トリマラン船体の研究
艦艇装備研究所が研究している高速多胴船で、将来三胴船(トリマラン)船体の水槽試験モデルです。
船体が細長い方が艦艇の高速化に有利ですが、単胴船では甲板面積とトレードオフの関係になっています。しかし、主船体とその両脇の副船体を上部で結合した三胴船では、主船体を細長くする事による高速性と、広い甲板面積の確保を両立出来ます。
「高速多胴船の最適化」として日米で共同研究となり、軽量化のためのアルミ船体の設計技術の確立、波から受ける荷重の影響確認が行われました。本研究は2018年まで続けられますが、現時点での日本側成果として、以下のコンセプトモデルが作られています。
コンセプトモデル |
このコンセプトモデルは哨戒・掃海活動に重きを置いたもので、水線長80メートル、基準排水量1160トンという小さな船体でありながら、全長150メートル、基準排水量5050トンのあきづき型護衛艦と同じ規模のヘリ甲板を備えています。以下は発表にあった概略です。
三胴船コンセプトモデル
- 水線長:80メートル
- 基準排水量:1160トン(満載1400トン)
- 最高速力:35ノット
- ヘリ1機と無人機を格納可能
- あきづき型とほぼ同等のヘリ甲板面積
- 武装:76ミリ砲1基、CIWS1基
- ヘリ格納庫下にテニスコート3面分の無人機格納庫(UUV12機+2機のSSV、または36機のUUV、またはコンテナ)
35ノットの高速性を備えながら、テニスコート3面分の広い格納庫もあるなど、無人機母艦としての能力も備えています。
話を聞くと、沿岸域での活動を主として想定しているとのことで、米海軍のLCS計画の影響を感じさせますが、戦闘艦ではなく、無人機運用能力を備えた哨戒・掃海艦という性格がより現代風のコンセプトになっていると思います。
水中音響通信ネットワーク
続いては、潜水艦や無人潜水機(UUV)に関連する水中通信技術です。
水中での通信は音響信号を用いて通信していますが、一部は未だにアナログで、通信速度や伝達距離に制限が多いものです。この音響通信をデジタル化するとともに、現在の携帯電話、WiFiで使われている変調方式や誤り補正を応用。そして、無線LANのように、通信ノードを海中に複数設置することで、広範囲かつ通信速度に優れた水中音響通信ネットワークを構築するという研究です。
この研究では、ソナーデータの送受信に必要な通信速度10kbpsを、通信距離3kmで達成する効果を目指しているそうです(3kmの伝送はまだ実験していない)。従来の水中通信には大きな制限がありましたが、このネットワークが実現したなら、より高度な情報共有が水中航走体間、あるいは水中航走体と水上・航空部隊との間でも可能となります。
しかし、この研究では鍵となる通信ノードのバッテリー寿命は数日の使い捨て方式になるとのことで、ネットワークは一時的なものに留まります。通信ノードも哨戒機からソノブイみたいに投下出来ればいいかなと思っていましたが、この通信ノードは2メートル四方ほどの大きさで船からの設置を想定しているということでした。先のトリマランのような搭載力と高速性に優れた船とセットで、迅速に設置する運用が良いのかもしれません。
陸上車両の簡易消磁
海上に何故か陸上車両が入っていますが、これは実は艦艇装備研究所による研究です。なんでも、磁気に関する事は艦艇装備研究所の所管となっており、これは陸上車両にコイルを巻いて磁気を小さくするという技術です。
もっとも、この技術自体はかなり古くからあり、磁気感応型機雷が現れた第一次大戦後に、各国海軍で艦艇に消磁コイルを巻いて、磁気を消すことで機雷に引っかからないような研究され、実用化されています。
なんで艦艇の世界で7、80年前に実用化された技術を、今になって陸上車両でやるのかと尋ねたところ、導入される水陸両用車の関係で車両の消磁技術研究を始めたということでした。水陸両用車は上陸時に水際機雷(地雷)源に入る可能性があり、水際機雷は磁気感応式だからそうです。なるほど。
でも、水陸両用車って基本アルミ合金だから磁気は帯びませんよね?と続けたところ、エンジンの消磁は必要という話でした。その場合は、エンジンだけコイルを巻いても良いとのこと。掃海艇用に非磁性エンジンもありますが、大きくて出力も低いため、車両に搭載するのは無理だそうです。
磁気にもXYZの三方向の軸がありますが、この研究では最も大きく効果のある垂直方向(Z軸)の磁気低減を行うため、地面に水平にコイルを巻いています。艦艇では3軸全てにコイルを巻いたりもしますが、この研究の目的は簡易的な方法で効果を得ることだそうで、実際にそれだけで7割の磁気を消磁することが出来たそうです。
水陸両用車はひとまずアメリカ製のAAV7が導入され、その後に新開発の国産に切り替えると言われていますが、消磁についてもあらかじめコイルが車体やエンジンに巻きやすい構造であるなら良いという話でした。
つづく
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