2013年5月18日土曜日

10式戦車同士の訓練はとても楽だよという話

戦車に限らず、軍隊をどのように訓練するかという問題は、昔からある大きな問題の一つでした。

実戦に近い訓練を行えば効率が良いのは理屈としては正しいですが、限りなく実戦に近づけば死傷者が出かねず、平時に訓練で部隊が消耗してしまうのは大変よろしくありませんし、実弾撃つと費用もバカになりません。

なるべく実戦に近い訓練をする為に、昔はペイント弾をガス圧で発射する訓練もありましたが、実銃と形が大きく異る上、汚れて後始末が面倒という問題がありました。
ところが、近年になってレーザー交戦訓練装置(バトラー)と呼ばれる装備が普及しました。

バトラー装着した自衛官。赤丸が受光部、黄色が発信機(元画像:Wkipediaより 


これは、銃口にレーザー発振機、人間の身体要部に受光器を取り付け、引き金を引くと射撃音の再生と、レーザーの照射が行われるものです。発振されたレーザーを受光部が感知すると、レーザーを照射された受光部に応じて、死亡や負傷の判定がなされるという、実戦さながらの訓練が行える装置です。

受光部

レーザー発振機

このバトラーによる訓練は、重量がある点と、濃霧・森林が濃い場所ではレーザーが減衰するなどの問題がありますが、射撃音や死亡・負傷の判定など、実戦に近い訓練を可能にしました。


また、最近ではエアガンを利用した訓練も行われています。
エアガンメーカーの東京マルイとの協力で、89式小銃のエアガンを閉所戦闘用訓練教材として、主に屋内での訓練に使用されています。

89式小銃エアガン(民間販売モデル)
このエアガンによる訓練は屋内などの短距離のみに限られますが、バトラーよりも当たり判定が細かいため(当たった場所が痛いから)、バトラーでは分からなかった知見、例えば肘への被弾が非常に多いことなどが得られたようです。


さて、本題の戦車の話をしましょう。
戦車でも訓練にバトラーが用いられます。人間用と同じようなレーザー発振機と受光部に加え、発射煙を発生させる装置、被弾したことを示す回転灯などから構成されています。
この戦車用バトラーにつきましては、Military Powersさんのページで詳しく紹介されていますので、ぜひとも御覧下さい。

しかし、この戦車用バトラー、かなり大掛かりな装置で、いちいち訓練の度に取り付けるのは面倒です。

その為、10式戦車ではバトラー訓練装置を別途付けることなく、戦車内在型訓練機能として、レーザー訓練機能が最初から付与されております。
この機能は戦車のレーザー検知器と測距用レーザーを利用するもので、測距用レーザーを訓練相手の10式戦車に照射して被弾を判定するものです。

分かりやすいように動画をアップロードしました。
この訓練展示では、10式戦車は砲身内から煙と音を出しますが、これは実弾の発砲に伴うものではありません。その為、発砲の衝撃もほとんどありません。

例によって、YouTube版の方が高画質で、手ぶれ補正も行われています。





平成18年の「公共調達の適正化について」に、この戦車内在型訓練装置の機能試験についての契約が記載されており、10式戦車の主契約者である三菱重工業と契約が締結されております。

しかしながら、この機能は10式戦車同士の訓練で使用に限られます。発煙装置などは取り付けの必要は無いと思われますが、他の部隊との訓練の際には、バトラーに対応したレーザー発振機を取り付ける必要があると考えられます。


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