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2014年7月29日火曜日

マレーシア航空機撃墜事件と大韓航空機撃墜事件の共通点

マレーシア航空機の撃墜事件から2週間近く経ちますが、回収されたブラックボックスの解析結果が発表されました。

【モスクワ時事】ウクライナ国家安全保障・国防会議報道官は28日、東部ドネツク州で撃墜されたマレーシア航空機の飛行状況などを記録したブラックボックスを英国で解析した結果、地対空ミサイルが命中したことを示すデータが得られたと明らかにした。


ウクライナ政府の発表であり、最も犠牲者が出したオランダ政府は発表は時期尚早として不快感を示している等、信頼性は今ひとつではあるものの、マレーシア航空機の撃墜を裏付けるデータが揃いつつあるようです。

今回の事件は、紛争に無関係の民間機が撃墜された事で世界中に衝撃が走り、マレーシア航空機を撃墜したと思われる親ロ派武装勢力と、それを支援していると見られているロシアへの非難が強くなっています。民間機の撃墜が国際情勢に大きな変化を与えた事になりますが、過去にも同じような事件があり、日本も大きな役割を果たしていました。



マレーシア航空機撃墜事件と大韓航空機撃墜事件の共通点


冷戦真っ只中の1983年9月1日、ニューヨーク発ソウル行きの大韓航空機007便がソ連の領空を侵犯し、戦闘機に撃墜される事件が発生しました。機体は宗谷海峡付近に墜落し、乗客乗員269名は全員死亡という大惨事になりました。この事件は国際情勢に大きな影響を及ぼした事など、様々な点で今回のマレーシア航空機との共通点が見い出せます。

宗谷岬にある大韓航空機007便の慰霊碑(shirokazan撮影)

民間機のルートと撃墜


大韓航空機撃墜事件の直接の原因は、大韓航空機がソ連の領空を侵犯していた事です。何故このような危険な行為を大韓航空機が行ったのかは撃墜当初から謎とされ、大きな論争を呼びました。

マレーシア航空機の事件も同様に、戦闘で軍用機が撃墜されているウクライナ東部地域の上空を、何故マレーシア航空機が飛行していたかが謎とされました。マレーシアのリオウ運輸相は「ICAO(国際民間航空組織)や IATA(国際航空運輸協会)が承認する安全なルート」と語り、飛行が禁止されていない空域である事を強調しましたが、カンタス航空やアシアナ航空は飛行ルートから外す等の自社規定を行っていた事が報じられています(この経緯は末永恵「経営危機のマレーシア航空を2度襲った悲劇」に詳しい)。マレーシア航空機のルート選定過程で、そのような判断がなされていたのかが、今後注目されるのではないでしょうか。



傍受されていた通話


マレーシア航空機撃墜の後、ウクライナ保安庁は親ロ派武装勢力とロシア当局者の通話を傍受していた事を明らかにし、その内容を英語字幕付きでYouTubeに公開しました。(下動画)



撃墜直後の親ロ派武装勢力の生々しい会話が、英語字幕付きで多くの人に周知されたことで、親露派武装勢力とロシアの立場をますます悪いものにしました。

これとよく似た事が大韓航空機撃墜事件でもありました。大韓航空機撃墜時のソ連防空軍の通話を自衛隊が傍受したテープがアメリカに渡り、国連で公開されたのです。(下動画)



この傍受された通話は、アメリカによって英語・ロシア語字幕が付けられたビデオに編集され、国連安全保障理事会で流されました。当初は撃墜を否定していたソ連も、傍受テープの公開を受けて撃墜を認める事になりました。この公開手法は、マレーシア航空機撃墜事件におけるウクライナ政府の対応に影響を与えたのかもしれません。

この傍受テープは、当時の中曽根総理大臣・後藤田官房長官の決断でアメリカに渡ったとされていますが、具体的にどう受け渡されたのかは未だに明らかにされ ていません。また、秘密にされる事の多い自衛隊の通信傍受活動の一端が、明らかになった数少ない事例でもありました。しかし、テープ公開により通話が傍受 されている事を知ったソ連軍は通信を見直し、以後の自衛隊の傍受活動が困難になったとも伝えられています。ウクライナもそのようなリスクを敢えて冒したのでしょうか。ひょっとしたら、アメリカが傍受したものが、手の内を明かすリスクを抑える為にウクライナに渡って、ウクライナ名義で公開されたのかもしれません。


消えたブラックボックス


今回の事件では、マレーシア航空機のフライトレコーダー・ボイスレコーダー(いわゆるブラックボックス)が当初明らかでなく、その行方が注目されていましたが、大韓航空機撃墜事件でも同様にその行方に注目されていました。

傍受テープを公開された事で撃墜を認めたソ連は、大韓航空機007便はスパイ機であり、撃墜は正当なものと主張しました。その為、コックピットの会話を記録したブラックボックスが証拠になると思われましたが、日本とアメリカが懸命に捜索したもののブラックボックスは発見されませんでした。

ソ連崩壊後に公開された情報では、事件の後にブラックボックスはソ連により秘密裏に回収されており、分析も行われていました。その結果、大韓航空機007便がスパイ機であるという証拠をソ連は発見出来ませんでしたが、ソ連の主張に不利な証拠になるため、ソ連崩壊までブラックボックス回収の事実が明らかになる事はありませんでした。
米ソ(米ロ)関係の悪化

昨年末からのウクライナ問題で悪化していた米ロ関係ですが、今回の撃墜事件を受けてアメリカやEU諸国、日本はロシアへの経済制裁を強めており、ますますロシアとの関係は険悪なものになっており、「新冷戦」という言葉を使う識者もいます。

大韓航空機撃墜事件でも、アメリカのレーガン政権は事件を虐殺であると非難し、西ドイツ(当時)にミサイルを展開させるなど、ソ連への対決姿勢を強めていきました。この米ソ関係の緊張状態は、ソ連でペレストロイカといった開放政策が本格化するまで続くことになります。

このように様々な類似点が見られる両事件ですが、大韓航空機撃墜事件のような経緯を辿らずに、事件の解明と和解の方向を見出す事が出来れば良いのですが……。



【関連書籍】








2014年4月22日火曜日

「緊急シンポジウム ウクライナ危機はなぜ? 世界は変わるのか?」私的まとめ

立正大学で開催された「緊急シンポジウム ウクライナ危機はなぜ? 世界は変わるのか?」に行ってまいりました。

途中から入ったのと、何度かトラブルに見舞われたので、うまく聞き取れなかった部分もありますが、私的まとめをツイートし、togetterでまとめましたので御覧ください。


togetter「緊急シンポジウム ウクライナ危機はなぜ? 世界は変わるのか?」私的まとめ


発表者の中で何度か「ロシアの東方シフト」と呼ばれる話が出てきております。
凄まじく大雑把に言うと、これまでヨーロッパの方に向いていたロシアのフロントが、アジア極東の方に向いてきますよという話で、実際にプーチンが発言もしています。
これらに関しては、ドミトリー・トレーニン「ロシア新戦略――ユーラシアの大変動を読み解く」という書籍が邦訳されていますので、興味のある向きはこちらを参考にされるのが良いかと思います。


【参考になりそうな書籍】





2014年3月25日火曜日

ウクライナが日本の安全保障にもたらす影響

先日、クリミア情勢に関してTwitter上でこんな趣旨のツイートを見かけました。

「”親日国ウクライナ”の為に、日本が出来ることはないか。」
先日、混乱するウクライナ情勢に関して、Twitter上でこんな趣旨のツイートを見かけました。

「”親日国ウクライナ”の為に、日本が出来ることはないか。」

あまりにナイーブな”親日国”という要素を国家間の関係にまで持ち出す事の是非はここでは問わないし、ウクライナが本当に親日であるか否かという話もしません。確かにウクライナは親日国かもしれない。しかし、経済的・軍事的関係性において、ウクライナは親日である以上に遥かに”親中”な国という側面を持っています。



冷戦終結とウクライナ・中国関係

冷戦期、ソ連邦の構成国の1つであったウクライナは、ソ連の穀倉地帯であると共に重工業でも重要な地位を占めていました。黒海の造船所はソ連の空母・航空機搭載艦の建造を行い、T-80UD戦車を開発したハルキウ機械製造設計局、大型輸送機の設計・開発を行っていたアントノフ設計局等の重要な設計局もウクライナに置かれ、宇宙開発の分野においても旧ソ連による宇宙技術の成果の30%がウクライナのものであるとされるなど、ウクライナはソ連における軍需産業の重要な工業基盤でした。


T-80戦車。現在のウクライナで派生型開発が行われた(http://vitalykuzmin.netより)

ところが、ソ連の崩壊とウクライナの独立により、ウクライナの軍需産業に大きな転機が訪れます。ウクライナ軍需産業の最大のユーザーであったソ連軍は無くなり、独立したウクライナ軍はウクライナ軍需産業の供給能力を満たすほどの規模ではありませんでした。結果として、ウクライナ一国にとっては過大な軍需産業が残される事になりました。その為、必然的にその目は海外に向けられる事になります。

その頃、中国も大きな悩みを抱えていました。70年代の改革開放以後、西側との関係改善を果たした中国は軍事技術分野でも西側技術を導入し、アメリカとの間でも戦闘機の改良計画、新型戦車の共同開発、中国艦艇への機関供給等の広範な軍事技術協力が行われるようになりました。しかし、1989年の天安門事件により、西側との軍事技術協力は凍結を余儀なくされ、中国は旧ソ連の技術導入に再び立ち戻る事になります。この時、中国の良きパートナーになったのが、ソ連崩壊により軍需産業を持て余していたウクライナでした。



中国海軍急拡大へのウクライナの貢献

ウクライナと中国の軍事技術協力は多岐に渡りますが、その1つの成果が近年の中国海軍の急拡大です。中国海軍がアメリカ・フランスからの技術導入で建造した052A型駆逐艦は、1番艦は米国製ガスタービンを搭載していましたが、天安門事件以降に起工された2番艦はウクライナ製ガスタービンを搭載しています。中国は自国での艦艇用ガスタービンの製造能力を持たず、これまではウクライナからの輸入に頼っていましたが、近年に入り国産化に成功し、”中華イージス”の俗称がある052D型駆逐艦に搭載されるようになりました。なお、海上自衛隊が現在保有するイージス艦は6隻ですが、052D型駆逐艦は現在8隻の建造計画が確認されています。


052B型駆逐艦(海上自衛隊撮影)。ウクライナ製ガスタービンとドイツ製ディーゼルを搭載
そして、近年の中国海軍拡大の象徴とも言える空母”遼寧”は、元々は旧ソ連で計画され、黒海の造船所で建造中だった空母ヴァリャーグの船体を利用したものです。このヴァリャーグを中国に売却したのは、他でもないウクライナです。また、空母に搭載される艦載機についても、旧ソ連で開発が進められていたSu-33艦上戦闘機の試作機T-10Kがウクライナから中国に引き渡され、現在中国で開発が進められているJ-15艦上戦闘機(殲-15)のベースになったとも言われています。この他にも、中国海軍関係者がウクライナの艦載機訓練施設を頻繁に訪問している事や、発着艦訓練機Su-25UTGのウクライナからの輸入が報じられるなど、中国の空母計画にハードとソフト両面でのウクライナが関与している事が窺われています。

大連に回航されるヴァリャーグ
ウクライナは機関や空母の他にも、上陸作戦に使われるポモルニク型エアクッション揚陸艦の中国への輸出と技術協力、99A2式戦車へのディーゼルエンジンの供給、Y-20大型輸送機の設計草案の無償提供等(これに関し、アントノフ社は中国が無断で開発を進めたと不快感を示している)、陸海空の様々な局面で技術協力を行っています。中国軍の近代化、いや先進化について、ウクライナは多大な貢献をしたと言えるでしょう。

武漢で建設中の艦載機訓練施設(防衛省資料より)


今後のウクライナ情勢が与える影響

現在、ウクライナ・ロシア間の緊張が世界的に懸念されていますが、これがウクライナと中国の軍事協力に影響を及ぼす可能性が指摘されています。ロシアの軍事情勢に詳しい未来工学研究所の小泉悠氏は、ロシア系住民が多数を占め、軍需産業の基盤が集中するウクライナ東部が今後、ウクライナ新政権につくかロシア側につくかで大きく影響を及ぼすのではないかと推測している。中国との武器取引でロシアは重要な位置を占めますが、中国と国境を接するロシアはウクライナと比べて技術移転に慎重であり、ウクライナ東部がロシアにつけば中国への軍事技術の流入に大きな変化が訪れるのではないかと見ています。

しかし、その一方で懸念もあります。今回のウクライナ問題の原因の1つに、ウクライナの深刻な財政問題があります。ウクライナとロシアの関係が更に悪化した場合、元々ロシアと経済的結びつきの強いウクライナは益々経済的困窮に立たされます。経済的に不安定な時期が長く続いたウクライナでは、中国以外にも様々な国に武器を販売しており、サダム・フセイン政権下のイラクへの制裁を破ってレーダーを輸出し、またアフリカの紛争国にも無節操に武器輸出をして国際的非難を浴びていました。近年は欧米の関与により、ウクライナの武器輸出管理も整えられたと考えられていましたが、今後の財政問題次第で、また無節操な武器輸出による外貨獲得に走る可能性も捨てきれないのではないかと思われます。

今現在進展しているウクライナ問題は、東アジアから遥かに離れた東欧の出来事で、日本にとっては関心が低い事かもしれません。しかしながら、東アジアから離れているからこそ、東アジアの軍事的緊張を気にせずに軍事協力を推し進めている国があり、それが日本の安全保障に大きな影響を与えています。今回のウクライナ問題がどう進展し、ウクライナはどのような選択をするのか、注視する必要があるでしょう。


※当初、記事中で「T-80戦車を開発したハルキウ機械製造設計局」としましたが、正しくは「T-80UD戦車」でした。お詫びして訂正致します。


【理解に役立つ本】

トシ・ヨシハラ「太平洋の赤い星」

米海軍大学教授による中国海軍戦略の本。原書は2010年の発表だが、恐ろしい事に現在の中国海軍は当時と比べ物にならないほど拡大している。


茅原郁生「中国軍事大国の原点―鄧小平軍事改革の研究」

中国軍研究の第一人者、茅原氏による鄧小平期の軍事改革について扱った本。海軍にも一章を割き、「毛沢東の海軍」から80年代に欧米技術を取り入れた近代海軍への変貌過程を示している。





2014年2月22日土曜日

ウクライナが洒落にならない事になっている件

日本での報道は今ひとつ影が薄いのですが、ウクライナの政治状況がこの数日で急激に悪化しています。ヤヌコビッチ大統領の官邸及び私邸にデモ隊が突入し、大統領は首都キエフを脱出したとされています。

博物館から略奪され、バリケードに使われる大戦中の対戦車砲



大統領私邸へと向かう群衆(@Euromaidan PRより)

発端は昨年、財政危機の最中にあるウクライナの救済を巡り、ヤヌコビッチ政権がEUとの経済調印棚上げし、ロシアから150億ドルの経済支援を得た事です。これに抗議するデモ隊が、昨年末から首都中央の広場を占拠するなどの抗議活動を行い、政府の腐敗一掃を要求する幅広いデモに拡大しました。しかし、政権と野党勢力との話し合いは行き詰まり、20日にはデモ隊と警察の停戦合意が合意後数時間で破られると、首都で大規模な衝突に発展しました。


当局との衝突で亡くなったデモ隊(@Euromaidan PRより)

また、ウクライナ国会も野党勢力が力を増し、21日にはヤヌコビッチ大統領の政敵で、職権乱用で収監されていたティモシェンコ前首相の釈放を可能にする法案を可決しました。現政権は治安維持から、国会運営を行う能力を既に喪失しているようです。現在、大統領はウクライナ北東部の都市ハルキウ(ハリコフ)にいるとも言われていますが、そのハルキウの治安当局の庁舎でも職員が書類の焼却を行っており、首都キエフ以外にも混乱が波及しています。


書類の焼却を行う治安機関(@Euromaidan PRより)

旧ソ連から独立したウクライナは、ウクライナ語話者とロシア語話者が混在するなど、多様性を持つ国家です。しかし、その多様性から、国内では政治的対立が長らく続いておりました。クリミア半島等のウクライナ各地では、独立をめぐる動きがあることが報道されており、ウクライナ語地域・ロシア語地域で分裂するかのような、国家が分裂する事態に陥る可能性があります。

ロシアによる調停・介入も行われつつありますが、情勢は断片的に伝わって来るのみで、政府に統一した主体が既に存在しない事を示しています。EU・ロシアの中間地帯であり、EU圏へのガスパイプラインの経由地であるウクライナの混乱は、EU・ロシアに大きな影を落としかねないだけに、国際社会による一刻も早い調停が望まれます。


◇ウクライナ情勢理解の為の参考になるサイト


ウォール・ストリート・ジャーナル日本語版:ウクライナで何が起きているのか―理解のためのクイックガイド

WSJによるクイックガイドは、ウクライナでこの数ヶ月に起きた事を手短にまとめています。

以下はTwitterでの識者、ウォッチャーによるツイートのまとめです。「膠着から一転、急変したウクライナ情勢」は若干長めですが、リアルタイムのツイートですので、悪化の過程が分かると思います。

EUとアメリカの支援条件から見るウクライナ問題

膠着から一転、急変したウクライナ情勢(2014年2月17日~22日)