2008年6月14日土曜日

自衛隊の地道仕事 高空における放射能塵の測定



 2006年10月9日に北朝鮮が地下核実験を行ったと発表したことは記憶に新しいと思います。この発表を受け、内閣官房の放射能対策連絡会議(旧内閣放射能対策本部)は放射性物質のモニタリングの強化を防衛庁(当時)、文部科学省、環境省に要請しました。本稿ではこの際行われた自衛隊機による放射能塵の測定と通常任務について述べたいと思います。





自衛隊の臨時活動


 要請を受け、防衛庁では航空自衛隊機による高空での放射能塵の測定活動を開始します。


 航空自衛隊による放射能塵の測定は内閣放射能対策本部の環境汚染調査の一環として、1961年より毎月1回行われていましたが、今回はより詳細なデータを求める必要があったため、10月9日から11月10日まで毎日臨時の収集が行われました。


 防衛庁による放射能塵収集にはT-4練習機が使用され、集塵ポッドを搭載したT-4の姿が大きく報道されたことを覚えている方も多いでしょう。この集塵ポッドは正式には機上集塵器(2型)と呼ばれるもので、内部に高空塵採取用のエレクトレットフィルタ(静電気により集塵効果を高めたフィルタ)、放射性ガス捕集用の繊維状活性炭布を組み合わせた直径28センチのフィルタが装着されています。この機上集塵器(2型)を搭載したT-4は日本上空の3空域(西部・中部・北部空域、高度3km及び10km)で測定活動を行い(下図)、そこで採取された試料は財団法人日本分析センターにて分析が行われました。


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*文部科学省 『北朝鮮の核実験実施発表に対する放射能影響の観測結果について』より引用


 この分析の結果は各省庁の分析結果と併せ、文部科学省により公表されました。結果はどの省庁による観測活動でも人工放射性核種は検出されず、10月24日に内閣放射能対策連絡会議の決定に基づき、同日以降は他省庁の観測活動は通常業務に戻りましたが、防衛庁は引き続き25日から11月10日、11月20日から24日にかけても測定を行い、試料は技術研究本部で分析を行いましたが、これらの結果も以前と同様に人工放射性核種は検出されませんでした。現在、これらの分析結果により、北朝鮮による核実験は失敗か部分的成功に過ぎなかったのではと言われています。





普段の活動


 前述しましたが、自衛隊による高空での放射能塵の測定自体は1961年より実施されており、その分析は長らく技術研究本部第1研究所(現・先進技術推進センター)で行われています。通常は毎月1回なのですが、1964年の中国による核実験や1986年のチェルノブイリ原発事故の際にも今回と同じように臨時の測定活動も行われています。


 測定活動が始まった1961年当初、その収集方法は現在の集塵ポッドによるものではなく、ガムードペーパ方式と呼ばれるものでした。ガムードペーパ方式とは、航空機の主翼前面に17.5cm×33.5cmの両面シートを30枚貼り付けて飛行を行い、シートに放射能塵を付着させるというものです。この方式はとても簡便で安上がりなのですが、測定の差が大きいため1971年以降は特別調査以外には使用されていません。現在は前述した集塵ポッドを使用したフィルタ収集が行われています。


 さて、このように半世紀近く実施されてきた、自衛隊による高空での放射能塵の測定のデータは非常に貴重なものです。このデータを用いれば、放射能の高空での挙動が予測できるため、核実験や原発災害による放射能汚染の被害対策に貢献できます。このため、2004年に観測結果の概要部分が電子データベース化され、現在もデータベース化が継続されています。


 装備にばかり目が向けられがちですが、このような長年にわたる地道な活動は国民・国防にとり重要なものです。こういう活動にこそ、もうちょっと陽の目を当てても良いと思うのですがどうでしょうか?





参考文献


荻野久美子,佐藤 美穂子 『高空における放射能塵の調査研究(全β放射能濃度の長期的推移に関する考察)』 防衛省技術研究本部技報 2005年8月 


清水俊彦,内田信,岡田匡史 『高空における放射能塵の測定(特別調査) 』 防衛省技術研究本部技報 2007年5月


文部科学省 「北朝鮮の核実験実施発表に対する放射能影響の観測結果について


財団法人日本分析センター


放射能対策連絡会議 「北朝鮮による地下核実験実施発表に伴う当面の対応措置について


防衛省 モニタリング強化への協力について


資源環境技術総合研究所 NIREニュース 「エレクトレットフィルター





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