2014年7月20日日曜日

「のび太が武装しても自分を守れますか?」の答え

「のび太が武装しても自分を守れるかな?」→「自分も守れるし、他人も守れます」

集団的自衛権の行使容認の閣議決定がなされてから3週間が過ぎようとしていますが、未だに議論は尾を引いて続いております。

そんな中、集団的自衛権について、高校生に教える授業が北海道で開かれたと朝日新聞が伝えております。

川原さんと伊藤さんは、「ドラえもん」を例に話を進めた。米国は「ジャイアン」、日本は「のび太」。安倍晋三首相は集団的自衛権の行使容認で「日本が戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなっていく」と胸を張ったが、「のび太が武装して僕は強いといっても、本当に自分を守れるかな」と川原さん。生徒はみな顔を上げ、考えこんだ。


はい、ドラえもんに詳しい方ならもう苦笑していると思いますが、この川原教師と伊藤弁護士、そして「のび太が武装しても自分を守れるかな」という記事を書いた朝日新聞の河崎記者(あるいはデスク)は、ドラえもんを読んだ事も観た事も無いのが丸わかりですね。のび太の数少ない特技があやとりと射撃なのは、ドラえもんの基本設定なんですが……。

ドラえもん全作を通じたのび太の射撃の腕前については、ブログ「遠足新報」「のび太の特技分析・射撃編―「スナイパーのび太」の射撃シーン全リスト」でまとめられています。それによると、のび太は射撃が得意という設定初出は、12巻所収の「けん銃王コンテスト」だそうです。

そして、24巻「ガンファイターのび太」で、のび太は無類の強さを発揮します。この話では射撃ゲームで世界最高記録を出したのび太が、西部開拓時代にいたら有名なガンマンになれるかなと得意になった所、ドラえもんにバカにされたのに怒って、タイムマシンで1880年の西部開拓時代のアメリカに行ってしまいます。ここで街で暴れていたギャング2人を実弾で倒したのび太(倒した後泡吹いて倒れますが)は街の保安官に任命され、街を襲うギャング団と対決することに。


最終的にのび太は、撃たれた相手を眠らせるドリームガンで街を襲ったギャング団30人を全滅させます。このようにのび太は臆病ですが、武装させると滅法強いという設定なのです。今月から全米でドラえもんが放映されているそうですが、イジメられっ子だけど射撃が上手いというのび太の設定は、銃社会アメリカではコロンバイン高校銃乱射事件を彷彿とさせるので、封印されそうな気がします。

このように、川原教師と伊藤弁護士の「のび太が武装しても自分を守れるかな」という問いかけに対しては、「出来ます。自分どころか外国の街を守れます。まさに集団的自衛権ですね」と答えるのがベストアンサーなのがお分かり頂けたと思います。てか、この川原教師と伊藤弁護士は、ドラえもんを知らないどころか、人間としてののび太を馬鹿にし過ぎで、他人を劣っていると見る浅薄な思想の持ち主である事が窺えます。



集団的自衛権行使から核抑止までするドラえもん

このような「ジャイアン=アメリカ」、「のび太=日本」とするドラえもんの例え話は、左派系の人が安全保障問題を語る時に、好んでしております。例えば、民主党(2010年まで社民党)の辻元清美議員も、過去にこんな事言ってます。

中曽根康弘元首相の世代は敗戦コンプレックスだったと思う。首相は米国のような大国を夢見る国家主義的。 日本はジャイアン(米国)にいじめられるのび太か、と言えば(ジャイアンにすり寄る)スネ夫なんです。 私は日本はのび太でいいと思う。 ドラえもんという憲法9条があるんだから。

出典:日経新聞 2002年5月23日

ドラえもんが憲法9条、ですか。では、ここで他にも映画にもなった大長編ドラえもんの話を見て行きましょう。

のび太の宇宙小戦争(リトル・スター・ウォーズ) 」ストーリー

軍部のクーデターにより地球に逃れてきたピリカ星の大統領とのび太・ドラえもん達が出会い、共闘し、最終的に軍部を倒して政権を奪還する。

→軍事的脅威に脅かされた他国の元首を助ける、集団的自衛権の行使

のび太と鉄人兵団」ストーリー

ロボット惑星メカトピアの鉄人兵団による地球侵攻と地球人奴隷化計画を察知したドラえもん・のび太が、現実世界に似せた鏡面世界に鉄人兵団を誘い出して迎え撃つ。

→本土決戦を回避し、周辺地域での戦闘に限定することで被害を極限する明治日本の防衛戦略

のび太とアニマル惑星」ストーリー

犬猫等の動物型知的生命が暮らすアニマル星に、人間型宇宙人が侵攻。平和だったアニマル星に軍事力は無く(警察は麻酔弾しかない)、ドラえもんのひみつ道具で武装して対抗する。

→軍事顧問団の派遣と武器供与による抵抗


わあ凄い。ハリウッド映画かと思うようなストーリーの数々。そう、大長編ドラえもんはキレイ事だけで済まさない、かなりシビアな話が展開するのです。

中でも極めつけは「のび太と雲の王国」。雲を固定化するひみつ道具で、のび太一行は雲上に雲の王国を作ります。ところが偶然、雲上で文明を築いてた天上人の世界を発見し、のび太一行は天上人と交流を持つが、天上人は地球環境を破壊する地上文明を大雨で一掃する「ノア計画」の実行に移ろうとしていた……。

「雲の王国」が凄いのはここから。天上人の計画に気づいたドラえもんは、計画を阻止すべく切り札を用意する。



地上文明破壊を決意した天上人に、ドラえもんはそっちがやるんならこっちも滅ぼすぞと脅しをかけます。核抑止に匹敵する力を見せつける事で、相手を交渉の席に着かせようしているのです。

さらに凄いのは、天上人に捕まっていた地上の密猟者達が、雲の王国を乗っ取ってしまう展開。密猟者達は天上人への報復に雲もどしガスを使い、天上人の領土の1つ(北海道並の大きさ)を破壊する。更なる惨劇を防ぐため、ドラえもんは雲もどしガスのタンクに自ら激突させ、破壊されたタンクから漏れ出したガスにより雲の王国は消滅する。ドラえもんの自己犠牲により、天上世界は救われる。

大量破壊兵器による力の均衡に、その均衡が内部的要因で崩壊して破滅に至ろうとするも、最後は自己犠牲で救われる話を子供向けでやるんですから、藤子・F・不二雄先生は本当に凄い人です……。このように、集団的自衛権の行使から、自己犠牲による世界救済までを描いているドラえもんの作品世界は、少なくとも憲法9条を絶対視する左派系の人の対極にあると思われるのですが、いかがでしょうか。

そもそも、野比家は祝日に国旗掲げるような保守的な家だったりするのですが、左派系の人がなんで度々例えに出すのか、イマイチわかりません。安全保障でドラえもんを持ち出す人達に、原作に対する愛は微塵も感じられず、政治利用のためだけに作品を利用する最低の行為ばかりで、どれだけ醜い事を自分たちがしているのか自覚が無いんでしょうか。あ、自覚や愛もあったらそもそもしないか。



【関連書籍】

ドラえもんは二十歳過ぎてから読むのが面白い(ホント)










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