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2016年1月29日金曜日

日本のステルス実証機は何を狙うのか?

ステルス技術"実証機"

防衛装備庁が研究試作を行っている先進技術実証機が、"X-2"の型式を与えられ、2月中旬に初飛行すると発表されました。(リンク:防衛装備庁リリース「先進技術実証機の初飛行等について」


防衛装備庁は28日、三菱重工業の小牧南工場(愛知県豊山町)で、次世代戦闘機の開発などに向けた国産のステルス機「X―2」を初公開した。
(中略)
実証機は今後地上滑走試験を行い、2月中旬以降に初飛行を行う予定。県営名古屋空港(豊山町)から空自岐阜基地(岐阜県各務原市)まで飛行する。

国産ステルス機を初公開=次期戦闘機開発技術―2月飛行・防衛装備庁

X-2に搭載される国産実証エンジンXF-5(防衛装備庁サイトより)

このX-2については、一部のメディアで「国産ステルス戦闘機」という報道もなされていますが、自衛隊のF-2戦闘機の後継となる将来戦闘機開発に用いる技術データを集めるための実証機で、この機体に戦闘能力はありません

X-2はステルス形状の機体に、国産の実証エンジンを2基搭載し、高運動性・ステルス性技術の実証を目的としています。実機として試作することで、個別に研究されてきた要素技術を一つの機体としてまとめるシステム・インテグレーションや、全体を制御するソフトウェアのノウハウを得る事も重要です。また、将来戦闘機のためだけでなく、日本が従来保有していなかったステルス機のデータを集めることで、日本周辺国で将来配備されるだろうステルス機に対する防空体制の検討にも役立つと期待されています。

X-2に搭載される国産実証エンジンXF-5(防衛装備庁サイトより)

ところで、自衛隊では既にアメリカが開発しているF-35ステルス戦闘機の導入が決まっています。F-35を配備するなら、自前でステルス機の技術研究する必要は無いじゃないか、と思われる人もいらっしゃるかもしれません。

しかし、F-35計画では自国が技術を持たないことが、自国の防衛計画上のリスクになる事が露呈しています。今回は初飛行を前にX-2の狙いは何か、現在の最新戦闘機開発を交えて紹介したいと思います。

超大国による技術の独占とその弊害

F-35は名目上は国際共同開発ですが、実際の開発はアメリカ主導で行われています。開発だけでなく、生産や機体のメンテナンスまでもアメリカの強い管理下にあり、海外での生産の最終工程はFACOと呼ばれる施設だけで行われ、ALGSと呼ばれるシステムにより全世界のF-35はパーツの一つに至るまで管理IDが振られ、アメリカが一括して管理しています(FACOとALGSについては、拙稿[http://ji-sedai.jp/series/research/045.html 「F-35戦闘機導入に武器輸出三原則見直しが必要だったワケ」]を参照下さい)。

アメリカはFACOやALGSをコスト削減策としてアピールしていますが、もうひとつの側面として、F-35の技術を外に漏らさない事でアメリカの軍事・外交上の優位性を保つという思惑があります。事実、前世代機のF-15は機体やエンジンの日本で国内メーカーによる製造が出来たのに対し、F-35では国内メーカーの製造割合は4割程度と伝えられているなど、日本側の裁量が大きく減っています。同盟国やユーザー国であっても、F-35の技術情報の開示は限られており、不満を持つ国もあります。

米空軍のF-35戦闘機(米空軍サイトより)

同じ防衛装備品の輸出でも、現在行われているオーストラリアの次期潜水艦商戦で日本、ドイツ、フランス各国がオーストラリアへの技術移転や現地生産を提案し、オーストラリアへの技術情報の開示を強調しているのとは対照的です。通常動力潜水艦を開発出来る技術を持つ国が複数あるのに対し、今のところF-35に相当する第5世代ステルス戦闘機を開発出来る国は一部の超大国に限られており、かつての「西側」で第5世代戦闘機を開発しているのはアメリカしかありません。現状、NATOやEU構成国が入手可能な第5世代機はF-35しかないということになります。

この選択肢の無さが問題を招いています。F-35は開発が難航し、計画の大幅な遅延に加え、AFPによれば2014年の段階で1,670億ドルも開発予算を超過しており([http://www.afpbb.com/articles/-/3009733 AFPBB「なぜ米国はF35戦闘機に巨額を費やすのか?」])、調達価格の高騰が懸念されています。採用予定国にとっては、自国の防衛計画に大きな悪影響を及ぼしかねませんが、F-35の代わりになる選択肢はありません。結果、F-35計画に問題が出ても、そこから足抜け出来ないでいます。

F-35の次のための「武器」

超大国による技術の独占により、F-35のユーザー国は開発国側の都合や問題に、従来以上に引きずられるを得ません。代替案無き状況が生み出した理不尽です。

このような問題を避けるためにも、代替案はあるに越したことはありません。国内で次世代機が開発出来るのがベストですが、それには莫大な資金と時間が必要です。国際共同開発で負担を軽減するにしても、発言力を確保するには自前で技術を持っているかがカギとなります。自国で戦闘機を作らなくても、自国で技術を持っておく事が、自国の防衛計画へのリスクを回避するための「武器」にもなるのです。

まだF-35の配備も進んでいない状況ですが、早くも「次」を見据えた戦闘機計画が立ち上がり始めています。日本でも、X-2をはじめとした将来戦闘機に関する研究は平成30年度(2018年度)に成果がほぼ出揃う予定となっており、それを元にして「次」をどうするか方針が決まります。X-2は、F-35の「次」を見据えた一手でもあるのです。

F-35は様々な問題に直面しましたが、次はどうでしょうか? X-2が良い成果を残し、選択肢が少しでも広がれば良いのですが。

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武器輸出三原則はどうして見直されたのか?
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防衛装備庁―防衛産業とその将来
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両方とも森本敏元防衛大臣の名義だけど、中身はほぼ防衛関係者による防衛装備についての内情話。国内の防衛関係者が防衛装備品について、どういう危機感、問題意識を抱いているのか知るのに良い本です。

2014年12月2日火曜日

各国軍を悩ます秘密と知的財産権

豪国防相の失言の背景

今年4月に日本の武器輸出が事実上解禁されてから、初の大型案件になるかと注目されているオーストラリアへの潜水艦輸出ですが、当事国オーストラリアで一騒ぎ起きているようです。オーストラリアのデビット・ジョンストン国防相が自国の造船会社ASCについて、「カヌーも造れない」と失言の後に撤回したそうです。


【AFP=時事】オーストラリアの国営造船会社ASCについて「カヌーを造る」能力さえ信用できないと発言した同国のデビッド・ジョンストン(David Johnston)国防相は26日、辞任要求を浴びせられつつ発言を撤回した。



オーストラリア海軍の次期潜水艦計画については過去に拙稿 「オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ」「日本からの潜水艦導入を巡るオーストラリアの事情」でもお伝えしましたが、競争入札を実施せず、指名でオーストラリア国外で建造して輸入する方向で話が進んでいるとされています。2日にはオーストラリア政府高官が潜水艦調達では入札を実施しない旨を重ねて明らかにしています。

[シドニー 2日 ロイター] - 複数の豪政府高官は2日、次期潜水艦建造計画で、競争入札は行わないと発言した。日本企業が受注する可能性が高まったと言えそうだ。ロイターは9月、関係筋の話として、豪政府が、日本企業に建造を発注し、完成品を輸入する方向で日本と協議している、と伝えている。


仮に入札が行われず、オーストラリア国外(日本の可能性が高い)で大部分が建造された場合、ASCと造船所を抱える南オーストラリア州の製造業に深刻な影響を与えるため、オーストラリアでは国内での建造を求める声が根強くあります。


豪政府が希望しているとされるそうりゅう型潜水艦(海上自衛隊写真ギャラリーより)

しかし、ジョンストン国防相が揶揄したように、ASCが技術的・能力的に様々な問題を抱えているのは事実です。ASCは元々、オーストラリア国内でコリンズ級潜水艦を建造するために設立されたオーストラリア潜水艦企業体(Australian Submarine Corporation:ASC)がその前身となっています。しかし、ASCで建造されたコリンズ級は深刻な問題が頻出し、問題解決に追加費用と長い時間を取られる事になりました。

また、ジョンストン国防相が失言する際に例に出していたホバート級イージス駆逐艦もASCで建造中ですが、計画3隻で2億9900万ドル(約350億円)の予算超過がすでに生じています。建造段階で1隻あたり100億円以上の予算超過するのは日本ではまず考えられませんが、ASCはコリンズ級潜水艦に続き、ホバート級イージス駆逐艦でも問題を起こしている事になります。元々、競争入札で対立候補より安い事が決め手となり採用されましたが、結果的には高く付きました。

ホバート級原型のスペインのアルバロ・デ・バサン級フリゲート(Brian Burnell撮影


ASCだけの問題? 多国籍多企業に跨る知的財産権

では、問題はASCの技術力にあるのでしょうか? 恐らくその通りだと思いますが、理由はそれだけではないでしょう。それを窺わせる記事がオーストラリアの全国紙The Australianにありました(オンライン版の記事が既に有料化し、閲覧出来ません)。オーストラリア次期潜水艦計画を巡る各国の状況を解説した記事で、コリンズ級潜水艦の設計や改修に関わったスウェーデンについてこう書かれていました。


「スウェーデンは良い潜水艦を作るが、スウェーデンの設計を基にしたコリンズ級の改修で、法的な問題により海軍は必要なIP(知的財産権)の取得に数十年を要した。スウェーデンはそれが再び起こらないと主張している」



コリンズ級改修の問題に、知的財産権を巡る法的問題があった事を示唆しています。

問題になったコリンズ級はスウェーデンの設計を基にオーストラリアで建造されましたが、この艦の特色として多くの国・企業が建造に関わっており、建造企業のASCにしても豪欧米企業の出資により設立された事からもそれが窺えます。このような形態の防衛装備開発を各国・各企業の優れた技術を組み合わせた、と書くと一見良い事のように思えます。しかし、建造に参加する企業をまとめるプライム企業(ASC)には、機材の仕様から言語、商習慣に至るまでの様々な違いを乗り越えてまとめ、一つの製品として完成させる為の高いインテグレーション能力が求められます。この障害となるのが、各国・各企業の持つ技術・製品の知的財産権です。

民間企業でも知的財産権の蓄積や管理は、企業の競争性を左右する重要な事項ですが、軍事の世界でもそれは同じです。各国共に秘密や特許により知的財産権を保護し、自国の技術的優位性を確保しようとしています。近年はその傾向はますます高まり、武器を購入して配備している国でも触る事の出来ない「ブラックボックス」と呼ばれる部分が増加しています。下の写真は外国から製造ライセンスを購入し、日本で生産している装備品内部の基板ですが、回路の集積化等によりブラックボックスの範囲が拡大し、日本側で弄る事の出来る部分が僅かになっているのが分かります。


装備品のライセンス生産の基板(防衛省資料より)

このような知的財産権を巡る事情から、コリンズ級の改修に必要な多国籍多企業に渡る知的財産権の取得に豪海軍が苦労したのも頷けるでしょう。製品を購入したとしても、知的財産権から情報開示部分が少なかった場合、その装置の問題を解決するのも難しいでしょう。潜水艦の調達を競争入札で行った場合、多国籍多企業に渡る提案が価格競争上優位になる可能性があるので、限られた国・企業が提供する潜水艦(例:日本製)を安全牌として購入した方がトラブルも無く、安上がりで済むのではないかというオーストラリア政府・軍の思惑もありそうです。現実にコリンズ級潜水艦、ホバート級イージス駆逐艦は共に競争入札で決定されましたが、いずれも中核的部分に多国籍に跨る製品を搭載して問題を引き起こしたのですから、ASCへの不信感と並んで、政府・軍の競争入札への不信感は大きいのではないでしょうか。



求められるASCの能力強化

しかし、仮にオーストラリア国外(日本)での建造が行われた場合、前述したような雇用の問題の他に、配備後のメンテナンス問題があります。現在、オーストラリアで潜水艦のメンテナンスを行っているのはASCであり、次期潜水艦は現行の潜水艦より増勢される見込みですから、ASCのメンテナンス能力の強化は必須となります。仮に日本が潜水艦を受注しても、受注で対立関係にあったASCとは配備後のメンテナンスで何らかの協力関係を持たざるを得ません。

この場合、日本が取るべきは、ASCの能力強化を含むパッケージで潜水艦を提案し、雇用への配慮とオーストラリア国内での継続的なメンテナンスを行える環境作りを支援する姿勢を示す事ではないでしょうか。防衛装備はただ売って終わりという性格のものでなく、より2国関係を深化させる作用も持ちます。現在、日本はアメリカに次ぐ安全保障パートナーとして、オーストラリアとの関係を強化しようとしており、その最中に露骨にオーストラリアの雇用を奪って禍根とするのは避けたいところでしょう。長期的視野に立ち、オーストラリアとの関係を維持し深めていく方策が必要となるでしょう。



これから知的財産権と秘密の壁にぶち当たる日本

ここまで主にオーストラリアの例を挙げて解説しましたが、日本も近々オーストラリアに近い問題が起きるかもしれません。航空自衛隊のF-4EJ改戦闘機の後継として、F-35ステルス戦闘機の導入が決定しており、世界でアメリカとイタリアにしかないF-35の最終組立・修理点検施設(FACO)が日本にも建設される事になりました(FACOの詳細は拙稿「日本に設置されるF-35の”整備拠点”と武器輸出三原則見直し」を参照)。F-35の大規模な修理点検はFACOでしか出来ず、イタリアのFACOはヨーロッパ、地中海諸国のF-35の整備を一手に担い、日本のFACOも日本のみならず、アジア、太平洋沿岸国のF-35の整備を行います。


イタリア。カーメリ空軍基地内のFACO(Google Earthより)

ですが、このFACOという仕組みは、配備国にF-35の重要な整備をさせず、ステルスの秘密をアメリカ国外に漏らさない為のシステムでもあります。FACO設置国も例外ではなく、既に稼働しているイタリアのFACOでは、重要な部分は米ロッキード・マーティン社以外触れないとイタリア側が不満を漏らしているとされています。日本もイタリア同様、秘密の壁にぶち当たり、運用上の問題が出る事になるかもしれません。

このように知的財産権と秘密に縛られたF-35の導入と並行して、F-2支援戦闘機の後継として、日本独自開発の次期戦闘機を選択肢に入れる為の研究は既に始まっています。実際に独自開発に移るかはまだ不明ですが、平成30年頃には方針が決まる予定です。高いコストをかけてまで自国開発の道を残すのは、外国機は高性能でも、前述のとおり自国で触れない部分が増えているという事情があります。機体を知る事は運用や稼働率にも関わるため、出来るだけ自国で弄れる部分の多い装備品を求めるのは当然の欲求でしょう。


防衛省技術研究本部で構想中の次期戦闘機コンセプト

近年、装備品価格は高騰の一途を辿っていますが、日本は防衛費の大幅な増額が見込めない以上、どこまで装備品を国産化し、どこまで外国製で任せるかという難しい取捨選択を迫られる事になると思います。国産化によるメリットが高いと判断出来る装備品や技術に対し、有効な投資を継続し、維持発展させていく事が重要となるでしょう。


【関連】

森本敏 編「武器輸出三原則はどうして見直されたのか?」

元防衛大臣の森本敏氏による武器輸出三原則見直しの背景解説(というか、防衛関係者の対談)。三原則見直しにとどまらず、FACOによるアメリカの技術囲い込み、自国技術の維持問題、価格重視の競争入札により性能が犠牲にされている件など、様々な防衛装備品に関する問題について触れられており必読。

毒島刀也「図解 戦闘機の戦い方」

本題から少しずれるけど、現代の戦闘機がどうやって戦うのか、その戦法やテクニック、技術的背景から解説した、ありそうで今まであまり無かったタイプの本。技術的優位の確保も重要な問題になっていると理解出来ます。良著。







2014年4月5日土曜日

日本に設置されるF-35の”整備拠点”と武器輸出三原則見直し

航空自衛隊に導入が決まっているF-35戦闘機の整備拠点が、日本国内にも設置される事が報じられています。

 防衛省は3日、武器輸出を事実上禁じてきた武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」の閣議決定を踏まえ、防衛生産・技術基盤の強化戦略の骨子案を自民党国防部会に示した。日本企業が共同生産に参加している自衛隊の次期戦闘機F35について、アジア太平洋地域の整備拠点を国内に設置することを検討していることを明らかにした。
毎日新聞:<次期戦闘機F35>整備拠点国内設置を検討 防衛省骨子案

この報道に対し、日本が導入するのだから、整備拠点が日本にあるのは当然じゃないかと疑問を呈される方もいるかもしれません。ところが、日本に設置されるのと同様の整備拠点は、世界にイタリアとアメリカにしか無いもので、その設置には武器輸出三原則の見直しが大きく関係しているのです。


F-35戦闘機


F-35の開発計画とFACO

F-35はアメリカが主導して開発が進められている次世代のステルス戦闘機で、ステルス機能に加え、様々な任務を1機種でこなせる多用途性を特徴としており、競争の結果ロッキード・マーティン社のF-35に決まるまでは、JSF(Joint Strike Fighter:統合打撃戦闘機)計画として知られていました。

F-35の開発にあたり、JSFコンソーシアムと呼ばれる、JSF計画に参加する国家による団体が作られました。JSFコンソーシアム内では、アメリカ以外のJSF計画参加国が、計画への出資・貢献の程度によって階層(Tier)付けされており、上位の階層ほど計画に与える発言権が大きいといった特徴があります。

JSFコンソーシアムメンバー国と階層

最上位のTier1はイギリスのみで、20億ドルの出資によりF-35の設計に対する決定的な発言権と、開発・生産における自国企業への下請けが保証されています。その他、Tier2、Tier3と階層が下がるごとに出資額が下がる分、計画に与える影響は少なくなります。

これまでも戦闘機の国際共同開発は主にヨーロッパで行われていましたが、JSF計画におけるコンソーシアム方式が従来のものと異なるのは、参加国全てに作業分担が保証されず、設計への影響力、もしくは下請け選定時の優先権しか与えられていない点です。従来のヨーロッパにおける国際共同開発では、出資額に応じた作業分担が保証されていましたが、この方法では技術力に劣る企業にまで作業分担がなされる恐れがありました。コンソーシアム方式ではTier3参加国の企業に優先権はあるものの、技術的・コスト的に優れる場合は非コンソーシアム国の企業に作業分担される事になっており、コンソーシアム国企業の利益よりも機体の完成度を高める事を優先しています。

イギリスに次ぐ出資国であるイタリアには、最終組立・検査(FACO:Final Assembly and Check Out)施設がカーメリ空軍基地内に設置されることになりました。このカーメリFACOの運用は、イタリアの航空機メーカーのフィンメッカニカ・アレーニア・アエラマッキに任されており、ヨーロッパ・地中海沿岸諸国が配備する全てのF-35は、このカーメリFACOで機体の最終組立やステルス性能を与えるための塗装と検査が行われます。特にステルス性能を左右する塗装とその検査施設は機密度が高く、世界で同様の設備があるのはアメリカのフォートワースにあるロッキード・マーティンの工場と、今後設置が予定される日本のFACOに限られています。FACOはF-35の製造・メンテナンスの重要施設であり、その地域におけるF-35運用の要となります。イタリアのFACOがヨーロッパ・地中海沿岸地域をカバーするのに対し、日本のFACOはアジア・太平洋沿岸地域のF-35運用国のハブとして機能する事になるでしょう。


イタリア、カーメリ空軍基地内のFACO

FACO設置と武器輸出三原則見直し

さて、このFACOが日本にも設置される事が決まったというのは前述の通りですが、このFACOの設置がどのように武器輸出三原則見直しと関連しているのでしょうか。それは、FACOやF-35に関わる国際的な管理・運用システムに原因があります。

アメリカのフォートワース工場とイタリア・日本のFACOはオンラインで結ばれており、いずれかの施設で製造プロセスの改善が行われた場合、ただちにその手法が共有される仕組みになっています。F-35製造についての知識と経験が、国を超えて共有される事になるのです。

また、F-35のメンテナンスにあたっては、ALGS(Autonomic Logistics Global Sustainment)と呼ばれる国際的な後方支援システムが存在します。このALGSでは、全てのF-35運用国が互いに部品を融通しあう事になっており、どこ製の部品が使われるかといった事は区別されません。つまり、場合によっては日本製部品が海外のF-35に使われる事になり、武器輸出三原則に抵触する恐れがあるのです。F-35の部品はグローバルなサプライ・チェーンに基いて供給されており、一国だけ特別という扱いはまず無理で、F-35導入にあたってはF-35を武器輸出三原則の例外とする措置が取られました。


ALGSのイメージ(防衛白書より)


しかしながら、FACOの設置が日本にとって良い事かと言えば、必ずしもそうとは限りません。日本は前述したJSFコンソーシアムのメンバー国ではなく、あくまで製造に関与する下請けという位置付けにあります。日本に設置されるFACOはイタリアと同様のものとされていますが、Tier2メンバーのイタリア並にFACOの運用に関われるかは不透明です。そのメンバー国のイタリアですら、重要な部分はアメリカのロッキード・マーティン社が行っていると不満を述べています。日本はこれまで、アメリカの戦闘機をライセンス生産することで技術力を付けてきましたが、FACOでF-35生産に携わる事が出来ても、従来のような恩恵を日本企業が得る事は少ないだろうと見られます。

日本がJSFコンソーシアムに加わらなかった原因に、かつての武器輸出三原則があったとする意見もあります。しかし、現在の装備開発では開発費の高騰が問題になっており、開発費を分担しあう国際共同開発の流れが今後主流となるのは確実です。日本が装備開発競争に乗り遅れる事のないよう、国際共同開発への参加する事は安全保障上の重大な課題となります。そのためには、F-35のように武器輸出三原則の例外化だけでなく、抜本的な改正が重要になってきます。今回の改正により、国際共同開発への参加が大幅に条件が緩和される事になり、今後の装備品の国際共同開発に繋がる事になると思われます。

F-35の製造やメンテナンスに日本がどのレベルにまで関われる事になるか、まだFACOも設置されていない状態では未知数ですが、楽観できない状況にあると思われます。今後は日本が国際的な潮流に乗り遅れる事のないよう、日本にとっての平和と利益に資するような政策が取れることに期待したいです。



【参考となる資料】

森本敏「武器輸出三原則はどうして見直されたのか?」

森本敏元防衛大臣による、武器輸出三原則がなぜ見直されたのかについての解説書。防衛問題に詳しい識者による覆面座談会形式をとっており、武器輸出三原則とF-35の関係性に多くを割かれている。FACOやALGSとその問題点(とどのつまり、米国が技術を外国に出さない仕組み)も指摘しており、非常に勉強になります。






2013年8月4日日曜日

まもなく進水する平成22年度護衛艦のおさらい

艦名バラしのトラブルがあった平成22年度ヘリコプター搭載護衛艦こと22DDHですが、まもなく進水式ですね。

今回は、進水式を迎えるのを前に、22DDHについて軽くおさらいをしてみたいと思います。

※2013/8/6追記。進水の様子を撮影し、YouTubeとニコニコ動画にアップしました!




22DDHイメージ 「我が国の防衛と予算」平成22年度より

■海上自衛隊史上最大の護衛艦

22DDHが注目される理由は、空母型の全通甲板を採用したことと、海上自衛隊史上最大の護衛艦になることが挙げられます。
全通甲板はこれまでも、おおすみ型、ひゅうが型で採用されてきており、22DDHはひゅうが型の拡大改良版とも言える存在ではありますが、基準排水量がひゅうが型の13,950トンから19,500トンと5,000トン以上も増加し、全長は51メートル長い248メートル、最大幅も5メートル長い38メートルと、これまでに無い大型化を果たしています。

22DDH、ひゅうが型、おおすみ型の比較図。@Gachar1203氏作成
22DDHはしらね型護衛艦を更新するものです。
しらね型護衛艦は、はるな型護衛艦(全艦退役済)の拡大改良型ですが、はるな型の基準排水量4,700トンに対し、しらね型5,200トンと、500トンの増加に過ぎなかった事を考えると、ひゅうが型と22DDHの規模の違いが異様であることが分かると思います。

そして、ひゅうが型と22DDHの違いは、船体の規模にだけに留まらず、武装、ひいては運用面でも相当な違いがあると考えられます。



■22DDHとひゅうが型の相違点

現時点で判明している、22DDHとひゅうが型、さらには更新されるしらね型の違いを表にまとめました。


ここで22DDHとひゅうが型を比べると、船体の規模だけでなく、武装も大きく違います。ひゅうが型がMK.41 VLSを備え、対空・対潜能力を備えているのに対し、22DDHは対空ミサイルは対艦ミサイル防護用のSeeRAMだけを備え、対潜水艦攻撃能力は艦自体には備わっていません。
武装面では、22DDHは個艦装備が大幅に防御専門装備に変更されています。

他方、22DDHはヘリの搭載容量がひゅうが型より3機増加した14機に。ひゅうが型には無かった輸送・補給能力が付与されており、艦の性格がひゅうが型とは随分違うことも分かります。

では、22DDHはどのような意図を持って、ひゅうが型と大きく性格の異なる艦になったのでしょうか。



■有事は対潜作戦、平時は輸送?

22DDHについての公式説明資料では、概ね下記の点が強調されています。
  • 国際平和協力活動
  • 大規模災害派遣
  • 対潜戦
このうち、国際平和協力活動や大規模災害派遣においては、輸送・補給能力が大きな役割を果たすのは言うまでもありません。22DDHの建造にあたるジャパンマリンユナイテッドの親会社、IHIのサイト内では、乗員数が便乗者含め約970名と記載されており、防衛省側が公表している乗員数約470名より500名多いです。このことから、乗員以外にも500名近い隊員を収容・宿泊できる能力が備わっていると考えられます。

また、対潜作戦の強化も謳われています。対魚雷防護用の装備の他、哨戒ヘリを7機搭載しており、これはひゅうが型の倍以上の数です。 個艦の攻撃手段が無いことから、護衛隊群の対潜作戦の中核として機能すると考えられ、僚艦防空能力のあるあきづき型護衛艦などとセットでの運用になるでしょう。

この搭載ヘリによる対潜能力の強化は、広範囲の浅い海域が広がる東シナ海での運用を念頭に置いたものと思われます。従来、自衛隊のASW(対潜作戦)は旧ソ連潜水艦を想定した、水深の深い海域や狭い海峡での活動に重点が置かれていましたが、近年は離島防衛や領土問題での対応が求められるようになったことからも、広範囲を捜索するためのヘリ運用能力の強化がなされたと考えられます。



■空母になるの?

22DDHを巡っては、規模の大きさから空母になるのではないか? とする意見が根強くあります。実際、海自が空母艦載機になるF-35B型を導入するという報道もありましたが、これは防衛大臣に否定されております。

FNNニュース:日本政府、艦載機として新たに「F-35B」導入を検討

軍事速報: 防衛相、F-35B導入検討を否定

しかし、現在防衛省では自衛隊の海兵隊化、水陸両用部隊の保有を検討しており、そのための手段としてオスプレイとは限定していませんが、ティルト・ローター機研究を始めていることを防衛大臣は述べています。

Q:中間報告では海兵隊的機能の充実という内容が盛り込まれていると思うのですけれども、今後米海兵隊が持っているオスプレイを日本の自衛隊に導入するというようなお考えはあるのでしょうか。
A:まず、水陸両用の機能を持つ部隊のことでありますが、これは日本の海洋権益は世界で6番目の広い面積を持っております。そしてそこには約 6,800の島があります。こういう島の防衛に関しては当然水陸両用の機能というのが今後必要だということで、今その整備については今回の中間報告の中で も触れて頂いているのだと思っております。当初から、オスプレイという名前ではなくて、いわゆるティルトローター機の研究については予算はつけておりま す。今後、その導入については、能力評価が出た段階で考えていくことになるのだと思っています。まだ決まっているわけではありません。


これを裏付けるように、先月アメリカで行われたドーンブリッツ演習において、オスプレイがひゅうがに耐熱版無しに着艦する様子が確認されており、22DDHも同様にオスプレイが着艦可能と考えられます。


ヘリコプター護衛艦「ひゅうが」の飛行甲板は耐熱処理済みか(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース


22DDHへの固定翼艦載機搭載による空母化の可否は、これまでの情報からは海のものとも山のものともつかないです。しかし、オスプレイなどのティルト・ローター機を配備する事は考慮に入れていると考えられます。このことは、500名の乗員以外の宿泊能力があることからも、22DDHが陸自隊員を載せ、ヘリやティルト・ローターなどでの強襲作戦で使うことを想定しているのではないでしょうか。

結論から言えば、空母化は戦闘機は分からない。しかし、ティルト・ローター機の運用は実現度が高いのではないかと思います。ただし、ひゅうが型と比して、エレベーターが大型化し、1基は外舷エレベータとなっていうることからも、ひゅうが型が運用できる機体よりもずっと大きな機体を運用できることは確かです。

22DDHは8月6日の進水式の後、艤装が施され、2014年度末に就役する見込みです。当面はヘリのみの搭載になりますが、今後はどうなるのでしょうか。



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