2013年6月29日土曜日

防衛省技術研究本部、手投げ式偵察ロボットの軌跡

近年、無人機の研究が世界各国で盛んですが、防衛省技術研究本部でも当然行われています。
いくつかのユニークな研究もあり、 その一つが手投げ式偵察ロボットです。

手投げ式偵察ロボット 歴代の仮作品

手投げ式偵察ロボットは、主に市街地を想定した偵察ロボットで、建物の死角や隙間に投げ込むことによって、敵情を偵察するロボットです。具体的には、地上階からビルの2階に投げ込んで2階を偵察させるなどの運用を想定しています。
そのため、手で投げられる程度の小型化、着地の衝撃に耐える耐衝撃性、安定した操縦と偵察を行うための走行中の姿勢安定の3点についての技術的解決が求められました。

手投げ式偵察ロボット運用構想(外部評価報告書 「携帯型小型情報収集器材の研究」より引用

手投げ式偵察ロボットの研究は平成19年度から平成23年度にかけて行われ、その間に3タイプのロボットが試作されました。順を追って紹介したいと思います。



平成19年度仮作品

2007年度(平成19年度)に最初に製作された偵察ロボットです。

平成19年度仮作品

最初はラグビーボール大の楕円形型でした。重量もあって手投げには向かず、表面もほとんどがプラスチックで耐衝撃性はありませんでした。
しかし、これはコンセプトの妥当性を検証するためのモデルであり、偵察に有効か、安定した映像が送れるか等の実証目的に製作されたため、端から携帯性・耐衝撃性等は考慮されていないのです。
上の写真の状態ではカメラなどの内部部品が見えますが、これは動作時のみに展開されるもので、 普段は収納されております。展開時は中央で分割され、車輪が2つで移動を行います。

下の動画は2008年の防衛技術シンポジウムで公開された一次試作品の動作デモの様子です。




また、この平成19年度仮作の時点では、操縦は市販のゲームパッドを利用しており、映像もノートパソコンに表示されておりました。



平成20年度仮作品

平成20年度仮作品は、平成20年度に製作されたモデルです。
平成20年度仮作品(収納時)
平成19年度仮作品と比べて大幅に小型軽量を達成し、ベースボール大の大きさに重量870グラムと、手投げも可能なレベルになりました。
形状は、収納時は長さ・幅・高さが110mmと完全な球形になり、動作時は下の写真のように展開し、展開された中央部にカメラとマイク、また車輪部は大小2つずつの計4つで構成されることで、走行安定性が改善されました。

平成20年度仮作品(展開時)

また、プラスチックの外装から、ゴム状の柔軟性・耐衝撃性のある材質で表面が覆われ、0.9mの高さからのコンクリート面への落下にも耐える耐衝撃性が得られました。
また、展開時の内部のシールを見ると、製作はNECが担当したようです。

下の動画は2009年の防衛技術シンポジウムでの動作デモの様子です。




動画を見ると、段差を乗り越える能力が向上したことや、多少の落下でも動作に支障がないことが分かります。



平成21年度仮作品


平成21年度の仮作品は、収納時の形状が長120mm・短100mmと若干、楕円形よりになりました。

平成21年度仮作品(収納時)

重量は840グラムと前年度より若干軽量化。
大きな改善点は、耐衝撃性が1.8メートルからの自然落下に耐えるまでに向上し、前年度の0.9メートルから飛躍的に高まりました。

平成21年度仮作品(展開時)と操作端末
また、従来のノートPCを介した操作から、映像受信機と一体化した専用の操作端末も製作され、より実戦に近い運用も可能となりました。


平成21年度仮作品 専用操作端末
操作端末は操作レバーと、カメラの切り替えスイッチ、ライトの点灯スイッチが物理的なスイッチで、その他の操作はモニタのタッチパネルで操作ができます。


赤外線ライト点灯時

赤外線ライトが点灯した際の写真です。
もちろん、肉眼では光って見えません。ある程度の暗所撮影能力も備えているようです。
また、スピーカーもあることから、味方との通信や警告なども発することが出来るようです。

実際に操作してみましたが、簡単なインターフェースですぐに慣れるので、なかなか完成度が高くなったと思います。
実際に操作端末での操作の様子を録画していましたので、ニコ動、YouTubeにアップしてみました。




簡単な操作で軽快に動くことが、映像から分かると思います。



平成23年度仮作品


平成23年度仮作品(右)と操作端末

平成23年度の仮作品は、基本構成は平成21年度仮作品を踏襲しつつ、より小型軽量に、より高性能なものとなりました。実際のデータは、一覧表を見るとその進歩が分かります。


諸元一覧表

平成23年度仮作品は、670gと小型化し、耐衝撃も3メートルにまで向上しました。
操作端末も薄型化しており、より平成21年度品のコンセプトを受け継ぎ、より洗練されたことが窺われます。


また、似たようなコンセプトの偵察装置が海外でも製作されております。
下の映像はBounce Imaging社が2012年に発表した装置で、自走能力はありませんが、ボールに搭載された6つのカメラが投げ込まれた場所を回転しながら撮影し、回転が止まると今まで撮影した写真をパノラマ合成して、送信するものです。



自走型とは違いますが、ボール型カメラとしてのコンセプトは近いものと思います。


日本でも手投げ式偵察ロボットのようなユニークな研究をしておりますが、この分野は日進月歩が激しいもので、すぐに陳腐化が進みます。
この研究も23年度で終了し、装備化が行われるなら開発に進むものと思われるのですが、まだ具体的な装備化の話はありません。

この手のロボットは、運用面での研究も大事なので、コストもそんな大きなものではないのですから、早めに取得して部隊の運用ノウハウを積んだほうがよいと思うのですが……。


【参考】
外部評価報告書「携帯型小型情報収集器材の研究」





0 件のコメント:

コメントを投稿