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2015年4月14日火曜日

”大艦巨砲主義”のまぼろし

否定表現としての”大艦巨砲主義”

日本海軍の戦艦大和が沈んでから、今年の4月7日で70年を迎えました。その節目とあってか、いくつかのメディアで大和を題材にした記事を見かけましたが、その一つにこんなのがありました。

世界最大の46センチ主砲が敵戦艦に火を噴くことはなく、この最後の艦隊出撃で、撃墜したとされる敵機はわずか3機だった。大艦巨砲主義の誇大妄想が生んだ不沈戦艦への“信仰”に対し、宗教家の山折哲雄さん(83)は「大和とは、いびつな時代のいびつな象徴だった」と指摘する。



毎日新聞の記事では、宗教家の言葉を引く形で「大艦巨砲主義の誇大妄想」とそれが生んだ「浮沈戦艦への信仰」と、批判的・否定的なトーンで伝えています。NHKでも過去に歴史ドキュメンタリー番組「その時歴史が動いた」で『戦艦大和沈没 大艦巨砲主義の悲劇』を放映していましたし、ざっと例を挙げられるだけでも、戦艦大和を大艦巨砲主義の象徴として批判的に扱うメディアは多いようです。

このように、「第二次大戦では強力な戦艦を主力とする大艦巨砲主義を空母機動部隊を中心とする航空主兵思想が真珠湾攻撃、マレー沖海戦で打ち破ったが、初戦の勝利に囚われた日本は大艦巨砲主義に固執し、逆に初戦の失敗から学んだアメリカは航空戦力で盛り返した」のような説明をする本や人はよく見られますね。

真珠湾攻撃で日本海軍機の攻撃を受ける米戦艦(ウィキメディア・コモンズより

ところで、この大艦巨砲主義という言葉。大雑把に言えば、敵を撃破するために大きな戦艦に巨砲を積むという思想ですが、現在でも時代遅れの考えを批判する際に使われています。近年、メディアでどういう風に使われたのか、ちょっと見てみましょう。


  • 「安倍政権の原発政策は、時代遅れの大艦巨砲主義」(マスコミ市民,2013年8月)
  • 「生産部門におもねる豊田家--復活する「大艦巨砲主義」 」(選択,2011年4月)
  • 「時代錯誤の「大艦巨砲主義」か「日の丸」製造業の大再編」(月刊ベルダ,1999年10月)


製造業に関わる批判例が多いですね。重厚長大な製造業イメージが、大きいフネに巨砲を載せる大艦巨砲主義と重ねて見えるので、このような批判的意味合いを持った比喩表現として使われているのだと思います。いずれにしても、現代において「大艦巨砲主義」とは、敗北のイメージを持った、ネガティブな言葉と言えるでしょう。


大艦巨砲主義ニッポン。戦艦何隻建造した?

では、第二次大戦中の日本はどのくらい大艦巨砲主義に毒されていたのでしょうか? 

第一次大戦後、列強各国は重い財政負担となっていた建艦競争を抑えるため、海軍軍縮条約を結び各国の戦艦建造・保有に制限をかけ、軍拡競争に歯止めをかけました。この軍縮条約以前の時代こそ、大艦巨砲主義と言える思想が世界に蔓延っていたと言っても良いかもしれません。

この海軍軍縮条約は1936年末に失効を迎えたため、以降は自国の好きなだけ戦艦を建造出来ます。大艦巨砲主義の日本は、きっとどこよりも大量に建造している事でしょう。軍縮条約失効以降に建造された戦艦を、日米英の3カ国で比較しました。

海軍軍縮条約失効以降の日米英戦艦建造一覧

……あれ? 建造数・進水数共に日本がブッちぎりで少ないですね。アメリカは12隻起工して10隻進水、イギリスは6隻起工して全て進水させているのに対し、日本は大和型を4隻起工して大和と武蔵の2隻進水、信濃1隻は空母に転用、もう1隻は建造中止で解体されています。戦艦として進水した数で見ると、日米英で2:10:6です。アメリカの5分の1、イギリスの3分の1の数です。さらに言えばイタリアが建造した戦艦(3隻)より日本の建造数は少なく、列強国の中で最低の数です。

こうして各国の戦艦建造実績を比較すると、日本が戦艦に偏重していた訳ではない事が分かります。もっとも、これは多国間の比較であり、工業力の差が現れただけ、という見方もあるかもしれません。

しかしながら、開戦に先立つ1941年11月には大和型戦艦3番艦、4番艦の建造は中止され、後に3番艦は空母に変更されている事からも、開戦準備の段階で戦艦以外の艦艇が優先されているのが分かります。よく見られる言説に「真珠湾攻撃やマレー沖海戦で航空機が戦艦を撃沈し、大艦巨砲主義の時代が終わった」というものがありますが、それらの戦闘が行われる1ヶ月前に日本はこれ以上戦艦を建造しない方針が取られているのです。


次々”航空化”させられた日本の戦艦

ここまでは軍縮条約失効以降の新戦艦建造を見てきましたが、今度は従来から保有していた旧式戦艦の扱いを見てみましょう。

太平洋戦争開戦時、日本は戦艦を10隻保有していましたが(大和型2隻は戦中に就役)、いずれも軍縮条約以前に建造された戦艦で、最も新しい戦艦陸奥でも就役から20年が経過していました。中でも低速で威力の劣る35.6センチ(14インチ)砲搭載の扶桑型・伊勢型の4隻は、戦艦戦力として期待されておらず、伊勢型2隻は航空機を搭載する航空戦艦に改装され、扶桑型2隻は航空戦艦あるいは空母への改装が計画されるほどでした。

航空戦艦改装後の伊勢。後部の主砲が撤去されてる(ウィキメディア・コモンズより

このように戦力価値の低い戦艦は航空戦艦・空母に転用が計画されていた訳ですが、このような方針を大艦巨砲主義を掲げる組織が行うでしょうか? 空母4隻を失ったミッドウェー海戦後も空母や補助艦艇の建造はされますが、戦艦建造は一顧だにされません。対して、イギリスは戦争が終わっても戦艦を作り続けましたし、アメリカに至っては1991年の湾岸戦争でも戦艦を出撃させてますが、別に大艦巨砲主義と呼ばれる事はありません。何かヘンですよね?

湾岸戦争でイラク軍を砲撃する戦艦ミズーリ(ウィキメディア・コモンズより


「巨大」なモノへの信仰から大和を造った?

日本海軍にとっての戦艦の扱いがこのような状況にも関わらず、なぜ日本海軍は大艦巨砲主義だと言われていたのでしょうか?

大和型が世界最大の3連装46センチ(18インチ)砲を搭載していた世界最大の戦艦であった事、つまり「巨大」であった事が考えられます。例えば、先の毎日新聞の記事中では、こんな事が書かれています。

「大国主命、奈良の大仏……。古来、日本人は『巨大なるもの』への信仰がある」。宗教学者の山折さんは説明する。ただし、もちろん、巨大戦艦は神仏などではなかった。



このように、日本人の巨大さそのものへの信仰が大和を生んだとする言説もちょくちょく見られます。しかし、失敗の原因を民族性に求める言説はあまりに大雑把過ぎます。このような言説に対し、航空主兵の尖兵である航空自衛隊教育集団の澄川2等空佐は、大和型建造の目的について以下のように説明し反論しています。

「強力な攻撃力を追求することであって、単なる巨大さへの信奉では決してない。大和級の設計概念は、小さく造る事である。(中略)18インチというという世界最大の艦砲を9門も搭載し、その18インチ砲に対抗しうる防御力を有しながらも、全体が当初の考えどおりコンパクトな艦体にまとめられたというのが大和級戦艦の特徴である」

出典:澄川浩「日本海軍と大艦巨砲主義」朋友26巻4号

大和型は強力な攻撃力と防御力を小さな艦に収めた事を特徴としており、大きい事それ自体は目的では無い、と否定しています。考えてみれば当たり前の話で、大きいとコストもかかれば燃費も悪くなります。大きさに信仰なんてものは関係なく、当時の状況と判断と技術がそうさせた結果であり、信仰にその原因を求めるのは問題を単純化して見ようとする悪い例です。

しかし、大和型を建造させた判断とはどのようなものだったのでしょうか? そして何故、結果的とは言え世界最大になったのでしょうか。大和型建造に至るまでの日本海軍が置かれた状況と、判断を見てみましょう。


なぜ大和は建造された?

当時の状況と判断について、先に挙げた澄川2等空佐が、空自の部内誌で以下のようにまとめています。

演習や実験においていかに航空攻撃力がその可能性を見いだしたとしても、実戦においてその威力を示すまではどのような用兵者もその価値を信じ切るには至らないというのが本当のところだと考える。戦艦無用論がいかに強く提唱されても国の命運を賭けてまで、戦艦の砲戦力を全廃することなど到底採りうる方策ではなかったというのが現実である。

出典:澄川浩「日本海軍と大艦巨砲主義」朋友26巻4号


大和型以前の日本戦艦、つまり建造から20年近く経過した旧式戦艦では、海軍軍縮条約失効後に建造される他国の新戦艦に対抗出来ませんでした。しかも、大和型が計画された当時はまだ、澄川2佐が言うように、航空機による戦艦撃破は一度も実証されていません。実験では撃破の可能性が示唆されていたものの、停泊中の戦艦に対しては1940年のタラント空襲と1941年の真珠湾攻撃、作戦行動中の戦艦に対しては1941年のマレー沖海戦が起きるまで実例がありませんでした。このため、対抗上新戦艦が必要だったのです。

サウスダコタ級戦艦マサチューセッツ(写真中央、ウィキメディア・コモンズより



大和型が巨砲を持って生まれたのも理由があります。当時の日本の国力では空母建造と並行して戦艦を揃えるのは不可能なため、建造出来る戦艦の数は限られました。数の劣位を、質でなんとか埋めようとしていたのです。戦艦は最も大量生産からかけ離れた兵器で、アメリカでも戦艦を同じ海域に大量投入する事は難しかったため、この考えはそれなりに説得力がありました。


大和型が活躍出来なかったのは何故?

しかしながら、大和型建造が大艦巨砲主義によるものではないとしても、大和型はさして戦果を挙げていません。この事実は、大艦巨砲主義の欠陥を説明する上で、よく根拠として出されているものです。トラック泊地に投錨したままの状態が多かった大和は、「大和ホテル」とアダ名されたと言われています。ソロモン諸島やニューギニアで熾烈な海戦が行われ、アメリカの新戦艦サウスダコタ、ワシントンに戦艦霧島が撃沈される戦艦同士の砲撃戦も発生していましたが、大和はそれに加わりませんでした。

この原因として、城西国際大学の森雅雄准教授はいくつかの説を挙げています。

  • 大和には聯合艦隊司令部が置かれているので容易に移動できない
  • 燃料の不足(宇垣纏第一戦隊司令、淵田美津雄航空参謀ら)
  • 怯懦(きょうだ)のせい(御田俊一)

このように推測出来る理由は複数ありますが、だからと言って戦艦が活躍出来なかった訳ではありません。森准教授・澄川2佐共に、日本が保有する戦艦で最も古い金剛型4隻が忙しく太平洋を行き来し、戦艦同士の戦闘から陸上砲撃、艦隊護衛と幅広い任務で活躍を見せている事を指摘しています。最古参の金剛型でこれですから、最新の大和型が活躍出来ない道理は無いのですが、結局のところ、日本海軍は大和型に活躍の場を与えることが出来なかったのです。これは上述の理由の通り、大艦巨砲主義に由来するものではありませんでした。


国民が望んだ大艦巨砲主義敗北論

さて、ここまでで日本海軍は大艦巨砲主義のように凝り固まった思想で大和を建造したのではなく、むしろ航空戦力への投資に重点を置きつつ、それなりの妥当性を持って大和の建造に臨んだ事がご理解頂けたと思います。

しかしこうなると、なんで大艦巨砲主義を信奉した日本海軍は敗れた、という言説がこれまでまかり通って来たのでしょうか?

このような戦後の「大艦巨砲主義批判」について、森准教授は「この批判はイデオロギーであると断じる」と結論付けています。

森准教授は最も早い1949年に出された日米戦回顧録である高木惣吉「太平洋海戦史」に着目し、その中に書かれた日本が初戦の勝利に驕って航空軍備拡張に立ち遅れたという記述が、「太平洋海戦史」の1年半後に出版された淵田美津雄・奥宮正武「ミッドウェー」で「戦艦中心主義の時代錯誤」が加えられ、それがベストセラーとなった事を指摘しています。「大艦巨砲主義」を理由とした敗戦は、物量に負けたという実感的な理由よりも、「より周到であり反省の契機もあって、より上等で良心的で服従するに足りるように見える」(森准教授)ので、国民に受け入れられたのです。


淵田・奥宮著「ミッドウェー」。(Amazonより)
そりゃ、著者が航空参謀だから戦艦を悪く書くよね…。

一方、澄川2佐はもっと容赦の無い結論を導いています。

戦前の戦争計画では、侵攻してくるアメリカ海軍の戦力を削りつつ、最終的に日本の委任統治領である南洋諸島で決戦を行って撃滅する想定でした(漸減作戦)。戦中の日本海軍はその為に航空戦力・空母戦力の整備に注力し、1944年にほぼ企図した通りにマリアナ沖海戦が展開され、その結果日本は一方的に敗北しました。このように澄川2佐は、日本海軍の想定通りに進んだけど負けた事を指摘しており、アメリカに戦争を挑んだ事自体が敗因だと結論付けています。対アメリカを想定して戦争準備してきたのに、アメリカに戦争を挑んだ事自体が敗因だとすると、大艦巨砲主義・航空主兵思想以前の問題です。

大和建造が間違いだったのではなく、日本人が選んだ道である対アメリカ戦争そのものが間違っていたという結論は、日本人にとって、残酷で不都合な真実でもありました。敗戦の理由を知りたがっていた日本人にとって、「航空戦力を軽んじた大艦巨砲主義」というのは、自分が傷つかない心地よい敗因だったのです。戦後に「大艦巨砲主義批判」を行った人も同様で、批判者に南雲艦隊の源田実航空参謀や、先述の淵田・奥宮両氏のような航空参謀出身者が多い事からもそれが伺えます。敗因を大艦巨砲主義のせいにすれば、航空参謀としての自分の責任を回避でき、自分は傷つかずに済みます。


戦艦大和(ウィキメディア・コモンズより

間違った戦争のおかげで大した活躍も出来ず沈んだ大和は、日本人にとって「間違った選択」の象徴として祀り上げるには都合の良い存在だったのです。本当はもっと根本部分で間違えていたにも関わらず、です。

日本国民にとって、なんとも歯がゆい結論に至ってしまいました。しかし、戦後70年を経た今、これを読んでいるほとんどの方は、大戦の問題からは自由なはずです。そろそろ本当の敗因を見つめ直し、誤った選択を繰り返さないために考えてみるべきではないでしょうか。そして、大艦巨砲主義の象徴のような不名誉かつ誤った扱いから、彼女らを解放してあげてもいいと思うのですが……。


【参考文献及び資料】

森雅雄「イデオロギーとしての「大艦巨砲主義批判」」,『城西国際大学紀要』第21巻 第3号 国際人文学部,2012年

「大艦巨砲主義批判」の言説を検証し、イデオロギーと結論づけている。その過程において、これまで大艦巨砲主義の証拠とされてきたものの不確かさ、誤謬について指摘し、米海軍における機動部隊の編成等の比較を行っている。米海軍の戦艦愛が伝わる発言集もいい。ネットで読めます。


澄川浩「日本海軍と大艦巨砲主義」,『朋友』26巻4号, 2000年

航空自衛隊の部内研究誌に掲載された論考(階級は当時)。日米のデータ比較と実際の戦況から、漸減作戦、艦隊決戦思想までに及ぶ批判に対して反論を行っており、主張が極めて明快。ネットで読めないけど、コピー入手してでも読む価値あり。


トシ・ヨシハラ「比較の視点から見た接近阻止―大日本帝国、ソ連、21世紀の中国―」

米海軍大学の中国専門家による接近阻止戦略の比較。米海軍に対する接近阻止戦略について、日本帝国の漸減作戦、旧ソ連の集中的ミサイル攻撃、現在の中国のA2ADを比較し、その共通点、相違点を考察。そして、現在において米中戦争が生起した場合、凄惨なものになると予測している。ネットで読めます。





2014年4月17日木曜日

日本で火花を散らす、米ロのネットバトル

昨年末からのウクライナ問題による米ロ関係の悪化が懸念されている昨今ですが、何故か日本のインターネット上では米ロのネットバトルが勃発しております。バトルと言うより、在日ロシア大使館のTwitterアカウント(の中の人)が1人ヒートアップしています。


在日米国大使館アカウントへ在日ロシア大使館が喧嘩を売る

3月27日の在日米国大使館のTwitterアカウント(@usembassytokyo)に対し、4月17日に在日ロシア大使館のTwitterアカウント(@RusEmbassyJ)が画像とリプライを送りつけています


ロシア大使館アカウントが送りつけた画像は、在ウクライナ米国大使館のサイト内で2013年11月30日に出されたウクライナのデモ(現ウクライナ暫定政権側)に対する前政権側の暴力を米国が非難した声明文で、「Kiev」「Ukraine」等の固有名詞をロシア大使館アカウントが塗りつぶして入力フォーム形式にしたものです。ロシア大使館アカウントが言わんとしているのは、現在ウクライナで進行している現政権側の暴力に米国が抗議していない事を揶揄しており、「今こそ、このフォーム使って現暫定政権に抗議しろ」と煽っているのです。

このロシア大使館アカウントですが、元々在日ロシア大使館の活動を伝える広報アカウントとして機能していたのですが、ウクライナ問題が深刻化する中で行動がアグレッシブになってきており、日米の報道機関のTwitterアカウントに対して抗議や反論リプライを直に寄せています。


ウォール・ストリート・ジャーナル日本版への抗議


ウォール・ストリート・ジャーナル日本版アカウントに対し、ロシアの諺をリプライして皮肉っています。これは、ロシアのラブロフ外務大臣が2月20日の会見で表明した、「ウクライナ情勢に関するロシアの立場」(在日ロシア大使館訳全文)からの引用になります。


CNN.co.jpへの抗議


CNN.co.jpへの抗議も、ラブロフ外務大臣の発言を引用しています。


読売オンラインの国際ニュースアカウントに対して

読売オンラインに対しては、「自動車への放火、警官への火炎瓶の投げつけ、殺人、ウクライナの様々な地方の知事に対する暴行や、軍の武器庫の占拠未遂をやっている過激派について、抗議デモとは言えるんですか。」と非難めいた質問をしています。これはラブロフ外相の発言ではなく、在日ロシア大使館アカウント自身のリプライのようです。


朝日新聞国際報道部と朝日新聞モスクワ支局(当時)の関根和弘記者とのやりとり

また、朝日新聞国際報道部とモスクワ支局員(当時)の関根和弘記者個人にもリプライを送っています。これもまた、ラブロフ外務大臣の発言引用ですが、関根記者からの質問に対しては「的外れの論点です」と返信して以降、やりとりはありません。

報道機関は言うに及ばず、個人のTwitterアカウントに対してもリプライを投げており、政府機関公式のアカウントとしてはかなり「攻め」方針のアカウントと言えますが、不思議なのは、日本以外の在外ロシア大使館のTwitterアカウントでこんな事しているアカウントが確認されていない事です。

ロシア外務省の思惑があって、在日大使館のみSNS上での積極的な活動をさせているのか、大使館職員(あるいは大使)の個人的な方針なのかは定かではありませんが、ロシア外務省・外務大臣の公式声明を引用してリプライを送る事で、政府見解との意見の乖離が無いように気を配っている反面、ウクライナ暫定政権がスイス国旗とノルウェー国旗を間違えた事を「(笑)」とからかう等、かなり大人げない部分も見られ、大使館職員個人の暴走のような気がしてなりません。

ウクライナ問題は単純にどちらが悪いと片付けられる性質のものではなく、冷戦後に旧ソ連勢力圏で親米政権や独立国を強引に作ってきた欧米に対し、ロシアが同様にクリミアを独立・編入させたら欧米メディアがロシアを一方的に非難している事に、ロシアはダブルスタンダードであると不満を募らせています。在日ロシア大使館アカウントが、ロシアの立場から見て道理に適った主張もしており、それが欧米政府・メディアの偽善性を暴いているのも分かります。ですが、なぜ日本でだけ、こんな事になっているのでしょうか。ロシア政府或いは大使館職員は、何らかの効果があると確信しての行為のようですが、正直な所引いている日本人もいるように思えます。

さて、喧嘩リプライを直に投げられた米国大使館アカウントですが、これを書いている4月17日17時現在、反応を見せていません。米国大使館アカウントは元々、1週間に1日程度しか呟いておらず、4月12日以降呟いていないままなので平常運転なのかもしれませんが、19日頃にどういう反応をするのか注目しております。


【ロシア政治外交関連の本たち】







2014年3月27日木曜日

中国通信機器大手ファーウェイを巡る攻防

2012年2月の話です。米空軍が大量調達を予定していたiPadを、突如調達をキャンセルした事が報じられました。これを伝えたNextgovの記事では、調達要件に含まれていたiPad用ファイル管理の定番アプリケーション”GoodReader"がロシア製だった事がキャンセルの理由であると仄めかされています。

”GoodReader"。米「良いアプリです。ロシア製なのを除けば……」


翌3月に再び調達が告示されましたが、その際の要件に特定のアプリ名は記載されていなかったそうです。Nextgovの取材に対し、GoodReaderの開発者のユーリ・セルコフ氏は「まだ70年代(米ソ冷戦時代)を生きている人がいるのか」と述べ、米空軍の対応に呆れていたようです。当時、日本でもこの報道はネットメディアでよく伝えられていて、私も時代錯誤な話だと思いましたし、ネット上の大方の意見もそんな感じだったと記憶しています。しかしその翌年、元米情報局員のエドワード・スノーデン氏の告発で米国の情報活動が暴露されてからはこう考えるようになりました。あれは、「うち(米国)はやっている」って意味だったんだなと。


ミイラ取りがミイラに

2012年12月、中国の大手通信機器メーカーの華為技術(ファーウェイ)のCEOが、米国市場からの撤退を仄めかしました。

ファーウェイ(Huawei Technologies)の創業者でCEOを努めるレン・ジェンフェイ(Ren Zhongfei、任正非)氏が先ごろ、自社製品に対するサイバーセキュリティの問題が取りざたされている米国通信機器市場からの撤退を決めたことを、フランスのニュースサイトLes Echosとのインタビューのなかで明らかにしたという。

ファーウェイは1988年、中国人民解放軍総参謀部の信息工程学院(現・中国人民解放軍信息工程大学)出身の任正非氏(現CEO)が同僚らと創設した通信機器メーカーで、2012年度の売上高は353億ドル、営業利益は32億ドルと通信機器世界最大手の米Cisco Systemsに迫る巨大企業です。通信インフラに強みを持ち、特にヨーロッパ・アフリカでは大きなシェアを誇っており、英Vodafoneグループや、日本でもソフトバンク、イー・モバイルがファーウェイの基地局設備を導入し、携帯端末も売られています。

ところがこのファーウェイ、米国やオーストラリアでは、政府の通信インフラへの参入を排除されています。理由は安全保障上の理由からです。2012年10月に米下院情報特別委員会が出したレポート”Investigative Report on the U.S. National Security Issues Posed by Chinese Telecommunications Companies Huawei and ZTE”では、ファーウェイを始めとする中国の通信機器メーカーは組織や意思決定プロセスが不明瞭であり、米国政府のシステムを任せるにはリスクが大きいとまとめています。しかし、不透明だ、もっと開示しろ、と指摘する一方で、肝心の安全保障上の脅威となる証拠は提示されませんでした。

ところが先日、スノーデン氏の暴露した情報から、米NSA(アメリカ国家安全保障局)がファーウェイのネットワークに侵入し、ファーウェイと中国人民解放軍の関係を探っていたと報じられました。

この話を報じたNYTimesと独Der Spiegelによれば、NSAは2009年からファーウェイを標的とした「Shotgiant」という監視プログラムを実施し、同社と中国人民解放軍とのつながりを探ろうとしていたという。また、当時の胡錦濤首席や中国政府の対外貿易部門、中国国内の複数の銀行や通信事業者などに対しても、NSAはスパイ活動を行っていたという。

恐らく、ファーウェイが中国政府機関と関係している証拠をネットワーク侵入などのスパイ活動で探していたのだと思われますが、2009年からの活動でも、2012年の議会レポートに活かせる証拠は発見出来なかったようです(あるいは見つけたけど出せない)。

さて、このNSAが自社ネットワークに侵入していた事を受け、ファーウェイの広報は独シュピーゲル紙にこのようにコメントしています。

「もしそれが本当なら、皮肉にも彼らが我々対して行っている事(ハッキング行為)は、彼らが中国人が我々を通じてやっていると非難してきた事と同じではないか」

アメリカがこれまで非難してきた事が、痛烈なブーメランになって返って来ました。昨今のクリミア編入問題でも、過去に西欧米が煽ったコソボ分離独立をロシアに引き合いに出されてしまった事もそうですが、ここのところアメリカ様はブーメラン喰らい過ぎです。

まあ、ファーウェイを始めとした、中国のナショナル・カンパニーに軍出身者が相当数関わっているのは事実でして、あやしー動きもあるにはありますし、中国検索大手Baiduの日本語入力ソフトshimejiも、使用者に内緒で入力情報を外部に流していた事が報じられています。でも、アメリカが一方的に非難できる資格があるかと言えば……ね?
秘密が筒抜けの海外サービス

さて、スノーデンの告発を受けて、暗号学の権威Bruce Schneier氏が政府にプライバシーを侵害されない為、市民に出来る通信の秘密の守り方を紹介しています。それを受けて、セキュリティベンダーのFortinetも独自の見解を添えて、有効な暗号やツール、または危険なサービスを分類しています。

各暗号・サービスの秘密保全度(Fortinetセキュリティブログより
緑、黄色、オレンジの順に安全度を示していますが、緑でも実装が不十分な場合は安全を保証するものではないとしています。

ここで見て頂きたいのが、Dropbox、Facebook、Gmail、Yahoo!、Skypeと、アメリカ発の有名Webサービスは軒並み「NSAは間違いなく、貴方がそこに預けたモノを解読できますよ」と書かれちゃってます。私、このサービス全部使ってますので、NSAが脅迫してきたら、跪いてペロペロ靴を舐める以外に取るべき道がありません。あ、今書いているこれもGoogleだ!

さて、中国メーカーの機械も、アメリカ発のWebサービスも、情報保全という意味で信頼ならんという結論になりそうですが、それだったら日本が取れる道ってどんなのがあるでしょうか? 

国内でも、表計算・文書ソフトでマイクロソフトOfficeが圧倒的シェアを取ってだいぶ経ちますが、官公庁では未だに国産の一太郎花子が使われているようです。また、拙稿「自衛隊の暗号携帯はAndroidスマホ? 」でもお伝えしましたように、自衛隊で使われているスマホの要求仕様は国内メーカーに限定し、OSもオープンソースで検証可能なAndroidを採用しています。このように、日本政府も無策ではないのだなあと思わせますが、まだ国内に有力IT企業がある日本だからマシは話になっている訳で、発展途上国の情報保全担当者の苦労が忍ばれます。凋落著しい日本のIT業界ですが、自国で最低限の事が出来る力はこれからも残して欲しいところです……。



参考サイトや本など

Fortinetセキュリティブログ「NSA(とGCHQ)の暗号解読能力: 真実と嘘」
セキュリティベンダー、Fortinet社のセキュリティブログです。スノーデン氏の告発を受けて、NSAの暗号解読について考察しています。嬉しい事に、Fortinet日本法人が抄訳版を掲載していますので必読。


日経ITpro「中国ファーウェイの正体」
日本で知名度の低いファーウェイについて、本社取材や副会長インタビューを交えて、その戦略や米国等での問題を取り上げた特集です。多くの著名日本企業が、ファーウェイに部材を売っている事にも触れています。


"A New Direction for China's Defense Industry"
米シンクタンクのランド研究所によるレポート。ファーウェイを始めとする中国企業を"blue chips"(アメリカの優良企業)になぞらえて”red chips”と紹介。政府、軍との関係性を主張している。


デイナ プリースト, ウィリアム アーキン「トップ・シークレット・アメリカ: 最高機密に覆われる国家

以前も何度か触れた、ワシントンポストによる911以降のアメリカ情報機関の肥大化についてのレポート。