2010年4月25日日曜日

検証TK-X:新型国産120mm滑腔砲についてのエトセトラ(暫定版)



このブログを始めた頃、真っ先に取り扱ったのが新戦車TK-Xについての考察、「検証 TK-X(その1 火力・防護力)」でした。当時はTK-Xについて自分が調べきれていなかったこともあり、防衛省の事前評価書の記述から90式戦車と同じ44口径でも威力は強化されると述べましたが、それを達成するための技術的特徴についてはついぞ触れることが出来ませんでした。あの記事から2年経ち、ようやく自分で納得のいく情報の入手・整理が出来たため、今回はTK-Xの新型国産120mm滑腔砲について解説したく思います。




■90式と同口径。でも威力向上


まだ配備前の装備ということもあり、TK-X(10式戦車)自体の情報はまだまだ少ないのが現状ですが、防衛省技術研究本部が過去にどのような研究を行っていたかを追跡することで、その姿を推測することが可能です。下に示したTK-Xの開発線表を見ると、TK-Xの開発前の平成8年度より火砲や車体等の各コンポーネントの研究が行われていたことが分かります。






【平成13年度事業評価書より引用。リンク消失】




さて、TK-Xの開発が決定された際、砲威力の向上が謳われていたことから、巷では搭載砲について様々な噂が飛び交っておりました。長砲身120mm滑腔砲、135mm滑腔砲、140mm滑腔砲,etc...と様々な説がありましたが、実際に公開されてみるとTK-Xは90式と同じ120mm44口径砲でした。このことをして、「主砲も従来のまま」と早とちりしている人(リンク:週刊オブイェクト「作家・吉岡平の痛いTK-X批判への反論」)もおられましたが、前述の通り事業評価書には従来以上の威力と明記されています。では、同じ口径でどのように性能向上を図ったのでしょうか。

技術研究本部では平成8年度より将来火砲の研究試作を行っており、この火砲がTK-X搭載火砲の原型となっているのは確実と思われます(念のために書いておきますが、将来火砲≠国産新型砲であることに注意して下さい)。その将来火砲は開発の前提として、新型国産砲弾とのマッチングが想定されたものになっております。週刊オブイェクトの「ダイキン工業試製135mm徹甲弾(初速2000m/sオーバー)」でも触れられていますが、弾速の向上手段として発射装薬の高エネルギー化があります。しかし、単純に発射装薬を高エネルギー化しても、砲身や薬室、砲尾等の強度が強化された分のエネルギーに伴わないのであれば意味はありません。将来火砲は新型国産砲弾である将来型徹甲弾・成形炸薬弾の諸元がまだ決まっていない状態でしたが、これら新型国産砲弾に対応出来るよう従来の弾薬データから予測の上、設計されています。

では発射装薬の高エネルギー化に対応する為、将来火砲はどのような手段を用いているのでしょうか。まず、砲身については亀裂成長の遅い素材を選定した上、肉厚・メッキ厚の異なる標準(90式と同等)・軽量・超軽量の3種の砲身を試作し、それぞれを射撃試験に供することでデータの取得を行い、この結果から砲身の肉厚とメッキ厚の最適解を割り出しております。砲身に施すメッキは発砲に伴なう高熱から砲身母材を保護する役割を持ちます。この試験結果、90式のメッキ厚(0.12mm)より厚い0.17mmのメッキを施すことで、母材保護とメッキ剥離の防止の両立ができるという結果が導き出されました。



【供試体断面写真】


また、砲尾についても従来とは異なる方法で圧力に耐えつつ軽量化を達成する手法が試みられています。下に従来の90式と将来火砲の砲尾図を比較してみました。従来の90式では、砲尾とそれに栓をする尾栓はシングルラグ方式が取られ発砲時の圧力を1段のラグで支えていましたが、将来火砲ではマルチラグ方式が取られ発砲時の圧力が分散されるようになりました。


【砲尾比較図:防衛省資料より引用・一部筆者加筆】

このようなマルチラグ化に伴ない、砲尾環もスリム化し軽量化に貢献しています。砲尾はこのように発砲時の強い衝撃に耐えつつ、軽量化を達成する目処が立ちました。



■TK-Xの火砲とは異なる点


では、ここで試作された砲の概要図を見てみましょう。



【将来火砲試作砲:防衛省資料より引用・一部筆者加筆】


TK-Xの砲と上図の外見上の違いに気付かれた方もいらっしゃると思いますが、この将来火砲で搭載されている砲口制退器(マズルブレーキ)と排煙器(エバキュエーター)がTK-Xの砲にはありません。実は後座抗力を低減する為にマズルブレーキも試作の中に入っておりましたが、マズルブレーキが無くても後座抗力が許容範囲内に収まったため、TK-Xには付いておりません。マズルブレーキは後座抗力の低減する効果がありますが、精度の低下や重量の増大を招くため最近の戦車ではあまり見られませんが、TK-Xもここは従来通りにしたようです。

また、エバキュエーターもTK-Xには付いてはいないため、フランスのルクレルク等と同じ様な強制排煙方式を取っているものと思われます。エバキュエーターを廃したことで、発射ガスの損失も防げるので、これは砲の威力向上にも役立つものと思われます。
※訂正。エバキュエーターはスリムですが、10式戦車には付いていることが判明しました。



■戦車の完全国内開発達成へ


ここで90式のRh120とどう変わったのか、基本性能について90式との比較を表に致しました。



最大腔圧を上げながらシステムとして軽量化に成功するなどの進歩が見られます。将来火砲が試作された平成8年頃からの技術の進歩を考えると、TK-Xの新型砲に新型国産砲弾を組み合わせることによって、どのくらいの火力を生み出すのか非常に興味深いです。また、将来火砲は相互運用性を重視し、従来の90式で使われていたJM33等の砲弾も使えるように設計されており、TK-Xにもそれは受け継がれているとのことです。(逆にTK-X用の砲弾を90式で撃つのはできません)

61式以来、日本は主力戦車の国内開発を行っておりましたが、主要コンポーネントの中で砲だけは海外性・若しくはその派生でありました。TK-Xは61式から半世紀を経て、ついに砲を含む主要コンポーネントの国内開発に成功した記念すべき戦車であると言えます。あとは無事、この戦車が順調に配備されれば嬉しいのですが……