細川護熙元首相(76)が14日、脱原発を掲げて東京都知事選(23日告示、2月9日投開票)への立候補を表明し、自民、公明両党が支援する舛添要一元厚生労働相(65)らと争う首都決戦の構図が鮮明になった。脱原発を最大の争点に、2020年東京五輪に向けた取り組みや、首都直下型地震に備えた防災対策強化などが論戦のテーマとなる。舛添氏は14日、立候補を正式に表明した。民主党都連は細川氏支援を決めた。
今回の都知事選は、脱原発が最大の争点だそうです。でも、本当にそうなんでしょうか。1月14日現在、都知事選で有力候補と目される細川護煕氏、宇都宮けんじ氏、舛添要一氏のいずれも脱原発派であると表明しており、特に細川・宇都宮両氏は脱原発を選挙の焦点とする発言を繰り返しておりました。
しかし、現実問題として、東京都知事が国策であるエネルギー政策にどれだけ影響を及ぼせるのでしょうか。更に言えば、東京都に原発は無く、都内の水力・火力発電所の発電能力も都の電力需要に及ぼない、単なる電力消費地となっています。脱原発という国策に東京都が影響力を与えられるのは、電力の最大需要者として、省エネ政策を推し進める事以外に無いと思います。
ところが、メディアでは脱原発が都知事選の焦点になっている点は繰り返し報道されています。そこで説明に使われるのは、東京都が東京電力の主要株主であるという事実です。
都は東京電力の主要株主で、原発問題への影響力も大きい。
東京都が東京電力の株主である点は事実ですが、ここで実際に東京都がどの程度の議決権を持っているかを見てみましょう。
東京電力の議決権の割合(東京電力第90期第2四半期報告書より) |
東京電力の主要株主のうち、東京都は議決権数は第4位、議決権全体に占める割合は1.34%しかありません。しかも、議決権全体の過半数は官民共同出資の原子力損害賠償支援機構が握っており、国が実質的な東京電力の経営権を持っております。なお、東京新聞は「主要株主」と書いていますが、「主要株主」の定義は『発行済株式の総数の100分の10以上の株式を有している株主』のことで、その意味では東京都は主要株主ですらありません。1%以上の議決権を有する場合は議案を提案できますが、事実上議決権の過半数を有している国と対立する議案の場合は、提案だけに終わるでしょう。
ここまで現実問題として、東京都知事が脱原発に及ぼせる影響力を見てみましたが、本当に脱原発は争点なのか、という問題に立ち返ってみましょう。この点について、東京新聞が都民の都知事選に対する意識調査を公表しました。
投票の際に重視する政策は「医療・福祉」「教育・子育て」「原発・エネルギー政策」「雇用対策」の順だった。
脱原発色を鮮明にしている東京新聞の調査ですら、東京都民にとって脱原発政策は「投票の際重視する政策」の第3位です。「投票の際重視する政策」は順番だけ公表し、割合を公表していない反面、原発の可否に関する調査は割合を公表しているので、東京新聞の予測よりも、脱原発が最重要の政策と答えた都民は少なかったのかもしれません。
このような都民の空気を感じ取ったのか、脱原発を訴える候補の1人である宇都宮けんじ氏の講演会サイトでは、以前まで政策一覧の中で原発絡みが1番目2番目を占めていたものが、最近差し替えられた基本政策では3番目に後退しており、脱原発以外を焦点に変えつつあるようです。
有権者の関心事に即して、候補が争点の軌道修正をすることは、有権者の意思を反映させるという点でとても正しい事だと思います。しかしながら、都知事選候補者に争点の変化が見られるようになった現在、依然として脱原発が争点とする報道は続いており、一向に減る気配を見せません。現実的に東京都に出来る事が限られている原発政策にばかりが報道され、肝心の都民の為の政策議論がおざなりにされている現状は、都民にとって不幸以外の何者でもないと思うのですが、いかがでしょうか。
候補者の皆様におかれましては、猪瀬前都知事の新刊「勝ち抜く力」をお読みになって、選挙戦を勝ち抜いてほしいものです。
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