純国産で水陸両用の海上自衛隊救難飛行艇「US2」について、インドは購入する方向でおおむね合意しており、総額は16億ドルを超える可能性がある。複数のインド当局者が28日、明らかにした。 一機当たりの価格は1億1000万ドルで、最低でも15機購入する公算が大きいとしている。 共同生産など詳細については、3月に開かれる合同作業部会で詰めるという。
まだ口頭での合意で予断を許しませんが、輸出に向けた関門を1つクリアーしたと見ても良さそうです。
インドが購入すると報じられている、海上自衛隊のUS-2救難飛行艇 |
しかしながら、記事の後段にある共同生産等の協議は、輸出条件を巡って難航するかもしれません。インドは防衛装備の国産化を進めており、時には二国間の関係よりも技術移転を優先させる事がしばしばあります。近年行われたインド空軍の中型多目的戦闘機(MMRCA)のコンペでは、原子力協定締結や武器輸出解禁で関係が深まりつつあったアメリカの機種は選考外となり、広範な技術移転を行うと表明していたフランスのダッソー・ラファールが受注を獲得しました。受注を獲得したフランスも、インド空軍が調達するラファール126機のうち、100機以上をインド国内でライセンス生産されることになっており、インドへの技術移転も含めるとフランス側の旨味はそれほど大きいものでは無さそうです。
インドは装備国産化を推し進めており、2013年8月には国産空母ヴィクラントが進水し、国産原子力潜水艦アリハントも原子炉が臨界に達して稼働を開始するなど、相次いで成果が出ています。特に宇宙分野における国産化は進んでおり、インド独自の航法衛星システムであるIRNSS、地球観測システムは軍民双方での利用され、産業や防災分野における衛星情報利用は日本よりも先進的です。
進水したインド国産空母ヴィクラント(撮影:Drajay1976) |
このように防衛装備の国産化を進めているインドですが、救難飛行艇であるUS-2は、戦闘機と比べて技術移転の優先度は低いと思われます。しかし、自国航空産業の育成のため、共同生産の配分や技術移転について、インド側への譲歩を求められる事は十分に考えられるでしょう。購入する15機のほとんどが、インド国内で生産されるかもしれません。
しかし、仮にインド側の生産比率が大きくても、悪い話ではないかもしれません。海上自衛隊が運用するUS-2は、2014年1月現在で試作機含め5機で、調達も数年に1機程度と低調です。インド軍が何年で全機配備するかは不明ですが、メーカーの新明和工業の生産能力を超えるスパンで供給を求められた場合、インド国内で生産した方が合理的と言えます。また、これまでのインドは武器輸入大国でしたが、近年は徐々に武器輸出にも力を入れ始めています。同じく日本も武器輸出を模索していますが、仮にインド国内に新たにUS-2の生産工場を作った場合、そこから日印共同で航空機の生産・輸出を行う事も可能になり、武器輸出を拡大したい日印の思惑が一致するかもしれません。先日、トルコの次期主力戦車のエンジン開発を日本とトルコの合弁企業で行う動きがある事をお伝えしましたが、トルコと同じように、インドと航空分野で協業することで、国際市場の足がかりにする事も視野に入っているのかもしれません。
武器輸出は経済的利益の他に、政治的思惑が強く働くビジネスです。目先の利益に囚われて、インドを客としてしか見ないのではなく、パートナーとして取り込み、関係を深化させていく視点も重要となるでしょう。
【関連】
西原正,堀本武功(編)「軍事大国化するインド」亜紀書房
碇義朗「帰ってきた二式大艇―海上自衛隊飛行艇開発物語」 (光人社NF文庫)
「新明和 US-1」(世界の傑作機 NO. 140)
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