2013年7月15日月曜日

艦これおじさんになって考えた

この連休、巷で話題のDMMのブラウザゲー、「艦隊これくしょん」を時間を見つけてはやっておったのですよ。


ツイッターのTLではGW前後から話題になっていたのだけど、その頃はWorld of Tankに熱中していたので、艦これは気が向いたらやろうとしばらく放っといてました。ところが、艦これがプレイヤー急増のために新規受付が停止になるなどの過熱ぶりが伝わってきたので、「ビッグウェーブに乗り遅れた!?」と慌てて新規受付再開と同時に登録を行い、ぼちぼちとプレイ始めてみました。



ゲーム性は高いものではない。しかし……

ゲームとしての艦これについて、嘘偽りのない評価としては、上の小見出しの通りです。ゲーム性が特に秀でているゲームではありません。

ゲームの進行について少し説明しましょう。
プレイヤーは「提督」となり、駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、戦艦、空母、水上機母艦の艦種(潜水艦は未実装)の擬人化ユニットである「艦娘」6人からなる艦隊を編成し、敵艦隊との戦闘を行い、敵主力に勝利することで次のステージに進みます。

この戦闘が少々厄介で、提督に与えられる裁量は非常に少ない。下に列記してみよう。

出撃前:    ・艦隊の編成
         ・個艦装備の変更
戦闘開始時: ・艦隊の陣形
戦闘終了時: ・残敵を掃討する夜戦に突入するか否かの選択
               ・ステージ探索を終えるか続行するか選択

実質、提督が戦闘に影響を及ぼせる要素はこれしかない。戦闘そのものは完全にオートバトルで、どの艦娘がどの敵をどうやって攻撃するか、なんてことは一切出来ない。陣形を選択し終えたら、お茶している間に戦闘は終わってしまっている。

艦これ 出撃前の艦隊編成

艦これ 敵との戦闘。完全にオートバトル

この点のみを挙げるならば、「『戦闘は始まる前から勝敗が決まっている』、という事のゲーム的表現なんだな。うんうん」と物知り顔で納得することもできたかもしれない。
しかしそうはいかない。このゲーム、ステージ内の艦隊進路は全てランダムで決まる。提督は運を天に任せて進むより他ない。艦隊が明後日の方向へと進み、目標に到達出来ないことはザラにある。初回でステージ攻略もできるプレイヤーがいる反面、何度チャレンジしてもダメなプレイヤーもいる。

このように、戦闘は指揮の采配ではなく、艦隊編成の妙、そして運で決まる。戦闘での駆け引きが好きなプレイヤーは、このあたりにストレスを感じることだろう。



では、艦これプレイの妙である、艦隊編成はどのように行うのか。
母港の艦隊司令部で秘書艦(第一艦隊の旗艦)のサポートの下、石油、弾薬、鉄鋼、ボーキサイト(アルミ)の資源を活用し、新造艦の建造や装備開発、艦の修繕が行われる。

母港画面

重巡や戦艦等の重量級艦艇は建造や修繕に多くの鉄鋼が必要で、航空機を運用する空母はボーキサイトが大量に必要となる。石油と武器弾薬は戦闘の度に使われ、連続した戦闘を行うと激しく消耗する。これら資源配分を塩梅よくこなすことが、効率的に艦隊を出撃させる鍵になる。
なお、上のキャプチャ画像の右上部分に保有資源が表示されているが、ここでは鉄鋼が他の資源より相対的に少なく、逆にボーキサイトが大量に余っている状態となっており、戦艦・重巡の運用に支障が出ている。新規提督はこうならないように気をつけてほしい。

このように、提督が持てる裁量のほとんどは、母港での艦隊編成や建造・開発等の後方分野に限定されている。戦闘での駆け引きや、爽快感を期待している向きには、かなり肩透かしを喰らうことだろう。

さて、ここまでざっと艦これのシステムについて軽く触れましたが、何か違和感を覚えた方もいるかもしれない。

「そのシステムで、擬人化する必然性あるの?」と。



艦娘たちの興亡

艦これの最大の特徴は、擬人化/キャラクター化された実在の戦闘艦にある。
この記事を書いている2013年7月15日現在、100隻以上もの艦艇が擬人化された艦娘として登場し、艦砲や艦載機などの武装も、三頭身くらいのチビキャラとして表現される。

驚かされるのは、この同型艦を含めた100隻以上全てにキャラクターを設定していることだ。同型艦は類似の制服を着用し、駆逐艦は若く、戦艦は年長者と言った具合に、同型艦や艦種で統一感を出しつつも、史実での活躍や戦歴を反映した各艦固有のキャラクター付けがなされている。

戦闘に影響する性能パラメータは同型艦ではほぼ同じだが、艦固有のステータスが付けられていることもある。例えば、運パラメータは数々の戦闘を経験しつつも終戦まで生き残った重巡青葉は高く設定されているのに対し、不遇な戦歴の戦艦山城は低く設定されており、これが戦闘の命中率や被弾率にも影響してくる。

艦これ 戦艦山城の説明。実艦の戦歴の不遇っぷりから、僻みっぽい性格

各艦固有のキャラクター付けは、戦闘や母港でのボイス付きのセリフにも現れている。前述の戦艦山城を修繕のためにドッグに入れると、「私……ドッグにいる時間の方が長いですよね……」と愚痴をこぼす。山城は戦前から改修を繰り返しており、艦隊よりドッグにいた時間の方が長いと揶揄されたネタを引っ張ってきている。こういう小ネタは知っていればニヤリとさせられるし、当該艦のWikipediaを見ていて気付かされる事もあるが、なにより艦娘達の個性を際立たせる事に成功している。これは上手い。

そしてこの艦娘達、戦闘で中破以上の判定を受けると、服がボロボロになったカットが表示されるお色気シーン(?)がある。東方Projectのボス戦で勝つとボスの服がボロボロになる事に似ているが、あざとさでは艦これが遥かに上である。それはそれはボロッボロッになりますよ、ええ。

ところが、これを積極的に見ようとするとリスクが伴う。
本番の戦闘で撃沈判定を受けた艦娘は、二度と戻ってこない戦没艦となる。下手に下心や収集欲を満たそうとして過酷な戦闘に投入すると、彼女らの死に際の恨み事と引き換えに二度と戻らないこともあるのだ(同じ艦娘が戻ることはあっても他人だ)。

このような背徳感・罪悪感を伴ったゲーム設計はリアルな艦艇では難しい。人の形をした艦娘でないと出来ないだろう。ハーツ・オブ・アイアンで戦艦が沈んで「畜生!」とは思っても、数千人いるであろう乗組員への憐憫の情が沸く人はあまりいないだろう。もちろん、艦これで撃沈されても艦娘1人の死でしかないとも言えるが、統計上の死が1人の死として認識されるようになるだけでも結構な進歩じゃなかろうか。

ところが、これとは真逆の事象も起こる。同型艦で名前も全く同じ艦艇が、何隻も配備されることが非常に良くある。川内型軽巡洋艦那珂が何隻も登場すると、速攻で廃艦処分でスクラップにしたくなってくる。スクラップにされる艦娘は、セリフこそ無いものの”カンカンカン”という解体音と共に消え、僅かばかりの無機質な資源と化す。

那珂ちゃん、君の事は忘れないよ。次来てもまたスクラップにするけど__。
なんなんでしょうね、この倫理の二律背反は。
こんなふうに愛着と効率の間で、己の業と向き合い楽しむゲームです。



艦これムーブメントのその前に

ところで、昨今の艦これムーブメントについて、ツイッターで相互フォローさせて頂いているa_park@偏読日記さんがこんな事を仰ってました。
そうだ。艦艇というか兵器擬人化は、艦これが生まれるより遥か昔からMCあくしずがあったじゃないか……。しかし、艦これが非軍オタを巻き込んだ一つのムーブメントになりつつあるのに対し、MCあくしずは必ずしも広範な支持を得ている訳ではない。同じ擬人化なのに……ナンデ?

ここからはあくまで自分個人の感想でしかなく、根拠もかなり薄い。実際にMCあくしずに携わっている方でツイッターでのやり取りの有る方や、実際に面識のある方もいらっしゃるが、その方は良い顔をされないだろう。
少なくとも、自分はa_park氏の思う所にかなり首肯できる部分があった。特に露出の部分について。

MCあくしず表紙の露出率はかなり高く、胸も強調されている。それに対し、艦これは露出過剰な艦娘もあるものの、全体的な傾向として通常時の露出はかなり少ない。中破以上の損傷を受けて初めて露出が多くなる。
良く言われることだが、“萌え”という価値が差異・ギャップから生じることを考えれば、通常時からあけすけなのはあまり宜しくないだろう。

ただ、そういう不毛な論争になりかねない「萌え」を巡る話は一旦置いといて、艦これのリリース元のDMMと、MCあくしずのイカロス出版社のポリシーの違いも、大きな影響を与えているのではないかと感じます。

イカロス出版の主力事業は、航空機等の乗り物系軍事系出版事業が核で、そのスピンアウト的な位置に萌え系・擬人化系のMCあくしずがある。一方、DMMはアダルトビデオ通販サイトを起源に持つ、今もエロ関連が事業の中核を占める通販・配信サイトだ。
一方はマジメな出版社、もう一方はAV販売業者。ところが、同じ擬人化キャラを出してみたら、マジメな出版社は露出過多で、AV販売業者は露出抑え目だった。
この違いは色々と示唆に富むものがあると思います。

DMMの成人向けページを閲覧していて思うのは、秋葉原のアダルト系店舗が表店でもどギツイエロ装飾しているのに対して、DMMはかなりあっさりしたインターフェースと表示なんですよね。エロのサムネイルも標準は小さく設定されている。
このように販売ページのエロ露出は控えめなのに、それでもやっぱり売れていて、ECサイト業界の中でもかなりの急成長を遂げ、ついに自社製作のゲーム(注:艦これが初めてのDMM内製ゲームと言われている)まで出してきた。

平時と非常時のギャップ(着衣と露出)に加え、それを生み出す過程に背徳感・罪悪感を持たせたる設計。
あるいは、個性的なキャラ付けで愛着を持たせると共に、非情な解体もプレイヤーに行わさせる。
こーゆー差異を生み出す構造をゲームに取り込むことに成功したのが、艦これが面白がられる一因じゃないかと思うんですよね。
それと同じで、普段から露出高いと通常時からの落差が生じない。普段からの差異を大きく、数多く用意しとかないと、人は麻痺しちまうんじゃないかと思った次第。

私の大好きな作家である秋山瑞人(新刊は……新刊はまだですか……)のストーリー展開は、「持ち上げる」「くすぐる」「突き落とす」と評されていましたが、こういう構造を取り入れた艦これ、やっぱすげえなあ、と思うのですよ。



さて、資源も回復した艦これおじさんは、金剛ちゃん出させる作業に戻ります。
コミケの事は忘れた。 



【関連】
DMM:艦隊これくしょん

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