2008年3月26日水曜日

検証 TK-X(その1 火力・防護力)



概要


 次期主力戦車(TK-X)は現在、防衛省技術研究本部を中心として開発が進められている陸上自衛隊の新型戦車で、平成11年度(訂正:間違えました。正しくは13年度です)より開発が始まりました。


 2008年の2月13日に試験車両が公開され、そのさまざまな新機能が注目されています。本稿ではそのTK-Xについて、現在まで分かっていることから考察を行いました。


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この写真は、防衛省技術研究本部のサイトより引用させて頂きました。



目的


 TK-X開発の目的として、事前評価・政策評価書では以下の5点をまとめています。




  1.   C4Iの連接により情報を共有し、迅速・正確に火力と機動力を指揮統制できる能力

  2.   対象戦車を確実に撃破できる火力

  3.   多様な脅威に対応できる防護力

  4.   所望の時期場所に迅速に進出できる戦場機動力

  5.   迅速な戦力集中が可能な戦略機動性


 2.から4.までの3項目に関しては、戦車の基本要素である火力・防護力・機動力の3点を指しており、1.はこの3点をより効果的に発揮させるための指揮統制の強化、5.は平時・有事の運用の幅を広げることが目的と思われます。まずは、この5つの要素をそれぞれ火力、防護力、機動力、戦略機動性、C4Iとして検証することで、TK-Xの能力について推測していきたいと思います。





火力



 TK-Xの火砲について、現時点で日本製鋼所製の44口径(長)120mm滑腔砲だという点が明らかになっています。これは90式に搭載されている独ラインメタル社が開発したRh120と同一の口径長と口径です。しかし、事前評価書では「90式戦車より高威力化」と明示されています。


 一般的に戦車砲では、砲弾の直径(口径)と砲身長(口径長)が貫通力を推測する目安とされています。しかしながら、44口径(長)120mm滑腔砲から55口径(長)120mm滑腔砲に換装されたレオパルド2A6は、その長い砲身ゆえに都市や森林での移動に問題があること、精度が低下したことが問題となっているようです。日本は国土の75%を森林・宅地・道路が占めており、また伝統的に自衛隊が精度を追及していることからも、砲身長の増大は避けたかったとみられます。


 また、同一の砲身長であっても砲威力は技術によって異なります。そして、Rh120は30年前の火砲であり、現代の技術が反映されたTK-Xの砲がアドバンテージを持っているとみるのが妥当でしょう。


弾薬


 2000年に制式化された00式戦車砲用演習弾の開発と並行して、ダイキン工業で将来戦車用APFSDS弾の開発が行われています。同社は自衛隊向けの弾薬の生産・開発を手掛けており、90式戦車の開発にあたっても独自の弾薬を開発しましたが、前述のラインメタル社のRh120とDM33が採用されたことで断念しています。


 しかしながら、同社の74式戦車用の93式105mmAPFSDS弾は諸外国の最新式APFSDS弾より勝るとの結果から採用されています。この93式APFSDS弾は1985年に始められた90式戦車の次の将来戦車用弾薬研究、すなわちTK-X用の弾薬研究の波及効果によって開発されたものです。93式APFSDS弾が当時の諸外国の最新式APFSDS弾に勝る性能を見せたことからも、その技術の基になったTK-X用弾薬研究が優れていたことが伺え、93式APFSDS弾の制式化から15年経過した現在、より一層の高威力化を遂げ、世界トップクラスの性能を実現していると考えられます。


 また、同時期にダイキン工業では戦車砲用対ヘリ弾の開発も行われています。この砲弾に関しての詳細は不明ですが、同社が対空用砲弾や近接信管の製造・開発も行っていることを考えれば、アメリカで開発されたM830A1の様な対ヘリ機能を持った多目的榴弾ではないかと推測されます。ただし、この砲弾が制式化され、TK-X用に採用されるかどうかは明らかでありません。


要件は満たしているのか?


 さて、これらからTK-Xは「対象戦車を確実に撃破できる火力」という要件を満たしているのでしょうか? 自衛隊が想定している仮想敵、所謂甲・乙・丙の主要戦車として、T-72乃至T-80の派生型が挙げられます(注:甲・乙では次世代戦車を開発中ですが、情報の不足からここでは除外します)。このうちT-72・T-80は、90式戦車と同じRh120を採用したアメリカのM1A1が湾岸戦争でT-72に対して圧倒的強さを見せており、90式戦車を上回る火力を持つTK-Xはこの要件を十分満たしていることは確実でしょう。(注:甲乙丙以外の周辺国について書く必要はないと判断しました)(追記:ロシアの増加装甲であるコンタークト5に関しては情報が少ないため、ここでは対象外とさせて頂きました)





防護力


 前述した通り、TK-Xには「多様な脅威に対応できる防護力」が要求されています。まずはこの「多様な脅威」から考えてみたいと思います。


 現代の主力戦車は陸上戦闘で想定されるほとんどの状況に対応しています。対戦車戦、対歩兵戦、対陣地戦等がそれです。想定されうる驚異は、戦車砲、歩兵携行の無反動砲・対戦車誘導弾・ロケット弾、榴弾砲の射撃、空爆、地雷等です。参考として、82式指揮通信車に対して実施された防護試験の映像をニコニコ動画に掲載しましたのでご覧ください。



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 この映像は装備開発実験隊(現・開発実験団)による防護試験の一部です。対戦車ミサイル等の対戦車火器についての試験映像は確認できませんでしたが、装輪装甲車(そして指揮車両)であることを考えますと、この程度の試験でも妥当と考えられます。これらの脅威を実射という形で試験を行うのですが、戦車に対する試験はより厳しいものであることが想像できます。


 90式戦車に対しては、対戦車ミサイルや155mm榴弾砲による試験が行われていると言われ、その試験の様子を収録した映像について言及している資料が複数あります。資料によって細部は異なりますが、90式戦車に対するRh120による対弾試験であることと、砲塔正面に数発の射撃を受けた後に90式戦車が自走するという内容は共通しています。TK-Xもこれに相当する試験が行われていると考えるのが妥当であり、TK-X自身の砲による試験が行われていると思われます。このことから前述した新型APFSDSのことも考慮に入れると、TK-Xの正面装甲は世界のほとんどの主力戦車の砲撃に耐えられるものと推測することができます。


 しかし、これまでに挙げた防護力の内容は、現用の90式戦車とさほどかけ離れたものではありません。TK-Xは更にどのような脅威を想定しているのでしょうか? 容易に推測できるものとしては、所謂ゲリラ・コマンドが挙げられます。


 現在、自衛隊ではゲリコマ対策に力を入れていることは良く知られていますが、同時に世界では安価な高性能兵器が拡散していることが問題となっています。ゲリコマ(なにも詝ゲリコマ”に限った話ではないですが)がこれらの兵器を使用した場合、軍事組織にとっても厄介なものになります。拡散する兵器の象徴として、旧ソ連で開発された携行対戦車火器のRPG-7が挙げられます。RPG-7は成形炸薬弾頭を備え、一般的と思われるV型は厚さ約300mmの均一圧延鋼板(RHA)を貫通する能力を持っています。TK-Xの正面装甲は当然問題無いとみるべきですが、側面はどうでしょうか? TK-Xの側面の写真を見ますと、砲塔側面の装甲がブロック状(パネル状?)になっていることが分り、また公開されている試験映像に砲塔がスリムに見えるシーンもあります。このことから、本来の砲塔に後付けした付加装甲があると考えられます。


 では、この付加装甲はなんでしょうか? 付加装甲の一種にパッシブアップリケ装甲があり、これは鋼―セラミックス―ガラスから構成されていると言われています。パッシブアップリケ装甲は徹甲弾・HEAT弾双方に効果があるとされており、世界でも多く使われているものです。このパッシブアップリケ装甲を状況に応じて取り付けることで、TK-Xは側面へのRPG-7等の携行対戦車火器に対する防御を達成しているのではないかと考えます。


 また、これは全くの憶測に過ぎませんが、上面装甲の強化も行われていると思われます。先ほどの装甲車両の映像でも車両直上で爆発した榴弾に対する試験がありましたが、近年では戦車の上面を狙うトップアタック兵器等が登場しており、これも「多様な脅威」の一つと言えるでしょう。日本は96式多目的誘導弾や01式軽対戦車誘導弾など、トップアタック兵器の開発が世界的に見ても進んでいることからも、これらへの対処の研究も行われていると考えます。


その2(機動力・重量軽減化)へ続く。