2009年1月9日金曜日

「ガラパゴス化しているのは彼なのか?」



 昨年の12月31日に「週刊オブイェクト」さんに掲載された「内張り装甲とは結構、分厚いもの」において、当ブログの「防衛省技術研究本部発表会 展示セッション簡易レポ(軽量装着型付加装甲)」から写真と本文の一部を引用して頂きました。その記事の中でブログ主のJSF氏は「コンバットマガジン」2009年2月号に掲載された清谷信一氏のレポート「技本発表会 ガラパゴス化する日本の防衛技術」における清谷氏の不見識を指摘しています。2008年11月の防衛省技術研究本部研究発表会にて展示されていた「軽量装着型付加装甲」について、清谷氏がその存在自体を理解しておらず、見当違いなことを書いているという内容です。


 JSF氏の指摘の詳細は「週刊オブイェクト」さんの記事を読んで頂きたいのですが、私はJSF氏の記事を読んで初めてレポのことを知りました。そこで私もコンバットコミック(訂正:マガジン)を買ってきてそのレポを読んだのですが……はっきり言って、読後に不快感だけが残りました。JSF氏が指摘されたような明らかな間違いの他にも、悪質な印象操作をしているとしか思えない箇所が存在します。清谷氏は発表会のごく一部だけをクローズアップし、自身に都合の良い様にレポを書いたようにしか思えません。


 今回は、清谷氏の発表会レポのおかしなところについて書こうと思います。





-解説員は研究を知らない?


 以下の黒枠内は、コンバットマガジン2009年2月号「技本発表会 ガラパゴス化する日本の防衛技術」からの引用になります。



 このような技本の研究成果の展示が行なわれることは意義があることだ。だが一方で不満もある。展示に当たっていた解説員が、実はあまりその研究に熟知しておらず、充分な説明を受けられない、あるいは質問の意図を理解できないことも多々あった。



 以上の様に、清谷氏は解説員の知識不足に不満を述べています。これは一部は事実です。と言いますのも、解説はその研究に従事している研究者が行っているとは限らなかったからです。私も三次元複合材について質問したところ、そこでの解説係は自分の研究ではないと断った上で説明してくれました。しかしながら、この程度のことは発表会が平日の業務中に行われていますので解説に割けるリソースが限られていると言えますし、なにより解説に不満を感じませんでした。私が話を聞いた中では専任でない解説員はその一人だけで、あとは自分の研究分野について説明をしている解説員でした。中でも車両コンセプトシミュレータの解説を行っていたのは、論文でもよく名前を見かける陸上装備研究所の方で、シミュレータから新戦車についてもメディアで報道されている事以上のことを話されていました。


 ここで疑問に思うのは、清谷氏は解説員の話をちゃんと聞いていたのか? ということです。JSF氏が指摘された内張り装甲にしても、清谷氏は道路法の制限から作られたものだと見当違いなことを書いていますが、私は解説員から着弾時に車体内への破片を防ぐ目的として使われる旨を聞いております。


 その他の研究についての清谷氏のコメントでも同様な事が言えます。以前、私もレポートした「壁透過レーダー」についても、清谷氏は英国などでより小型のものが実用化されており、技本が開発する必要はないとしています。……装備と研究品を比べて、装備の優位性を挙げることの無意味さを彼は理解しているのでしょうか? 卵とブロイラーを比較して、「ブロイラーの肉の方が栄養価が高い」と言っているようなもので、まるで無意味です。そもそも「研究」とは何かということを理解しているのかも疑問です。「研究」とは「ニーズに対応した先進的な研究試作や提案」のことであり、発表会の会場で配られていた技本のパンフにもそれは明確に書かれています。実用に供する装備とは性質が異なっていて当然です。そのことは研究品を見ればすぐに分かります。では、その問題の壁透過レーダーの実物を見てみましょう。


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 確かに大柄です。しかし、これには理由があります。ここで裏の写真を見てみましょう。


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 研究用のデータ出力・制御の為に、USBポートやVGAコネクタ等の汎用品が使われています。私の質問に対し、技本の方は展示品が研究中のために汎用部品を多く使っていること、研究データを取るためのデバイスも実装しているので装置が大きいと説明して頂いた上、装備化の際は腕に装着できるサイズにしたいと構想を明らかにしてくれました。このように装備と研究品は別物なのです。ジャーナリストであるはずの清谷氏は、何故この程度のことも理解せず、聞き出すこともできなかったのでしょうか? 私には、解説員から話をろくに聞き出せなかったことを、解説員のせいにしているだけに思えます。





-後追い研究は不要?



 すでに実用化され、多くの企業が似たような製品を出し、実戦を通じて改良を行っている製品を、敢えて技本が後追いして研究する必要があるのだろうか?



 清谷氏はレポの中で、上記のように壁透過レーダーのみならず、機関砲や軽量榴弾砲などを槍玉に挙げて「諸外国の後追い研究」と批判しています。しかし、後追い研究の何が悪いのでしょうか? 後発の研究は、先行する研究の教訓を取り入れられる利点があるのは言うまでもありませんし、研究を行うことで外国製装備の導入にあたっても利点があるとは思わないのでしょうか?


 しかし、後追い研究に関しての清谷氏の認識の問題点はもっと別な所にあります。レポの中で清谷氏はある研究に対して以下の様に好意的な見解を示しています。



 今回筆者が一番興味を持ったのはポスター展示の、コマツ社が発表したハイブリッド装甲車の研究であった。これは技本の研究ではなく、コマツ社が将来を見越し、自社独自で行っているものだ。ハイブリッド装甲車が実用ともなれば、その設計も運用も、また兵站も既存のディーゼル車とは大きく異なってくる。これこそまさに技本が研究すべきテーマではないだろうか?



 清谷氏は「ハイブリッド」を非常に先進的・革新的なものと捉えていることが文面から伺えますが、これは大きな間違いです。誤解されがちですが、この研究の「ハイブリッド」とは、トヨタのプリウスのようにエンジンを発電以外にも駆動力として使う様なものではなく、純粋にエンジンを発電のみに使用してモーターのみで駆動するシリーズ方式のことを指します。このシリーズ方式は、ガス・エレクトリックやディーゼル・エレクトリックとして既に知られており、戦闘車両では大戦中のドイツ戦車であるエレファント駆逐戦車、マウス重戦車等で採用された技術と同種のものです。トランスミッションが不要になったり、制御が容易になるなどの利点があり、昔から研究されていますが、燃料とバッテリーの2種類のエネルギーを積むことによる非効率性から戦闘車両としては未だに満足の行くものはできていないのが現状です。


 古くから各国で行われている研究(追記:当然防衛省も)であり、清谷氏から見れば「諸外国の後追い」どころではないと思うのですが、それを何故評価しているのでしょうか? もし、シリーズ方式の「ハイブリッド」を知らなかったとするならば、それは清谷氏の怠慢です。コマツの解説員はきちんと「プリウスの様なハイブリッドとは違う」と私に説明してくれましたし、このことは技本のHPに掲載されている要旨にきっちりと書かれています。逆にシリーズ方式を理解していたならば、こんな古くからある研究を賞賛する一方で後追い研究を批判するというのはダブルスタンダードでしょう。





-ガラパゴス化しているのは誰だろう?



 日本の防衛技術は外国製品という「外敵」が入ってこない、日本独特の法的な縛りや慣習から、まるでガラパゴスやオーストラリアの生物のような「進化」を遂げているのではないだろうか? それで有事に役に立つ装備が本当に開発できるのだろうか?



 以上の様に、最近流行りの「ガラパゴス」という言葉を使い、清谷氏は日本の防衛技術開発に疑問を投げかけています。自衛隊に数多くの外国製品が導入されているにも関わらず、このような言い草は印象操作も甚だしいですし、ある程度の産業基盤を有する国が装備の国産化を行うことは当然のことです。また、技術研究本部研究発表会では、米国の研究施設に派遣された技本職員、技本の先進技術センターにて研究中の米軍人、韓国国防科学研究所職員らによる講演も行われており、これらの国際的な技術交流について書かずにガラパゴスだの言うのはあまりに恣意的です。


 コンバットコミック(訂正:マガジン)のレポを読んで思ったことは、情報から隔絶することでガラパゴス化しているのは、他ならぬ清谷氏ではないかということです。少しは人の話聞こうよ。








 でも、「ガラパゴス化」と言う言葉は、日本市場で求められる水準以下で国際標準が決まることにより日本が国際標準から取り残されることを指しており、こと防衛分野に限って言えば「ガラパゴス化」とは国際水準以上の防衛力を持っていることになり、日本にとってはいいことなのかもしれません。