2015年4月14日火曜日

”大艦巨砲主義”のまぼろし

否定表現としての”大艦巨砲主義”

日本海軍の戦艦大和が沈んでから、今年の4月7日で70年を迎えました。その節目とあってか、いくつかのメディアで大和を題材にした記事を見かけましたが、その一つにこんなのがありました。

世界最大の46センチ主砲が敵戦艦に火を噴くことはなく、この最後の艦隊出撃で、撃墜したとされる敵機はわずか3機だった。大艦巨砲主義の誇大妄想が生んだ不沈戦艦への“信仰”に対し、宗教家の山折哲雄さん(83)は「大和とは、いびつな時代のいびつな象徴だった」と指摘する。



毎日新聞の記事では、宗教家の言葉を引く形で「大艦巨砲主義の誇大妄想」とそれが生んだ「浮沈戦艦への信仰」と、批判的・否定的なトーンで伝えています。NHKでも過去に歴史ドキュメンタリー番組「その時歴史が動いた」で『戦艦大和沈没 大艦巨砲主義の悲劇』を放映していましたし、ざっと例を挙げられるだけでも、戦艦大和を大艦巨砲主義の象徴として批判的に扱うメディアは多いようです。

このように、「第二次大戦では強力な戦艦を主力とする大艦巨砲主義を空母機動部隊を中心とする航空主兵思想が真珠湾攻撃、マレー沖海戦で打ち破ったが、初戦の勝利に囚われた日本は大艦巨砲主義に固執し、逆に初戦の失敗から学んだアメリカは航空戦力で盛り返した」のような説明をする本や人はよく見られますね。

真珠湾攻撃で日本海軍機の攻撃を受ける米戦艦(ウィキメディア・コモンズより

ところで、この大艦巨砲主義という言葉。大雑把に言えば、敵を撃破するために大きな戦艦に巨砲を積むという思想ですが、現在でも時代遅れの考えを批判する際に使われています。近年、メディアでどういう風に使われたのか、ちょっと見てみましょう。


  • 「安倍政権の原発政策は、時代遅れの大艦巨砲主義」(マスコミ市民,2013年8月)
  • 「生産部門におもねる豊田家--復活する「大艦巨砲主義」 」(選択,2011年4月)
  • 「時代錯誤の「大艦巨砲主義」か「日の丸」製造業の大再編」(月刊ベルダ,1999年10月)


製造業に関わる批判例が多いですね。重厚長大な製造業イメージが、大きいフネに巨砲を載せる大艦巨砲主義と重ねて見えるので、このような批判的意味合いを持った比喩表現として使われているのだと思います。いずれにしても、現代において「大艦巨砲主義」とは、敗北のイメージを持った、ネガティブな言葉と言えるでしょう。


大艦巨砲主義ニッポン。戦艦何隻建造した?

では、第二次大戦中の日本はどのくらい大艦巨砲主義に毒されていたのでしょうか? 

第一次大戦後、列強各国は重い財政負担となっていた建艦競争を抑えるため、海軍軍縮条約を結び各国の戦艦建造・保有に制限をかけ、軍拡競争に歯止めをかけました。この軍縮条約以前の時代こそ、大艦巨砲主義と言える思想が世界に蔓延っていたと言っても良いかもしれません。

この海軍軍縮条約は1936年末に失効を迎えたため、以降は自国の好きなだけ戦艦を建造出来ます。大艦巨砲主義の日本は、きっとどこよりも大量に建造している事でしょう。軍縮条約失効以降に建造された戦艦を、日米英の3カ国で比較しました。

海軍軍縮条約失効以降の日米英戦艦建造一覧

……あれ? 建造数・進水数共に日本がブッちぎりで少ないですね。アメリカは12隻起工して10隻進水、イギリスは6隻起工して全て進水させているのに対し、日本は大和型を4隻起工して大和と武蔵の2隻進水、信濃1隻は空母に転用、もう1隻は建造中止で解体されています。戦艦として進水した数で見ると、日米英で2:10:6です。アメリカの5分の1、イギリスの3分の1の数です。さらに言えばイタリアが建造した戦艦(3隻)より日本の建造数は少なく、列強国の中で最低の数です。

こうして各国の戦艦建造実績を比較すると、日本が戦艦に偏重していた訳ではない事が分かります。もっとも、これは多国間の比較であり、工業力の差が現れただけ、という見方もあるかもしれません。

しかしながら、開戦に先立つ1941年11月には大和型戦艦3番艦、4番艦の建造は中止され、後に3番艦は空母に変更されている事からも、開戦準備の段階で戦艦以外の艦艇が優先されているのが分かります。よく見られる言説に「真珠湾攻撃やマレー沖海戦で航空機が戦艦を撃沈し、大艦巨砲主義の時代が終わった」というものがありますが、それらの戦闘が行われる1ヶ月前に日本はこれ以上戦艦を建造しない方針が取られているのです。


次々”航空化”させられた日本の戦艦

ここまでは軍縮条約失効以降の新戦艦建造を見てきましたが、今度は従来から保有していた旧式戦艦の扱いを見てみましょう。

太平洋戦争開戦時、日本は戦艦を10隻保有していましたが(大和型2隻は戦中に就役)、いずれも軍縮条約以前に建造された戦艦で、最も新しい戦艦陸奥でも就役から20年が経過していました。中でも低速で威力の劣る35.6センチ(14インチ)砲搭載の扶桑型・伊勢型の4隻は、戦艦戦力として期待されておらず、伊勢型2隻は航空機を搭載する航空戦艦に改装され、扶桑型2隻は航空戦艦あるいは空母への改装が計画されるほどでした。

航空戦艦改装後の伊勢。後部の主砲が撤去されてる(ウィキメディア・コモンズより

このように戦力価値の低い戦艦は航空戦艦・空母に転用が計画されていた訳ですが、このような方針を大艦巨砲主義を掲げる組織が行うでしょうか? 空母4隻を失ったミッドウェー海戦後も空母や補助艦艇の建造はされますが、戦艦建造は一顧だにされません。対して、イギリスは戦争が終わっても戦艦を作り続けましたし、アメリカに至っては1991年の湾岸戦争でも戦艦を出撃させてますが、別に大艦巨砲主義と呼ばれる事はありません。何かヘンですよね?

湾岸戦争でイラク軍を砲撃する戦艦ミズーリ(ウィキメディア・コモンズより


「巨大」なモノへの信仰から大和を造った?

日本海軍にとっての戦艦の扱いがこのような状況にも関わらず、なぜ日本海軍は大艦巨砲主義だと言われていたのでしょうか?

大和型が世界最大の3連装46センチ(18インチ)砲を搭載していた世界最大の戦艦であった事、つまり「巨大」であった事が考えられます。例えば、先の毎日新聞の記事中では、こんな事が書かれています。

「大国主命、奈良の大仏……。古来、日本人は『巨大なるもの』への信仰がある」。宗教学者の山折さんは説明する。ただし、もちろん、巨大戦艦は神仏などではなかった。



このように、日本人の巨大さそのものへの信仰が大和を生んだとする言説もちょくちょく見られます。しかし、失敗の原因を民族性に求める言説はあまりに大雑把過ぎます。このような言説に対し、航空主兵の尖兵である航空自衛隊教育集団の澄川2等空佐は、大和型建造の目的について以下のように説明し反論しています。

「強力な攻撃力を追求することであって、単なる巨大さへの信奉では決してない。大和級の設計概念は、小さく造る事である。(中略)18インチというという世界最大の艦砲を9門も搭載し、その18インチ砲に対抗しうる防御力を有しながらも、全体が当初の考えどおりコンパクトな艦体にまとめられたというのが大和級戦艦の特徴である」

出典:澄川浩「日本海軍と大艦巨砲主義」朋友26巻4号

大和型は強力な攻撃力と防御力を小さな艦に収めた事を特徴としており、大きい事それ自体は目的では無い、と否定しています。考えてみれば当たり前の話で、大きいとコストもかかれば燃費も悪くなります。大きさに信仰なんてものは関係なく、当時の状況と判断と技術がそうさせた結果であり、信仰にその原因を求めるのは問題を単純化して見ようとする悪い例です。

しかし、大和型を建造させた判断とはどのようなものだったのでしょうか? そして何故、結果的とは言え世界最大になったのでしょうか。大和型建造に至るまでの日本海軍が置かれた状況と、判断を見てみましょう。


なぜ大和は建造された?

当時の状況と判断について、先に挙げた澄川2等空佐が、空自の部内誌で以下のようにまとめています。

演習や実験においていかに航空攻撃力がその可能性を見いだしたとしても、実戦においてその威力を示すまではどのような用兵者もその価値を信じ切るには至らないというのが本当のところだと考える。戦艦無用論がいかに強く提唱されても国の命運を賭けてまで、戦艦の砲戦力を全廃することなど到底採りうる方策ではなかったというのが現実である。

出典:澄川浩「日本海軍と大艦巨砲主義」朋友26巻4号


大和型以前の日本戦艦、つまり建造から20年近く経過した旧式戦艦では、海軍軍縮条約失効後に建造される他国の新戦艦に対抗出来ませんでした。しかも、大和型が計画された当時はまだ、澄川2佐が言うように、航空機による戦艦撃破は一度も実証されていません。実験では撃破の可能性が示唆されていたものの、停泊中の戦艦に対しては1940年のタラント空襲と1941年の真珠湾攻撃、作戦行動中の戦艦に対しては1941年のマレー沖海戦が起きるまで実例がありませんでした。このため、対抗上新戦艦が必要だったのです。

サウスダコタ級戦艦マサチューセッツ(写真中央、ウィキメディア・コモンズより



大和型が巨砲を持って生まれたのも理由があります。当時の日本の国力では空母建造と並行して戦艦を揃えるのは不可能なため、建造出来る戦艦の数は限られました。数の劣位を、質でなんとか埋めようとしていたのです。戦艦は最も大量生産からかけ離れた兵器で、アメリカでも戦艦を同じ海域に大量投入する事は難しかったため、この考えはそれなりに説得力がありました。


大和型が活躍出来なかったのは何故?

しかしながら、大和型建造が大艦巨砲主義によるものではないとしても、大和型はさして戦果を挙げていません。この事実は、大艦巨砲主義の欠陥を説明する上で、よく根拠として出されているものです。トラック泊地に投錨したままの状態が多かった大和は、「大和ホテル」とアダ名されたと言われています。ソロモン諸島やニューギニアで熾烈な海戦が行われ、アメリカの新戦艦サウスダコタ、ワシントンに戦艦霧島が撃沈される戦艦同士の砲撃戦も発生していましたが、大和はそれに加わりませんでした。

この原因として、城西国際大学の森雅雄准教授はいくつかの説を挙げています。

  • 大和には聯合艦隊司令部が置かれているので容易に移動できない
  • 燃料の不足(宇垣纏第一戦隊司令、淵田美津雄航空参謀ら)
  • 怯懦(きょうだ)のせい(御田俊一)

このように推測出来る理由は複数ありますが、だからと言って戦艦が活躍出来なかった訳ではありません。森准教授・澄川2佐共に、日本が保有する戦艦で最も古い金剛型4隻が忙しく太平洋を行き来し、戦艦同士の戦闘から陸上砲撃、艦隊護衛と幅広い任務で活躍を見せている事を指摘しています。最古参の金剛型でこれですから、最新の大和型が活躍出来ない道理は無いのですが、結局のところ、日本海軍は大和型に活躍の場を与えることが出来なかったのです。これは上述の理由の通り、大艦巨砲主義に由来するものではありませんでした。


国民が望んだ大艦巨砲主義敗北論

さて、ここまでで日本海軍は大艦巨砲主義のように凝り固まった思想で大和を建造したのではなく、むしろ航空戦力への投資に重点を置きつつ、それなりの妥当性を持って大和の建造に臨んだ事がご理解頂けたと思います。

しかしこうなると、なんで大艦巨砲主義を信奉した日本海軍は敗れた、という言説がこれまでまかり通って来たのでしょうか?

このような戦後の「大艦巨砲主義批判」について、森准教授は「この批判はイデオロギーであると断じる」と結論付けています。

森准教授は最も早い1949年に出された日米戦回顧録である高木惣吉「太平洋海戦史」に着目し、その中に書かれた日本が初戦の勝利に驕って航空軍備拡張に立ち遅れたという記述が、「太平洋海戦史」の1年半後に出版された淵田美津雄・奥宮正武「ミッドウェー」で「戦艦中心主義の時代錯誤」が加えられ、それがベストセラーとなった事を指摘しています。「大艦巨砲主義」を理由とした敗戦は、物量に負けたという実感的な理由よりも、「より周到であり反省の契機もあって、より上等で良心的で服従するに足りるように見える」(森准教授)ので、国民に受け入れられたのです。


淵田・奥宮著「ミッドウェー」。(Amazonより)
そりゃ、著者が航空参謀だから戦艦を悪く書くよね…。

一方、澄川2佐はもっと容赦の無い結論を導いています。

戦前の戦争計画では、侵攻してくるアメリカ海軍の戦力を削りつつ、最終的に日本の委任統治領である南洋諸島で決戦を行って撃滅する想定でした(漸減作戦)。戦中の日本海軍はその為に航空戦力・空母戦力の整備に注力し、1944年にほぼ企図した通りにマリアナ沖海戦が展開され、その結果日本は一方的に敗北しました。このように澄川2佐は、日本海軍の想定通りに進んだけど負けた事を指摘しており、アメリカに戦争を挑んだ事自体が敗因だと結論付けています。対アメリカを想定して戦争準備してきたのに、アメリカに戦争を挑んだ事自体が敗因だとすると、大艦巨砲主義・航空主兵思想以前の問題です。

大和建造が間違いだったのではなく、日本人が選んだ道である対アメリカ戦争そのものが間違っていたという結論は、日本人にとって、残酷で不都合な真実でもありました。敗戦の理由を知りたがっていた日本人にとって、「航空戦力を軽んじた大艦巨砲主義」というのは、自分が傷つかない心地よい敗因だったのです。戦後に「大艦巨砲主義批判」を行った人も同様で、批判者に南雲艦隊の源田実航空参謀や、先述の淵田・奥宮両氏のような航空参謀出身者が多い事からもそれが伺えます。敗因を大艦巨砲主義のせいにすれば、航空参謀としての自分の責任を回避でき、自分は傷つかずに済みます。


戦艦大和(ウィキメディア・コモンズより

間違った戦争のおかげで大した活躍も出来ず沈んだ大和は、日本人にとって「間違った選択」の象徴として祀り上げるには都合の良い存在だったのです。本当はもっと根本部分で間違えていたにも関わらず、です。

日本国民にとって、なんとも歯がゆい結論に至ってしまいました。しかし、戦後70年を経た今、これを読んでいるほとんどの方は、大戦の問題からは自由なはずです。そろそろ本当の敗因を見つめ直し、誤った選択を繰り返さないために考えてみるべきではないでしょうか。そして、大艦巨砲主義の象徴のような不名誉かつ誤った扱いから、彼女らを解放してあげてもいいと思うのですが……。


【参考文献及び資料】

森雅雄「イデオロギーとしての「大艦巨砲主義批判」」,『城西国際大学紀要』第21巻 第3号 国際人文学部,2012年

「大艦巨砲主義批判」の言説を検証し、イデオロギーと結論づけている。その過程において、これまで大艦巨砲主義の証拠とされてきたものの不確かさ、誤謬について指摘し、米海軍における機動部隊の編成等の比較を行っている。米海軍の戦艦愛が伝わる発言集もいい。ネットで読めます。


澄川浩「日本海軍と大艦巨砲主義」,『朋友』26巻4号, 2000年

航空自衛隊の部内研究誌に掲載された論考(階級は当時)。日米のデータ比較と実際の戦況から、漸減作戦、艦隊決戦思想までに及ぶ批判に対して反論を行っており、主張が極めて明快。ネットで読めないけど、コピー入手してでも読む価値あり。


トシ・ヨシハラ「比較の視点から見た接近阻止―大日本帝国、ソ連、21世紀の中国―」

米海軍大学の中国専門家による接近阻止戦略の比較。米海軍に対する接近阻止戦略について、日本帝国の漸減作戦、旧ソ連の集中的ミサイル攻撃、現在の中国のA2ADを比較し、その共通点、相違点を考察。そして、現在において米中戦争が生起した場合、凄惨なものになると予測している。ネットで読めます。





2015年4月11日土曜日

いずも公開 写真速報

いずも公開行ってきただよ。
動画も公開しただよ。






撮って出しJPEGでとりあえずいっきに公開するよ。
























2015年4月8日水曜日

今なお百万柱が眠る海外戦没者と遺骨収容

「天皇の島」を訪問される天皇陛下

4月8日のきょう、天皇皇后両陛下が戦没者慰霊のため、南太平洋のパラオを訪れます。

戦後70年の「慰霊の旅」として、天皇、皇后両陛下は8~9日、太平洋戦争の激戦地、西太平洋のパラオを訪問される。

戦没者慰霊を目的とした海外訪問は戦後60年の米自治領サイパン以来2回目。日米両軍約1万8000人が戦死したパラオ訪問は、両陛下の十数年来の希望で実現する。

出典:両陛下、きょうパラオへ…十数年来の希望で実現
戦没者慰霊での訪問は両陛下のたっての希望とのことで、現地に施設が無いので海上保安庁の巡視船を宿舎にされるなど、異例ずくめの訪問となっています。それだけ、慰霊への想いが強いものと推測されます。

陛下が訪問されるペリリュー島「西太平洋戦没者の碑」(厚労省サイトより

第一次大戦の戦後処理の結果、現在のパラオを含む南洋諸島は日本の委任統治領となり、第二次大戦では主要な戦場の一つとなりました。この地域における戦闘の中でも、熾烈を極めた攻防が行われたペリリュー島は、米軍から「天皇の島」と呼ばれた事が知られています。両陛下にとっては因縁浅からぬ場所と言え、9日にペリリュー島の慰霊碑を訪問される事は、歴史的にも意義のある事です。

両陛下が訪問されるペリリュー島にいた日本軍1万人はそのほとんどが戦死し、その中には労働者として徴用されていた3000人の朝鮮人も含まれています。わずか13平方キロメートルの小島で1万人が亡くなりました。そして、日本国外のアジアから太平洋の広大な地域では、およそ240万人の日本人が亡くなりましたが、その半数の遺骨が未だに異国の土、あるいは海中で眠り続けています。



未だ半数が海外で眠る海外戦没者

約240万人の海外戦没者のうち、平成25年度末時点で収容された遺骨は127万柱。未だに113万柱が未収容のままで、このうち海没により収容困難な遺骨が30万柱(海没遺骨の扱いについては、拙稿「戦艦武蔵発見で考える海没遺骨」を参照)、住民感情など相手国事情で収容困難な遺骨が23万柱ありますが、収容可能とみられている60万柱は未だに外地で眠り続けています。

海外戦没者の遺骨収容状況

戦後70年を迎える事を受け、政府は今年度から10年間を遺骨収集の強化期間と位置づけ、遺骨の収容を進める方針です。しかし、終戦から70年という歳月による風化等により、遺骨の捜索・収容は過去以上に困難が予想されます。

そしてなにより、遺骨収容を担う人出が不足しています。戦没者の遺骨収容事業は厚生労働省の管轄ですが、現地で収容を行う人員はボランティアがその主力になっています。多くのボランティアは、少なからぬ費用を自腹で負担している状態で、ボランティア個人や団体の意志が、遺骨収容を支えています。

硫黄島戦没者遺骨引渡式の様子(厚労省サイトより

過去には外部委託団体による杜撰な収容も行われ、現地フィリピン人の遺骨も混入して問題になるなど、国としての管理や責任のあり方も問われました。

政府は本腰を入れて取り組む以上、これまでの人員的・組織的問題を解決して収容に臨む必要があります。もはや、時間はあまり残されていません。そしてなにより、私達国民が遺骨収容へ関心を持ち、さらなる収容を訴えかけていく、国民的な動きを起こす事が重要となるのではないでしょうか。


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2015年4月7日火曜日

過去から現在に至る「切れ目のない侵攻」

安全保障法制や日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定等、安全保障に関する議論が賑わっていますが、マスコミでも関連記事や解説を伝えています。朝日新聞でも「読みとき 安全保障法制」という連載解説記事を始めてましたが、首を傾げる点があったので少々書きたいと思います。

さて、問題の箇所はここです。政府は戦争ではないが警察や海上保安庁で対応できない事態(グレーゾーン事態)において、警察・海保から自衛隊へシームレスに対応を引き継ぐ「切れ目のない対応」を行う事を目指していますが、そこで政府が想定している「謎の武力集団による離島上陸」に対し、記事ではQ&A方式で疑問を投げかけ、それに対する回答を書いています。


Q でも、謎の武装集団が離島に上陸するなんてことが本当にあるのかな?

A 過去に例はないけれど、政府は、今後も起きないとは言い切れないとみている。

出典:(読みとき 安全保障法制)Q5「国籍不明の武装集団が離島に上陸」どう対応するの?

んー……。クリミア半島に国籍不明の武装集団が現れたのって、去年でしたよね……。その後、クリミアがロシアに併合されたのは周知の通りです。現代に国籍不明の武装集団(どこかは丸わかりだけど)が現れ、国土を切り取っていく所業に世界が震撼しましたが、これが日本で起きない保証があるのでしょうか。


2014年にクリミアに現れた国籍不明(ロシア)の武装集団

まあ、世界の事例ではなく、「離島」で「日本」に限定にしていると言いたいのかもしれませんが、竹島の事例ではどうでしょうか。

例えば、現在もなお韓国により不法占拠されている島根県竹島の例では、韓国の漁民が入島が確認されてから、民兵組織独島義勇守備隊による竹島の不法占拠、そして1956年の韓国警察常駐による占拠と段階を踏んで占拠が強化されているのですが、これは過去の事例に該当しないのでしょうか? この竹島の例では、韓国が”切れ目なく”国家による竹島掌握にエスカレートしている反面、日本の対応は軍事的にも非軍事の面でも後手に回りました。厳密に言えば、韓国も最初から”切れ目ない”エスカレーションをしてたとは言い難いのですが、日本と比べると継続的に活動を行い、占拠の既成事実を積み重ねており、現在もなお占拠を続けています。

マスコミによる解説記事では、「グレーゾーン事態」における「切れ目のない対応」で歯止めが効かなくなり、本格的な武力衝突にエスカレートする事を危惧・問題視する論調が見られます。その懸念も正しくはあるのですが、過去に「切れ目のない対応」をしなかったばかりに、今日に至るまで不法占拠を許し続けている竹島について触れないのはどうでしょうか。

繰り返しになりますが、「切れ目のない対応」による事態のエスカレートへの懸念はもっともです。しかし、過去に対応をしなかったばかりに半世紀以上に渡る禍根を残した事はどう評価すべきでしょうか。政策がもたらすメリット・デメリット双方を提示し、国民の判断を促すのがメディアのあるべき姿と思うのですが、どちらか一方の視点ばかりが目立つように見えるのはどうなんでしょう。

2015年3月25日水曜日

”空母型”護衛艦いずも就役。これって空母なの?

3月25日、海上自衛隊史上最大となる基準排水量19,500トン(満載排水量26,000トン)のヘリコプター搭載護衛艦いずもが就役します。航空機運用に適した全通甲板を備える空母型艦艇としては、おおすみ型輸送艦3隻、ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦2隻に続くものとなり、建造にかかる総経費は1,181億円。舞鶴基地に転属されるひゅうがに代わって、横須賀基地に配備されます。





ひゅうが型との違い

ひゅうが型が基準排水量13,950トン、全長197メートルなのに対し、いずも型の基準排水量は約6,000トン増加した19,500トン、全長は51メートル長い248メートルとなるなど、大幅に拡大されています。

いずも型護衛艦は、ひゅうが型護衛艦の拡大型と言える艦艇ですが、ひゅうが型と比べ搭載する武装は簡略化されています。その代わり、航空機の運用能力、指揮統制能力、病院機能はひゅうが型より強化され、ひゅうが型に無かった大型車両の輸送能力や僚艦への補給能力も備えるようになりました。



強化された航空機運用・指揮統制能力

大きく強化された航空機運用能力では、ひゅうが型の約1.5倍の甲板面積を持ち、ヘリの発着艦ポイントも4ヶ所から5ヶ所に増えています。通常は海上自衛隊所属のSH-60K対潜ヘリ、MCH-101掃海・輸送ヘリといった航空機を搭載するものと見られますが、任務に応じて陸上自衛隊のヘリを搭載する事も想定され、今後は平成27年度予算で調達される予定のV-22オスプレイも搭載される事があるでしょう。

また、航空機運用能力と並んで重要なのが指揮統制機能の強化です。艦の戦闘を指揮するCIC(戦闘指揮所)、護衛隊群や陸海空の統合部隊の指揮・調整を行うFIC(司令部作戦室)、外部からの要員を受け入れる多目的区画等、指揮統制に関わる場所の床面積がひゅうが型より拡張されており、統合部隊の指揮中枢として戦闘行動に留まらず、災害救援や国際平和維持活動等の多様な任務での活用が期待されます。



結局のところ空母なの?

しかしながら、いずもは空母型艦船とは言え、高性能の固定翼艦載機の運用能力は現状は無く、米海軍の原子力空母のような防空・打撃能力は備えていないか、限定されたものに留まります。むしろ、各国で配備が進んでいる「多様な状況」に対応する多目的艦として考えたほうが良いでしょう。航空機運用能力に指揮統制能力、輸送力等を高い次元で融合した艦艇は、世界各国で建造が盛んに行われており、指揮・戦力投射艦、統合支援艦等様々な呼び名で呼ばれています。いずも型の様に全通甲板を備えた艦もありますし、それを「空母」と呼んでいない国もあります。


フランス海軍のミストラル級”指揮・戦力投射艦”(撮影:Simon Ghesquiere/Marine Nationale

自衛隊もそのような事情は同じで、平成26年度の防衛白書では「多用な活動」という言葉が頻繁に出てきます。東日本大震災での救援活動や、海外での災害救援・平和維持活動と、自衛隊の任務や活動は多様化しており、いずも型はその「多様な活動」の為の艦と言えるでしょう。

東日本大震災救援のため、護衛艦ひゅうがから発艦する米海軍機(海上自衛隊撮影

今後、改装によりいずも型にもF-35等の固定翼艦載機を搭載する可能性は否定出来ません。しかし、米海軍の原子力空母はもとより、イギリスのクイーン・エリザベス級空母(基準排水量45,000トン)、中国で空母遼陽(基準排水量55,000トン)に続いて建造中の次世代空母と言った最新世代の本格的空母と比べると、船体の規模が小さい為に航空機の搭載数が限られ、防空・打撃能力に関しては大きく劣る事になるでしょう。

もとより、憲法9条についての政府見解で「攻撃型空母」は持てないとされています。航空機運用能力を強化したとはいえ、ヘリ中心のいずも型は多様な任務に対応した多目的艦と見るべきであって、攻撃型空母とは言えません。仮に固定翼機を搭載する本格的な空母を建造するのならば、政府・海上自衛隊はその目的・意義・必要性を広く周知・説明し、国民的議論の末に結論を出す必要があるでしょう。それこそが正しい文民統制のあり方ではないでしょうか。



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2015年3月24日火曜日

「国のために戦う」人の割合、日本が最低? データが意味するもの

「自国のために戦う」人の割合、日本が世界最低?

先日の報道によれば、「自国のために戦う意志」を問う国際調査にて、日本では「はい」と答えた人の割合が11%と、64カ国中で最も低い割合だったそうです。

【ジュネーブ共同】各国の世論調査機関が加盟する「WIN―ギャラップ・インターナショナル」(本部スイス・チューリヒ)は18日、「自国のために戦う意思」があるかどうかについて、64カ国・地域で実施した世論調査の結果を発表、日本が11%で最も低かった。


日本と同様に「はい」と答えた人の割合が低い国は、オランダで15%、ドイツで18%だそうです。日本もオランダもドイツも先進国という点で共通してますが、逆に情勢の不安定な国では「はい」の回答が高い割合を示したそうです。

この調査結果を受けて、ネット上では色々な意見が溢れています。「日本が右傾化してるって嘘じゃん」から「日本の平和教育の害」を唱える意見まで左右様々です。でも、それって正しいんでしょうか?



元データを見てみよう

この報道について、ネタ元であるWIN/Gallup Internationalの調査結果を調べてみたところ、なかなか面白い事が見えてきました。

元の調査は64カ国を対象にしていますが、ここでは分かりやすくするため、米英仏ロ中の5大国に加えて、日本とドイツ、韓国を加えた8カ国で比較してみましょう。まず、「国のために戦う意思があるか」という設問に、「はい」と答えた人の割合が8カ国の中で日本が一番低いのは既報の通りですね。8カ国では下の表の通りです。日本が最も低く、ドイツ、イギリスが続きます。

「国のために戦う意思があるか」国別回答


ところがちょっと待って下さい。設問への回答は「いいえ」と「わからない」もあります。はっきりと、明示的に、「国のために戦う意思はありません」とする回答も集計されています。この割合で順位付けするとどうでしょうか。


「国のために戦う意思があるか」国別回答(「ない」降順)

「国のために戦う意思が無い」と明示的に答えた人の割合が多いのは、トップがドイツの62%。次いでイギリスの51%、韓国の50%という順になっています。日本は43%で8カ国中5位となっており、中位ポジションです。そして、日本の特徴はもう一つ。「わからない」が47%で8カ国中最高と、態度を決めていない人が半分近くいるのです。



千差万別の「戦争」

「国のために戦う」と言っても、その内容は千差万別です。突然の武力侵攻から、聞いたことも無い遥か遠くの国で戦わされるものまで、全て同じ「戦争」です。理不尽な武力侵攻で親兄弟を殺されれば、温和な人も銃を手に取り戦うかもしれないし、逆に地球の裏側で戦わさせられるのは、ほとんどの人は嫌がるでしょう。

設問を調べると、英文では”If there were a war that involved (調査対象国), would you be willing to fight for your country?”となっていました。日本語に訳すと「国が戦争に巻き込まれたら、貴方は国のために戦いますか?」というところでしょうか。この各国語訳が設問になっていたようですが、設問が提示する「戦争」イメージが漠然としています。こんな戦争イメージでは、「わからない」と答える人が多いのは当然の事ではないでしょうか。態度を明らかにしなかった47%の日本人は、有事の際に「戦争」の「中身」を見てから判断することになるでしょう。

もっとも、日本の自衛隊は完全志願制の常備軍であり、仮に戦争を行うにしても、そのリソースの中で行う事を前提としています。「戦う国民」がいるとしても、それがどれだけ必要になるかは、実際に戦争になってみないと分かりません。

まず「戦う」のは自衛隊員


日本より深刻なのは?

むしろ、今回の調査で深刻なのは「国のために戦う意思は無い」と表明した人が多く、かつ周辺情勢が不安定な国でしょう。敢えて言えば、北朝鮮と対峙している韓国です。国際法上、朝鮮戦争は休戦中で準戦時下と言える状況に韓国は置かれており、2015年現在も徴兵制が存在する数少ない先進国です。その国民の半数が「戦わない」と宣言するのは、日本以上に問題ではないでしょうか。

報道では「国のために戦う」という答えばかり注目されてましたが、「国のために戦わない」、「わからない」といった他の答えに目を向けるだけでも、だいぶ違った様相が見えてきましたね。この結果から、皆さんはどう考えますか?


※「国のために戦うか」という設問に「はい」と答えた日本人は11%と報じられていますが、出典元のWIN/Gallup Internationalの調査結果は10%となっています。出典元を尊重し、表中では10%とさせて頂きました。


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2015年3月18日水曜日

地下鉄サリン事件から20年。大量破壊兵器不拡散への取り組み

13人の犠牲者と6000人以上の負傷者を出した地下鉄サリン事件から、20日で20年を迎えます。

ラッシュ時の地下鉄に化学兵器が撒かれる前代未聞のテロは、世界に大きな衝撃を与えました。事件を起こしたオウム真理教への強制捜査の結果、生物兵器研究や自動小銃の製造にも着手していた事が明らかになるなど、国内の監視が強い先進国内でも、組織的に大量破壊兵器が製造可能だと証明された事も重要でした。以前からは考えられないほど簡単に、大量破壊兵器が製造できるようになったのです。

地下鉄サリン事件から6年後には米国同時多発テロ事件が発生し、世界は対テロ戦争に突入していく事になりますが、そこでもキーワードになるのが大量破壊兵器でした。



大量破壊兵器拡散への懸念と予防

アメリカによる対イラク開戦の口実となったのは、イラクによる大量破壊兵器の開発・保有疑惑でした。戦後の調査でイラクによる大量破壊兵器保有の事実は確認されませんでしたが、開戦前にアメリカが主張していたのが移動式の化学兵器製造プラントの存在でした。この移動プラントもイラクから見つかりませんでしたが、小型化・簡易化した化学兵器プラントが世界のどこかで表れる可能性は依然としてあります。

技術の発達により、ある国や集団が化学・生物・放射性物質・核兵器(CBRN)といった大量破壊兵器を製造する可能性は高まりつつあります。前述の移動式プラントの可能性もそのような懸念が背景にあり、世界の安全保障にとって大きな問題となっています。大量破壊兵器開発に転用される恐れのある技術や製品について、国際的な輸出管理の枠組みが作られる事になります。

冷戦中、兵器転用の恐れのある技術・製品の輸出については、旧東側に属する国家に輸出しないといった国別の禁輸措置が取られてきました(COCOM型輸出管理)が、冷戦後はCOCOM型輸出管理を改め、輸出に際しあらゆる国・非国家集団に対して、兵器転用の恐れが無いかを見極めるアプローチ(不拡散型輸出管理)になります。


通常兵器、大量破壊兵器、ミサイルおよび関連物資等の不拡散体制(防衛白書より引用)

また、2003年にはアメリカにより、「拡散に対する安全保障構想(PSI)」が唱えられました。2002年にスペイン軍が北朝鮮を出港した船を臨検したところ、イエメンへ輸出されるスカッドミサイルが発見されましたが、国際法的に没収する根拠が無い為に積み荷ごと解放された事件を契機に、大量破壊兵器・ミサイルの拡散を阻止するための国際的な枠組みを作ろうとする動きで、現在は100カ国以上が支持・参加を表明しています。日本でも警察や自衛隊、海上保安庁がPSI対処として、海上での臨検活動の訓練等を行っています。

警察NBCテロ対策部隊によるPSI海上阻止訓練(警察庁HPより)


身近なモノで起こしうる大量破壊兵器テロ

しかし、国際社会が大量破壊兵器の不拡散に様々な努力を払っても、CBRN兵器を用いたテロが下の表のように起きています。

主なCBRNテロ一覧

このうち、近年深刻なのが塩素ガスを用いた攻撃です。塩素ガスは水に溶けやすく、刺激臭があるので使用が容易に分かる事などから、近代的な装備を持つ軍隊相手には効果が限られますが、無防備な民間人を巻き込むテロ活動には効果的です。また、ありふれた原材料から簡単に製造出来るため、国際的な貿易規制が効果を及ぼし難いという特徴があります。

内戦中のシリアでは、政府軍は当初サリン等の軍事用に開発された毒ガスを攻撃に用いてましたが、現在は樽に爆薬と塩素ガスを詰めて市街地に落とすテロを行っています。

内戦が続くシリアで、化学兵器が使用されたもよう。反体制派組織の「シリア人権監視団」によると、北西部のイドリブで16日、アサド政権側が爆弾を投下した。中に塩素ガスが入っていたとみられ、6人が死亡。


国際的な貿易規制下にあるシリアの他、大した製造設備を持たないISのようなテロ組織も塩素ガス攻撃を行っています。塩素のようなありふれた物質が大量破壊兵器として使われると、国際的な規制が意味を持たない例と言えます。



運搬手段も規制の対象

このようなありふれた物質を大量破壊兵器として用いるテロに対しては、どのような対策を取ればいいでしょうか。

塩素ガスなどの製造を防ぐのが難しいものの場合、運搬手段や広範囲への拡散手段に制限をかける事で実効性を抑える事が出来ます。シリア内戦の場合ですと、散布手段である航空機の飛行制限区域を国際社会が(軍事力を用いて)設定する事で、その実効性を減じる事が出来ます。また、輸出管理やPSIでは、大量破壊兵器そのものと共に、その運搬手段であるミサイルに関連する技術・装置も監視の対象となっています。

しかしながら、制度への認識不足あるいは利潤のため、規制されている技術・製品が国外に輸出される事件が、少なくない数起きています。一見、大量破壊兵器と無関係に見える製品でも、大量破壊兵器の運搬役に使われるかもしれないという現実。化学兵器による大規模テロを経験した国として、企業にもその可能性を考慮する姿勢が求められのではないでしょうか。



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