2008年4月12日土曜日

検証 TK-X(その2 機動力)



機動力


 事前評価書では「所望の時期場所に迅速に進出できる戦場機動力」を求めています。「機動力」と言うと、速度や不整地踏破能力に目を向けられがちですが、エンジン等の足回りは戦車全体の性能に大きく影響するものです。そして、TK-Xの開発において、最も重要視されたのは足回りではないかと考えられます。その理由については後ほど。


 ここではまず、機動力を生み出すエンジン、変速操向機、懸架装置について検証してみます。





エンジン


 現時点で、エンジンの形式は水冷4サイクル8気筒ディーゼル(1200ps/2300rmp)ということが判明しています。


以下に試作車両に搭載されたパワーパック部の図を示します。


 


f:id:dragoner:20080524035902j:image


 上図のエンジングリルから推測しますと、エンジン本体や変速操行装置、冷却系が現用の90式戦車と比べてコンパクトになっています(残念ながらこちらに載せられる90式戦車のエンジン図がありませんので、ガリレオ出版の月刊グランドパワー2006年4月号の一戸崇雄氏の記事に90式戦車のパワーパックの図が掲載されていますので、そちらをご覧ください。アングルが違うので明確な比較は難しいですが)。90式が10気筒でしたから、8気筒のTK-Xのエンジンが小さくなるのは当然かもしれませんが、エンジン出力の低減に対してエンジン容積は比例的に低減はしませんので、馬力の比較からTK-Xのエンジンが90式の五分の四になったとは必ずしも言えないことに注意が必要です。


 この小型化のおかげか、産経新聞サイト内の写真を見ますと、90式よりもエンジンパネルの排気口が中央に寄っており、エンジン回りの防護力の強化にも寄与していると思われます。また、車体左後方には別の排気口があり、APU(補助動力装置)ではないかという意見もありますが、詳細は不明です。


 では、エンジン本体は90式とどこが違うのでしょうか? 現在分かっていることを比較してみます。


90式戦車


エンジン名称   10ZG32WG


形式   2サイクル水冷ディーゼル


出力(回転速度)   1500PS (2400rpm)


シリンダ配置   90°V型10気筒


排気量   21.5L


乾燥重量   2300kgf


過給方式   排気ターボ+ルーツブロワ2段過給


燃料噴射方式   機械式ユニットインジェクタ


最大軸トルク   4410N・m (450kgf・m)


比出力(PS/t)   約30   





TK-X


エンジン名称   不明


形式   4サイクル水冷ディーゼル


出力(回転速度)   1200PS (2300rpm)


シリンダ配置   90°V型8気筒


排気量   不明


乾燥重量   不明  


過給方式   可変ノズル排気ターボ過給


燃料噴射方式   電気制御式ユニットインジェクタ


最大軸トルク   不明


比出力(PS/t)   約27


備考   セラミックコーティング(遮熱化)





 このように、エンジンがそれまでの2サイクルから4サイクルとなり、過給方式、燃料噴射方式も変更されています。


 伝統的に自衛隊の装甲車両には2サイクルのディーゼル機関が多く採用されており、74式、90式も2サイクル機関です。2サイクルから4サイクルへの変更は大きな違いと言えます。世界的にも2サイクルディーゼルの装甲車両への適用は珍しいことで、自衛隊装甲車両の特徴とも言われていました。自衛隊戦車が2サイクルを採用していた理由ついて、防衛庁技術研究本部第4研究所で原動機開発に携わっていた石井豊喜氏は「軽量、小型、高出力のため」と語っています。軽量、小型、高出力は戦車用エンジンとしては理想ですが、2サイクル機関は熱負荷が大きい上、掃気に伴う駆動力の損失が大きいために燃費が悪いという欠点があります。自衛隊は90式まで燃費の悪さと引き換えに、戦車単体の戦闘能力の向上を指向していたと思われます。


 では、TK-Xは何故4サイクル化したのでしょうか。その答えは次に述べる変速操向機にあると考えられます。





変速操向機


 何故、TK-Xは4サイクル機関を採用したかの一つの答えは、TK-Xの変速操向機にあると考えられます。


 90式では変速操向機に、動力再生型静油圧式操向装置とトルクコンバータ付の遊星歯車式の変速装置を併せたMT1500を採用しています。世界の第三世代戦車でも同様の方式が使われていて、これは円滑な操作性と戦車を装輪車両のような操舵感覚で操舵できる優れた方式です。


 しかし、TK-Xは試作・技術試験中間時点の外部委員会による評価では、無段階自動変速操向機が採用されているとされます。無段階自動変速操向機の特徴としては、エンジン回転数に関係なく出力軸の回転数を無段階かつ任意に設定できることです。同じエンジン出力であっても従来より効率的に動力が伝達でき、エンジン出力が低くても効率的に能力を発揮できる訳です。これにより、TK-Xは90式戦車の比出力30より劣る27でありながら、同等の最大速度である時速70kmを達成できたと思われます。このことは技術研究本部のサイトにおいても、「機動性能も強化され、動力装置としては小型・軽量ながら車両質量当りのスプロケット出力を現有戦車に対して格段に向上し、軽快機敏な機動力を有しています。」と示唆する説明が掲載されています。そしてなにより、エンジンの軽量、小型、高出力化に拘らなくても、変速操向装置により90式並の機動力が達成できるとの判断から、燃費上有利な4サイクル機関に変更されたと言えるでしょう。





懸架装置


 TK-Xにアクティブ懸架装置が採用されることは、開発段階から噂されていましたが、アクティブ懸架装置とは何でしょうか?


 戦闘装軌車両は運動性の獲得、射撃安定性の向上、振動の低減のために高性能の懸架装置を必要とします。従来の懸架装置は金属ばねや油気圧ばねを利用したサスペンションが主流であり、これらは減衰力の制御を行わないパッシブ懸架装置でした(2008/04/24追記:これは間違いというご指摘を頂きました。詳しくはコメント欄をご参照ください)。アクティブ懸架装置は油圧により車体動揺を強制的に制御する懸架装置であり、各国で研究が進められています。アメリカでのM56自走砲を利用した実験では、従来の懸架装置と比較して、連続障害路走行での車体動揺が45%低減するなどの効果が認められています。日本でも装軌実験車(MRV)による実験が以前から行われており、その実験結果がTK-Xにも反映されたと思われます。


 アクティブ懸架装置は機動性の向上に寄与するだけでなく、戦車の射撃にも大きな影響を与えます。車体動揺の低減により射撃安定性が向上する他、射撃時の動揺を強制的に制御することで、従来では安定した射撃を望めない高威力の砲も射撃可能となります。三菱重工で戦車の開発に携われた林磐男氏によれば、


  F=1.5W (F:砲の後座衝力、W:車両の重量)


という式が、その砲が車両に積めるかどうかの基準線になるとしています。90式のRh120の後座衝力は60tですから、戦車重量が40tあれば射撃可能ということになります。しかし、公開されたTK-Xの映像では付加装甲を外した状態での射撃が確認でき、TK-Xの砲威力が向上していることからも後座衝力は当然強まっているものと見られます。つまり、44t以下の重量でRh120以上の後座衝力を受け止める必要が生じます。TK-Xの砲の後座衝力は不明ですので基準は出せませんが、90式と比べて条件が厳しくなるのは間違いないでしょう。この問題に対し、アクティブ懸架装置が大きな役割を果たしていると考えられます。


 ニコニコ動画にパッシブ懸架装置である74式、90式、アクティブ懸架装置のTK-Xの射撃時の動揺を収めた動画をアップしましたのでご覧ください。



D


 これを見ると、90式より軽量で後座衝力が強いと思われるTK-Xの動揺が極めて短時間で収束している様子が伺えます。重量で抑えることのできない悪性の動揺を懸架装置が強制的に抑えることにより、TK-Xにも反動が強い砲が搭載できたと考えられます。





その他のこと


 今回はTK-Xの機動力について検証を行いましたが、これを書くにあたり防衛技術ジャーナル編集部編「陸上防衛技術のすべて」を大変参考にさせて頂きました。この本は防衛技術ジャーナルに連載されていた基礎技術講座を再編収録したものですが、連載版からいくらか削られた部分が存在します。その中に、今回の冒頭で「最も重要視されたのは足回りではないか」と述べた理由があります。該当部を執筆したのは、当時の技術研究本部第4研究所(現・技術研究本部陸上装備研究所)の研究官2名で、内一人は現在も技術研究本部に在籍しておられます。技術研究本部がどんな戦車を理想としているのかが伺える一節でしたので、最後に引用させて頂きます。





 『セミアクティブ懸架装置やアクティブ懸架装置の導入により不整地走行時における車体動揺の低減が可能となり、飛躍的な機動性能の向上が図ることができ、安定した射撃架台により射撃性能の向上に寄与できる。さらに、将来の戦闘装軌車両の懸架装置としては、正に「揺れない戦車」を造り出す予見(プレビュー)型アクティブ懸架装置の出現に期待したい。


 この「揺れない戦車」こそが、その戦闘能力を飛躍的に向上させる最大のソースであろうとわれわれは確信するから……。


(防衛技術ジャーナル 1998年8月号より。強調部は私による編集です)


その3へ続く。