2008年11月9日日曜日

TK-Xへと至る道:駆動装置編



 


エンジン


 一般的に、戦車の開発にあたって最も先行して研究が行われるものはエンジンだと言われています。事実、74式戦車に搭載されることになるエンジンは、61式戦車の開発中の昭和31年から研究が行われておりますし、TK-Xの4サイクルディーゼルも昭和59年度には単気筒エンジンとして研究試作が行われております。いったん整理するためにエンジン関連の研究について、下にまとめてみましょう。


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 ディーゼルエンジンの研究が非常に長い期間行われていますが、様々な車両に適用できる基礎技術ですので当然のことと言えます。他にも先ほど触れた単気筒エンジン研究試作の延長上に多気筒エンジン研究試作があり、更にディーゼルエンジンの小型・高出力・低燃費化を目的としたセラミックエンジンの研究も行われております。セラミックエンジンとは、エンジンのシリンダー周りをセラミックで遮熱することで放熱量を抑え、冷却装置の小型化と言った利点があります。実際に研究ではエンジンの軸出力あたりの放熱量を半分以下に抑えることに成功しており、空燃比も現有と比べ3割低減しております。これにより冷却系が小型化していることが、エンジン図からも伺えます。


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 しかしながら、セラミックスは極めて脆いことや、遮熱に伴うエンジンの高熱化による制御の困難等の問題があります。『新戦車に関する外部評価委員会の概要』でも、外部の有識者よりそれらの点に質問がなされており、今後も総合的検討が必要とされています。





変速操向機・懸架装置


 変速操向機・懸架装置の2要素は、TK-Xを語る上で避けては通れない装軌実験車(MRV)で同時に研究も行われています。


 装軌実験車(MRV)とは、昭和62年度から平成元年にかけて製作され、平成4年度まで試験が行われた実験車両のことです。MRVはシミュレーションに用いる研究開発データベースを設計パラメータと機動性能の関係を明らかにすることで確立するために製作されており、各パラメータはかなりの範囲で任意に変更可能となっております。その為、機動性能に関連する以下の13のパラメータが変更できます。


1.出力・重量比


2.設地圧


3.設地長・軌間距離比


4.重心位置


5.機関方式


6.スプロケット歯車数


7.履帯構造


8.グローサ形状


9.操縦制御方式


10.懸架ばね力


11.懸架減衰力


12.懸架ストローク


13.ばね下重量


 また、様々な新機軸―アクティブサスペンション・ターボコンパウンドエンジン・ガスタービンエンジン、電気式操縦装置等―を導入していることからも、データベース確立のためだけではなく、新技術の研究車両としての意味も持ち合わせています。ここで、MRVをTK-X,90式戦車と比較してみましょう。





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 比較してみますと、MRVで行われた研究がTK-Xにフィードバックされていることが伺えます。その他の点でも似ている点が見受けられ、MRVが製作された80年代の段階で、TK-Xの将来図は固まりつつあったのかもしれません。それを裏付けるかのように、1987年当時の三菱重工業相模原製作所(現・三菱重工業汎用機・特車事業本部)の松田敬所長は「われわれは、もう新戦車(筆者注:90式戦車のこと)の次の世代、二〇〇〇年代の戦車(のデザイン)も始めているんですよ」とインタビューで語っています。








 さて、ここで話を変速操向機・懸架装置に戻しましょう。TK-Xの変速操向機は以前も触れた通り、静油圧機械式無段階自動変速操向機(HMT)となっております。これは従来、操向装置にしか用いられなかった油圧ポンプ・モータを変速装置にも使用することで、変速装置の無段階化するものです。これにより効率的な伝達(ただし、HMTの変換効率は85%が限度と言われ、実際に『新戦車に関する外部評価委員会の概要』の図の中でも、速度と軸出力が高い領域では有段変速に分があるとしています)により、高い加速力を発揮するとともに、高い軸出力を維持しています。これを実現する鍵が小型・軽量・高出力の油圧ポンプ・モータであり、MRV用に試作された後の平成3年度には無段階自動変速機用の1500PS級油圧装置が試作され、その後の試験で良好な結果を得ました。


 また、TK-Xの懸架装置であるアクティブサスペンションは、MRVで試験が行われ、良好な結果を得たとはありますが、資料が少なく判らない点が多いです。試験を収録した映像を見た人の話では「足回りは、野越え山越えしているのに上体はまったくぶれないのだ」(防衛技術ジャーナル2008年8月号)だそうで、それはTK-Xのそれと変らないものと言われています。


 MRVの研究開発では、これらの新機軸に加え、先ほど述べたデータベースの確立も成功裏に終わったと想像され、車両コンセプトシミュレータの開発に繋がることで、TK-X他、様々な戦闘車両の開発に貢献しているものと思われます。


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 これまでに見てきたことからも明らかなように、装備の開発は官民双方が、次の次を見越して取り組むことが重要となっております。現在進められている研究をじっくりと見てみると、そこから数十年先の装備が見えてくるではないでしょうか。





参考文献


防衛技術ジャーナル編集部編『陸上防衛技術のすべて』(財)防衛技術協会


松下義宣,秋山満,城間晴輝,井上福保,志村明彦,長友尚博 『装軌実験車の研究試作』防衛庁技術研究本部技報 平成2年7月


国防編集部 『わが国の防衛装備―その技術と業界の動向4』朝雲新聞社 1987年1月


守本佳郎『無段変速機CVT入門』グランプリ出版


葛城奈海『葛城奈海の体験ルポ! 第10回“陸上装備研究所を訪ねて”』防衛技術ジャーナル 2008年8月号


防衛省 平成14年度事後の事業評価 『戦闘車両用セラミックエンジンの研究


防衛省技術研究本部 『新戦車に関する外部評価委員会の概要