南スーダン地図。自衛隊は南部の首都ジュマ付近に駐留(防衛省資料より) |
しかしながら、南スーダンでは締結されたはずの停戦協定を反故する形で戦闘は継続中で、騒乱から現在までに100万人の難民が発生しています。17日には、昨年実弾提供を受けた韓国軍も駐留するジョングレイ州の州都ボルで、国連PKOの宿営地が民兵の襲撃を受け、兵士や避難民に死傷者が出る事態になっています。
【ナイロビ共同】南スーダン東部ジョングレイ州の州都ボルで17日、国連平和維持活動(PKO)基地が武装集団に襲撃され、ロイター通信などによると、基地に保護されていた避難民ら48人が死亡、多数が負傷した。PKO隊員2人もけがを負った。
警備にあたっていた韓国軍、インド軍兵士も応戦し、銃撃戦が発生したとも伝えられ、国連の潘基文事務総長は攻撃を強く非難しています。南スーダン情勢は、悪い方向で1つの区切りを迎えたのかもしれません。
南スーダンとして独立する以前の内戦では、住民間の暴力が深刻だったという特徴があり、現在も住民に対する虐殺が政府・反政府勢力双方で行われています。国際的な人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチは、政府・反政府双方の部隊が略奪・破壊・民族に基づく超法規的処刑等の戦争犯罪を行っていると非難しており、ボルの周辺でも犠牲者を埋葬する穴が無数に掘られています。(下は南スーダン政府・反政府勢力双方による戦争犯罪が行われていると非難するヒューマン・ライツ・ウォッチの動画)
今現在進行している問題の厄介な所は、南スーダン政府が国連PKOをも目の敵にしている事です。ボルの国連宿営地には5,000人の避難民が暴力を恐れ避難していますが、南スーダン政府は国連宿営地に反政府勢力が匿われていると度々非難しており、宿営地周囲では国連PKO撤退やヒルデ・ジョンソンUNMISS代表の国外退去を求める数千人規模のデモ活動も行われています。3月には国連において、南スーダンの現副大統領が西側諸国を「植民地主義」と批判するなど、南スーダン政府と国際社会との断絶が大きくなっております。今回の国連宿営地襲撃を行った民兵の背後関係は明らかではありませんが、政府、反政府側どちらも黒幕である可能性もあります。
4月現在、UNMISSには自衛隊の施設部隊およそ400名が派遣されており、首都ジュバ付近でインフラ整備、騒乱発生以後は難民支援を行っております。UNMISSの活動期限は2014年7月までとなっており、自衛隊は準備期間も含めて10月末までに撤収する計画です。状況の進展によっては延長される可能性もありますが、前述のように国連と南スーダン政府の関係が悪化している中、南スーダン政府がUNMISSの駐留延長に同意する可能性は低く、自衛隊のPKO派遣の根拠となるPKO協力法では当事国政府の同意が前提条件のため、そのまま撤収する事になると思われます。
問題は、仮にUNMISS撤収までに事態が安定に向かわない場合、撤収によりUNMISS保護下の難民は虐殺される危険がある点です。撤収が確定した場合、保護を求める難民が怒りから暴徒と化し、撤収するUNMISSを攻撃する可能性もあります。ユーゴスラビア内戦では、撤退しようとするオランダ軍の装甲車に留まってくれるよう要求したボシュニャク人が、要求が拒否されると手榴弾を投げてオランダ軍兵士1人が死亡した事例があります。自衛隊が展開している首都ジュバは比較的情勢が安定しているとされ、撤収時のトラブルは少ないかもしれません。しかし、各地のUNMISS部隊は施設内に大量の難民を保護しており、撤収後の難民保護の体制構築が撤収に向けた課題となります。
UNMISSが撤収する場合、残された難民の保護を南スーダン政府にどう約束させるか、そして残される難民を説得できるだけの材料を準備できるかが重要になります。国連から東アフリカ諸国からなるIGAD(政府間開発機構)等の他の国際機関への監視引継ぎ、南スーダン政府に保護を確約させるだけの国際的圧力等、様々な手法で臨む必要があります。当事国の同意が得られなければ撤収するしかない日本政府は、難民を保護すると共に、自衛隊員や各国兵士が安全に撤収できるよう、撤収に向けたスキーム作りに積極的にコミットメントし、出口戦略を固めていく必要があるのではないでしょうか。
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