2014年3月7日金曜日

誤用され続ける「A級戦犯」

先日、週刊誌の中吊り広告でこんなのを見かけました。


週刊文春2014年3月13日号の中吊り広告

見て頂きたいのは、広告の左側『「慰安婦問題」A級戦犯 朝日新聞を断罪する」』のところです。記事の内容についての言及ではありません。「A級戦犯」という表現です。

この「A級戦犯」という言葉、最近では、


『ソニーからモノ作りを奪った「A級戦犯たち」』(週刊新潮2014年2月20日号)

『米国 オバマ政権がS&Pを詐欺の疑いで提訴 金融危機招いたA級戦犯・格付け会社の正体』(週刊ダイヤモンド2013年3月16日号)

『3・11から一年 原発事故 あの災厄の責任は誰がとるのか 「3・11」の「A級戦犯」』(週刊アエラ2012年3月12日号)


など、週刊誌を始め、様々な雑誌で使われている表現です。

ソニー凋落の原因、金融危機を招いた格付け会社、原発事故の責任者……。いずれの責任も重大であり、責任追及の最上級の表現としての「A級」戦犯であるように感じられます。「○○のC級戦犯!」なんて見出しは見たことありませんからね。

そもそも「A級戦犯」とは、第二次大戦後に開かれた極東国際軍事裁判(東京裁判)において、戦前日本を戦争に導く主導的役割を果たしたとされる人物――東條英機、広田弘毅、松岡洋右ら――を裁く際、彼らが犯した戦争犯罪を「平和に対する罪」として分類し、他の戦争犯罪と分けたものです。日本を戦争に導き、多くの血を流し、敗戦に追いやった指導者の罪は確かに重大です。現在の週刊誌は、これら指導者に匹敵する、最も重大な責任であると強調したいために「A級」を使いたいのでしょう。

じゃあ、「A級戦犯」があるなら、もっと格下に見える「B級戦犯」と「C級戦犯」はA級と比べて、どれだけ「軽い」犯罪なのでしょうか? B級は「通例の戦争犯罪」、C級は「人道に対する罪」を指します。どういった罪なのか、名前からは分かり難いので「極東国際軍事裁判所条例」によるBC級の定義を見てみましょう。(※条例原文の仮名遣いは片仮名)


(イ)平和に対する罪 即ち、宣戦を布告する又は布告せざる侵略戦争、若は国際法、条約、協定又は誓約に違反せる戦争の計画、準備、開始、又は遂行、若は右諸行為の何れかを達成する為めの共通の計画又は共同謀議への参加。

(ロ)通例の戦争犯罪 即ち、戦争の法規又は慣例の違反。

(ハ)人道に対する罪 即ち、戦前又は戦時中為されたる殺人、殲滅、奴隷的虐使、追放、其の他の非人道的行為、若は犯行地の国内法違反たると否とを問わず、本裁判所の管轄に属する犯罪の遂行として又は之に関連して為されたる政治的又は人種的理由に基く迫害行為。


つまり、B級戦犯「通例の戦争犯罪」は戦争のルールを定めた戦時国際法・慣例への違反、C級戦犯「人道に対する罪」は大量虐殺・民族浄化と言った非人道的行為についての罪です。戦争のルールを破ったらB級戦犯ですが、ナチス・ドイツのように特定の民族を虐殺したらC級戦犯です。あれ? こう書くと、B級よりC級の方が残虐性や実際に出た被害が大きく見えますね。そうです、ABC級戦犯は罪の重さや犯罪の規模を表した等級ではなく、単なる分類なのです。C級戦犯よりB級戦犯の方が罪が重いなんて事はありませんし、A級戦犯が懲役刑で、BC級戦犯が死刑という例もあります。

極東国際軍事裁判(東京裁判)

ところが、何故か日本では「A級戦犯」が、最も重大な犯罪的行為をした人の代名詞となっています。日本と同じく連合国による国際軍事裁判が開かれたドイツでは、ABCの分類に「共同謀議の参加」という罪を加えた4つの分類分けがなされており、ABC級戦犯という言い方は定着していません。先に挙げた極東国際軍事裁判所条例の分類で、日本語版ではイ・ロ・ハによる分類だったものが、英語版条例のABCの方が定着してました。「イ級戦犯」、「ハ級戦犯」……なんか締まんないから、A級、B級にしたかったのも分かります。ですが、Wikipediaの「A級戦犯」の項目では、日本語・韓国語・中国語しか作成されておらず、「BC級戦犯」に至っては日本語と中国語しかありません。ABC級という分類が、いかにローカルなものであるかが分かると思います。


しかし、指導者の罪を追求する意味での「A級戦犯」の使用は、必ずしも的を外している訳ではありません。政治家や企業の経営などで、悲惨な結果をもたらした決定を行った指導者に対して、戦争を決定した指導者の罪を指す「A級戦犯」を比喩として用いる事はアリではないかと思います。もっとも、明らかに等級として罪の重さを強調しているような例ばかりなんですけどね……。


<ここらへんの国際法関連の理解に役立つ本たち>

国際条約集 2014年版 --International Law Documents

ベーシック条約集〈2013〉

国際法基本判例50 第2版

国際法 第2版 (有斐閣アルマ)