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2017年1月26日木曜日

死んだ”アカハラ”と鳥インフルエンザ

死んだ″アカハラ″

Twitterでこんなツイートが話題になっていました。ツイートされたのは、神戸大学大学院の木村幹教授。比較政治学者で、朝鮮半島・韓国の地域研究で著名な研究者ですが、ツイートの内容はご専門ではなく、大学の会議での一コマについてです。木村教授より許諾を頂きましたので、ツイートを引用してみましょう。
今日の会議から。100%実話。
事務方「ご報告しないといけない事が」
研究科長「急になんだ」
事務「アカハラです」
参加者A「まじか」
参加者B「勘弁してくれ」
事務方「アカハラが死んでいました」
研究科長「アカハラで死んだ!」
事務方「いえ、建物の裏でアカハラが死んでいました」
一同「鳥かよ!」

出典:木村教授のツイートより(※引用者一部改行)


大学の会議で事務方から「アカハラが死んだ」と報告され、学内で教職員による嫌がらせ行為「アカデミック・ハラスメント」で死者が出たかと騒然となったものの、死んだのは"野鳥の"アカハラだったという話です。アカハラは赤い腹部が特徴で、夏に北日本で繁殖し、冬は西日本、中国、台湾で越冬する渡り鳥です。

"鳥"のアカハラ(撮影:ISAKA Yoji ( cory )

さて、ここまでなら勘違い系の笑い話です。ところが、事務方が会議で報告した以上、それなりに対処が必要になるかもしれない事態ではあるのです。木村教授は事務方からの説明として、ツイートを続けています。

渡り鳥が死んでいる時には、鳥インフル等の可能性があるので、ちゃんと保健所に届けないといけない、というお話しでした。m(_ _)m

出典:木村教授のツイート

因みに事務方の説明によれば、渡り鳥の場合は1羽死んでいるだけでも通報する必要があり、それ以外の鳥の場合にも10羽死んでいる場合には通報する必要があるそうです(詳しくは保健所にご確認ください)。

出典:木村教授のツイート

法的な義務は無いものの、環境省や各都道府県では死亡している野鳥を発見した場合、最寄りの市町村や都道府県に通報することを呼び掛けています。都道府県によっては、施設管理者に対して、敷地内で死亡野鳥を確認した場合に通報を呼び掛けているところもあります。

このように死亡野鳥の通報を呼び掛けている理由に、ツイートにもあるように鳥インフルエンザがあります。


猛威を振るう高病原性鳥インフルエンザウイルス

国内の複数個所で高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された昨年の11月21日以降、環境省の野鳥に対する調査監視の対応レベルは、最高のレベル3となっています。今シーズン、環境省が確認した野鳥への高病原性鳥インフルエンザウイルスの発生(飼育鳥類、糞便、水検体含む)は、2017年1月25日17:30現在、18道府県186件に達しています。

各地で猛威を振るう鳥インフルエンザで、国内でも養鶏場で飼育されている鶏の殺処分が相次いでいますが、世界的にも約40か国で野鳥・家禽への感染が確認されており、世界保健機関(WHO)が警告している旨も報じられています。

[ジュネーブ 23日 ロイター]- 世界保健機関(WHO)は23日、野生の鳥や家禽(かきん)の鳥インフルエンザウイルスへの感染を注意深く観察し、人間に感染した場合は、迅速に報告するよう全ての加盟国に呼び掛けた。パンデミック(世界的大流行)の始まりを告げるシグナルである可能性があるという。

出典:鳥インフル、大流行のシグナルを見逃すな=WHO


しかし、なぜここまで鳥インフルエンザが警戒されているのでしょうか。もちろん、家禽としてのニワトリへの経済的なダメージも計り知れませんが、警戒されているのは人への感染です。

鳥インフルエンザウイルス自体は多くの水鳥が保菌しているものの、野鳥に対する病原性は低く、死に至る事例はそうありません。しかし、野鳥から人に飼われている家禽に感染するなど、感染を経るに従いウイルスが変異し、高い病原性を持つ高病原性鳥インフルエンザウイルスとなる場合があります。

鳥から人へ高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染は、鳥と生活環境が近いなどの濃密な接触がなければ起きないと言われており、さらに人から人に対しても容易に感染はしないと考えられています。しかし、「これまでの新型インフルエンザウイルスは、すべて鳥世界からヒト世界に侵入したウイルスから発生していると考えられています」(国立感染症研究所インフルエンザ・パンデミックQ&Aより)とされており、変異により新たな感染症として世界的大流行(パンデミック)を引き起こすことが懸念されています。

鳥インフルエンザウイルスの変異(環境省「高病原性鳥インフルエンザウイルスと野鳥について」より)

そして、上図のように飼育下にある家禽から野鳥への感染も考えられ、そこから広範囲にウイルスを拡大する恐れもあるため、死亡野鳥の調査監視が重要になってくるのです。


死亡野鳥を見つけたら

では最初に戻りましょう。死亡野鳥を見つけても、それが必ずしも高病原性鳥インフルエンザウイルスによる死とは言えません。野鳥も生き物ですから、様々な理由で死にます。1羽の死亡野鳥を一市民が発見しても騒ぐ必要性は薄く、環境省に確認したところ、死亡野鳥の通報はあくまで呼び掛けで、法的な義務ではないようです。しかし、一度に複数の死亡野鳥、あるいは同じ場所で連続して野鳥を確認した場合は、通報が推奨されています。

では、不審な死亡野鳥や複数の死亡野鳥を発見した場合はどうすればよいのでしょうか。環境省では死亡野鳥に近づかず、都道府県や市町村に通報することを呼びかけています。死亡野鳥の回収や消毒、ウイルスの検査も行政が行うので、発見した市民が野鳥になにかを行う必要はありません。そもそも、高病原性鳥インフルエンザウイルスによる死か否かに関わらず、他の病原体や寄生虫の危険もあるので、環境省では触らぬよう呼び掛けています。

環境省「死亡した野鳥を見つけたら」より

すでに国内の畜産業に大きな影響を及ぼしている高病原性鳥インフルエンザウイルスですが、特に行政や畜産業界でない我々も、このように感染拡大に留意することが出てきているようです。

※なお、神戸大学で見つかったアカハラが、高病原性鳥インフルエンザウイルスによる死亡と確認された訳ではありませんので、そこは注意してください。


【鳥インフルエンザについての情報サイト】

環境省:高病原性鳥インフルエンザに関する情報
農林水産省:鳥インフルエンザに関する情報
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構:高病原性鳥インフルエンザ

2014年10月23日木曜日

エボラ対策で自衛官が派遣される米アフリカ軍とは

西アフリカでのエボラ出血熱の流行が留まることを知らず、国際的な対策が急がれています。こうした中、アメリカ軍のアフリカ軍司令部に自衛官を派遣する事が報道されました。

 防衛省はエボラ出血熱の対応のため、ドイツのアメリカ軍司令部に自衛隊員を連絡要員として派遣することを検討していることが分かりました。

防衛省は、ドイツのシュツットガルトにあるアメリカ軍のアフリカ軍司令部に自衛隊員を連絡要員として派遣し、情報収集などを行って、今後どういう支援活動ができるか調査する考えです。ただ、防衛省幹部は「自衛隊ができる活動は限られている」と話していて、西アフリカへの部隊派遣はめどが立っていません。


最初に「米軍に自衛官派遣」と速報で聞いた際、自衛官がアフリカに行くのかと身構えましたが、続報でドイツのシュツットガルトにあるアフリカ軍司令部だと詳細が判明し、少々安堵しました。当面は連絡業務や情報収集にあたるようで、それを受けて西アフリカ派遣への派遣を含む協力を検討するようです。

ドイツのシュツットガルトのアメリカアフリカ軍司令部(2008年米アフリカ軍撮影)

ところで、このアメリカ軍なのにアフリカ軍、アフリカ軍なのに司令部がドイツにあるのは、ちょっとややこしいですね。この「アフリカ軍」は、アメリカの世界戦略や、日本のアフリカへのコミット強化にも関連してくる重要な存在なのですが、あまり知られておりません。この機会に紹介してみたいと思います。



6地域3機能からなるアメリカ統合軍

アメリカ軍は陸軍、海軍、空軍、海兵隊の4軍から構成されています(沿岸警備隊を含め5軍とする事もあります)。しかし、それぞれの軍種間の連携不足や、セクショナリズムが度々問題になっており、実際の軍事行動においても障害となる事がありました。第二次大戦後、陸海軍を統合して運用する常設の司令部が地域毎に創設されますが、軍の運用指針の策定や調達は4軍がバラバラに行っており、作戦時も各統合軍は統合参謀本部からの指揮を受ける形になり、統合軍に組み込まれていない部隊は各軍の長に指揮権があるなど、統合のメリットを活かせないでいました。このような不完全な統合による問題は、1980年のイラン大使館人質救出作戦の失敗や、1983年のグレナダ侵攻での連携不全として明らかになります。


イラン大使館人質救出作戦時に事故で炎上した輸送機の残骸

これら統合の問題を受け、1986年にゴールドウォーター=ニコルズ法が制定されます。この法律により指揮命令系統が整理され、統合参謀本部議長と各軍の長からなる統合参謀本部は指揮系統から外され、戦略立案における大統領や国防長官への助言者となりました。この結果、指揮命令系統は「大統領→国防長官→各統合軍」とシンプルになると共に、各統合軍司令官の裁量が強化される事になりました。

様々な変遷を経て、2014年現在のアメリカ統合軍は下のように地域毎に6軍、機能別に3軍から構成されています。

地域別
アメリカ北方軍(北米)
アメリカ中央軍(中東)
アメリカアフリカ軍(アフリカ)
アメリカ欧州軍(ヨーロッパ)
アメリカ太平洋軍(アジア・太平洋)
アメリカ南方軍(中南米)

機能別
アメリカ特殊作戦軍(特殊作戦)
アメリカ戦略軍(核兵器・宇宙軍・サイバー軍統括)
アメリカ輸送軍(戦略輸送)
統合軍の管轄地域(Lencer作成)

米統合軍で最も新しい米アフリカ軍

米統合軍の中で、自衛官が派遣される米アフリカ軍は最も新しい統合軍です。2007年2月6日に当時のブッシュ大統領がアフリカ大陸を管轄する新たな軍の創設の承認した事を発表し、「アフリカ軍」創設する事を国防長官に指示し、2008年10月1日にアフリカ軍が創設されました。それまでのアフリカ大陸における米統合軍は、欧州軍、中央軍、太平洋軍の管轄が入り交じっている状態でしたが、それらをまとめてアフリカ軍の管轄に一本化する事になりました(但し、エジプトのみ中央軍管轄)。アフリカ軍はアフリカにおけるあらゆる軍事作戦に責任を負いますが、その任務の多くは人道支援のような非戦闘目的のものが多いと言われています。

エボラ流行対策支援で、米軍が設置支援を行った医療チーム拠点
正式な創設に先立つ2007年9月には初代司令官として、アフリカ系のウィリアム陸軍大将が任命され、欧州軍司令部のあるドイツのシュツットガルトに仮司令部が入る事になりました。このシュツットガルトの仮司令部は、アフリカで司令部設置が出来るまでの措置だったはずですが、2008年10月の創設までに司令部設置を受け入れるアフリカの国が見つからなかった為、引き続きシュツットガルトに司令部が置かれる事になりました。2014年現在もアフリカ軍司令部設置に同意したアフリカの国は無く、当面あるいはずっとシュツットガルトに司令部が置かれる事になるかもしれません。



アフリカ重視を強める世界各国

では、なぜアメリカはアフリカ軍を新設したのでしょうか。その背景として、アフリカが戦略的に存在感を増してきた事が挙げられます。アフリカ軍創設が発表される1年前の2006年3月、アメリカ政府は「米国の国家安全保障戦略」を公表し、アフリカを優先順位が高い地域と位置づけました。アフリカ軍創設はこのようなアフリカ重視の姿勢の延長線上にあります。

アメリカがアフリカを重視するようになった理由として、天然資源とそれを巡る外交があります。アフリカの天然資源には各国が注目していますが、特に中国はアフリカ各国やアフリカ連合(AU)に対して積極的な資源獲得外交を展開しており、アフリカで影響力を増してきています。アメリカもアフリカからの原油輸入が今後増すと考えられており、中国への戦略的対抗上、アフリカへの影響力を強化する必要に迫られています。

AU本部ホール。2012年完成の新本部ビル建設費2億ドルは中国政府が出資

また、アフリカが未だに不安定な地域である事も理由の1つです。各地の武装集団、テロ組織、海賊等、アフリカは安全保障上の問題を数多く抱えており、世界的な脅威ともなっています。米アフリカ軍はアフリカ各国の国軍を支援する事で、地域の安定化を図る事も目的にしています。

地域の安定化の為に米アフリカ軍は軍事的な手段だけでなく、前述したように人道支援や、開発支援、民主主義の確立といった非軍事的役割も期待されています。事実、米アフリカ軍の人員の半数は、米国国際開発庁(USAID)や国務省、商務省等から出向した文民で構成されており、アフリカ軍司令官の副官1人は、国務省職員が就くポストとされているなど、他地域の統合軍と大きく異なります。このような文民は、軍の行動を支援しつつ、アフリカ各国への人道・開発支援といった非軍事的役割を期待されているのです。



日本のアフリカ関与とエボラ流行

このように世界がアフリカへと目を向けていますが、日本の現状はどうでしょうか。従来、日本は開発援助でアフリカ諸国へコミットしており、アフリカの開発をテーマとした国際会議であるアフリカ開発会議(TICAD)は、日本政府主導で20年以上続けているなど、経済的な関与は決して弱いものではありません。しかし、安全保障面の結びつきは弱く、2013年1月に発生したアルジェリア人質事件では、アフリカにおける安全保障・危機管理上の情報収集体制の不備が明らかになりました。事件を受け、在外大使館で安全保障に関わる情報の収集や現地政府と調整を行う防衛駐在官の増勢が議論されるようになり、平成26年度の防衛省の概算要求の中で、それまでアフリカ大陸で2カ国2名しか駐在していなかった防衛駐在官を大幅に増員するための予算が要求されました。

アフリカ地域の防衛駐在官の増員概要(防衛省「平成26年度概算要求の概要」より)


今回のエボラ出血熱流行では、創設間もないアフリカ軍がアメリカによる支援を支えており、アメリカのアフリカ関与強化政策が図らずしもエボラ流行防止に役立ったと言えます。日本は世界各地に部隊を展開するアメリカの真似は出来ませんが、現地での継続的かつ広範な情報収集を行う体制を整える事はより重要になってくると思われます。これまで重視された外交や経済に留まらず、テロやパンデミックに備えた危機管理の面でもアフリカ関与は重要な課題になってくるでしょう。

今回のエボラ流行で日本がどのような協力が出来るかはまだ分かりません。アフリカ軍司令部への自衛官派遣で、日本に出来る協力のあり方が見えてくれば良いのですが。


【参考資料・関連資料】


片原栄一「米国の対アフリカ戦略――グローバルな安全保障の視点から――」

防衛研究所の片原地域研究部長による米国の対アフリカ戦略の論考。第二次大戦後、アメリカ外交にとって優先順位の低い地域であったアフリカが、対ソ戦略や冷戦終結を契機に重要性とその戦略目的が大きく変わっていった過程を概説し、ブッシュ時に打ち出されオバマ政権に引き継がれた新たな対アフリカ政策に焦点を当てている。近年のアメリカの対アフリカ戦略を知る上で、ネットで読めるものでは一番良いと思います。