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2014年11月11日火曜日

防衛技術シンポジウム2014開催。進む宇宙利用と産官学連携

自衛隊の装備品の研究開発を行う防衛省技術研究本部が、その研究成果を国民に広く公開発表する防衛技術シンポジウムが、今年も東京の市ヶ谷で開催されています。




哨戒機P-1や10式戦車といった大型の装備品開発が一巡し、今年の防衛シンポジウムでは将来の装備品開発に繋がる研究等に重点が置かれています。今年4月の武器輸出三原則の見直し後、最初の防衛技術シンポジウムという事もあるためか、政策としての技術開発の方向性といった面からの発表も行われており、大学や独立行政法人といった外部の研究機関との共同研究や、防衛・民生の双方で利用価値の高い技術(デュアルユース)の研究といった、研究そのものに対するあり方についての発表が目立ちます。

また、宇宙空間の安全保障分野での利用についても目が向けられていたのが今年の特徴でしょう。今年8月、防衛省で安全保障における宇宙空間利用戦略である「宇宙開発利用に関する基本方針」を改訂し、様々な施策を示しました。これを受けてか、防衛技術シンポジウムでも、宇宙空間の利用拡大と安全保障分野への活用について基調講演が組まれています。政府の宇宙政策委員会基本政策部会長の中須川東京大学教授は講演の中で、日本として安全保障に役立つ・主張できる確固たる技術を持つ事の必要性を述べるとともに、低コストで必要に応じて打ち上げる即応型小型衛星の開発構想について語りました。人工衛星の小型化・低コスト化・短納期化は、安全保障から商用利用まで効果のある有用な技術で、世界各国で開発が進んでいます。日本でも官民合同でASNARO計画として開発が進んでおり、安全保障分野にも即応型小型衛星として様々な利用が想定されます。

官民合同プロジェクトASNARO。(一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構サイトより)

また、防衛省技術研究本部の研究についての発表では、従来の陸海空と電子装備品についてのセッションの他に、無人機、防衛省外との連携についてのセッションが設けられている事も今年の特徴で、今後の防衛省の研究開発での注力点になると思われます。

無人水中航走体(UUV)の水中グライダー試作機

防衛技術シンポジウムは11月12日まで、市ヶ谷のグランドヒル市ヶ谷にて開催されています。誰でも入場可能ですので、興味のある方は足を運んでみてはどうでしょうか。


【関連】

森本敏 編・著「武器輸出三原則はどうして見直されたのか?」

外部との共同研究の1つの形態であるところの国際共同開発。とかく、企業の利益等の文脈で語られる事の多い武器輸出三原則見直しですが、米国以外の国との国際共同開発では避けて通れない道でもあったということを、防衛相も務めた森本敏氏が解説。森本さんはほとんど名前貸しですけどね……。




2013年9月18日水曜日

「イプシロン軍事転用」報道のロジックの過誤

イチャモンのロジック

2回の打ち上げ延期があった新型ロケット”イプシロン”ですが、9月14日に打ち上げに成功し、搭載されていた宇宙望遠鏡も予定の軌道に乗りました。いくつかの教訓を残しつつ、打ち上げミッションとしても成功という、結果的にかなり恵まれた初回打ち上げだったと思います。

イプシロンの打ち上げ(JAXAデジタルアーカイブスより)

イプシロンは従来のM-Vロケットより低コストであること、運用面での手間を大幅に削減した事が特徴とされています。M-Vと比べ、打ち上 げコストは半分(今後の目標は3分の1)、射場にロケットを設置してから発射までにかかる日数は42日から7日に短縮し、管制もパソコン数台で行うなど、 M-Vからコスト・運用面で飛躍的に改善がなされた事が分かります。
ところが、この運用面での進歩について、こんな報道が中国、韓国でされてます。


ロケットとミサイルは技術的にさほど差はない。一般的に、宇宙飛行 体に人工衛星を搭載すれば「ロケット」、弾頭を搭載すれば「ミサイル」と呼ぶ。韓国の「羅老号」のように、液体燃料を使用するロケットは燃料の注入に長時 間を要するのに対し、固体燃料ロケットは打ち上げの準備が容易で、燃料を長期間保管することもできるため、軍事用のミサイルに転用する上ではるかに有利 だ。日本は2006年9月にM5の最後の打ち上げを行って以来、約7年ぶりに固体燃料ロケットを再び打ち上げたことになる。
打ち上げ成功「イプシロン」はICBM転用可能」 | 朝鮮日報
固体燃料ロケット技術は大陸間弾道ミサイル(ICBM)に使用される技術と基本的に同じだ。このため固体ロケット打ち上げの経済性を高めたイプシロンの開発 は安保・軍事戦略的にも意味が大きいと分析されている。 朝日新聞は「搭載物さえ変えればイプシロンはミサイルに速やかに転用可能」とし「韓国など周辺国はイプシロン打ち上げの背景に日本の右傾化があると懸念し ている」と報じた。また「日本は1969年の国会決議などを根拠に宇宙開発を平和的な目的にのみ限定してきたが、08年に防衛に活用できる宇宙基本法を制定した」とし「今回の打ち上げはこの法に基づく最初の固体ロケット打ち上げ」と伝えた。
日本、固体燃料ロケット「イプシロン」打ち上げ成功…ICBM技術確保 | 中央日報
打ち上げが延期されていた日本の小型ロケット「イプシロン」が14日午後、打ち上げに成功した。中国メディア・華商網は15日、「大陸間弾道ミサイル技術につながる」とする専門家の意見を伝えた。
日本の「イプシロン」打ち上げ、ミサイル開発だ=中国メディア [サーチナ]

中韓の報道でよく見られるイプシロン軍事転用論の根拠としては、イプシロンが即応性の高い固体燃料ロケットであることがその核心にあるようですが、これはイチャモンに近い話です。そもそもの話、今現在も韓国に向けられている北朝鮮のミサイルの多くは液体燃料式で、例えばノドンは1時間で燃料注入可能で即応性が高いものです。その北朝鮮のミサイルの即応性を脅威として、韓国は射程300km又は500kmの玄武-2短距離弾道ミサイルを開発したのですから、燃料が液体か固体か、ということは関係無いと言えます。なお、玄武-2は固体燃料ミサイルです。

しかしながら、ロケットとミサイルに技術的共通点が大きいのは事実です。冷戦時代の米ソの宇宙開発競争は、同時に弾道ミサイル開発競争ともリンクしていました。ですが、中央日報が記事で引用している朝日新聞の「固体ロケットは、ICBMと共通の技術が使われ、積み荷を換えればミサイルに早変わりする」 という報道は暴論です。例えば、ブルドーザーと戦車は技術的共通点が多くあり、ブルドーザーメーカーが戦車を作っている事も多々ありますが、「ブルドーザーに大砲を積めば戦車になる」と言うのは暴論の極みでしょう。このように、「ミサイルと共通する技術がある」ことと、「その技術でミサイルが作れる」ことは、全く別の問題です。従来より短縮されたと言っても、射場に設置してから発射に7日もかかる”ミサイル”に軍事的実用性があると考えているのでしょうか。イプシロンを巡る中韓メディアのイチャモンは、この点を意識的・無意識的に混同しています。

ところが、こんな馬鹿げたロジックを誰であろう日本の政府・マスコミもこぞって使っています。近年、よくメディアで聞かれる「人工衛星と称する事実上の弾道ミサイル」という言葉です。



日本政府の崩壊したロジック

北朝鮮が2012年12月に打ち上げた飛翔体についても、日本は一貫して「人工衛星と称する事実上の弾道ミサイル」と呼んできました。つまり、「北朝鮮は人工衛星打ち上げロケットだと言っているけど、あれはミサイルだ」と主張していた訳です。あれ? どっかの国が日本のロケット打ち上げにつけるイチャモンに似ているぞ?

しかし、飛翔体が太陽同期軌道に衛星と見られる物体を投入したことが確認され、北朝鮮の主張通りに人工衛星打ち上げが事実と証明されると、北朝鮮を非難していた日本のロジックが崩れてしまいました。「人工衛星が衛星軌道に乗ったけど、あれは事実上の弾道ミサイル」になってしまうのは、ロジックの建て方としてはいかにもマズイと思います。

ここで念を入れて書いておきますが、私は北朝鮮を擁護している訳ではありません。北朝鮮は国連安保理決議で弾道ミサイル関連技術に繋がるロケットの打ち上げが禁止されており、ロケットに積んでるのが衛星であっても明白な安保理決議違反です。日本は打ち上げがロケットかミサイルかに関わらず、最初から「打ち上げたら国連安保理決議違反」と主張すればよかったのに、自ら破綻するロジックを選んでしまったのです。2012年12月の発射が人工衛星の打ち上げだと明らかになっても、未だに「人工衛星と称する事実上の弾道ミサイル」という言葉は使われていて、日本政府はこの言葉を変えるつもりはないようです。また人工衛星打ち上げられても使うんでしょうか、この言葉。



国家の信用が国際社会の反応を分ける

先ほども述べましたが、ロケットとミサイルに技術的共通点が多いのは事実です。しかし、同じロケット打ち上げであっても、日本の打ち上げは国際社会からは何も言われないのに対し、北朝鮮が打ち上げると大量破壊兵器 開発だ、国連決議違反だと国際社会から抗議を受けます。この違いは北朝鮮が核やミサイル等の大量破壊兵器開発について、過去に国際的取り決めを破り、違反 を繰り返していたため、北朝鮮に対する国際社会の信用が皆無な点から来ています。北朝鮮のロケット開発は、大量破壊兵器開発を意図したものであると国際社会から見做されており、その為にロケット発射も弾道ミサイル関連技術だとして安保理決議で禁止されているのです。

国際社会から信用を失っている北朝鮮に対し、幸いなことに日本は信用に恵まれ、ロケット開発にあたっても、直ちに大量破壊兵器開発に繋がらないと国際社会は認知しています。警官が持っている拳銃と全裸中年男性が持つ出刃包丁、どちらも凶器であることには変わりありませんが、どちらが危険であるかは明白でしょう。日本政府は北朝鮮の飛翔体発射を非難するにしろ、日本の宇宙開発の正当性を主張するにしろ、どちらも矛盾の無いロジックを用意し、それを世界に説明することで、信頼をより強固にする必要があるかと思います。既に一度ロジックが崩れたのは痛いですが、このまま「人工衛星と称する事実上の弾道ミサイル」を続けるのもよろしくないでしょう。

なお、イチャモンつけてきた当の韓国ですが、ロケット開発についての信用が特にアメリカからありません。韓国の宇宙開発の始まりである盧泰 愚政権時の人工衛星打ち上げ計画公表の際、アメリカは韓国へのミサイル部品の輸出を一時取り消しています。また、韓米ミサイル覚書と呼ばれる2国間協定により、韓国の弾道ミサイル開発は大きな制約を受けていますが、この協定を韓国は度々破っており、アメリカからその度に抗議を受けています。この他にも玄武-2の開発にあたり、ロシアから諜報活動で入手した技術情報を基にしたとされており、なかなか手癖がよろしくありません。

韓国も隣にイチャモンつける前に、まずは自分の手癖の悪さを治して信頼を得るのが良いと思います。