昨日、西谷修教授は「(防衛産業を抱える)三菱のものは明日から鉛筆一本買わないことが大事!」と演説した。徹底した不買運動や落選運動など、これからの日常の運動こそが肝心。RT @oyabakacat: @iwakamiyasumiもうタリーズには、いかない。飲まない。
出典:岩上安身Twitter
西谷教授が言うように、三菱グループが防衛産業の一角を占めるのは事実で、それを根拠として「三菱から鉛筆も買わない!」とは、割と昔の反戦運動で見られてきた現象でした。鉛筆がターゲットにされたのも、企業向けあるいは公的機関向け事業が強い三菱グループの中で、いちばん消費者向けで馴染み深いのが鉛筆を製造販売する三菱鉛筆だったからかもしれません。
ところが、これ明白な間違いで、三菱鉛筆は三菱グループ及び旧三菱財閥とは無関係の企業です。
先のツイートは削除されており、西谷教授のアクションはこれを書いている時点では不明ですが、良い機会でもありますので、三菱鉛筆は三菱グループ企業という誰もが思っていたであろう誤解について書いてみました。
まず、資本関係について見てみましょう。三菱鉛筆の大株主に三菱グループ企業が名を連ねていれば、三菱グループの関係企業と言えるでしょう。三菱鉛筆は公開会社なので、有価証券報告書見れば資本関係はすぐ分かります。
三菱鉛筆株式会社の大株主(有価証券報告書より) |
三菱系は末席に旧三菱財閥と旧安田財閥の流れを汲む明治安田生命保険相互会社があるだけです。どちらかと言うと、三井住友系が目立ちます。このように資本関係から三菱鉛筆は三菱グループとは関係無いと言えるのは確かなようですが、三井グループのように資本関係が薄くても歴史的、あるいは人的な繋がりを持つ企業グループもあります。三菱鉛筆もそのような繋がりがあるか、歴史的経緯を見てみましょう。
三菱鉛筆の創業は1887年(明治20年)で、佐賀出身の眞崎仁六により「眞崎鉛筆製造所」としてスタートしました。この時点で、当時の岩崎弥太郎率いる三菱財閥とは無関係のようです。そして、1925年(大正14年)に同業の大和鉛筆と合併して「眞崎大和鉛筆株式会社」に改称、続いて1952年(昭和27年)に現在の三菱鉛筆株式会社の社名となります。この間、三菱グループが取り立てて関係した事柄は見られません。
このような社名の歴史を辿った三菱鉛筆ですが、三菱グループと無関係なら、なんで社名に三菱を冠し、マークも同じなのでしょうか? 三菱鉛筆の公式サイトでは「商標とブランド」というコーナーを設け、その説明をしています。
数々の失敗を重ね、試行錯誤を繰り返しながら、明治34年(1901年)に、「逓信省(現:総務省)御用品」として採用されたのが『局用鉛筆』です。このときの感動を後世にまで残したいと考えた眞崎仁六は、記念の商標を登録するという考えに辿り着きました。
『局用鉛筆』には一号、二号、三号という3種類の硬度(芯の濃さ)があったこと、また、これに合わせて眞崎家の家紋である「三鱗(みつうろこ)」を図案化し、“三菱”というマークを考案しました。'''この“三菱”マークと「三菱」という商標は、明治36年(1903年)に商標登録されました。三菱財閥の商標登録に先立つこと10年になります。
三菱鉛筆株式会社:三菱鉛筆の商標について(強調筆者)
はい、三菱グループよりも先に三菱マークと「三菱」を商標登録していたんですね。社名になったのはだいぶ後になってのことでしたが、鉛筆のブランドとして長らく「三菱」の商標とマークを使っており、1952年の社名変更も社名と商品名を一致させることが目的のブランド戦略でした。
三菱鉛筆と同じように同一意匠で先を越していたものに、熊本の乳製品メーカーの弘乳舎が販売する「三菱サイダー」があります。こちらは公式サイト上に「※ 『三菱』の商標とスリーダイヤモンドのロゴは大正8年に商標登録されたものです。大企業グループの三菱グループ各社とは関係無い製品です。」と三菱グループと無関係だと書いています。
というわけで、三菱鉛筆は三菱グループと無関係の企業だという事がお分かり頂けたと思います。件のツイートも指摘を受けて削除されていますが、このように三菱グループ製品として鉛筆を挙げて不買運動を呼びかけるのは、虚偽の風説を流布して業務妨害を行う偽計業務妨害罪に相当する危ない勘違いです。幸いなことに三菱鉛筆はとても寛容な会社のようで、過去限りなく行われてきたこのような理不尽な不買運動に対しても告発はしていないようです。不買運動がまるで会社にダメージを与えなかったから、という可能性もありますが……。
※記事初出時、三菱鉛筆の大株主に「ひとつも三菱グループない」としましたが、大株主末席の明治安田生命保険相互会社は、三菱財閥の流れを汲む明治生命保険と、安田財閥の流れを汲む芙蓉グループの安田生命保険が合併したもので、半分三菱グループでした。当該箇所を訂正の上、お詫び致します。
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