7000系アルミ合金に触れる前に、1年前のiPhone6発売当時を思い出してみましょう。6、6Plus共に前モデルの5Sよりも大型化されながら、5Sよりも薄いということがウリでした。ところが、この大きさと薄さとが祟ったのか、iPhoneをポケットに入れたらボディが曲がったとする騒動になり、実際に曲がったiPhone写真がネットに多く出回った事は、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。この騒動は実際より大げさに伝えられていたと見られており、アメリカの著名な消費者団体であるコンシューマ・リポーツは商品テストの結果、「iPhone6/Plusは信じられているほど曲がりやすくはない」という結論を出していますが、このテストではiPhone6はiPhone5の約6割の力で曲がる事が示されており、 言われているほどではないにしろ、従来より曲がりやすいのは事実なようです。
さて、今回発表されたiPhone6s/Plusでは、前モデルより厚さが0.2mm増しているものの、ほぼ同じ形状を保っております。この僅かな厚み増大に加え、ボディの材質を従来の6000系アルミ合金からアルミ合金中最高の強度を持つ7000系アルミ合金に変更することで、強度は前モデルより飛躍的に増大しているとされます。
純粋なアルミニウムは強度に劣るため、私達が普段触れるアルミ製品はアルミニウムに各種金属を添加することで、強度を高めたものが大半です。従来のiPhoneで使われていた6000系アルミ合金は、アルミニウムにマグネシウム、ケイ素を添加したもので、耐蝕性に優れていて、様々な工業製品に使われているポピュラーなアルミ合金です。一方、iPhone6s/Plusに使われた7000系アルミ合金は、亜鉛とマグネシウムを添加したもので、アルミ合金の中で最も強度の高いグループです。中でも、亜鉛とマグネシウムに加え、銅を添加したA7075アルミ合金は"超々ジュラルミン"とも呼ばれ、最高の強度を誇るアルミ合金のひとつで、第二次大戦中の日本海軍の主力戦闘機だったゼロ戦(零式艦上戦闘機)を始めとした、航空機にも使われていた素材です。
米スミソニアン博物館所蔵の零戦(筆者撮影) |
墜落から回収された零戦。腐食が分かる(英帝国戦争博物館にて撮影) |
また、酸化皮膜の他にも、気になる情報があります。アメリカのUnbox Therapyは、Appleの発表前にiPhone6Sのものとされるボディを入手し、蛍光X線分析装置でその組成を調べています。すると、比較対象のiPhone6がA6063アルミ合金製と判明する一方、iPhone6sとみられるボディの組成は7000系アルミ合金に類するものだが、該当するアルミ合金規格は無かったという結果をYouTubeで公開しています。
とすると、iPhone6s/Plusで採用されたのは、既存のものでない新しい7000系アルミ合金という可能性が出てきます。この未知のアルミ合金が耐蝕性問題を解決するのに役立ったのかもしれませんし、あるいは単なる計測ミスか、入手したボディが偽物だった可能性もあるので、本当のところは発売されてからの検証待ちになるでしょう。
なお、Unbox Therapyによる解析結果では、iPhone6sボディの銅の含有量は僅かでしたので、7000系アルミ合金であっても超々ジュラルミンではないようです。iPhone6sはゼロ戦のそれに近い素材を使っている、くらいが妥当なところでしょうか。いずれにせよ、発売が楽しみです。
【関連】
「風立ちぬ」登場人物と鳥人間コンテスト。本庄季郎の戦後「風立ちぬ」公開に合わせて書いた過去記事ですが、零戦に使われた超々ジュラルミンが戦後どうなったのか、という話になっております。戦前、戦中の日本の国産アルミの最大の用途は軍需で、1944年には過去最高の生産量を記録しますが、終戦と武装解除と共に需要は消えてなくなり、大量の超々ジュラルミンの在庫が残りました。それに目をつけたのが、零戦設計者堀越二郎の同僚の本庄季郎で、超々ジュラルミンで自転車を作って売り始めて……という経緯の話です。興味があれば御覧ください。
清水 政彦 (著), 渡邉 吉之 (著) 「零戦神話の虚像と真実 零戦は本当に無敵だったのか」
堀越二郎「零戦 その誕生と栄光の記録 (講談社文庫)」
一方は零戦についての新しい見識、そして設計者自身による記述の比較は、零戦を振り返る上で面白いと思うので、自分もこれから挑みます(積んどく中……)。
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