2014年9月30日火曜日

登山その前に。登山計画書の提出を

御嶽山噴火の報道が連日続いていますね。噴火当初は噴火映像のインパクトに圧倒されましたが、心肺停止で発見される遭難者の数が時を経るに従って増えていくのに痛ましい想いです。

今回の噴火による遭難者の数ですが、報道によると噴火から3日経った今でも正確な数は分かっていないそうです。


29日午前8時から長野県庁で開かれた非常災害現地対策本部会議後、陸自松本駐屯地の広報担当者は、「安否不明者は41人に上る」と明らかにした。連絡が取れない人や周辺の駐車場に放置された乗用車の所有者などを基に集計。山中に取り残されている人の数は正確につかめていない。



発表されている遭難者の総数は連絡が取れない人や、駐車場に放置された自動車から割り出しているようですが、公共交通機関の利用者や単身登山者が多く含まれていた場合、実際の遭難者はもっと増えるかもしれません。

焼岳。常時観測対象の火山の1つ(筆者撮影)

未だに遭難者の総数が分からない理由として、登山者の登山計画書未提出が挙げられます。登山計画書(登山届)とは、登山の日程、ルート、参加者等の情報を記入した書類の事で、主要な山の登山口には投函するポストが用意されています。投函された計画書は回収され、いざ遭難が発生した際、救助のための重要な参考情報となります。

登山計画書様式例(長野県)

今回の遭難に限らず、仮に登山計画書が100%提出されていれば、遭難者の名前から人数まで遭難発覚から短時間で分かりますが、登山者の8割が計画書を提出しないと言われています。御嶽山は3000メートル級の高山ですが、七合目までロープウェイも整備されており、コースによっては日帰り登山が可能な事から、”お手軽な山”という認識もあります。その事も計画書の未提出に繋がったのかもしれません。



計画書未提出で遭難から救助まで14日を要した例

今回は噴火という大災害でしたから、直ちに登山者の遭難の事実が知れ渡ったため、不明者の総数が分からない程度で済んでいます。しかし、登山計画書未提出で遭難した場合、遭難そのものに気付かれずに救助活動が始まるのが遅れる、あるいはどこで遭難したのかすら分からない可能性があります。

山と渓谷社から出版されている、羽根田治「ドキュメント単独行遭難」では、そのような遭難事例が数多く紹介されています。その中から1つ紹介すると、2010年の埼玉県秩父山地の両神山で登山者の男性が40メートル滑落して骨折し、身動きが取れない状態になりましたが、男性は計画書の投函ポストを見落として未提出のまま登山していた上、行き先を告げた家族が山の名前を覚えていなかった等の悪条件が重なり、救助まで14日を要した例があります。この例では、男性が登ったのは両神山だと警察が特定したものの、どのルートを使ったが最後まで分からず、救助隊は広範囲の捜索を強いられる事になりました。遭難14日目で男性が発見されたのは沢で、あと数十分発見が遅れていたら大雨による増水に流されていたという、ギリギリの状況での救助でした。



ネットでも可能な登山計画書の提出

登山計画書提出の有無で、生死を分ける事になるかもしれないとお分かり頂けたと思います。1~2枚の紙を書く数分間の手間で、生存の可能性を上げる事が出来るなら、それは有効な投資ではないでしょうか。

しかし、どうしても書くのが億劫な方もいるかもしれませんし、先の例のように投函ポストを見落とす可能性もあります。近年はネットでも計画書を受け入れている自治体があります。現在問題になっている御嶽山は岐阜・長野両県に跨る山ですが、岐阜県はメールによる計画書提出が可能で、長野県ではメールフォームによる提出の他、公益社団法人日本山岳ガイド協会が運営する登山SNS「コンパス」と提携し、SNS上から提出する事も出来ます。この他の自治体、警察でも、ネットでの計画書受付を行っている所がありますので、登山の際は事前にチェックしてみるとよいでしょう。



岐阜・長野県の登山届提出先リンク


岐阜県警察「登山届」

長野県:「登山計画書」

コンパス:「長野県警察」×「コンパス登山計画」の取り組みについて



今は遭難しても携帯電話で救助を呼べる、と考える方もいるかもしれませんが、携帯が圏外で助けに呼べなかった遭難例は数多くあります。そもそも、山は人間の生活空間ではなく、突発的な災害・怪我等のリスクは数多く存在し、ちょっとした事から誰もが遭難者になり得ます。ほんの少しの手間でリスクが減らせるのなら、手間を惜しむ理由は無いのではないでしょうか。



【関連】


羽根田治「ドキュメント単独行遭難」

記事内で引用した書籍。単独登山での遭難は、遭難場所の特定が困難な事がある上、救助当局が遭難を察知するのが遅れるケースが多い。そういった単独行での遭難に絞り、遭難者の行動、救助側の視点双方交えたドキュメンタリーだが、この数年間で発生した単独行遭難だけでも、一冊の本が出来てしまう事に戦慄する。それだけ遭難は身近に起きている。


羽根田治「ドキュメント生還-山岳遭難からの救出: 5 (ヤマケイ文庫)」

前掲書と同じ著者による遭難ドキュメンタリー。高山から低山までの遭難事例とその生還を追う。低山、あるいは初心者向けであっても、遭難する可能性は至る所にある。



「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)」

記憶に新しいトムラウシ山での集団遭難。夏登山にも関わらず、低体温症による9名が亡くなる大事故となる。正規の登山道を進んでいたが、厳しい気象により増水した川を渡る羽目になり、低体温症が一行の判断力を奪い、精神錯乱を引き起こしていく様は、新田次郎「八甲田山死の彷徨」と似通っており、背筋に寒いものが走る。

なお、トムラウシ遭難事故については、事故調査委員会による報告書がネットで読める。これだけでも凄い読み応え。

トムラウシ山遭難事故調査特別委員会「トムラウシ山遭難事故調査報告書」






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