2009年4月26日日曜日

海賊を「退治」したいらしい社民党



 最近、民間船舶の護衛の為に海賊被害が頻発するソマリア沖・アデン湾派遣されている海上自衛隊のニュースをよく目にします。船舶護衛の開始からわずか1ヶ月で3度の不審船対処を行い、いずれも護衛対象船・護衛艦共に被害はなく、今のところは順調な模様です。もっとも、3度の救援要請は皆護衛対象外の船舶でしたが……


 この様にわずかな期間で目に見えて効果が出た自衛隊の海外派遣も珍しいですが、未だに派遣に異議を唱える人たちは多いです。しかしながら、彼らの言うことにも一理あります。憲法9条の問題、海上警備行動の適用の範囲等、法律が抱える問題は確実に存在しています。


 このような法的問題の解消の為に国連海洋法条約に沿った海賊対処法制である「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案」(概要)の審議が進められ、4月23日に衆議院で可決しました(議案審議経過情報)。仮に野党優勢の参議院で否決されたとしても、衆議院で再可決できますので、この法律の成立は確実と思われます。この衆議院可決を受け、野党が声明を出しました。目を通して見ると、相変わらず社民党が酷い。衆院採決「海賊対処法案の衆議院通過に反対する」との談話の中でこんなことを書いています。






 2. 海賊の定義が十分ではなく、海賊行為の構成要件があいまいである。海賊行為の構成要件を定めるにもかかわらず、行為に着目した定義しかない。海賊ではない者が、法案が規定する「海賊行為」を行なった場合はどうなるのか、不明である。


   ―「海賊対処法案の衆議院通過に反対する(談話)」 社会民主党幹事長 重野安正―






 ……いや、「海賊行為」を行った者が「海賊」だと解釈するのが普通なんですが。「一般市民」が「殺人行為」を行えば「殺人犯」となるのとは当然のことですが、社民党は一般市民と殺人犯の区別も付かないのでしょうか? 世界的な海賊の定義とその問題につきましては、当ブログの「海賊の定義」でも取りあげましたのでそこをご覧頂きたいのですが、今回の「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案」(概要)での海賊の定義はどうでしょうか。






2 海賊行為の定義


「海賊行為」・・・・船舶(軍艦等を除く)に乗り組み又は乗船した者が、私的目的で、公海(排他的経済水域を含む)又は我が国領海等において行う次の行為。


(1)船舶強取・運航支配


(2)船舶内の財物強取等


(3)船舶内にある者の略取


(4)人質強要


(5)(1)~(4)の目的での①船舶侵入・損壊、②他の船舶への著しい接近等、③凶器準備航行


   ―「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案」(概要)―






 以上を見る限り、海賊の定義は国連海洋法に準じた内容です。むしろ、我が国の領海における強盗・暴力行為を海賊行為と定義したことで、公海のみに限定していた国連海洋法の定義よりも海賊と海上犯罪の違いの曖昧さを排除したものと言えます。社民党はどの辺が不満なのか、いまいち判りません。


 もっとも、社民党の談話の問題はこれ以外にもあります。むしろ、これから述べるものの方が深刻かもしれません。先ほどの談話の締めを見てみましょう。






 海上警備行動で出した護衛艦はいったん日本に帰したうえで、海上保安庁を軸に再検討して、日本が行なうべき海賊対処の方針を抜本的に仕切り直すべきである。本法案は廃案とすべきであり、社民党は参議院において法案の問題点を解明していく。


   ―「海賊対処法案の衆議院通過に反対する(談話)」 社会民主党幹事長 重野安正―






 はい出ました。海上保安庁対処論です。


 海上自衛隊に代わり、海上保安庁にソマリア海賊対策を行わせる意見が、自衛隊派遣に反対する立場から多く唱えられています。この海上保安庁対処論とその問題に関しては、「蒼き清浄なる海のために」さんの「海保は海賊対策のためだけの巡視船を作らない。」に詳しく書かれていますので、ここでは省きます。ぜひ、「蒼き清浄なる海のために」さんをご一読下さい。


 さて、社民党は海上保安庁でのソマリア海賊対処の軸を海上保安庁に置きたがっているようです。しかし、これは果たして真意なのでしょうか。


 ここで思い出されるのは、2001年の12月に発生した九州南西海域工作船事件です。海上保安庁の巡視船による追跡と射撃を受けた北朝鮮の工作船が沈没した事件です。この事件の直後、社民党は以下のような声明を出しています。






3. 小泉首相は24日の閣僚懇談会で、海上保安庁や海上自衛隊による領海外での武器使用基準の緩和、大規模な船体射撃(危害射撃)に向けた法整備の検討を指示した。今回の事件で、中国政府が、同国の排他的経済水域内で行われた船体射撃に対して強い懸念を表明していることにも明らかなように、公海上での武器使用がわが国の警察権の範囲内にとどまるものなのかは極めて疑問であり、拙速な新法制定は慎むべきである。


   ―「不審船沈没事故での閉会中審査を求める」 社会民主党国会対策委員長 中西績介―






 この事件に対処したのは海上保安庁でしたが、「公海上での武器使用がわが国の警察権の範囲内にとどまるものなのかは極めて疑問」と述べている以上、公海上での海上保安庁の実力行使に対し否定的な見解であることが窺われます。この見解が現在に至るまで変更されたという話は聞きませんが、社民党は変更したのでしょうか。変更していないのだとしたら、以前の見解と矛盾すると思うのですがどうでしょうか。


 しかしながら、こう考えられるかもしれません。「海賊対処法案の衆議院通過に反対する(談話)」における「海上保安庁を軸に再検討」とは、海上保安庁を派遣せず、間接的な支援活動に留めるというものを社民党が想定しているのかもしれません。


 ところが、社民党作成のビラ『「海賊退治」は海上保安庁で(改訂版)』を見てみると……






Q1 海賊はロケット弾などの武器を持っていると聞きます。海上保安庁で大丈夫なの?


A 海賊犯罪を防止したり海賊を逮捕する警察活動と、軍隊の仕事である戦争とは違います。自衛隊には海賊取り締まりの権限や経験がなく、訓練もしていません。重火器が脅威であること、武器使用の範囲が正当防衛・緊急避難に限られることは、自衛隊も海上保安庁も同じです。安全に配慮しながら任務を行なう権限と能力を海上保安庁は持っています。


   ―『「海賊退治」は海上保安庁で(改訂版)』 社会民主党―






 重武装の海賊に対し、海上保安庁でも対処可能としています。つまり、海上保安庁による直接の海賊対処と制圧行為=射撃を社民党は容認しているということです。これは、現在自衛隊が行っている護衛活動よりもさらに過激であり、死傷者も辞さないと捉えられるのですが、それも社民党は容認しているようです。九州南西海域工作船事件の時に自分たちが言ったことは忘れたようです。


 さらに言えば、政府や防衛省は今回の派遣について「対処」という言葉を使っており、音響や光による威嚇で追い払う現状はまさにそれに当てはまります。しかし、社民党が言う「退治」という言葉は『(悪いもの・害をなすものを)平らげること。うちほろぼすこと。』(三省堂 大辞林より)という意味で、現在の政府・自衛隊よりも過激な行動を指します。それを海上保安庁を派遣して行うと。正気の沙汰ではありません。





 とまあ、「退治」への私の突っ込みは揶揄に近いものですけど、実際は社民党が海賊対処の根本を理解していないことの証左と言えるでしょう。しかしながら、社民党が海上保安庁による戦闘行為を容認しているとしかビラからは読みとれません。このビラ、他にも突っ込みどころあるけどこのへんで。





 





 そのうち社民党の誰かさんが、「これが海賊退治ですね! ……楽しいかも知れない」と言わないかしらん。





2009年4月13日月曜日

ゆっくりで学ぶ、自衛隊装備 「衛星単一通信携帯局装置」



 色んな意味でごめんなさい(挨拶)



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 北朝鮮によるミサイル発射騒動に伴い、各地の自衛隊イベントが中止・縮小されてしまいましたが、第12旅団の相馬原駐屯地創立記念行事は無事開催されました。この動画は、その際に撮ったものを素材として解説しております。


 このブログの目指す方向として、軍事知識ゼロの中学生でも分かるように解説していこうと思っておりました。その為、動画を多用することで分かりやすさを演出しよう努めて参りましたが、今回は更に調子に乗って突き詰めて、こんな動画にしてみました。でも、声を付けて解説できるのは素直に嬉しかったり。


 動画はかなり大ざっぱな説明ですので、いずれこちらに本文として掲載をしようと考えています。


 相馬原駐屯地創立記念行事関連の動画や写真はまたいずれ。





2009年4月4日土曜日

2008年度 土浦駐屯地開設記念行事 観閲行進



 映像はいつもニコニコにアップしている私ですが、HDに対応したからYoutubeでも貼ってみんべと試験的にアップ。もう半年近く前の映像な上、地味ですが(でもやっている人は大変)。


2008年度 土浦駐屯地開設記念行事観閲行進



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 HD画質にすると、最初の数秒がYoutube側のエンコエラーで緑になりますがその他は大丈夫です。普段、ニコニコにアップしているけど、Youtubeのレスポンス遅すぎ&エンコミス多発にイライラ……。ニコニコはサービス品質的には結構良いんじゃないかと思いました。





 アデン湾で護衛艦が不審船追っ払ったり、北朝鮮のミサイルが発射されなかったりと軍事ネタに溢れる日でしたが、このブログはいつだってマイペース。ゆっくりしすぎた結果がこれだよ!





2009年3月30日月曜日

ブログ開設1周年&十万アクセス御礼



 早いもので昨年の3月26日にブログを正式開設してから1年経ち、十万アクセスという予想だにしなかった反響を頂きました。これもご覧になっている方々やコメントを頂戴した方々の賜と、心より御礼申し上げます。


 これからも本ブログを宜しくお願い申し上げます。





常識(らしきもの)に囚われていてはいけない



 このところ、自動車メーカー各社が新型のハイブリッド車を相次いで発表していますね。ほんの数か月前まで続いていた異常な燃料高騰により、燃費効率に優れたハイブリッド車両への注目が集まっていることは皆様もご存じのことと思います。


 こういった流れを受けてか、このような2009年1月9日、読売新聞に以下のような記事が掲載されました。



 自衛隊が、艦船、戦闘機や、基地施設での省エネルギーの取り組みを本格化させる。


 戦闘車両のハイブリッド化、代替燃料の開発、部隊車両の電気自動車化の検討にも着手する。温室効果ガス削減に貢献する姿勢を示すとともに、原油価格の変動で部隊訓練などが影響を受けないようにする狙いがある。


 ―読売新聞2009年1月9日(現在、リンク先記事は消滅)―



 この記事を受け、週刊オブイェクトのJSF氏も「自衛隊、ハイブリッド車両の導入検討へ」という記事を出しました。ここで注目すべきは、読売新聞もJSF氏も「戦闘車両のハイブリッド化=省エネ化」という前提で話をしていることです。


 しかしながら、「戦闘車両のハイブリッド化=省エネ化」という図式は果たして成立するのでしょうか。私は「自衛隊、ハイブリッド車両の導入検討へ」のコメント欄にも書きましたが、その図式は必ずしも成立するものではないと考えております。


 本日は戦闘車両のハイブリッド化は、何のためにあるのかについて考えてみたいと思います。





最初期のハイブリッド戦闘車両


 そもそも、戦闘車両のハイブリッド化という考え自体は特に新しいものではありません。以前、「ガラパゴス化しているのは彼なのか?」にも書きましたが、既に第二次大戦中のドイツにてティーガー(P)、エレファント駆逐戦車として実用例があります。しかしながら、この場合のハイブリッド化の目的は低燃費化の為ではありませんでした。ティーガー(P)の開発を担当したポルシェ博士は、摩耗部品である機械式変速機をティーガーの様な重戦車に採用することに疑問視していたからです。その結果、モーターによる駆動を採用したのです。


 ポルシェ博士のトンデモ兵器として語られることのあるティーガー(P)ですが、この様な考え自体は必ずしも奇特なものではありません。当時、鉄道車両ではこの方式を採用したものが既にありました。もっとも、信頼性向上を狙ったティーガー(P)ですが、結果的にはまだ戦闘車両への適用が未成熟だった技術の不具合により、通常の機械式変速機を採用したヘンシェル社案のティーガーよりも信頼性が低いものとなってしまいましたが……。





ハイブリッドの各方式


 ここで注意して頂きたいのは、戦闘車両のハイブリッドはシリーズ方式であり、プリウス等の民間乗用車に見られるパラレル方式とは違ったものであるということです。


 簡単に両者の違いを述べると、シリーズ方式は内燃機関が生んだエネルギーを電気に変換してモーターで駆動するのに対し、パラレル方式は内燃機関が生んだエネルギーをモーターと従来の変速機を介した機械的な駆動を併用していることです。シリーズ方式が変速機等の摩耗部を減らせるのに対し、パラレル方式は変速機を積まなければならず、複雑な構造となります。以下に簡単な比較図を掲載します。


f:id:dragoner:20090329140932j:image


 駆動系を二つ積むことにより構造が複雑となるパラレル方式と比べ、シリーズ方式は車軸が必要無いため、各コンポーネントの配置の自由度が増します。各コンポーネントが機械的独立していることで、大出力化も容易ですが、駆動力を全て電気で賄う為に発電機や蓄電池等は大容量のものが必要となります。





戦闘車両のハイブリッド化の利点


 各コンポーネントの配置に自由度の増大は、設計の自由度が増すことを意味します。極限の環境での稼働を前提とするため、制約の多い戦闘車両の設計にとっては非常に魅力的な点であり、今後増大が予想される戦闘車両の電力消費量も考慮すると、エネルギーが電力に一元化して管理されることは有意なことです。また、運用の面でも一時的に発電機を切り、蓄電池のみで駆動することによる騒音の低減は、戦闘車両の被発見性を低減します。


 このように良いことずくめに見える戦闘車両のハイブリッド化ですが、実用化にあたっての課題はいくつかあります。以下にそれを挙げてみましょう。




  • システムの高効率化(低燃費化)

  • モーター、電力変換装置、冷却装置等の小型・軽量化

  • 高性能蓄電装置の開発


 これらの課題から導き出されるのは、システム総体として見た場合、電気駆動に重要なコンポーネントのより一層の効率化が必要だという点です。つまり、現状では非効率なものであり、とても低燃費=省エネと呼べるものになっていないと言えます。


 各国でも電気駆動システムの研究は長らく行われていますが、未だ実用の域に達した戦闘車両は存在しません。自衛隊も例外ではなく、技術研究本部では平成3年から研究を行い、更には平成9年から10年にかけて電気駆動システムの研究試作を行っていますが、10年以上経た現在でも研究の域を出ていません。最近の研究では平成17年に電力容量に優れるバッテリーに加え、出力密度・急速充放電性能に優れたキャパシタを併用した基礎実験を行うなど、やはり高効率化を目指した研究が続けられています。やはり、現状では非効率なものにならざるを得ないのかもしれません。





何故「省エネ」ばかり注目されるのか。


 このように戦闘車両用ハイブリッドは、現状では様々な課題があることを述べてきました。しかしながら、魅力的な技術であることは確かで、何十年にも渡って各国で研究されてはいます。が、ここ数年で急速に注目されるようになってきました。その理由としては、やはりプリウス等の民生車両における省エネイメージが強いせいではないでしょうか。


 2008年度の技術研究本部発表会にて、シリーズ方式ハイブリッドの戦闘車両についての展示がありました。私もプリウスのイメージが強いので「これはプリウスの様なものですか?」と質問したところ、解説されていた方から「いいえ。私どもの研究しているハイブリッドとは、プリウスのものとは違います」とはっきりと否定されました。プリウスと同次元で考えてはいけないようです。


 自衛隊関連の公式のソースで戦闘車両ハイブリッドの利点として「省エネ化」を挙げたものはいくつかあります。ただ、それはどちらかというと、一般に言われる「ハイブリッドは省エネ」という常識(らしきもの)を意識したものではないかと思うことがあります。それは何故かと申しますと、防衛技術ジャーナルの2001年7月号における技術研究本部での電気駆動システム研究の技術論文では燃料消費量の低減が謳われていますが、技術研究本部50年史での当該研究の説明では、設計自由度の向上や減速機の簡略化について触れていても、燃費に関してはノータッチです。戦闘車両ハイブリッドにおいては、燃費という項目は確かに検討はされてはいるが、優先度の低いものなのかもしれません。


 現状、自衛隊の装甲車両がどのようなアプローチで「省エネ」を行っているのかと言えば、TK-Xでの無段変速機の採用や排気エネルギーの回収等、従来方式の延長上に立つ手堅いものです。兵器として使う以上、信頼性が重要であることはいうまでもなく、ティーガー(P)の轍を踏むことはありません。あくまでもハイブリッドは将来の可能性の一端なのです。


 「ハイブリッド化=省エネ」という、「常識(らしきもの)」を無批判に戦闘車両に適用することは避けるべきでしょう。





 兵器開発では、常識(らしきもの)に囚われていてはいけないのです。





参考文献


 椿尚実「戦闘車両用電気駆動システムの研究」防衛技術ジャーナル2001年7月号


 椿尚実「電気駆動システム」防衛技術ジャーナル2003年11月号


 野和田清吉「戦車の先端機動技術」軍事研究2007年12月号別冊


 平秀隆,白石泰夫,椿尚実,金内由紀夫「車両用蓄電装置の電力マネジメントに関する研究」防衛庁技術研究本部技報 2005年11月


 ヴァルター・J・シュピールベルガー「ティーガー戦車」大日本絵画


 防衛省技術研究本部「技術研究本部50年史」http://www.mod.go.jp/trdi/data/50years.html





2009年2月21日土曜日

今さらだけど、「内張り装甲」の定義



 もう旬が過ぎてしまった感があるネタなれど、「内張り装甲」の定義について、未だにネット界隈(おまけに雑誌でも)で見かけるので、いい加減定義論争に止めを刺したいと思います。


 もう散々色々なところで書かれたことですので事の経緯は省きます。週刊オブイェクトさんの「内張り装甲とは結構、分厚いもの」や、本ブログの「ガラパゴス化しているのは彼なのか?」を読んで頂いた方が確実ですが、要約すると軍事ジャーナリストの清谷信一氏が内張り装甲の存在を知らず、見当外れなことを書いたことに対し、週刊オブイェクトのブログ主であるJSF氏が突っ込んだ訳です。


 ところが、この突っ込みを受けてか「軍事研究」2009年3月号の清谷氏の記事に以下の一文が。






「車体は鋼鉄製で、レーダー反射率を下げるため車体の角は丸められており、全周的に七・六二mm弾や砲弾破片に耐えられる。また内部には跳弾や装甲の剥離を防ぐためにスポール・ライナーが張られている(スポールライナーと内部装甲はよく混同されるが、別物である)。」 by 清谷氏






 これを受けてJSF氏は「「見た事が無い」のに「別物である」と断言」と突っ込み記事を出します。






「つい最近、内部に取り付ける装甲について「見た事が無い」と告白した人なのですから、「内部装甲って何ですか」と問われて説明出来る筈がないですし、「内部装甲の定義を言ってください」と問われて答える事も出来ないでしょう。つまり清谷氏の言う「別物である」という断言は、何の根拠も無い思い込みであると言えます。思い込みではない、ハッタリじゃないと仰られるなら、内部装甲とは何か、定義の説明をお願いします。」 by JSF氏






 まさに正論だと思います。ただ、JSF氏の判断は以下の様な若干の推測が混じっております。






「なお私が技本発表会で展示された「内面取付型付加装甲」をスポールライナーであると判断したのは、材質がFRPであると説明ボードに書いてあったからです。これはスポールライナーに使われる素材と同じです。」 by JSF氏






 以上の様に、以前当ブログで掲載した技本発表会の写真の内容から判断された様です。


 ただ、定義論争に終止符を打つ最良の方法は定義を示すこと。それさえすれば終わりです。では、「内張り装甲」の定義は存在するのでしょうか?





答え



 内張り装甲


 内張り装甲とは、装甲裏面に内張りしたアラミド繊維(ケブラーなど)とプラスチックの複合材などである。装甲裏面からの剥離物を受け止める耐弾性向上効果(スポールライナー)のほかに、図1.5.2-12に示すように破片の飛散角度を小さくするといった残存性向上効果(スプラッシュライナー)が存在する。


― 弾道学研究会編「火器弾薬技術ハンドブック(改訂版)」財団法人防衛技術協会刊 ―






 「火器弾薬技術ハンドブック」は、「戦後わが国の火器弾薬の専門知識を集約した唯一の資料」を謳っており、日本の火器弾薬技術の基礎技術向上を目的とする弾道学研究会により編纂された、わが国における火器弾薬技術の集大成と言える本です。少なくとも日本において、これ以外の定義は無いと言っても過言ではないと思うのですが、これでも清谷氏は別物と言い張るのでしょうか。ミスや勘違いなど、誰にでもあるのだから、潔く訂正するのが最良でしょう。


 それとも、この定義も「ガラパゴス化」した日本の定義と主張するのか、はたまた定義を自分で作ってしまうのでしょうか。「定義を変える程度の能力」って、神にも等しいと思うのですが、どうでしょう?


 以上で論争に終止符は打たれたと思います。今後、このネタを当ブログで取り上げることはないでしょうし、日本上から論争が消滅することを望みます。





2009年2月12日木曜日

海賊の定義



 最近、自衛隊関連の話題と言えば、やはり海賊被害が多発するソマリアへの海上自衛隊艦艇派遣がホットなものでしょう。3月末には日本船舶の護衛にあたるそうで、2月10日には護衛艦“さざなみ”、“さみだれ”の2隻が派遣に向けた訓練を開始したそうです。


 そんな中、政治の舞台ではどうなっているのでしょうか。産経新聞によりますと、2月3日の民主党の外交防衛部門会議でこんな発言があったそうです。



 しかし、この日の部門会議では、足踏み状態から脱出したとはいえる議論はなかったようだ。藤田幸久参院議員が「海賊の定義は何か。犯罪なのか。テロなのか。組織性はあるのか」と外務省に問いただせば、谷岡郁子参院議員も「まず民間船舶会社の自己責任と国の責任の区別をきちっとすべきだ」と主張するなど、「そもそも論」が噴出したのだ。



 この藤田議員の「海賊の定義」発言が、ネット上で嘲笑の的になったことは記憶に新しいと思います。しかしながら、「海賊の定義」という問題は非常な難しい側面を含んでいることは事実であり、海上自衛隊のソマリア派遣についても問題になる可能性があります。今回は、海賊の定義とその問題点について考えてみたいと思います。








国際法上の海賊の定義


 古代ローマの時代から海上は「万民の共有物」とされ、近年まで「公海自由の原則」の国際慣行として引き継がれていました。海は多国間の交易の場であり、その海で強盗行為を行う海賊は「人類共通の敵」とされてきました。海賊の定義の根本には「人類共通の敵」という概念が今でも生きています。


 しかしながら、近年に入ると、拡大する海洋交通、海洋利権を巡る衝突、環境汚染等の新たな問題に対応する必要が生じ、従来の国際慣習法の統合・法典化が進められます。この試みは1982年には第三次国連海洋法会議にて国連海洋法条約として採択され、1994年に同条約が発効されることになります。「世界の海の憲法」とも言われる同条約は、200海里排他的経済水域の制定や紛争解決の為の国際海洋法裁判所の設立等、それまでの公海の概念を大きく変容させるものでした。この条約の101条において、海賊は国際法的に明確な定義がなされることになります。以下にその条文を見てみましょう。



国連海洋法条約


第百一条 海賊行為の定義


 海賊行為とは、次の行為をいう。


(a)私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が私的目的のために行う全ての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為であって次のものに対して行われるもの。


 (i)公海における他の船舶若しくは航空機又はこれらの内にある人若しくは財産


 (ii)いずれの国の管轄権にも服さない場所にある船舶、航空機、人又は財産


(b)いずれかの船舶又は航空機を海賊船舶又は海賊航空機とする事実を知って当該船舶又は航空機の運航に自発的に参加するすべての行為


(c)(a)又は(b)に規定する行為を扇動し又は故意に助長する全ての行為



 以上がその条文になります。このように、国際法では海賊の定義は明確なものとして存在しています。国連海洋法条約において、その定義が明文化されることになりましたが、この海賊の定義自体は慣習法の頃とほぼ同じものです。


 しかしながら、この定義には大きな問題が存在します。その部分は太字にして強調されてある「私的目的」、「公海」、「いずれの国の管轄権にも服さない場所」の部分です。この部分について、少し突っ込んで考えていきましょう。





「私的目的」の問題


 この定義の問題は、私的目的でない海上での暴力行為は海賊にはならないことにあります。この定義の問題が如実に表れた例としては、1961年のサンタ・マリア号事件が挙げられます。


 1961年当時、ポルトガルでは独裁政権に対する反政府活動が活発であり、ベネズエラに亡命していたエンリケ・ガルバン元陸軍大尉は、当時ポルトガルの植民地であったアンゴラでの解放国民議会臨時政府樹立を計画し、仲間とともに客船サンタ・マリア号を占拠しました。この事態に対し、ポルトガル政府は「海賊行為」と非難し、軍艦を派遣。米、英、オランダ、スペインも軍艦を派遣することになります。しかし、乗客に不法行為が行われてなく、ガルバン元大尉の目的が政治的な物だと判明すると世界世論は好転し、ガルバン元大尉は「20世紀のロビンフッド」とまで報道されました。アメリカ政府も犯行グループに対して仲裁案を提示し、ガルバン元大尉は仲裁案を受け入れ、ブラジルに投降します。受け入れたブラジル政府は、船体はポルトガルに引き渡したものの、犯行グループの政治亡命を認めて身柄を引き渡すことはしませんでした。


 この事例はこの定義の問題をよく表しているものと言えます。「私的目的」以外と認定されたら、それは「海賊」ではないということです。この定義ですと、この事件の様に当事国(船の旗国、乗員・乗客・財産が属する様々な国家)の立場によって、海賊認定の相違が生じることが考えられ、海賊対策への国際協力の妨げになると考えられます。。


 また、フィリピンからの分離独立を主張するモロ・イスラム解放戦線(MILF)は、昔から副業として海賊行為を行っていた漁師が多くおり、更にはアルカイダのキャンプで訓練を受けた構成員も多いと言われています。このように海賊が政治目的のテログループと結束する例が近年多く見られ、政治目的の海上テロと海賊行為の区別が付き難い状況になりつつあります。





「公海」、「いずれの国の管轄権にも服さない場所」の問題


 この2つの定義は、便宜的に「公海」という括りにして考えてみましょう。この定義を当てはめると、各国の領海内で発生した「海賊行為」は海賊と見なされず、海上強盗の類ということになります。


 しかしながら、この定義の最大の問題は、世界の海賊行為のほとんどが領海内で起きていることです。世界の海運業者からの拠出金で運営されている国際海事局(IMB)のデータによると、2001年世界で起きた263件の海賊事件のうち、公海で起きたものはわずか28件の10.6%に過ぎず、残りの90%は領海内で発生しています。公海での海賊行為に対しては、各国の海軍艦艇・航空機が警察権を有しており、自国で裁判を行う権限を与えられていますが、領海での海賊行為は全て主権国が取締ることになっています。領海の警備が不十分な国は多く、海賊多発地帯のマラッカ海峡ではインドネシア・マレーシア両国の警備能力の不備が問題となっています。そして、今回話題になっているソマリアは1991年から無政府状態にあり、まともに領海の警備が行われていません。そこの空白地帯に海賊が発生したわけです。


 公海で海賊を取り締まろうとしても、そもそも公海には海賊はほとんどいないか、警備の手薄な国の領海に逃げ込まれてはどうしようもないのです。





IMBによる海賊の定義


 先ほど名前が登場したIMBとは、世界的な民間団体である国際商業会議所(ICC)の商業犯罪対策部門の付属機関であり、世界の海賊情報を集め、船舶や当局に対して情報を随時提供しているNGOです。国際関係の問題で身動きがとりにくい国連の国際海事機関(IMO)と共同して海賊対策を行っており、事実上世界の海賊対策を主導している団体です。このIMBでは、国連海洋法条約とは別に海賊の定義を以下の様に定めています。



 海賊行為とは、盗難やその他の犯罪行為あるいは暴力を振るう目的で、船舶に乗り込む行為



 この定義では公海・領海の区別はなく、政治的・私的目的の区別もついていません。現実の海賊の定義としては妥当なものであり、世界の多くの保険会社でもこのIMBによる定義で海賊事件を取り扱っています。





ソマリアでの問題


 前述しましたが、ソマリアでは長年の無政府状態により自国の保全もままならず、2005年以降海賊が急増しました。度重なる海賊被害に対し、国連安保理は2008年から相次いでソマリア海賊対策の決議を採択し、国連安保理決議1816では、外国艦船がソマリア領内での海賊行為防止の為の「適当と思われるあらゆる手段」を認めています。これにより、国連海洋法条約における海賊定義とは別に、ソマリア領海でも他国の艦船が海賊行為が取り締まれるようになりました。


 しかしながら、これで問題が解決したわけではありません。IMBの海賊事件発生事件地図(リンク先参照)を見てみると、2009年2月までの世界の海賊事件の圧倒的多数がソマリア沖で起きていることが分かりますが、この地図をよく見てみると、海賊の多発地域はソマリア対岸のイエメン近海になっています。ソマリア海賊の特徴の一つに、沿岸から100海里を超える長距離で活動することが挙げられており、海賊を発見したとしてもイエメンへ逃げ込まれることが想定されます。ソマリアの周辺国家はソマリア内の各勢力に肩入れしているため、周辺各国への一時的な退避を防ぐと同時に各国への対応にも留意が必要でしょう。





 海賊の定義一つとっても、かなりの問題を孕んでいます。もっとも、藤田議員がそこまで考えて「定義発言」したとは文脈上思えませんが……





参考文献


産経新聞『ソマリア派遣、対応遅い民主 いまさら「海賊の定義」議論』2009年2月3日


土井全二郎『現代の海賊 ―ビジネス化する無法社会― 』成山堂書店


山田吉彦『海賊の掟』新潮社


山田吉彦『現代海賊事情』日本航海学会誌 「NAVIGATION」 2006年6月号


高橋史克『海賊に関する私的考察』日本防衛学会 「防衛学研究」第29号


秋元 一峰、C.L. ヴィヴァル『海上テロの脅威と海軍の役割(1)シーレーンに潜む黒い影』兵術同好会 / 波涛編集委員会 編 「波濤」173号