2014年5月28日水曜日

イギリス軍事博物館巡りの旅 コスフォード王室空軍博物館(試作機編)

前回は屋外展示機を中心に紹介しましたが、本日はテストフライト館内に展示されている試作機を紹介します。

試作機を展示しているテストフライト館は、ビジターセンター内を抜けて、左手にある建物です。

テストフライト館入り口

テストフライト館はウォープレーン館と並んで建っており、相互に行き来できる通路がありますので、実質同じ建物のように外に出れず見れます。

また、テストフライト館入り口には、「英国空軍の歴史」が展示されている小コーナーがあり、パネル展示とパイロットの銅像等があります。

パイロットの銅像

「英国空軍の歴史」を通過すると、広い格納庫に出ます。ここが試作機を展示しているテストフライト館です。まずは、パノラマで展示の全景を見てみましょう。


テストフライト館 入り口から


テストフライト館 中央付近から

広い格納庫には、主に戦後の試作機の実機・模型が展示されています。めぼしいものを紹介しましょう。


フェアリーデルタ WG777

テストフライト館に入って左側に展示されているのが、超音速実験機フェアリーデルタ2です。1956年に時速1,811kmの速度世界記録を打ち立てました。WG774とWG777の2機が製造され、写真はWG777で、WG774は英海軍航空隊博物館に展示されているそうです。WG774はコンコルドの研究のためにも使われたとか。

左回りに進むと続いて目につくのが、異様な機体、ミーティア F8 "Prone Pilot"です。


ミーティア F8 "Prone Pilot"

この異様な機体の原型は、第二次大戦中に英空軍が実戦配備したジェット戦闘機、グロスター ミーティアなのですが、Prone Pilotは機首部分から拡張し、前席の乗員がうつ伏せになるという設計です。なんでこんな機体が作られたかというと、ジェット時代に入り、パイロットにかかるGが増加するようになると、耐G性の研究の一環として行われたとか。でも、操縦しにくい……。


Prone Pilot前からアップ

前からアップで見ると、前席しか見えない為に変態度は大幅に減る。しかし……。


Prone Pirot 別角度

ちょっと見る角度を変えるだけで、異様さが際立つ。恐ろしい……。


続いて左手前奥にあるのが、サンダース・ローのSR.53です。戦後に作られた機体ですが、ジェット機ではなく、なんとロケット機です。ドイツのMe163や日本の秋水と同じ、数少ないロケット戦闘機です。


サンダース・ロー SR.53

SR.53は1950年代初頭の英空軍の迎撃機として計画されました。純粋なロケット戦闘機ではなく、燃費の良いジェットエンジンも備えた混合推進機ですが、酸素を取り込む必要の無いロケットエンジンのおかげで、高度2万メートルでも飛行可能という高い高空性能を持っています。

迎撃性能に優れた本機でしたが、本機をより発展・大型化させたSR.177を開発することになり、2機の試作に終わりました。そのSR.177も開発キャンセルされたことにより、ロケット戦闘機の命脈は絶たれたのでした。残念。


続いて、左奥中央に置かれている機体が、BAC TSR-2です。


BAC TSR-2

ジェット爆撃機キャンベラの後継として、1957年に開発がスタートした本機は、ヴィッカース社とイングリッシュ・エレクトリック社の合同案を元にしています。開発中の1960年にイギリスの航空産業が国策により、ブリティッシュ・エアクラフト・コーポレーション(BAC)に合併・統合されたため、BAC TSR-2の名前で知られています。なんか、今のジャパンディスプレイや、かつてのエルピーダ(現マイクロンメモリジャパン)と事情が被ります。


TSR-2 正面から

長距離飛行能力、全天候性能に加え、低空を超音速で侵攻して核攻撃を行うという過大な要求を与えられた本機の開発費は高騰し、1965年に労働党政権が誕生すると開発がキャンセルされます。

高速性を追求した機体は、同時期のF-104に似て、機体の全長の割に翼幅が極端に短い事が正面から見ると分かります。F-104の爆撃機版といった感じです。


機体内部のアビオニクス類

イギリス航空産業界が総力を挙げ、そして最後の徒花ともなった本機ですが、その特異なデザインと高性能(計画どおりなら)のおかげで、根強い人気があります。なぜか、アニメ「ストラトス・フォー
」で本機が主役機だったりした時は「ナンデ!?」と思ったものです。

まあ、好きな人が多い機体です。

ブリストル・シドレー オリンパス22R 320

TSR2用に開発されたオリンパス22R 320ジェットエンジンは、その後は超音速旅客機コンコルドのロールス・ロイス/スネクマ オリンパス 593ジェットエンジンの原型となりました。


TSR-2 エンジン部
TSR-2 機体下部

TSR-2 機体下部その2

第二次大戦が終わって10年ちょっとでこんな化け物を作った英国航空産業界でしたが、この後は米国航空業界に押され、英国単独でTSR-2に匹敵する航空機開発を行う事は無くなりました。


左奥に進むと、今度は国際共同開発の機体が登場します。

EAP(Experimental Aircraft Programme)

現在のユーロファイター・タイフーン戦闘機の原型となった、BAeのEAP(試作航空機プログラム)です。炭素複合材使用やフライ・バイ・ワイヤ採用等の新機軸を盛り込んだ機体で、欧州共同開発となるユーロファイターに貴重な実験データを提供しました。


SEPECAT Jaguar ACT デモンストレーター

英仏共同開発の攻撃機、SEPECAT ジャギュアの高機動試験機です。日本で言うと、T-2高等練習機のCCV研究機、T-2CCVに相当する機体です。操縦制御にフライ・バイ・ワイヤを採用し、ここで得られた成果が前述のEAP、ユーロファイターのフライ・バイ・ワイヤに生かされています。


国際共同開発が続きましたが、次は純血の英国機です。

ハンティング H.126

実証試験機のハンティング H.126です。ジェット・フラップ(ブラウン・フラップ)の実証試験として製造され、ジェット・フラップのおかげで時速51.5kmの低速でも飛行可能でした。違反切符も切られません。

H.126 前から

純粋な試験機の為、引き込み脚は無く、無骨な固定脚が目立ちます。ジェット機でありながら、一次大戦機のような風格も漂わせています。


続いては、知名度、実績共に高いあの機体です。

ホーカー・シドレー ケストレルF(GA)1

世界初の実用垂直離着陸戦闘機ハリアーの原型となった、ホーカー・シドレーのケストレルF(GA)1です。


ケストレル 正面から

ケストレルより前、ホーカー社では垂直離着陸実験機としてP.1127を試験しており、この改良型がケストレルと命名されています。推力偏向式のペガサスエンジンにより、垂直離着陸を可能にした本機はハリアーとして実用化に至り、イギリスのみならず、アメリカ海兵隊やスペイン、インド軍でも使用される成功機となりました。現在もなお、発展型がアメリカで使われており、F-35B配備まで唯一の実用垂直離着陸戦闘攻撃機として運用されます。


ブリストル 188

ステンレスボディが眩しい、ブリストル 188です。元はマッハ3級の偵察機アブロ730の為の研究機で、高速度における空力加熱を調査する為に製作されました。その為、多少重くても耐熱性のあるステンレス鋼が多用されています。


ブリストル 188 別角度から

同時期の高速偵察機であるSR-71ブラックバードが真っ黒なのに対し、ステンレス製の本機はピカピカで対称的です。


ブリストル 188 前方から

アブロ730の研究機として製造された本機ですが、肝心のアブロ730はキャンセルされる事になります。


ハンティング ジェット・プロヴォスト T.3

ハンティングが開発したジェット練習機、ジェット・プロヴォスト T.3です。変な位置に階段があって写真があれですが、中を覗きこむことができます。


イングリッシュ・エレクトリック P1A

マイナー中のドマイナーな機体です。イングリッシュ・エレクトリックの技術実証機P1Aです。この異様な空気取り込み口の形状が不安を誘います。

後のライトニングの原型となる機体で、縦列配置の双発エンジンという特徴もこの頃からあります。


イングリッシュ・エレクトリック P1A
ところで、こいつ何かに似ているかとおもったら、こいつだ

    
                 へ'´                     \  ..へ
                く;:::::::ヽ.  _,.:-r‐-/⌒``γ‐v- 、      ,'::::::::;
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ショート SB5 WG768

そして、テストフライト館最後の機体がこいつ、ショート SB5 WG768です。これも前述のP1Aと同じくライトニングに至る過程で作られた実証機です。

P1Aと異なり単発機で、説明に書いてあるデータでは最高時速500kmとしょんぼり。もっと出るらしいけど、この博物館のデータは全体的に抑えめの数字で紹介されている事が多いです。ナンデ?

これら実機の他、計画倒れに終わった計画機の模型もテストフライト館には展示されています。


スーパーマリン Type559

スーパーマリン Type559。ヴィッカース Type559の方が通りが良いと思うけど、こちらの方が説明板に書かれていました。
1950年代後半の運用要求329に基づいて提案された迎撃機です。このミサイル配置がたまりません。

ヴィッカース Type010

高度15,250メートルを最高速度マッハ2.5で飛行する、ヴィッカース Type010です。
超音速、亜音速双方での飛行に対応した可変翼機で、その流麗なデザインは現代でも通用しそうです。これ、エンジンが翼端付近に付いているから、当然可変翼が作動したら、エンジンの向きも変わるんだろうなあ……(この機体よく知りません)。

他にもコンセプトモデルはいろいろと置いてありましたが、とりあえず目ぼしいものはここまで。

次はウォープレーン館を紹介します。

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