2013年5月15日水曜日

火力戦闘車とスピードのお話

自衛隊火力の主力である155ミリ榴弾砲 FH70がもうそろそろ退役が始まる時期になります。
その後継として、平成25年度から開発が始まっている火力戦闘車は、牽引砲だったFH70と異なり、最初から装輪車体(重装輪回収車の流用)に99式自走榴弾砲の砲システムを組み込んだ、装輪自走として開発が進められています。

火力戦闘車イメージ(引用元

まだ開発が始まったばかりで情報が少ない火力戦闘車ですが、実は十年以上前から似たようなプランが提案されておりました。
今回はその資料を参考にして、火力戦闘車ってどんなん装備? ということについて考えて行きましょう。


まず、火力戦闘車の事前評価書を見てみると、運用構想と開発予定についてのスライドがあります。
運用構想図及び開発線表
運用構想図のうち、赤線で囲まれている部分が、火力戦闘車の運用上求められる能力です。すなわち、射撃・陣地転換の迅速化、戦略機動性の向上、ネットワーク化です。とどのつまり、求められているのはスピードと言えるでしょう。


長射程化につきものの時間の問題


榴弾砲に限らず、ミサイル等も含めた火力が長射程化するにあたって、問題が一つあります。
それは、敵を観測した時点での敵位置と、着弾時の敵の現在位置に大きな差が存在するということです。射程が長くなると、弾を撃ってから着弾するのに時間がかかるので、射程が長くなれば長くなるほどこの差は大きくなります。

この問題を解決するために取られている手段は2つあります。1つは、弾自体に誤差を修正する機能を持たせる方法です。
この方法は、自衛隊でも弾道修正弾や高精度火力戦闘システムとして研究されており、発射された弾自身が翼を操作して弾道を修正する機能を持ちます。



上の動画は迫撃砲用の弾道修正弾について、防衛技術シンポジウムでの解説を撮影したものです。GPSにより修正するものと、レーザーの反射を拾って誘導されるものの2方式ありますが、いずれも発射後に受け取った情報を元に、弾道修正を試みるものです。


もう一つの誤差を解決する方法は、観測から着弾までの時間を短縮することです。
従来、観測された情報を伝達する手段は無線による音声であり、それにより諸元を計算・入力して射撃を行うもので、人の作業が多く介在しているためにリアクションタイムがかかりました。
そのため、観測時点と着弾時点とで、敵の位置に大きな誤差がありました。未来位置を推定して射撃をしても、やはり誤差は生じます。そこで、観測から着弾までのリアクションタイムを短縮することで、誤差を減らそうというアプローチが取られます。

ネットワーク化はそれを達成する為には有効な手段です。人の声による伝達では敵の座標を知らせるにも時間がかかりますが、ネットワークで文字情報として送り、自動的に諸元が計算・入力されるようになれば、リアクションタイムは短く出来ます。

また、将来的にはレーザーレンジファインダーやGPSを組み合わせたシステムにより、レーザーで距離を測ると同時に相手の位置を割り出して、すぐさま情報を砲に送ることも可能になり、ますますリアクションタイムは短くできるものと思われます。

火力戦闘車のネットワーク化は様々なメリットがありますが、主眼はリアクションタイム短縮にあるでしょう。



生き残るのに重要な時間

火力戦闘車で謳われている「射撃・陣地変換の迅速化」は、生存性に大きく関わってきます。
現在では対砲レーダーはどの国も持っており、発射とともに自分の正確な位置を露呈してしまうことになります。そのために、自走砲のようにある程度の装甲を備えるか、射撃後に素早く移動する能力が必要となります。 





上の動画は総合火力演習での火砲の実演の様子ですが、展開や撤収のリアクションタイムが、自走式に比べて牽引砲が長いことが分かります。

火力戦闘車では、自走式にすることで牽引にかかる時間を無くすとともに、操作の自動化が大幅に行われるようになると考えられます。

冒頭で触れた、10年以上前に提案されていた将来榴弾砲システムでも、それを窺わせる部分があります。

将来りゅう弾砲イメージ
将来りゅう弾砲は、上のイメージのように、重装輪回収車に火砲を搭載したもので、現在の火力戦闘車と基本は同じです。
これは、防衛関連企業で構成される防衛装備工業会の弾薬部会が、2002年11月に提案したもので、ネットワーク機能や省人化(操作人員がFH70の8名に比べ、半数の3~4名)が謳われています。

ここでの目標として、Shoot &Scoot を3分以内に行うものとされています。つまり、射撃から移動を3分以内で行うというものです。この数値は、30秒で撤収が行われる最新の自走砲よりは遅いものの、米軍のM109自走砲の7分と比べれば半分以下の数値で、牽引砲の後継としては早いものになると考えられます。
つまり、時間が短縮された分だけ、生存性が向上したと言えます。

また、火力戦闘車は2.5m以内に車体幅が抑えられるとしており、これにより道交法による面倒な手続きを抜きにして公道移動が可能になるため、戦略的移動能力が増すことになり、これもまたスピードの向上と言えます。


このように、スピードこそが攻撃の精度を高めると共に、生存性を高めるのに重要な要素だと言えるでしょう。今後の装備開発でも、いかに古い装備と比べて時間が短縮できるかが、その装備の性能を測る指標になるでしょう。