陣を張っており、韓国の軍事政権に批判的でともすれば北朝鮮擁護も見られた他の全国紙と異なり、一貫して韓国擁護の“親韓”新聞だったが、今は韓国叩きの先頭を走っている。パクリ、ポンコツのオンパレードと扇情的な本文に加え、見出しには「無謀ウリジナル、放熱できぬ戦車」とある。この”ウリジナル”という言葉は、韓国がなんでもオリジナルを主張するのを揶揄したネットスラングであるが、ネットスラングを説明無しで載せており、明らかにネットを意識した記事となっている。

自衛隊に納入した機関銃5,000丁以上のデータを、メーカーの住友重機械工業が1970年代から改ざんしていた事が発覚したばかりなのに、こういう記事載せる産経新聞はブーメランが怖くないのかと心配になるが、この記事の問題はこれ以外にある。韓国が装備品をパクリ・剽窃しているのは事実で、それが多くの問題を生んでいるのも事実だ。だが、かつて韓国の電気製品をパクリだと陰口叩いていた日本の電機メーカーのうち、サムスン電子に対抗できるメーカーは1社も残っているだろうか? このことは、あらゆる分野に言える。我々が嘲笑っているうちに、抜かれつつあるのは、国家の存続を左右する国防の分野も例外ではない。



防衛研究開発費で既に中韓に抜かれている日本

中国もロシア製兵器のコピーを臆面もなく行い、中露間で問題となったが、それでもまた新たにロシアから兵器を購入している。中韓は共に装備の国産化に関しては手段を問わないマキャベリ的姿勢であり、他国製兵器のリバースエンジニアリングから、情報活動による他国からの設計情報入手を含めた広範な活動を行っており、それを国産兵器開発にフィードバックしている。その結果、中国は戦闘機、艦船、戦車等の主力装備の開発能力を獲得し、韓国は武器輸出額をわずか5年で10倍にまで拡大させた。パクリを含めた、彼らの手段を問わない努力を上から目線で嗤うのは正しい姿勢だろうか。

パクリや情報活動なんて卑怯な手段で得た技術は身につかない、と反論する人もいるかもしれない。だが、自力の軍事技術の研究開発(R&D)においてすら、中韓は日本を越えようとしている。下のグラフは、各国の国防研究開発費の推移を表すものだ。2007年の段階で、日本は韓国に抜かれている。韓国は今後もR&D費を増額する方針であり、右肩下がりの日本との差はますます開くだろう。また、中国は国防予算とR&D費は別立ての為、その正確な額は推測になるが、既に相当前には日本を抜いていると見られ、現在は日本の遥か上の水準に達していると思われる。


各国の国防研究開発費の推移(防衛省技術研究本部資料より



民間におけるR&D費は、企業の今後の成長性・競争力の指標となっているが、それと同じことが国防にも言える。たゆまぬ技術開発と研究により、軍事技術をより洗練・発展させる事は、自国の戦力を向上する事に繋がる。年々、R&D費が減少している日本を尻目に、R&D費を増額させている中韓。日本の軍事技術の優位性は過去の蓄積で持っている状況であり、このままでは早晩、中韓に抜かれ、優位性は失われる事になるだろう。いつか、見下して嗤っていられた時代を懐かしむ日が来るのかもしれない。



隣国を嗤う前に我が身を見直そう

冒頭のA氏のような人が、日本企業の経営者で一般的なのかは分からない。だが、A氏が中韓を嘲笑する話を私に振って来たのは、他の経営者との会話で通じるネタだったからとしたら、それは憂慮すべき事態ではないか。「あまり考えずに気持ちよく消費する娯楽情報」に曝され続け、偏った情報ばかりを摂り続けて、正常な判断が出来るのだろうか。全国紙ですら中韓を嘲笑する記事を出すようになった今、多くの購読者が同じ認識を持ち、実態を知ろうともしないで侮り続けていたら、この先どうなるのだろうか。少なくとも、良い結果は生みそうにない。

日本が衰退の方向に向かっているのは事実である。こんな状況にありながら、他国を見下し、いかに日本が優れているかの本が売れている現状は、まさに現実逃避と言えるだろう。だが、その先に待ちかまえているのは破滅でしかない。まず、目の前の問題を解決し、競争者の実力を把握して、追い抜かれない努力をする方が良い未来に繋がるのではないでしょうか。


※中国のR&D費について、「10年前には日本を抜いている」としましたが、正しくはもっと以前から抜かれていましたので、表現を訂正いたしました。


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