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2016年1月21日木曜日

すしざんまい社長はソマリア沖の海賊を壊滅させたのか?

Twitterでこんな話が話題のようです。

Togetter:ソマリアの海賊を壊滅させたのは『すしざんまい』の社長だったという、なんかスゴイかっこいい話に驚きの声

このTogetterまとめでは、すしざんまいの木村社長が、ソマリアの漁民にマグロ漁を指導し買い取ることで、海賊から漁民に戻したという趣旨の事が述べられています。21日19時30分現在、このまとめは29万もの閲覧数があり、ネットで注目を浴びている記事のようです。

ソマリア沖・アデン湾における海賊は、2000年代後半から国際問題となっておりました。近年になり、当該地域における海賊被害が激減していますが、それに木村社長の功績だと言うのです。事実とすれば偉大な業績でしょうが、本当でしょうか?


ソマリア海賊被害は減少した?

先のまとめの元ネタは、すしざんまい社長のインタビュー記事のようです。

ハーバービジネスオンライン:すしざんまい社長が語る「築地市場移転問題」と「ソマリア海賊問題」

インタビュー記事中、木村社長はソマリアの漁民を支援する活動を紹介し、事業面以外の成果を以下の様に語っています。


木村:いろんな国や国際機関も援助をやっていますが、どれも上滑りのことばかりであまり役に立っていないことも少なくありません。相手の視線に立って、相手の悩みに気がついてあげることが必要なんです。ソマリア沖じゃ一時は年間300件、海賊による被害があったそうですが、うちが行くようになって、この3年間の海賊の被害はゼロだと聞いています。よくやってくれたと、ジブチ政府から勲章までいただきました。

すしざんまい社長が語る「築地市場移転問題」と「ソマリア海賊問題」


記事では木村社長がいつごろから活動を始めたのか詳細は書いていませんが、「うちが行くようになって、この3年間の海賊の被害はゼロだと聞いています」と述べていることから、3年ほど前からソマリアでの活動を始めたようです。では、ここで当該地域における海賊被害の推移を見てみましょう。

ソマリア沖・アデン湾における海賊等事案の発生状況(外務省資料より作成。2015年のみ7月までの数値)

海賊被害のピークは2009年から2011年で、年間200件以上の襲撃がありました。しかし、2012年からは減少に転じ、2015年(ただし、7月31日までの数値)は襲撃・被害共に0件です。行くようになってから海賊が減ったとは言いますが、2012年あたりに活動を始めたとすると、ちょうど海賊被害が減少に転じてから事業を始めた事になり、ちょっと不整合を感じます。


ソマリア海賊と国際社会

そもそも、ソマリアの海賊問題に国際社会はどう対応していたのでしょうか。

2008年に国連で相次いでソマリアの海賊問題に関する決議が採択され、2009年頃から各国海軍の派遣活動が活発化します。アメリカ、NATO、EU、ロシア、中国等、ほとんどの主要国が艦艇を派遣しています。日本も海賊対策として、2009年から自衛隊の護衛艦2隻を派遣して船舶の護衛活動を続けており、2011年には自衛隊初となる常設の海外拠点をジブチに設置し、航空機による監視活動も行っています。現在も約600名の自衛官、海上保安庁職員が現地での活動に携わっています。

アデン湾でEU艦艇と訓練を行う海上自衛隊護衛艦(統合幕僚監部サイトより)

各国海軍と海賊との間で戦闘が発生した事もありましたが、ほとんどの場合、海賊は軍艦や軍用機を見ると逃走します。海賊のボートと軍艦では戦力が違い過ぎるので、戦いようがないのです。民間船舶の護衛が行われるようになり、多国籍部隊や各国部隊との協調が確立し、警備活動も軌道に乗ると、海賊の被害も減少するようになります。

このような国際社会の警備活動もあり、ソマリア沖の海賊は減少に転じています。このような活動を考えれば、木村社長によって、ソマリア沖の海賊が壊滅したかと言われると、ちょっとそれは言い過ぎだと思います(そもそも壊滅させたのは自分だと木村社長は言っていません)。


国際社会と企業の両輪関係

しかし、かと言って木村社長の功績が毀損されるいかと言うと、これ自体は大変立派なものです

紛争地域の紛争を終結させ、平和な状態へと再建する平和活動のプロセスに、武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)と呼ばれるものがあります。これは武装組織構成員の武装を解除し、教育や職を与えることで、復興の担い手として社会に貢献できるようにする活動です。継続的な平和を維持するためには、かつての武装組織の構成員に、生活できる収入を得るための正業に就かせることが重要です。
元戦闘員に工具箱を手渡すDDR活動(在スーダン日本国大使館サイトより)


国際社会主導の事業は、長期の営利事業として立ち行かないことがままあり、民間企業の役割も大きなものです。しかし、現実的に紛争地域かそれに準じる地域で、事業を行おうとする企業は多くありません。経済が立ち行かないと、その国の平和も乱れ、また紛争に逆戻りするパターンも見られます。

国際社会の軍事的な海賊対処活動で、海賊行為が上手くいかなくなった海賊たちに、マグロ漁師としての道を与えた木村社長は、重要な活動をしていたと言えます。しかし、海賊行為が莫大な利益をもたらしていた場合、そうやすやすと海賊が漁師になるでしょうか? そして、各国海軍の活動で海賊行為が出来なくなったとしても、海賊たちに他に職のアテが無ければ、海賊以外の犯罪で糊口をしのぐのは目に見えています。つまり、国際社会の海賊対処活動と木村社長の活動は、海賊壊滅のための両輪だったと言えます。どちらが欠けていても、成し得なかったでしょう。

しかし、ソマリアの海賊は減少したとはいえ、終わった問題ではありません。ソマリアは依然として統一政権が無い状態で、政府の警察力による取り締まりは期待出来ません。各国の海軍部隊が撤退したらまた海賊が出没するようになるでしょうし、漁民の生活が行き詰まったら、また海賊に戻るかもしれません。今後も国際社会は、各国海軍による警備活動と共に、ソマリア国内の安定化を働きかける必要があるでしょう。

【関連】

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2013年7月9日火曜日

海上自衛隊のソマリア沖海賊対処、護送船団方式も変更?

海上自衛隊がソマリア沖に派遣している海賊対処部隊ですが、本日7月9日の閣議において、1年間の派遣延長が決定されると共に、かねてから報道されていた米国主体の多国籍部隊CTF151へ護衛艦1隻を合流させることになりました。

海賊対策 多国籍部隊に参加へ NHKニュース
政府は、9日、海上自衛隊がアフリカのソマリア沖で行っている海賊対策について、活動の期限を1年延長することを閣議決定しました。
小野寺防衛大臣は、近く自衛隊に命令を出し、ことし12月をめどに船舶を護衛する方法を改めて、一部の護衛艦を多国籍部隊の活動に参加させることにしています。
これまでの海上自衛隊のソマリア沖海賊対処行動は、航行する船舶で船団を組み、船団を2隻の護衛艦で護衛する「エスコート方式」、つまりは護送船団方式でした。

昔のブログ記事から引っ張って来ましたが、海上自衛隊の護送船団方式(2010年時点)は、船団を高速で乾舷の高い「低リスク船」と、低速で乾舷が低いために海賊に襲われる可能性の高い「高リスク船」のグループに分け、海賊出没時には護衛艦1隻は海賊船に対処し、高リスク船は高速で退避、低リスク船を残る護衛艦1隻が護衛するという方法を取っていました。
海上自衛隊の船団護衛
しかし、今回のCTF151へ護衛艦が1隻参加することに伴い、船団をエスコートする護衛艦は1隻のみとなります。このため、船団護衛の内容は大きく変わるものと考えられます。

この背景として、商船への武装警備員の搭乗に伴って海上自衛隊が護衛する船舶の数そのものが減少傾向になることと、各国の海上警備が功を奏して襲撃件数は減ったものの海賊の活動範囲が広範囲化していることが考えられます。
このため、これまでのエスコート方式による直接護衛のみの方針から、ゾーンディフェンス方式で海賊を積極的に抑制しようとする動きに変更したと考えられます。

では、新たに行うエリアディフェンス方式の護衛とはどのようなものでしょうか?
エリアディフェンスはソマリア沖で対海賊活動している各国軍のうち、有志連合軍や欧州主体の国際部隊が採用しており、海賊が出没する海域をパトロールするものです。エスコート方式との違いを分かりやすく言えば、エスコート方式が専属のボディガードで、エリアディフェンス方式は地域の治安を維持する警察みたいなもんです。

有志連合のエリアディフェンス海域「安全回廊」

上図は有志連合が設定した安全回廊と呼ばれる海域で、イエメン沖30〜40マイル・長さ490マイルの海域のエリアディフェンスが行われ、各国の船舶は警備が行われているこの回廊を航行するようになっておりました。

エスコート方式が襲撃してくる海賊船への受動的な防御であったのに対し、エリアディフェンスでは特定海域での警戒活動や不審船舶への臨検活動などの能動的な活動になります。

これまで、日本独自の活動として行なってきた海賊対処が、国際部隊と協調して行う活動へと変化したことは重要な意味を持つものと考えられます。
参加艦艇は他国軍の指揮下に入ることになるため、臨検活動などを命じられ、そこで戦闘となる可能性も否定できず、派遣隊員の危険度も増してくるものと思われます。

また、派遣されている部隊のうち、P-3C哨戒機の扱いがどうなるかも気になるところです。現在、広範囲を捜索できる固定翼哨戒機を派遣している国は少ないことからも、かなり重要な戦力になると考えられますが、今後に注視したいと思います。

【関連記事】
dragoner.ねっと: 自衛隊の海賊対処活動とその実情 前編
dragoner.ねっと: 自衛隊の海賊対処活動とその実情 後編

【関連書籍】


2010年3月5日金曜日

自衛隊の海賊対処活動とその実情 前編

 アデン湾・ソマリア沖の海賊問題について、当ブログでも派遣前からも何度か触れていましたが、早いもので2009年3月14日の派遣からもうすぐ1年です。派遣水上部隊も現在は4次隊にまで引き継がれ、護衛回数も100を超えました。今回は3月2日に防衛省南関東防衛局が行った防衛セミナーでの講演内容も踏まえ、派遣された海賊対処活動の実情にフォーカスを当てたいと思います。



■海上自衛隊初の船団護衛活動

アデン湾・ソマリア沖での海賊が国際問題となる中、2009年1月28日に浜田防衛大臣(当時)によりアデン湾・ソマリア沖への派遣準備指示が発令されました。これを受けて海上自衛隊では派遣に向けた準備を開始しますが、前例の無い船団護衛任務であり、準備から任務開始までの期間がまだ未定の状態でした(実際に派遣されるのは3月14日で準備期間は2ヶ月無かった)。第一次派遣海賊対処水上部隊指揮官に任ぜられた五島浩司一佐は準備指示に対して、まずは「護衛任務のイメージ作り」から始め、大まかに以下の3つを行うことにしたそうです。
1.「護衛任務の具体化」
  • 護衛要領の作成
  • 特別警戒配備
2.「人・物の補強」
  • 人事課との調整
  • 装備の補強
  • 隊員への教育
3.「ガイドライン作成」
  • 国土交通省・日本船主協会との調整
    以上のうち、「護衛任務の具体化」は実際の護衛活動の内容について「策定→検証→修正→策定→……」のプロセスを繰り返し、護衛要領が完成したのは出発の3日前だったそうです。「人・物の補強」については、海賊対処に必要とされる人員や装備を検討し、海賊対処という新しい任務について隊員への教育を行い、「ガイドライン作成」では護衛対象となる船舶用のガイドラインを国交省・日本船主協会との調整のもと作成しました。



    ■準備活動とその内容

    では、具体的な準備の内容はどのようなものだったのでしょうか?
    まず、今回の派遣にあたって新規・追加で艦艇に装備されたものは以下の6つです。

    新規装備
    1.防弾板:各所に配置。
    2.LRAD :艦は片舷に1基ずつ、計2基装備。
          哨戒ヘリにも小型のものを1基装備。
    3.特別機動船(RHIB):各艦2隻ずつ装備。

    追加装備
    4.インマルサット(衛星通信装置):通信の増大等に備え追加。
    5.哨戒ヘリ:砂塵・高熱対策の為、第一次派遣部隊のみ各艦2機。
           通常は1機。
    6.12.7mm機関銃:片舷1丁ずつ追加。
    以上の装備についての検証から行われます。数キロ先に大音響を伝えるLRADや防弾板等の能力を実際に使ったり、射撃を行うことで使用に耐えるものか検証します。次に個々の装備の訓練を実施し、最後に実際の場面を想定した総合的な訓練を行う、といった段階を踏んだ検証・訓練を行ったとのことです。訓練に当たっては想定状況がありますが、考えられる最悪の想定を3つ設定し訓練が行われました。余談ですが、この「最悪の想定」は五島一佐が夜な夜な見る悪夢を参考にして設定されたとのことでした。

    また、装備の他にも医療・救護体制についても強化を行い、隊員の負傷・護衛対象船の船員の負傷・海賊の負傷という3パターンについての検証・訓練も行われました。

    f:id:dragoner:20090220123507j:image
    【2009年2月20日に行われた海上保安庁との合同訓練。右側が海上保安官】(引用:朝雲新聞サイトより)
    f:id:dragoner:20090302083736j:image
    2009年3月2日~3日にかけて行われた、海賊対処に係る図上演習の様子(引用:統合幕僚監部サイトより)

    このような準備の後、2009年3月13日に海上警備行動が発令され、翌14日に第一次派遣海賊対処水上部隊は出航しました。しかしながら、現地への航行中も訓練は引き続き行われ、射撃訓練や立入検査訓練、LRADで流す各国語の警告メッセージの録音等が行われました。護衛開始三日前になって、五島一佐は初めて隊員が休暇を取っていないことに気づき、艦内放送で全員に謝罪した後、一日だけ休みを取らせる事ができたそうです。それほどの多忙な訓練であったと推測されます。



    ■船団護衛活動の実際
    船団の護衛は2009年3月30日より開始されます。護衛対象となる船舶は5隻で、海賊対処法案が可決される前の海上警備行動に基づく活動でしたので全て日本関連船舶でした。

    船団はアデン湾・ソマリア沖に展開しているアメリカ軍を中心とする有志連合軍が設定した「安全回廊」を航行します。安全回廊はイエメン沖30~40マイルに設定された長さ900キロの海域で、有志連合軍やEU軍が重点的に警備を行っています。しかしながら、それでも海賊は安全回廊にも出没する為、海上自衛隊による船団の直接護衛方式が取られました。なお、同様の直接護衛方式は中国、ロシア、インド、韓国等も行っております。

    f:id:dragoner:20100306020034p:image:w800
    安全回廊

    上図の様にA点からB点、B点からA点間を航行する船団の護衛が派遣部隊の任務になります。

    今回の派遣にあたっては、ソマリア沖というキーワードから無政府状態のソマリアから海賊が来ているものと思われがちですが、実際は対岸のイエメン人の海賊も多く、昨今のイエメンの治安悪化も相まって混迷を極めています。この地域の海賊の特徴として、伝統的なダウ船を母船にし、そこからスキフと言われる小舟で船舶を襲撃するのが手段が挙げられます。問題はダウ船にしてもスキフにしても、この地域の漁民等が使っているものと船自体は全く同じであり、識別が困難です。しかしながら、怪しい船は船に積んでいるものから以下の様に特徴付けられます。


    f:id:dragoner:20100306022834p:image:w800
    海賊が襲撃に使うスキフの特徴(筆者作成)

    上図のように、ハシゴの搭載、エンジンの数、乗員数やポリタンク等から怪しい船が見分けられます。ただし、あくまで「怪しい」としか言えず、この船が海賊行為に及ぶか、臨検して武器が発見されなければ海賊船と断定することはできません。この地域の海賊は漁民が多いと言われており、同じ船を使って、ある時は漁民、ある時は海賊、ある時は麻薬輸送と様々な合法・違法行為をしていると考えられ、このような事情が海賊の識別をより一層困難なものにしています。このような場所ですから、商船は小さい船を見かける度に海賊船と思ってしまう為、派遣部隊は1日に10件以上のSOSを受信することも少なくありません。

    では、船団護衛自体はどのように行われているのでしょうか。言葉で説明するよりも、絵で説明した方が理解しやすいので、以下の図をご覧下さい。

    f:id:dragoner:20100306020004p:image:w800
    船団護衛内容(筆者作成)

    基本的に単縦列・複縦列を基本とした船団を組み、船団の前方と後方を護衛艦で固め、哨戒ヘリで近辺を警戒する形になります。ここで注目すべきは、護衛対象の船団をハイリスク船とローリスク船に分けているところです。先程のスキフの写真を見て頂ければ分かると思いますが、襲撃に使われるスキフは小型な為、乾舷が高い船に乗り込むことは困難です。また、高速船はスキフを振り切ることが可能で、これらの船は比較的襲撃されるリスクが少ないです。逆に乾舷が低い船や低速船は襲撃を受けやすいため、ハイリスクな船となります。

    船団ではハイリスク船とローリスク船に分け、ローリスク船を前方に、ハイリスク船を後方に配置します。不審船が前方から接近してきた場合、最も早く船団に近づく為に対処時間が短く危険です。その場合、前方の護衛艦が船団と海賊船の間に割って入り不審船の進路を塞ぎ、ローリスク船は高速を生かして海賊船とは反対方向へ退避します。速度の遅いハイリスク船は後方の護衛艦の近くを航行し護衛を受けるといった陣形を組むことにより、船団護衛は行われます。

    後編へ続く―