2014年5月28日水曜日

イギリス軍事博物館巡りの旅 コスフォード王室空軍博物館(試作機編)

前回は屋外展示機を中心に紹介しましたが、本日はテストフライト館内に展示されている試作機を紹介します。

試作機を展示しているテストフライト館は、ビジターセンター内を抜けて、左手にある建物です。

テストフライト館入り口

テストフライト館はウォープレーン館と並んで建っており、相互に行き来できる通路がありますので、実質同じ建物のように外に出れず見れます。

また、テストフライト館入り口には、「英国空軍の歴史」が展示されている小コーナーがあり、パネル展示とパイロットの銅像等があります。

パイロットの銅像

「英国空軍の歴史」を通過すると、広い格納庫に出ます。ここが試作機を展示しているテストフライト館です。まずは、パノラマで展示の全景を見てみましょう。


テストフライト館 入り口から


テストフライト館 中央付近から

広い格納庫には、主に戦後の試作機の実機・模型が展示されています。めぼしいものを紹介しましょう。


フェアリーデルタ WG777

テストフライト館に入って左側に展示されているのが、超音速実験機フェアリーデルタ2です。1956年に時速1,811kmの速度世界記録を打ち立てました。WG774とWG777の2機が製造され、写真はWG777で、WG774は英海軍航空隊博物館に展示されているそうです。WG774はコンコルドの研究のためにも使われたとか。

左回りに進むと続いて目につくのが、異様な機体、ミーティア F8 "Prone Pilot"です。


ミーティア F8 "Prone Pilot"

この異様な機体の原型は、第二次大戦中に英空軍が実戦配備したジェット戦闘機、グロスター ミーティアなのですが、Prone Pilotは機首部分から拡張し、前席の乗員がうつ伏せになるという設計です。なんでこんな機体が作られたかというと、ジェット時代に入り、パイロットにかかるGが増加するようになると、耐G性の研究の一環として行われたとか。でも、操縦しにくい……。


Prone Pilot前からアップ

前からアップで見ると、前席しか見えない為に変態度は大幅に減る。しかし……。


Prone Pirot 別角度

ちょっと見る角度を変えるだけで、異様さが際立つ。恐ろしい……。


続いて左手前奥にあるのが、サンダース・ローのSR.53です。戦後に作られた機体ですが、ジェット機ではなく、なんとロケット機です。ドイツのMe163や日本の秋水と同じ、数少ないロケット戦闘機です。


サンダース・ロー SR.53

SR.53は1950年代初頭の英空軍の迎撃機として計画されました。純粋なロケット戦闘機ではなく、燃費の良いジェットエンジンも備えた混合推進機ですが、酸素を取り込む必要の無いロケットエンジンのおかげで、高度2万メートルでも飛行可能という高い高空性能を持っています。

迎撃性能に優れた本機でしたが、本機をより発展・大型化させたSR.177を開発することになり、2機の試作に終わりました。そのSR.177も開発キャンセルされたことにより、ロケット戦闘機の命脈は絶たれたのでした。残念。


続いて、左奥中央に置かれている機体が、BAC TSR-2です。


BAC TSR-2

ジェット爆撃機キャンベラの後継として、1957年に開発がスタートした本機は、ヴィッカース社とイングリッシュ・エレクトリック社の合同案を元にしています。開発中の1960年にイギリスの航空産業が国策により、ブリティッシュ・エアクラフト・コーポレーション(BAC)に合併・統合されたため、BAC TSR-2の名前で知られています。なんか、今のジャパンディスプレイや、かつてのエルピーダ(現マイクロンメモリジャパン)と事情が被ります。


TSR-2 正面から

長距離飛行能力、全天候性能に加え、低空を超音速で侵攻して核攻撃を行うという過大な要求を与えられた本機の開発費は高騰し、1965年に労働党政権が誕生すると開発がキャンセルされます。

高速性を追求した機体は、同時期のF-104に似て、機体の全長の割に翼幅が極端に短い事が正面から見ると分かります。F-104の爆撃機版といった感じです。


機体内部のアビオニクス類

イギリス航空産業界が総力を挙げ、そして最後の徒花ともなった本機ですが、その特異なデザインと高性能(計画どおりなら)のおかげで、根強い人気があります。なぜか、アニメ「ストラトス・フォー
」で本機が主役機だったりした時は「ナンデ!?」と思ったものです。

まあ、好きな人が多い機体です。

ブリストル・シドレー オリンパス22R 320

TSR2用に開発されたオリンパス22R 320ジェットエンジンは、その後は超音速旅客機コンコルドのロールス・ロイス/スネクマ オリンパス 593ジェットエンジンの原型となりました。


TSR-2 エンジン部
TSR-2 機体下部

TSR-2 機体下部その2

第二次大戦が終わって10年ちょっとでこんな化け物を作った英国航空産業界でしたが、この後は米国航空業界に押され、英国単独でTSR-2に匹敵する航空機開発を行う事は無くなりました。


左奥に進むと、今度は国際共同開発の機体が登場します。

EAP(Experimental Aircraft Programme)

現在のユーロファイター・タイフーン戦闘機の原型となった、BAeのEAP(試作航空機プログラム)です。炭素複合材使用やフライ・バイ・ワイヤ採用等の新機軸を盛り込んだ機体で、欧州共同開発となるユーロファイターに貴重な実験データを提供しました。


SEPECAT Jaguar ACT デモンストレーター

英仏共同開発の攻撃機、SEPECAT ジャギュアの高機動試験機です。日本で言うと、T-2高等練習機のCCV研究機、T-2CCVに相当する機体です。操縦制御にフライ・バイ・ワイヤを採用し、ここで得られた成果が前述のEAP、ユーロファイターのフライ・バイ・ワイヤに生かされています。


国際共同開発が続きましたが、次は純血の英国機です。

ハンティング H.126

実証試験機のハンティング H.126です。ジェット・フラップ(ブラウン・フラップ)の実証試験として製造され、ジェット・フラップのおかげで時速51.5kmの低速でも飛行可能でした。違反切符も切られません。

H.126 前から

純粋な試験機の為、引き込み脚は無く、無骨な固定脚が目立ちます。ジェット機でありながら、一次大戦機のような風格も漂わせています。


続いては、知名度、実績共に高いあの機体です。

ホーカー・シドレー ケストレルF(GA)1

世界初の実用垂直離着陸戦闘機ハリアーの原型となった、ホーカー・シドレーのケストレルF(GA)1です。


ケストレル 正面から

ケストレルより前、ホーカー社では垂直離着陸実験機としてP.1127を試験しており、この改良型がケストレルと命名されています。推力偏向式のペガサスエンジンにより、垂直離着陸を可能にした本機はハリアーとして実用化に至り、イギリスのみならず、アメリカ海兵隊やスペイン、インド軍でも使用される成功機となりました。現在もなお、発展型がアメリカで使われており、F-35B配備まで唯一の実用垂直離着陸戦闘攻撃機として運用されます。


ブリストル 188

ステンレスボディが眩しい、ブリストル 188です。元はマッハ3級の偵察機アブロ730の為の研究機で、高速度における空力加熱を調査する為に製作されました。その為、多少重くても耐熱性のあるステンレス鋼が多用されています。


ブリストル 188 別角度から

同時期の高速偵察機であるSR-71ブラックバードが真っ黒なのに対し、ステンレス製の本機はピカピカで対称的です。


ブリストル 188 前方から

アブロ730の研究機として製造された本機ですが、肝心のアブロ730はキャンセルされる事になります。


ハンティング ジェット・プロヴォスト T.3

ハンティングが開発したジェット練習機、ジェット・プロヴォスト T.3です。変な位置に階段があって写真があれですが、中を覗きこむことができます。


イングリッシュ・エレクトリック P1A

マイナー中のドマイナーな機体です。イングリッシュ・エレクトリックの技術実証機P1Aです。この異様な空気取り込み口の形状が不安を誘います。

後のライトニングの原型となる機体で、縦列配置の双発エンジンという特徴もこの頃からあります。


イングリッシュ・エレクトリック P1A
ところで、こいつ何かに似ているかとおもったら、こいつだ

    
                 へ'´                     \  ..へ
                く;:::::::ヽ.  _,.:-r‐-/⌒``γ‐v- 、      ,'::::::::;
             / へ;::::〉'´  ,| /     /  :}   ヽ>、`γ;;;::::;;-く
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 !、Ч ||ヽ、_〉   |   | λ   〈¨i 芬i仆、 ヽ、 .¨´|T爪弁¨7|/   :ト ト、ヽ.,_|   __
,-L`、}ト'| | (ヽ.  |.  |/ λ  |’弋廴ノ   \  |.廴歹., '.:|    人.|  ̄/  ∠,. 厂ヽ,へ
{ 、_〉` " .{  ', 丶 ', / /λ、 |:.:.'' ̄´     ′.\!  ̄.:.:.:./  /! | ト、//`i | レイ/ /_|_
'i        |./ / ノヾ、ノクノ入:从_.:.:.:.:.   /\    .:.:.:.:./>-- l.|_| 〉! / ./ /  └' (_, i
 !  ヽ /´   / /\ζニ二 ̄`ζ    /     ヽ   u 〉  ̄   二 .〉'Lヽ 丶く:_      /
  |   \   } 〉ミ Lュ二ニ=`i.   {        }   彑-ー-ニ_/ノ,/ |    Y     /
  ‘,   ′ ノ く\!ヾ>i‐=ニ三 ̄_ト、  丶_   _ノ ィζ_ ̄三二〉-彡亅|    i    /
    |    〈こ! ヽ、``-l三ニ=-‐ュミ ァi 、   ,. <|_彡!-=ニ二_/== ノ_〉',        ノ
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    |!  .ハll/.    ',    ヽll/:::::::::::::::::::;;;;ト〈::::::::::::::::‐;;〈::::|ノ    ./  マヘ `‐/   > 、
   ノ  .ハll/     ',    l{::::::::::::;;;;;;;;iiiソ ト、;;;;;;;:::::::::::::|:::|    /    マヘ  \  ̄
  ノ  ハll/.      ',    |-r‐フ::::::::::/  :|:::::::::ヽ、‐-=i:::|    /    .マヘ    `ー


ショート SB5 WG768

そして、テストフライト館最後の機体がこいつ、ショート SB5 WG768です。これも前述のP1Aと同じくライトニングに至る過程で作られた実証機です。

P1Aと異なり単発機で、説明に書いてあるデータでは最高時速500kmとしょんぼり。もっと出るらしいけど、この博物館のデータは全体的に抑えめの数字で紹介されている事が多いです。ナンデ?

これら実機の他、計画倒れに終わった計画機の模型もテストフライト館には展示されています。


スーパーマリン Type559

スーパーマリン Type559。ヴィッカース Type559の方が通りが良いと思うけど、こちらの方が説明板に書かれていました。
1950年代後半の運用要求329に基づいて提案された迎撃機です。このミサイル配置がたまりません。

ヴィッカース Type010

高度15,250メートルを最高速度マッハ2.5で飛行する、ヴィッカース Type010です。
超音速、亜音速双方での飛行に対応した可変翼機で、その流麗なデザインは現代でも通用しそうです。これ、エンジンが翼端付近に付いているから、当然可変翼が作動したら、エンジンの向きも変わるんだろうなあ……(この機体よく知りません)。

他にもコンセプトモデルはいろいろと置いてありましたが、とりあえず目ぼしいものはここまで。

次はウォープレーン館を紹介します。

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2014年5月24日土曜日

イギリス軍事博物館巡りの旅 コスフォード王室空軍博物館(屋外展示編)

さて、イギリス軍事博物館巡りの旅。最初の博物館はコスフォード王室空軍博物館です。王室空軍博物館はロンドンにもありますが、ここコスフォードの方が規模が大きいです。

コスフォード王室空軍博物館は、イングランド中部の都市バーミンガムから列車で30分ほどのコスフォード駅近くにあります。ロンドンからバーミンガムまで1時間30分ほどですので、片道2時間少しを想定すれば、ロンドンから列車での日帰り見学も可能と思います。




博物館は駅の南側にありますが、北側にも軍の施設と博物館駐車場の一部もあったため、最初は間違えて北側に行ってしまいました。

コスフォード駅

コスフォード駅。のどかな無人駅です。

コスフォード王室空軍博物館は、コスフォード駅南を10分ほど歩いた所にあります。敷地内は軍施設でもあり、滑走路には練習機も止まっていました。博物館の敷地にはフットパスも整備されていました。

軍施設敷地内の博物館までの道。フットパスとしても整備されている

フットパスとはイギリスに古くからある通行権に基づく、風景や自然を歩きながら楽しむ事が出来る小径の事で、公共の散歩道と言えます。フットパス内なら私有地でも通行が認められていますが、軍用地内にも整備してあるのには驚かされました。

博物館まで緑の木々の中を歩きます。イングランド全体に言える事ですが、小鳥の囀りが至る所で聴こえます。大変美しい鳴き声なのですが、このコスフォードだけはカラスも結構鳴いていた……。ビジターセンター前はカラスだらけでした。

博物館近くのモグラ穴

敷地内はモグラ穴があちこちにあり、ウサギのフンも見られる等、自然が豊かな場所です。

コスフォード王室空軍博物館は食堂や売店があるビジターセンター、試作機を展示するテストフライト館、大戦期の航空機を展示するウォープレーン館、冷戦期の航空機を展示する冷戦館、輸送機や練習機を展示するハンガー1から成り立っています。

コスフォード王室空軍博物館の見取り図

ビジターセンターを入ると、食堂や売店がありますが、王室空軍博物館自体は無料ですので、入館に際してなにか手続きをする必要はありません。そのまま航空機を見に行くなり、博物館の概要を見るなり聞くなりできます。

王室空軍博物館は入館無料ですが、博物館の活動を支援する会員制度があり、それぞれ年間25ポンドを寄付するランカスター会員、年間50ポンド寄付するライトニング会員があります。会員には季刊誌の送付や売店での割引、博物館の舞台裏を見れる特別イベントへの参加等の会員特典があります。定期的に博物館に訪れる人にメリットがあるよう組まれているそうです。年間25ポンドからとは言え、他のイギリスの博物館の一回の入場料もそれくらいします。イギリス在住だったら入りたい……。

この支援会員の宣伝がセンス良く、昔のパイロットの白黒写真の中に、現代人がカラーで入っているポスターがなかなか良いです。まさに仲間になる感じですね。

博物館支援会員募集のポスター
また、博物館では屋外にも航空機を展示しています。今回は屋外展示の目ぼしいものを見てみましょう。

ホーカー ハンター
1950年代に開発された英ホーカー社のジェット戦闘機、ホーカー ハンターです。この機体は、イギリス国産機という事もあり、割とイギリス国内の博物館で見る事の多い機体です。

ホーカー・シドレー ニムロッドR.1
テストフライト館へ向かうと、ホーカー・シドレーの対潜哨戒機・電子偵察機ニムロッドがビジターセンター裏にあります。現在、ホーカー・シドレーは消滅し、BAEシステムズとなったので、BAEニムロッドと表記される事も多いですが、説明板ではホーカー・シドレーのままでした。

展示されているのは電子偵察型のR.1で、対潜哨戒機型は2011年まで現役にありました。後継として改良型のMRA.4が計画、開発も完了し、生産もされましたが、2012年の配備を前に計画はキャンセルされ、製造された機体もスクラップにされたそうで……おおもったいないもったいない。

ロッキード P2H ネプチューン

これは日本でも関連機を見ることが出来ますね。米ロッキード社の対潜哨戒機P2Hネプチューンです。1945年に初飛行し、エンジンはB-29に搭載されたR-3350を2基搭載しています。対潜哨戒機ですが、イギリスでは空軍で運用されていたようです。日本ではP2V-7が海上自衛隊で運用され、更にはエンジンをターボプロップエンジンに換装する等の改良を加えたP2Jが1994年まで運用されていました。

ホーカー・シドレー ドミネ

デ・ハビランドが開発したジェット旅客機DH.125を、デ・ハビランドを買収したホーカー・シドレーがイギリス空軍に練習機として販売して、ホーカー・シドレー ドミネです。1960年代に開発された機体ですが、改良を続けられ、現在でもビジネスジェットとして生産が続けられているそうです。その改良型ホーカー800は、航空自衛隊でも救難機U-125として配備されています。

面白いのは、デ・ハビランドがイギリスで開発した機体がホーカー・シドレー、BAeエアロスペース、レイセオン・エアクラフトとメーカーが転々と代わり、現在はホーカー・ビーチクラフトがホーカー800として販売していますが、そのホーカー・ビーチクラフトが販売するホーカー400は、三菱重工がMU-300として開発したものをビーチクラフトが製造販売権を取得して現在に続いている事です。イギリスと日本で開発された飛行機が、巡り巡って、両機ともアメリカの会社が現在も製造販売しているのです。

屋外には他にも、C-130輸送機や4発ターボプロップ旅客機のブリストル ブリタニアが展示されていますが、それらは撮り逃がしておりました……。そして、半屋外展示的な機体も現在あります。


屋外にあるDo17展示コーナー Do17実物大パネル

Do17サルベージの紹介展示

海中に沈んでいた大戦中のドイツの爆撃機、ドルニエDo17を王室空軍博物館が引き上げ、修復している作業を見学できます。2013年に引き上げられた機体は現在、ビニールハウス内でクエン酸で処理されており、修復には長い時間がかかるようです。

Do17の残骸が保管されているビニールハウス

機体をクエン酸処理しているそうです

ビニールハウスには入れない上、結露が酷かったです

残骸その3

Do17を保管しているビニールハウスは扉が閉められており、中で直接見る事は出来ませんでした。結露が酷く、中の様子も良く分かりませんでしたが、いくつか撮れた写真を紹介。

屋外展示ではこの他、Do17の機体やイギリスへの爆撃等が紹介され、この機体が発見・回収された経緯がパネルやビデオで紹介されています。博物館自体は見学無料ですが、このDo17修復プロジェクトへの寄付を募っており、私も少々入れました。かつての敵国の機体を、海中から引き上げて修復を行うイギリスは大した国だなあ、と感心したものです。そういや、B-29エノラ・ゲイの展示紹介に、国を挙げて難癖つけた国がありましたね……。

では、次回は屋内展示に移り、まずはテストフライト館の試作機の数々をご紹介します。



※初稿で「帝国戦争博物館」と書いてしまった箇所がいくつかありましたが、正しくは「王室空軍博物館」です。帝国戦争博物館はダックスフォードだった……。



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2014年5月23日金曜日

イギリス軍事博物館巡りの旅 準備編(その2)

さて、前回の続きです。

日程の決定

イングランド内の博物館を回る事に決定し、その為の準備をしてきましたが、旅程は下記のように事前に組み立てました。

5月13日 日本発。ロンドン着。バーミンガムへ鉄道移動。
5月14日 コスフォードRAF博物館へ。その後、バロー・イン・ファーネスへ。
5月15日 バロー・イン・ファーネス巡り。その後、ロンドンへ戻る。
5月16日 ロンドン5連泊。19日までその日の状況に応じてどこ行くか決める。
5月20日 ロンドン発。21日帰国。

5月22日以降はロンドン5連泊で、帝国戦争博物館やボービントン戦車博物館等をその時の状況に応じて割り振る予定にしました。なお、ゴスポートの潜水艦博物館は、週末しか潜水艦案内ボランティアがいないと行かれた方のレポートにありましたので、土日の17、18日に割り振る事にしました。



イギリス向け電気機器の対応

さて、今回の旅は写真撮影と情報収集の為、モバイル環境が欠かせません。モバイル通信の確保は前回紹介しましたが、今回は電気関連です。

イギリスは電圧220-240V、周波数50Hzで配電されていますので、これに適応する変圧器が必要な場合もありますが、ノートPCとiPhone用の電源アダプタ、ニコンのデジカメ充電器は共に日本で売られているもので対応可能でした。念のため、接続されるケーブルも確認しましたが、許容範囲内でした。プラグ形状については、イングランドだけ回るので、BFタイプの変換プラグを持っていきます。スコットランドも回ると、B3タイプが必要になるので注意が必要です。

ニコン充電器用にロード・ウォーリアー 海外用電源形状変換プラグ (BFタイプイギリス・香港) をかまし、Apple製品用にはワールドトラベルアダプタキットキットを使うことにしました。


ワールドトラベルキットのBFタイププラグと電源アダプタ
Appleのワールドトラベルキットアダプタは結構面白い製品で、AppleのMacBook用MagSafe電源アダプタと、iPad用のUSB電源アダプタ共用の世界各国のACプラグをセットにしたものです。日本仕様の電源アダプタ・USB電源アダプタのプラグ部分を取り外し、各国のプラグ形状に替えられます。iPad用とMacbook用それぞれのACプラグは共用で、1つあればMacにもUSB充電アダプタにも対応可能だったのには、Appleの設計思想が垣間見えて面白かったです。



イギリス鉄道の一等車と二等車

さて、前回ではイギリスでの鉄道移動は一等車がオススメと書きましたが、今回はその理由をご説明します。イギリスのだいたいの鉄道は、一等車・二等車とクラス分けされていて、それぞれ搭載施設やサービスが違います。

イギリスのナショナル・レイルは鉄道会社各社の合同ブランドで、各社の路線でかなり一等車の施設やサービス内容が異なるので一概には言えませんが、それぞれの座席にテーブルやコンセント、さらに無料WiFiを用意している所もあります。特にロンドン・ユーストン駅発着のVirgin Trainsの長距離線一等車はかなり豪華で、無料の食事サービスやアルコール、ソフトドリンク、スナック、果物のサーブがありました。


各座席にテーブル・コンセントがあり、PCの充電と無料WiFiがある。大量のお菓子とサンドウィッチ、ドリンクをもらう。


新聞もあります


食事内容は時間帯により異なります。写真は夜間時間帯に出たパイです。
ブリットレイルパスのうち、イングランド内で乗り放題になる「ブリットレイル・イングランド・コンセキュティブ・パス」の連続8日間有効券を利用した場合、二等車が29,900円なのに対し、一等車は44,600円と1万5,000円ほど割高ですが、長距離移動をする場合は食事の手間を省ける事や電源を確保できる点などメリットが大きいです。治安が日本よりよろしくないイギリスでも、乗務員が頻繁に来るので安心できます。

一等車はモバイル機器を利用する方で長距離移動をする方にもオススメですし、学生やシニアはブリットレイルパスがさらに安くなり、価格差も小さくなります。もっとも、路線によっては二等車にも電源があり(数は少ない)、一等車にも電源が無かったり、客車の区別が無いものもあります。私はVirginを複数回利用する旅程でしたので、一等車にしておいて正解でした。他の路線でも、だいたい一等車には電源があるのが良かったです。


前置きがだいぶ長くなってしまいましたが、次はイギリスの各軍事博物館について、写真を大量にアップしてご紹介します。

続く

【関連】

英国政府観光庁オンラインショップ





2014年5月22日木曜日

イギリス軍事博物館巡りの旅 準備編(その1)

Twitterでご存知の方も多いと思いますが、5月13日から21日にかけて、イギリスの軍事博物館を見て回る旅に出ておりました。

初めてのイギリス旅行に加え、軍事博物館というマイナーなスポット巡りは情報も限られておりましたが、各博物館公式サイトの情報に加えて、MASDFさんの「Altimeter MASDF写真館・動画館」内の博物館レポートを参考に、事前準備を行い、無事全ての日程を消化する事が出来ました。

MASDF主宰の関賢太郎氏にこの場を借りてお礼申し上げます。貴重な紹介、ありがとうございました。

さて、旅行のレポをまとめたいと思いますが、今回は4000枚近い写真を撮影しており、まだ帰国したばかりで整理が追いついていません。各博物館毎に記事としてアップする予定ですが、まずは今後イギリスに軍事関連の博物館を見に行かれる方の為に、事前の準備情報について書いていきたいと思います。


イギリスへの旅

「イギリス行くか」と思い立ったのは1月の終わり頃。Twitterで英国観光庁がブリティッシュ・エアウェイズと組んで行ったキャンペーンの宣伝ツイートを見たのがキッカケでした。


「安いなら行くか」と思ったものの、燃油サーチャージや空港税入れると往復11万円ほどしました……。まあ、それでも十分安い方だしいいか……。5月は一番美しい季節らしいし。なお、今はこのキャンペーンは終了しており、値段も上がっています。

5月のイギリスの車窓。新緑と花の季節で、一年で最も美しい月とか

2月から準備を始め、イギリス国内の主要な軍事博物館はイングランドに集中している事を確認しました。そこで、イングランド内の軍事博物館を回ることにし、以下の博物館を回る事にしました。

ダックスフォード帝国戦争博物館 (公式サイト
ロンドン王室空軍博物館 (公式サイト
コスフォード王室空軍博物館 (公式サイト
ボービントン戦車博物館 (公式サイト
海軍潜水艦博物館 (公式サイト
ポーツマス・ヒストリック・ドックヤード (公式サイト
バロー・イン・ファーネス ドックミュージアム (公式サイト

イギリスには他にも、各地の帝国戦争博物館、チャタム海軍工廠等、様々な博物館がありますが、それを回り切るのは一週間やそこいらでは無理でした。また、帝国戦争博物館はロンドンにもあり、零戦が置いてある事から日本のガイドブックにも載っていますが、2014年7月19日まで移転の為閉館中です。



イギリス国内の移動

さて、イングランド内で旅行は全て完結する事になったと確定したら、今度は英国政府官公庁オンラインショップブリットレイルパスを購入して、イギリス国内は鉄道移動を中心に回る事にしました。

なお、購入したブリットレイルパスは、イングランド内でのナショナル・レイル(鉄道民営化後の各社合同ブランド。JRに相当します。地下鉄は含みません)が期限付きで乗り放題になる「ブリットレイル・イングランド・コンセキュティブ・パス」にしました。他にも全英のナショナル・レイルに乗り放題のチケットや、ロンドン近郊路線のみをカバーしたもの等、英国の地域毎に分かれたチケットから、日数や車両の等級を選択できます。客車の等級については、私は1等にしましたし、似たような旅をする皆さんにも多少高くても1等をオススメします。それだけの価値はあります(後述)。

ヒースロー空港からロンドン・パディントン駅へ向かうヒースローエクスプレスの一等車。ブリットレイルパスで乗れます(一部非対応)

鉄道を選んだ理由は交通事故のリスク等に加え、MT車主流のイギリスではレンタカーでAT車を借りると高くつく点や、長距離の移動は寝れる点を考慮に入れました。また、監視カメラが至る所に設置されているため、少しでも速度違反すると、帰国後もカード会社に高額な罰金の請求が来るそうで……。慣れない所でいきなり運転はするもんじゃないですね。

なお、ブリットレイルパスはイギリス国内では買えません。出発前に日本から余裕を持って、英国政府官公庁オンラインショップか、代理店を通じて買うしかありません。イギリスはラッシュアワーとそれ以外の時間帯の運賃が天と地の開きがある時間帯別運賃制ですので、外国人から見たら本当に分かり難い事この上ありません。鉄道を頻繁に使うなら、ブリットレイルパスが運賃を気にせず全然楽です。

また、前述のようにブリットレイルパスではロンドン市内の地下鉄・バスは乗れないので、ロンドン市内の移動はオイスターカードと呼ばれる日本のSuica/Pasmoに相当するカードを購入しておくと便利です(切符を買うより安い運賃が自動で適用されます)。英国政府官公庁オンラインショップでブリットレイルパスを購入する際、一緒にチャージ済みのオイスターカードも頼んでおくと楽です。



イギリス国内でのモバイル環境

さて、最近の旅で重要なのが、モバイルの通信環境です。ネットが繋がらなければ、スマホやタブレットでGoogle Mapsを見る事すら叶いません。通信環境を確保する上で確実なのは、携帯キャリアの国際ローミングサービスですが、キャリア3社共に1日約3000円も取られます。他にもモバイルルーターのレンタルがありますが、「1日100MB」「3日で400MB」といった具合に、一定の通信量を超過すると通信制限が発生するなどのペナルティがあります。写真や動画等のアップを考えている方は、容量制限のあるモバイルルーターレンタルは止めた方が良いです

幸い、イギリスでは様々なキャリアが通話/データ通信用のSIMカードを販売しており、SIMフリーの端末と端末の対応周波数帯さえ確認すれば、安価に通信をすることが出来ます。

日本ではSIMフリー端末は普及していませんが、Googleが販売するNexus7 (2013)LTEモデルが手軽に手に入るSIMフリー端末でしたので、こちらをSo-netのデータ通信とのセットで入手しました。たまたまSo-netのMVNOの更新月だったので、実質0円で入手です。ラッキー。

注意して頂きたいのは、日本で入手可能なNexus7とヨーロッパで販売されるNexus7は対応周波数が違い、ヨーロッパ各国で使用されるLTEのプラチナバンドに日本モデルは対応していません。その為、LTEの波の掴みが正直あまり良くなく、ちょっとした障害物で通信が切れる事があります(au版iPhone5のLTEのイメージに近いです)。3Gは掴めますので、ちょっと遅くても気にならないならばNexus7でも良いかもしれませんが、遅いのがどうしても気になる方はイギリスの周波数帯に対応したSIMフリー端末を探されてはどうでしょうか(そんな簡単に良いのはありませんが…)。

さて、私の運用では、Nexus7をテザリングでモバイルルーター化して、頻繁なネット閲覧はiPhoneで行いました。このような場合、テザリングに対応したキャリアのSIMカードを入手する必要があります。イギリスの各キャリアやMVNOは様々な格安プランを用意していますが、テザリングが出来ない・オプション扱いのキャリアが結構あります。自分が調べた主要キャリアの中で、テザリングが標準OKだったのは、"O2"と"T-mobile"の合同ショップブランド"EE"のみだったと思います。他は注意事項で禁止や、オプション扱いのとこばかりでした。

事前の調査を元に、ヒースロー空港に到着したら、すぐにSIMの自販機に向かいました。空港ターミナルの至る所に自販機がありましたので、迷う事は無いと思います。


SIMカードの自動販売機

私の場合、電話番号やSMS機能を割り振られない、データのみのプランを利用しました。イギリス国内、日本への電話はNTT.Comの海外からも日本と同じ通話料「050 plus」のアプリによるIP電話で済ませました。通話料はむちゃ安いし、イギリス国内でタクシー呼ぶ通話も問題ありませんでした。

そして、テザリングでとにかく通信したい!、というタイプにしたいので、30英ポンド(2014年5月時点のレートで5000円ほど)でEEの"ON PAY AS YOU GO "の6GBを買いました。これで、30日間又は6GBの通信上限に達するまで、4GLTEを含むモバイル環境を確保できました。

購入したのは左下から2段目のEE"ON PAY AS YOU GO"6GBで、30英ポンド

気をつけて欲しいのは、SIMカードのサイズです。私の買ったSIMカードには、iPhone用のナノSIMが入っていて、それに標準SIM・マイクロSIM用の変換アダプタが付属していました。他にも細かいSIMカードの違いで売られているのもあるので、気をつけて下さい。また、Nexus7のSIMはマイクロSIMなので、アダプタを噛ます必要がありますが、この付属アダプタがとにかく脆く、台座から剥がす瞬間に壊れてしまいました。なんとか押し込んで入れましたが、SIMアダプタは日本から持ってくるか、慎重にハサミやナイフでアダプタを台座から取り外すのが確実でしょう。

それと、Nexus7(2013)の場合だと、EEのSIMカード付属のSIMスロット取り外しピンは短くて使えません!。念を入れて、日本からNexus7付属のSIMスロットピンを持ってきていたので、これで無事取り外す事ができました。自分の端末のスロットを外せるピンをあらかじめ用意しましょう。

EEのSIMカード内容物。説明書とチャージ用のTOP UPカード、ピン、アダプタ2種、SIMカード本体

買う際、6GBにするか、2GB(20ポンド)にするか迷いましたが、結局6GBにしました。結果から言うと正解で、イギリスからiPhoneでバンバン写真アップロードし、艦これにリモートデスクトップ経由で繋いでいたら、1日で2GB消費する事もあり、追加でまた6GB買うハメになりました。iPhoneでも写真を撮る場合、iCloudでフォトストリーム共有をオンにしていると、モバイルルーター経由でもiPhoneからはただのWiFi通信環境にしか見えないので、大量にアップデートを知らずに始めています。モバイルルーター/テザリングを使う場合、通信量を抑えておきたいなら、iCloudの写真共有はオフにしておきましょう。


続く

【関連】

英国政府観光庁オンラインショップ

英国旅行で事前に必要なものなど、解説を含めた販売を行っていますので、イギリス旅行へは必読。


2014年5月9日金曜日

ヤマハと米ノースロップ・グラマン、無人ヘリで協業

米航空宇宙大手のノースロップ・グラマン社は8日、日本のヤマハ発動機と無人ヘリコプターの分野で協業することを発表しました。

ヤマハとノースロップ・グラマンのR-Bat(ノースロップ・グラマン社サイトより)

ノースロップ・グラマン社はヤマハの無人ヘリRMAXをベースに、自社の自律制御・情報収集技術を併せたRotary-Bat(R-Bat)の初飛行を完了し、その様子をYouTubeに公開しています。





R- Batの原型となったRMAXは、1997年にヤマハ発動機が開発した無人ヘリコプターで、2001年には自律飛行型、2003年には改良型のRMAX Type IIGが開発されています。国内では水田への農薬散布で高いシェアを誇り、現在までに2,400機が水田の約40%に農薬散布を行い、農業の高効率化に貢 献しています。今回の発表でノースロップ・グラマン社は、提携によって、農薬散布に加えて、送電線の点検や、捜索救難といった新たな用途への道が拓かれたとしています。

公開されたR-Batの外見は、原型のRMAXの農薬散布装置に代えて、複合センサーを搭載したジンバルが取り付けられている事が分かりま す。昨今は無人機による攻撃が問題になっており、今回の提携相手は軍需産業でもあるノースロップ・グラマン社である事からも、軍事転用の恐れを心配する向 きがあるかもしれません。しかし、原型のRMAXの搭載可能重量の小ささから、攻撃兵器の搭載は難しいと考えられます。実際にRMAXはイラク派遣中の自 衛隊でも使われましたが、自衛隊宿営地周辺の警戒監視がその任務でした。

原型となったRMAXは世界的に見ても成功を収めた無人ヘリで、今回の提携を機に世界市場でも存在感を増すことが期待されます。


【関連】
Photo Release -- Northrop Grumman, Yamaha Motor, U.S.A., Collaborate on Unmanned Helicopter System

ヤマハ発動機:RMAX製品サイト


【関連書籍】

P・W・シンガー「ロボット兵士の戦争」

井上孝司「戦うコンピュータ2011」

井上孝司「軍事とIT 空の巻」(電子書籍)





2014年5月5日月曜日

ドイツの例から「積極的平和主義」を考える

4月29日よりヨーロッパ6カ国を歴訪中の安部首相ですが、出発前の会見で記者団に今回の訪問の意義について語りました。

首相は出発前に羽田空港で記者団に対し「欧州は世界の世論形成、秩序づくりに大きな影響力を持っている。日本の成長戦略や積極的平和主義を発信したい」と欧州歴訪の意義を述べた。ウクライナ情勢については「話し合いを通じた平和的解決に向け、どのような協力をしていくべきか、率直な意見交換をしたい」と語った。


この「積極的平和主義」とは、昨年末に策定された『国家安全保障戦略』(リンク先PDF)の中で、「我が国が掲げるべき理念」として位置付けられています。一言で表すなら、「国際社会の平和と安定及び繁栄の実現に我が国が一層積極的な役割を果たし、我が国にとって望ましい国際秩序や安全保障環境を実現していく」方針の事で、具体的には国連平和維持活動等への積極的参加、米国やその同盟国との関係強化、外交努力や人的貢献による国際秩序の維持・紛争解決を行います。

世界の平和に日本が積極的に貢献していく事に対して、反対する向きは少ないでしょう。しかし、積極的平和主義を行う「覚悟」が、日本政府、そして日本国民にあるのでしょうか。日本と似たような立場の戦後を経験し、早くから世界平和への積極的関与を行ってきたドイツの事例を見て、積極的平和主義とは何かを考えてみたいと思います。

日本と同じく、第二次世界大戦の敗戦国として戦後をスタートしたドイツは、東西対立の最前線に位置していた事もあり、北大西洋条約機構(NATO)や欧州安全保障協力機構(OSCE)といった、多国間の安全保障枠組みの中での防衛を基調としていました。この点が日米安保条約という二国間の安全保障を中核に据えていた日本と異なる点ですが、海外への派兵はNATOの域内に留めるという基本法(憲法に相当)解釈が冷戦期は維持されており、国外派兵を認めていなかった日本と事情が似ています。この多国間安全保障に加え、「不戦の原則」「大量殺戮の阻止」が、第二次大戦でのドイツからの反省点として、戦後ドイツの安全保障の中核概念になりました。

このように域外派兵に抑制的だったドイツにも転機が訪れます。1990年の湾岸戦争の際、多国籍軍への資金提供に留めていたドイツは、国内外で「小切手外交」と批判を受けます。この批判を受け、コール首相はそれまでNATO域外の派兵を禁じていた基本法解釈の変更を行い、ユーゴ紛争やソマリアへの派兵を行う事になります。この経緯は湾岸戦争への対応で同様の批判を受けた日本とよく似ており、自衛隊のペルシャ湾派遣やPKO協力法制定、更には現在問題になっている集団安全保障についての憲法解釈変更へと繋がっています。

基本法の解釈変更により域外派兵の道を開いたドイツは、その後も1999年のセルビア空爆への参加、2001年のアフガニスタン派兵等、積極的に軍事力の行使を含む、国際平和活動に参加する事になります。当時は社会民主党(SPD)・緑の党の左派連立政権で、ドイツは海外派兵に慎重になるとみられていました。ところが、ボスニア紛争の最中の1995年に起きたスレブレニツァの虐殺を受け、ドイツの安全保障の中核概念であった「大量殺戮の阻止」がクローズアップされる事になります。シュレーダー政権は「大量殺戮の阻止」が「不戦の原則」に優越する概念であり、大量殺戮を阻止する為には武力行使も辞さないという考えから、アルバニア系住民への迫害が行われていたセルビアに対する空爆に踏み切りました。


握手するシュレーダー独首相(当時、左)とブッシュ米大統領(当時、右)

2001年の同時多発テロ後は、インド洋での米英軍の作戦を海上から支援するとともに、アフガニスタンで治安維持活動を行う国際治安支援部隊 (ISAF) へもNATOの一員として、兵力を派遣する事になります。このアフガニスタン派遣は、開始から10年以上経つ今現在も続いており、ドイツ軍は300名以上の死傷者を出しております。この海外派兵の死傷者を巡り、右派政党が派兵を決定した政権を批判する等、日本とは全く逆の現象も起きています。


アフガニスタンで殉職した有志連合軍兵士、ドイツ軍兵士らの慰霊碑

ドイツ軍のアフガニスタン派遣を巡っては、2009年9月には「クンドゥス爆撃」と呼ばれる事件も発生しています。アフガニスタン北東部のクンドゥス付近で、武装勢力タリバンがタンクローリーを強奪する事件が起き、派遣ドイツ軍のゲオルグ・クライン大佐はタンクローリーが自爆テロに使われると判断し、米軍に対してタンクローリーの爆撃を要請しました。ところが、タンクローリーの周囲に現地住民が集まっていたため、爆撃により民間人に多数の死者が出る惨事となり、ドイツ国内外で政治問題化しました。また、現地のドイツ軍憲兵の調査で民間人の死者があったと報告されていたにも関わらず、フランツ・ヨーゼフ・ユング国防相は「爆撃に民間人の死者は含まれなかった」と虚偽の発表をしたために、更迭される事態にまで発展しました。

これらドイツの事例と同じようなことが、自衛隊派遣で起こらないとは限りません。むしろ、必ず起きると考えた方が間違いないと思われます。先日の朝日新聞の単独インタビューに応じた陸上自衛隊の井川賢一・南スーダン派遣隊長は、今年1月上旬に自衛隊宿営地近くで銃撃戦が発生した際、隊員に小銃、銃弾を携帯させ、「正当防衛や緊急避難に該当する場合は命を守るために撃て」と指示していた事を明らかにしています。既に戦闘すれすれの所まで、自衛隊は活動しているのです。

不安定な地域に赴くことは、撃たれる可能性、撃つ可能性が存在し、なにより自衛官が死傷する事もあるという認識を、どれほどの日本国民が覚悟を持って受け入れているのでしょうか。仮に今後、自衛隊が派遣先で戦闘に巻き込まれ死傷者を出した、あるいは民間人を誤って殺傷してしまったという事が起きた場合、その責任は誰が取る事になるでしょうか。このような事態が起きた場合、政治問題化することは容易に想像できますが、国際社会に積極的平和主義を行うと宣言してしまった手前、死傷者が出た、出してしまったと積極的平和主義を取り下げる事は簡単にできません。


多くの死傷者や民間人の誤爆を引き起こし、国内で大きな論争を巻き起こしてもなお、ドイツは海外派兵を続け、大国の責任として国際平和への貢献を履行しています。このドイツの自国民の流血、そして他国民をドイツ人が誤って殺してしまうリスクを厭わず、大量殺戮の阻止と国際平和の実現を目指す覚悟は大変立派なものです。対して日本は、自衛官・民間人の死にどこまで耐える覚悟が出来ているのでしょうか。自国民・他国民の犠牲をどこまで許容できるか、積極的平和主義はそういう命の計量すらも私達に問いかけているのかもしれません。


【関連】

中村俊哉「ドイツの安全保障規範の変容:1999-2011年の海外派兵政策」

ドイツの安全保障政策の変容について、冷戦以後の変化と、冷戦期の基本方針について分かるネットで多分一番の論文。科研費助成ですので、無料で読めます。


長有紀枝「スレブレニツァ―あるジェノサイドをめぐる考察」

ヨーロッパで起きた大量虐殺としては戦後最大規模で、冷戦終結後の国際平和維持活動のあり方を一変させたスレブレニツァの虐殺の論考。欧米では衝撃的な事件として伝えられているが、日本では事件そのものの知名度が低い。そのスレブレニツァの虐殺の、数少ない日本人による論考。