2013年6月30日日曜日

書評:広中一成「ニセチャイナ」(社会評論社)

久しぶりに書評をしたい、多くの人に紹介したいと思わせる本でしたよ、「ニセチャイナ」。

広中一成「ニセチャイナ」(社会評論社)

この表紙のイロモノっぷりに騙されてはいけない。

本書は20世紀中国に数多く存在した政権のうち、「親日傀儡政権」のみを特集した一般書という、かなり珍しい本。一般書だけあって、本文ではですます調が徹底され、徹頭徹尾読みやすさに気を払われているのも高ポイント。

「20世紀中国政権総覧」シリーズの第一巻として企画された本書では、満州事変以後に日本が占領地内に擁立した傀儡政権のうち、代表的な6カ国(満州国、蒙古聯合自治政府、冀東防共自治政府、中華民国臨時政府、中華民国維新政府、汪兆銘政権)の成立から崩壊に至るまでの歴史を、当時の写真等の図表を交え振り返ります。

1939年の日本領及び傀儡政権(Wikiより引用

日本の傀儡政権と言えば満州国が有名ですが、本書では前述の通り、満州国含め6カ国を取り上げます。満州国以外はマイナーと言ってもいいのに、それを6カ国も紹介ですよ、6カ国も。でも、日本が敗戦する前に消えた、吸収された傀儡国家も入れれば、もっと多くの傀儡政権が。どんだけ傀儡政権抱えてんだよ、帝国日本。

本書がなんと言っても面白いのは、混迷の渦中にある中国で、傀儡国成立に携わった日中の人間のモザイク模様。どいつもこいつも一癖も二癖もある。

皇帝への復権を諦めていない溥儀、チンギス・ハーンの偉業に憧れ満蒙再興を目指す蒙古人、チベットで権力闘争に負けて中国に逃げてきた活仏、反日よりも日本の近代化に学ぶ方が賢明と考えた中国要人らの意思に、占領地の治安を確立させたい陸軍、対ソ連戦を見据えた石原莞爾ら陸軍参謀、新国家建設を夢見た理想主義者(指揮者小澤征爾のオヤジ達だ)、グローバル人材の成れの果ての様な大陸浪人達。
それらの多種多様な思惑が、絡んで生まれ出た傀儡国家の数々。
まさに混沌としか言い様がない。

出てくる皆が皆、無茶をやらかす。内戦状態の中国は言うに及ばず、政府・軍・関東軍とコンプライアンス不在の日本の状況がそれに拍車をかけていく。
そもそも、

満州を日本のものにしようぜ!
国内外の反発強いから独立国にするべ
ソ連コワイ!  対ソ戦に備えて満州国強化だ!
独ソ不可侵条約! うちも日ソ中立条約だ!
ドイツがフランス負かした! フランス領ベトナムおいしいです^q^
連合国とアメリカ怒ってる
アメリカに宣戦布告だ!

という満州事変以後の流れ。
いつ見ても分裂症気味というか、国家戦略としての統合を欠いていらっしゃるというか、その場凌ぎの泥縄対応だったんでしょうけど、それを一つの流れとして見ると、やはり理解できませんね。
教条主義化したコンプライアンスというのも考えものですが、存在しないとやはり恐ろしいものです。

こんなことで割を食うのはもちろん現地の中国人に、日中戦争で疲弊しきった上にアメリカと戦争までやることになった日本人。
満州国では中国人が田畑から追い出され、その跡を日本人に開拓させてみたものの、太平洋戦争勃発で開拓団の成年男子は徴用された上、ソ連侵攻で残された女子供は決死の逃避行と誰得状態。また、貧弱な傀儡政権の財源確保に阿片の売却益を充てようとしたら、その利益の大半は日本側機関に中抜きされ、市中にはアヘン中毒者が溢れる有様。

こんな破綻国家丸出しの傀儡国家達も、日本の敗戦と共にあっさり消え去ります。
本書では傀儡国家成立の過程を丹念に紹介する反面、解散の記述は至極あっさりしたもので拍子抜けするんですが、きっと本当に多くを記述できる経緯もなく、あっさりと消滅したんでしょう。
個人的には傀儡政権要人のその後が気になりますが、そこらへんは第2巻以降でカバーされているものと期待しております。



個人的に本書を読んでて一番の驚きは、傀儡中国における住民の教化機関、中華民国新民会の元幹部、岡田春生氏のインタビューが収録されていたことです。ご存命だったとことにも驚きましたが、一般書の体裁を取る本書で氏のインタビューがある事により驚きました。
岡田春生氏の著書「新民会外史 黄土に挺身した人達の歴史」は、 新民会の活動を伝える数少ない資料です。書店やアマゾンで手に入るような本でなく、置いてある大学図書館も限られており、読まれた方も少ないと思うのですが、日本の対中宣撫工作活動に興味のある方は、一読をオススメします。

新民会外史は稀少本もいいとこで手に入りにくいですが、最近は日本占領地域・傀儡政権下での宣撫工作機関を扱った本が相次いで出版されておりますので、ここでいくつか参考までにご紹介します。


知られざる県政連絡員―日中戦争での日々
県政連絡員とは、日本占領地域での宣撫工作を担った機関のうち、軍に属していた機関のことで、後に合理化の一貫で新民会に統合された組織です。
新民会との統合を巡っては、新民会と吸収された側の県政連絡員との内部対立が大きかったことが知られていますが、新民会よりもマイナーな県政連絡員の実情を教えてくれる、数少ない本です。

「華中特務工作」秘蔵写真帖: 陸軍曹長 梶野渡の日中戦争
ニセチャイナ著者の広中氏による著書。
こちらは、実際に工作に関わった陸軍担当者への聞き取りと、大量の写真により構成されたビジュアル読本です。
岡田氏へのインタビューもそうですが、近い将来に失われるであろう当事者の記憶を、聞き取り調査で掘り下げ記録する姿勢には頭が下がります。

これらの本と併せてニセチャイナを読むことで、面白みもより深まるものと思います。



ニセチャイナは20世紀中国の日本の傀儡政権を扱った一般書としては、類書が無いものです。
そのテーマも合わせ、混乱期の中国とそれに付け込む日本の有象無象達の動きは読んでいて大変面白いと同時に、その傀儡政権・日本の政策の細部の粗雑さと、全体の非人間性に背筋が寒くなること請け合い。

また、日中戦争の延長としての太平洋戦争という意味合いを理解する上でも大きな助けになると思います。傀儡政権の建国の為の陰謀から、財源として密輸や麻薬売買を躊躇なく行う日本が、いかに国際社会から信用を失って、戦争に突き進んでいったかが分かる。
自国の愚かな過去を知ることは悪いことじゃない。



ニセチャイナはアマゾンでも在庫なしの状況が続いていますが、本屋で探して買え。必買。あと、楽天ブックスでは在庫無いけど注文は受け付けてます。

ニセチャイナ 中国傀儡政権(20世紀中国政権総覧)

シリーズ出版を計画しても、途中で出版自体がポシャることの多いこのご時世、買って読むんだ。
なによりも、続刊を楽しみにしているオレのために。