2014年6月4日水曜日

産経新聞が自社サイトに買春ガイド掲載→黙って削除、をやらかしたようです

Twitterである記事が悪い意味で話題になっているものの、どこも取り上げる所が無いようなので、せめて私の方で記録を残したいと思います。

産経新聞の2014年W杯特集内の各国代表ニュースにこんな記事がありました。

世界中から多くの観光客が集まるワールドカップ(W杯)。さまざまな経済波及効果を生むが、裏の社会にとっても“稼ぎ時”という。多くの専門家が「W杯期間中、ブラジルでの観光客目当ての売春が急増する」との見方を示している。というのも、ブラジルでは18歳以上であれば、売春は合法だからだ。普段でも海外から売春ツアーにやってくる観光客も多い。W杯ともなれば、一気に活気づく恐れもある。観光客を目当てにするため、多くの売春婦が英会話を学んでいるとの報道まであった。


ブラジルW杯を前にした、ブラジルにおける少女売買春の問題を提起している記事……と一見思わせます。

ところがこの記事、書き手の”視点”が明らかにおかしい。さすがに産経新聞も問題アリと判断したのか、問題の箇所は現在は削除されていますが、本来の記事はどんな内容だったのか、過去のWeb情報をアーカイブしている Internet Archiveで見てみましょう。

ただ、問題なのは、ブラジルでは今、18歳未満の少女による児童買春が横行していることだ。売春に走る少女の多くは貧しく、料金も格安だ。


前段は良いとしても、「格安」という表現は、明らかに買い手から見た表現です。もっとも、この程度なら表現の問題で済むかもしれません。ですが、まだ問題は続きます。

 これらの少女と接触するのは意外なほどたやすいという。タクシーの運転手やホテルの従業員らが斡旋するケースが多いが、繁華街ではミニスカートやビキニなど、セクシーな服装に身を包んだ少女自らが声をかけてくるという。ここで使われる「セックス」を意味する隠語が「(引用者削除)」。「ハロー。どう? (引用者削除)」といった具合。体面上、18歳と名乗ってはいても、実際は12~13際という少女も多い。



売春の手口まで具体的に載せるのはさすがにどうかと思います。私もそのまま引用するのは拙いと思い、隠語の部分は削りました。いくら夕刊フジがグループにあるからといって、こういう記事を産経新聞の名前で出すのはどうなんでしょうか。

ですが、実態を伝えるために具体的な手口も記事にした、と抗弁する事も出来るかもしれません。ならなんで産経は削除したんだ、という問題が残りますが。

ところが、最後の締めが色々と決定的でした。

とはいえ、そんなブラジルでも児童虐待は重罪だ。ガードを緩めていると、手痛い目にあうかもしれない。(普)



明らかに書き手の記者の立ち位置が、買春側であると白状してしまっております。天下の産経新聞記者が、署名入りで児童買春側の視点から買春ガイド記事を書くのもどうかしてますが、この記事にOK出してしまった上の感性にも色々と問題がありそうです。

さすがに問題ありと感じたのか、6月4日3時現在、記事中から売春手口の部分や最後の「手痛い目」は無くなり、「少女買春に警察が目を光らせるが……」的な抑えめの記事になっております。ところが、記事の訂正を行った旨の記載はありません。産経は先日も「STAP細胞の再現に成功した」という誤報記事を黙って削除しており、2chまとめサイト並のモラルの無さを全国紙の身でやらかしちゃってます。ネット時代の今、黙って消したところで、ログは残って悪評ばかり増えるのに、こういう対応はどうなんでしょうね。

新聞社もガードを緩めていると、手痛い目にあうかもしれない。(ど)

イギリス軍事博物館巡りの旅 コスフォード王室空軍博物館(ハンガー1編)

さて、今回がコスフォード博物館のラストになるハンガー1の展示機の紹介です。

ハンガー1 外観

ハンガー1は練習機や輸送機、旅客機、エンジン、ミサイルを中心に展示してある棟で、戦闘機が展示されてある他と較べて見物客は少なめです。ですが、置かれている展示物はなかなかのものです。


ハンガー1内部パノラマ 結構ファイルサイズデカい

ここまで来ると、情報が少ない旅客機・輸送機、ミサイルになるので、検索で見つかった怪しい知識で紹介を補完しつつ進みます。間違ってたらコメント下さい。


ホーカー・シドレー アンドーバー
ホーカー・シドレーの双発ターボプロップ輸送機、アンドーバーです。原型は旅客機のアブロ748で、これは軍用の戦術輸送機型になります。

ホーカー・シドレー ナットT1
ウォープレーン館でもありましたナットの練習機型です。すごい小さい。


デ・ハビランド コメット

世界初のジェット旅客機、デ・ハビランドのコメットです。就役当初は事故多発という不名誉を得ますが、事故原因の究明によって、その後の航空機設計に多大な貢献もしました。


ヴィッカース ヴァーシティ
ヴィッカースの双発練習機ヴァーシティです。双発旅客機ヴァイキングを元に、軍用の練習機として開発されました。

コンペア スイフト
なんか、昨夜発表されたAppleの新言語と同じ名称ですが、コンペアのスイフトです。1930年代のイギリスで開発された一人乗りスポーツ機です。


アームストロング・ホイットワース アーゴシー

うわー……。

B747の機首を潰して、後ろに巨大なP-38の後部をつけて4発機にしたかのような異形は目立ちます。アームストロング・ホイットワースのアゴシーです。

展示機は訓練機に改装されたものです。


ユンカース Ju52
今ではまず見れない、3発レシプロ旅客機・輸送機のユンカースJu52です。戦前のドイツを代表する航空機で、ルフトハンザの主力旅客機でもありました。スペイン内戦では爆撃機、戦時中は輸送機としても活躍しています。


旅客機・輸送機をひと通り見た後は、壁際に並ぶエンジン各種です。めぼしいものを見て行きましょう。


居並ぶエンジン
航空機用ディーゼルエンジン ユモ205

いきなりレアです。世界でも珍しい航空機用ディーゼルエンジンのユンカース ユモ205です。最近は民間機でディーゼル航空機も増えているようですが、これは戦前の作です。ドイツの偵察機や輸送機などで使われました。


双子エンジン DB610
ドイツのダイムラー・ベンツのDB610です。これは、日本でもライセンス生産され三式戦闘機飛燕や、彗星艦爆にも搭載されたDB601の発展形であるDB605を2つ組み合わせ、1つのシャフトを回すエンジンです。

GE T700
これは日本でも見る機会があるかもしれません。GEのT700。UH-60やAH-64アパッチなどに搭載されているターボシャフトエンジンです。かなりコンパクトです。

ワルターエンジン
こ、こんなのまで…。ロケット戦闘機Me163に搭載された、ロケットエンジン(またはワルター機関)のワルター109-509Cです。過酸化水素とヒドラジン・エタノール混合液の化学反応により推進力を得ます。有毒物質満載なのでこわいこわい……。

そして、続いては歴史的なブツが大量に出てくるミサイルコーナーです。

ドイツの数々
すげー! なんか無造作に色々置いてある!

フリッツX
世界初の誘導爆弾フリッツXです。ドイツが開発した無線誘導の滑空爆弾で、初陣でイタリア戦艦ローマを撃沈した大戦果を挙げた事でも知られています。

フリッツX 後ろから
緒戦で大戦果を挙げたフリッツXですが、桜花と同じように、発射母機の損害が大きく、制空権を失われてからではほとんど戦果が出せませんでした。合掌。

しかし、その後の誘導爆弾の端緒となる歴史に残るものです。なお、イギリスでは結構いろんなとこで見ました。


Bv246
ブローム・ウント・フォスの無線誘導滑空爆弾、Bv246です。フリッツXが有名な反面、こちらは知名度低いですが、フリッツXのように目標直上近くまで行かなくても、高高度からなら母機から200キロ以上の先まで届くグライダーです。もっとも、無線誘導なので、そんな遠くまで行ったら固定目標しか狙えないけど。

これを開発したリヒャルト・フォークト博士は、日本の川崎航空機で主任設計士をしていたことがあり、弟子に三式戦闘機飛燕の設計者の土井武夫がいます。


地対空ミサイル Hs117
怒涛のドイツ。続いては地対空ミサイルHs117です。固体ロケットブースターにより地上から発射され、初期加速を得た後は液体燃料ロケットで推進します。誘導方式は無線誘導ですが、これ当たるんかいな? 実戦には出ていないので、効果のほどは不明。

空対空ミサイル Hs298

上のHs117に激似ですが、こちらは空対空ミサイルHs298です。爆撃機迎撃用の空対空ミサイルとして開発されたものの、後述のX4に破れて、開発が中止となりました。下のプロペラは無線誘導システムのための発電機です。


地対空ミサイル Enzian
まだまだドイツ。地対空ミサイルEnzianです。
ここまで来るとミサイルというより航空機ですが、500kgの爆薬で重爆撃機も吹っ飛ばすという豪快極まりないブツです。戦争末期ということもあってか、木製です。

ライントホター R3
地対空ミサイルシリーズ、ライントホターのR3です。全体像は分かり難いですが、宇宙ロケットみたいな外観です。

ライントホター R1
こちらの方がミサイルしてますね。地対空ミサイル、ライントホター R1です。

戦争も末期になると、翼も木製とみみっちくなり、ところどころDIY感が溢れています。こう見えても、2段式ロケットなんです。

Feuerlilie

なんと読めばいいのだろうか…。これもドイツの地対空ミサイル、Feuerlilieです。こちらは他と較べて随分と小型で、固体ロケット式です。洗練度から言えば、こちらの方が上かも。


短距離弾道ミサイル Rheinbote

ものっすごく長いので、上の方が見えません。短距離弾道ミサイルのRheinboteです。射程は160kmあるとありますけど、ものっすっごく細いので、弾頭はショボイ事うけあい。実戦投入されても、あまり意味無かったんじゃないかなあ。


地対空ミサイル ヴァッサーファル(1/4模型)

地対空ミサイルヴァッサーファルの空力特性等を調べる為に作った、1/4の模型です。木の胴体に鋼の翼がくっついてます。


空対空ミサイル X4
地対空ミサイルばかり続いてましたが、今度は空対空ミサイルのX4です。空対空だけど、有線誘導という怖い仕様。

Feuerlilie F55
情報少なし。これはFeuerlilieの試験開発用の機体のようです。

怒涛のドイツが続きましたが、ここでイギリス機で一服しましょう。ライントホターが置いてある場所の裏の別室に、イギリス製ミサイルを中心にした展示があります。


分離試験機

イギリス最初の空対空ミサイル、フェアリー ファイアフラッシュの分離試験機です。ブースターの切り離し機構の試験のための機体だそうです。

フェアリー ファイアフラッシュ
そしてこれがイギリス初の空対空ミサイル、フェアリー ファイアフラッシュです。ブースターがミサイル本体前方にあるという、どうしてこうなった感が強い構成。

艦対空ミサイル シーキャット

イギリスの艦対空ミサイル、シーキャット。艦対空ミサイルにしては太いなあと思ったら、原型は対戦車ミサイルとか。


さて、そろそろ主役級に行きましょうか。ドイツコーナーに戻ると…。

弾道ミサイル V2(A4)

世界初の弾道ミサイル、A4です。報復兵器2号(V2)というゲッベルスによる命名の方が有名ですが……。

後述するA1が空軍の所管に対して、こちらは陸軍の所管になります。弾道を描くから、これは高性能な砲弾という扱いだったとかなんとか。

V2 推力偏向板
ワシントンのスミソニアン航空宇宙博物館にも飾ってありましたが、こちらの方が細部を色々と覗けますね。推力偏向板の形もよくわかります。

V2 エンジン部燃焼室
そして、V2の燃焼室をカットしたものまで置いてあります。これは凄い。

戦後の米ソの弾道ミサイルの出発点ともなり、開発者達は米ソ両国で研究開発に従事する事になります。アメリカは後のサターンV型ロケットの開発までV2設計者のフォン・ブラウンらが関与するのに対し、ソ連は早い段階でソ連人技術者がロケット開発の主戦力に置き換わりました。


フィーズラー Fi103(V1飛行爆弾)

続いて同じく報復兵器シリーズの元祖として知られる、世界初の巡航ミサイル、フィーズラー Fi103ことV1飛行爆弾です。

爆弾に翼とパルスジェットを取り付けたかのような質素な外見が実用感あります。実際、安いコストで製作可能でした(その分、撃墜された)。

V1 別角度から
このV1ですが、実はアメリカがJB-2としてコピーを戦時中に作っており、対日戦に投入予定でした。連合軍の日本本土侵攻作戦が起きた場合、艦艇や航空機(航空機搭載型も作られました)から日本に向けて数千発以上のJB-2が放たれたかもしれませんが、実戦に投入される前に日本は降伏しました。

カウント用のプロペラ

さて、ここまででRAFコスフォード博物館の主な展示を紹介し終えました。

予想を超える時間がかかってしまいましたが、まだ今回の旅行で尋ねた博物館の2割にも達していません。まだまだ相当続くんじゃ……。

次回はバロー・イン・ファーネスのドックミュージアムを紹介します。

続く


【関連】




2014年6月2日月曜日

オーストラリアが日本の潜水艦に関心を持つワケ

最近、イギリス旅行にかまけて記事更新を怠ってきましたが、そろそろ通常モードへ移行したいと決心を新たにするdragonerです。

さて、ロイター通信が伝える所によれば、オーストラリアは日本の潜水艦技術に関心を持ち、潜水艦の共同開発等について調整を行っているようです。

[東京/キャンベラ 29日 ロイター] - オーストラリアが関心を寄せる日本の潜水艦技術をめぐり、両国間の協議が本格的に前進する可能性が出てきた。防衛装備品の共同開発に必要な、政府間協定の年内締結が視野に入りつつある。エンジンを供与するだけでなく、日本が船体の開発にも関わる案など、具体的な話も聞かれるようになってきた。ただ、日豪ともに国内での調整課題が多く、実際に計画が合意に至るには、なお時間がかかる見込みだ。

以前からオーストラリアが日本の潜水艦技術に高い関心を示している事は国内外で報道されていましたが、日本政府との調整や潜水艦開発の具体的な内容が報道されるまで話が進んできたようです。現在のところ、オーストラリアは12隻の新型潜水艦の導入を検討していますが、これにどのような形で日本が関わるかはまだまだ予断を許しません。


海上自衛隊の最新鋭潜水艦 そうりゅう型

では、オーストラリアは何故日本の潜水艦技術に興味を持っているのでしょうか。それを考えると、オーストラリアの置かれた立場や狙いが見えてきます。


数か国しかない潜水艦開発国

潜水艦は高い技術が要求される上、秘密にされる部分が多く、自国で建造できる国は限られています。

今現在、潜水艦を自国で開発・建造できる国としては、米英露仏中の核保有国の他にドイツ、イタリア、スペイン、スウェーデン、インド、そして日本が挙げられます。このうち、現在は原子力潜水艦のみ建造している国は米英印で、ディーゼルエンジンを搭載した通常動力型潜水艦の建造技術を持つのはそれ以外の8カ国となります。更に言うなら、イタリアとスペインは共同開発という形で、主要技術をドイツ、フランスに委ねていますので、自力で開発できる国はもっと少なくなります。

また、政治的事情として、アメリカと関係の深いオーストラリアが、ロシアや中国から潜水艦を導入するとは考えられません。よって、これらの国は除外されます。すると、オーストラリアが取れる選択肢はドイツ、フランス、スウェーデン、日本の4つに限られてきます。



オーストラリアの求める潜水艦像

では、オーストラリアが求めている潜水艦とは、どのようなものなのでしょうか?

オーストラリアのコリンズ級潜水艦。多くの不具合が明らかになっている

現在のオーストラリア海軍に配備されている潜水艦は、スウェーデンのコックムス社の協力により1990年代にオーストラリアで建造されたコリンズ級です。スウェーデンは自国での潜水艦開発が出来る数少ない国で、これまでもヴェステルイェトランド級、ゴトランド級などを開発していますが、いずれも排水量は1,000トン台の小型潜水艦でした。しかし、コリンズ級は3,000トン級の通常動力型としては大型の潜水艦で、オーストラリアが単なるスウェーデン海軍仕様のままの小型潜水艦を欲していなかった事が窺えます。しかし、現在配備されているコリンズ級は、開発当初から様々なトラブルに見舞われており、改善事業に多くの予算を費やしていて、評判は今ひとつよくありません。

冒頭のロイターの記事によれば、コリンズ級後継は4,000トン級という条件が付けられており、オーストラリアの強い大型潜水艦志向が窺えます。通常動力型で4,000トン級もの排水量を持つ潜水艦は、現在は日本以外作っておりません。

大型潜水艦は小型潜水艦より取得コスト・維持コストが高くなります。オーストラリアはリーマンショック以降の財政難により、大幅な国防費削減に見舞われています。そのような状況にも関わらず、なぜ高コストな大型潜水艦を望むのでしょうか。


広大な海域を守らなければならないオーストラリア

潜水艦はミサイル攻撃や魚雷攻撃等の派手なイメージがありますが、その主な任務はパトロール、情報収集、哨戒といった隠密性を活かしたものです。これらの任務は平時有事問わず、継続的に長期間行われるため、潜水艦には長期間作戦可能な能力が求められます。この長期作戦能力に重要な要素となるのが、潜水艦の規模です。潜水艦の内部容積が大きいほど、人員や食料、バッテリーが収容できるので、長期の作戦行動に有利になります。オーストラリアの領海と排他的経済水域を足した面積は、世界第2位の約899万平方キロメートルと広大で、6位の日本の倍の広さを誇ります。

排他的経済水域面積、上位7カ国


この広大な海域の権益を守るため、オーストラリアは長期行動可能な大型潜水艦を求めているのです。

では、ここでオーストラリアが取れる選択肢をリストアップして、比較してみましょう。

オーストラリアの潜水艦選択肢

この比較から、オーストラリアが求める大型潜水艦を建造しているのは、選択肢にあるのは日本のみという結果になります。コリンズ級の時と同じく、拡大した設計をヨーロッパのメーカーに求める手もありますが、コリンズ級の開発で失敗した手前、同じ手で失敗を繰り返すリスクを避けたい思惑から、自国で大型潜水艦を設計・開発・運用している日本に大きな関心を抱いても不思議ではないでしょう。

コリンズ級後継艦計画は、現用のコリンズ級6隻を新型潜水艦12隻で置き換える大規模なもので、「オーストラリア海軍史上最大の計画」と呼ばれています。財政難の中でもこのような計画を持っているのは、それだけオーストラリアが海洋とそこから得られる利益を重視しており、莫大な投資に見合うものだと考えている事の証左と言えます。

問題は日本がどこまでオーストラリアに技術を提供できるのか、という判断にかかってきます。オーストラリアはコスト低減や自国企業の利益の為に、自国での建造を含めた技術移転を要求すると思われます。日本にしてみれば、潜水艦は秘密の部分が多いので、出来るだけ技術を国内に留めたいでしょう。この手の技術交渉は破談する事も多々あり、最近も戦車エンジンの技術供与を申し入れていたトルコの提案を、日本は断っています。

まだまだ課題は山積みですが、潜水艦のようなセンシティブな技術情報を共有する事は、それだけ両国の関係が緊密化した事の証であるとも言えます。オーストラリアは日本が情報保護協定を結んだ3カ国目の国で、秘密情報の共有の素地は整っています。あとは政治的決断にかかってきますが、その決断が両国にとって良い結果となればと思います。



【関連書籍】

本当の潜水艦の戦い方―優れた用兵者が操る特異な艦種 (光人社NF文庫)

これが潜水艦だ―海上自衛隊の最強兵器の本質と現実 (光人社NF文庫)


上記2冊はいずれも海上自衛隊の元潜水艦艦長による、潜水艦の任務や戦い方についての本。多少、潜水艦贔屓に過ぎるのではないかというきらいはあるものの、潜水艦の特性を知り尽くした人が書くだけあって、示唆に富んでいます。


潜水艦を探せ―ソノブイ感度あり (光人社NF文庫)


先ほどとは変わって、潜水艦を狩る側からの本。潜水艦がいかに厄介か、それを探知するのにどれだけ苦労するかを知ることで、逆に潜水艦の価値がどういうものか分かります。








2014年5月29日木曜日

イギリス軍事博物館巡りの旅 コスフォード王室空軍博物館(冷戦館編)

ウォープレーン館に続き、今回は冷戦館です。


冷戦館 外見

通路で繋がっているテストフライト館、ウォープレーン館と異なり、冷戦館は少し離れた所に建っています。テストフライト館、ウォープレーン館はまんま格納庫ヅラした建物でしたが、冷戦館は屋根と壁面が連続面になっている凝った作りになっています。


そんな凝った建物ですが、博物館としては少々難アリです。


冷戦館内部

上の写真を見ても分かるように、複雑な形状から内部容積が小さく、展示機が所狭しと吊られ、並べられています。なかには撮影困難な機体もあり、個人的にこの館の設計はマズった感があります。

また、自然光を取り入れてはいるものの不十分で、採光部からの光と館内の明るさの明闇差が激しく、露出に苦労します。写真撮影には鬼門。垂直に立っている柱も無いので、建物の構造物が写った写真は、ものすごく平衡感覚を狂わされるものもあり、見苦しい写真もありますがご容赦下さい……。


冷戦館展示物

冷戦館はその名が示す通り、冷戦時代の航空機、兵器を展示しています。テストフライト館、ウォープレーン館とはやや趣が異なり、兵器の展示みならず、冷戦とはどのようなものだったのかという冷戦の記憶を伝えるためか、ビデオ展示やパネル展示が多く見られます。

冷戦館に入ってすぐ、核兵器による相互確証破壊(MAD)の説明から入っており、核戦争が現実のものとして感じられた冷戦期の感覚を思い起こさせます。


センチュリオン

英国空軍(RAF)の博物館ですが、冷戦館には陸上兵器もいくつか展示されており、このセンチュリオンも冷戦館入ってすぐの所に展示されています。

センチュリオンは第二次大戦後のイギリス第一世代主力戦車で、英国陸軍による朝鮮戦争の他、インドやイスラエルも配備し、印パ戦争、中東戦争で活躍しています。

ホーカー・シドレー バッカニア

イギリスのジェット艦上攻撃機、ホーカー・シドレー バッカニアの機首部分です。後にホーカー・シドレーに吸収されるブラックバーン社が開発したので、ブラックバーン バッカニアと呼ばれる事も多いですが、ここは説明板の表記に倣いました。

音速に達しない亜音速機ですが、運動性に優れ、レーダーに映りにくい低空飛行に長けた攻撃機でした。1950年代の開発であるものの、1991年の湾岸戦争にも参加しています。

MiG-21PF

旧ソ連で開発されたMiG-21PF戦闘機です。MiG-21は西側のF-4ファントムに相当する世代の機体で、東側諸国で広く配備された戦闘機です。展示されているのはMiG-21で初の全天候能力を備えたPFです。

MiG-15bis

続いても旧ソ連で開発された、戦後第一世代のジェット戦闘機、MiG-15bisです。ドイツからの研究データを元に後退翼を採用し、エンジンにはイギリスから入手したロールス・ロイス ニーンをコピーしたRD-45を搭載しています。

朝鮮戦争時には中国人民志願軍が配備した本機が、米軍が投入したF-86と熾烈な空中戦を展開しました。

展示されている機体は改良型のbisで、エンジンがVK-1に換装される等の改善が施されており、数あるMiG-15のバリエーションの中で最も多く生産された機体です。

ヴィッカース ヴァリアント
宮崎アニメに登場しそうな外見のヴィッカース ヴァリアント爆撃機です。

1955年に配備されたものの、構造上の問題からわずか10年で退役することになります。この頃の英国機は、世界初の実用ジェット旅客機コメットもそうでしたが、構造上の問題が後から発覚するケースが見られます。

ヴァリアント 別角度から
英国機に多く見られる埋込式エンジンも特徴的です。白い塗装も相まって、スマートな印象を与えます。


F-111 アードバーグ
今度は米軍機です。世界初の実用可変翼後退機、F-111です。

F-111はマクナマラ国防長官により、アメリカ空海軍の戦闘機を統合する意図を持って開発されました。統合により開発費、取得コスト、維持コストを下げる狙いだったのですが、機体の大型化を招き、却って高コストな機体となってしまいました。艦上戦闘機型のB型は配備されず、空軍向けのA型も少数配備に留まりました。

F-111 後方から デカい

統合戦闘機としては失敗に終わったF-111ですが、低空侵攻能力、搭載量、航続距離は高い性能を持ち、攻撃機としては極めて優秀な機体でした。「バンカーバスター」として知られる地中貫通爆弾GBU-28を搭載した本機は、湾岸戦争でイラク軍の地下司令部を破壊するなどの目覚ましい戦果を挙げました。

エンジンは抜いてあります

湾岸戦争でF-111の攻撃能力の高さが証明されましたが、高コストな機体である事は変わらず、F-15E系にその役割を譲り退役しました。オーストラリア空軍でも攻撃機として使われていましたが、2010年には全機退役することになりました。

2000年のシドニー五輪閉会式でオーストラリア空軍所属の本機が、閉会式ラストの納火で火が消える際に上空を飛行し、聖火がアテネの方角へ向かっていったような演出を行っています。

アブロ バルカン

続いてはイギリスの爆撃機、アブロ バルカンです。

核攻撃を想定した爆撃機として開発されましたが、核攻撃任務は後に潜水艦発射弾道ミサイルに譲ることとなり、以降は洋上哨戒、通常爆撃任務にも使われました。

バルカン 後ろから
バルカン最初で最後の実戦はフォークランド紛争で、アルゼンチン軍飛行場に対する爆撃でした。この攻撃は成功し、プカラ軽攻撃機等が地上撃破されていますが、基地機能を失わせる程の打撃ではありませんでした。


バルカン 爆弾倉

爆弾倉 パノラマで
バルカン 別角度から

続いては、展示法が微妙感あります。


イングリッシュ・エレクトリック ライトニング

ちょっと分かり難いですが、イングリッシュ・エレクトリック ライトニングです。世界でも稀に見る、エンジン縦列配置の実用ジェット戦闘機です。先日紹介したテストフライト館にも、ライトニング開発過程の実証機がありましたね。

微妙に神々しさがある配置ですが、よく見れません。


続いては航空機ではなく、ミサイルです。


イカラ 対戦ミサイル

オーストラリア海軍の対潜水艦ミサイル、イカラです。

下部に対潜魚雷が埋め込まれており、水上艦から発射後、目標近くで魚雷が切り離され、潜水艦を攻撃します。

現在のUAVめいた趣のある兵器ですが、同様の装備であるアスロックと較べて仰々しく、連射性やコストで劣りそうです。ただし、翼がある分、アスロックより射程距離は長いようです。


アブロ ヨーク

これはレア度が高いと思います。第二次大戦時のイギリスの輸送機、アブロ ヨークです。

この機体はどちらかと言うと、戦後の活躍で知られています。1948年のベルリン封鎖の際、イギリス空軍は本機をベルリンへの輸送作戦に投入し、23万トンの物資を輸送しています。この数字は、ベルリン空輸作戦で輸送された全物資の1割に相当します。また、本機は民間旅客機としても活躍しています。


ハンドレページ ヘイスティングス
ハンドレページ ヘイスティングスは、前述のアブロ ヨークの後継機として開発されたレシプロ4発輸送機です。民間旅客機型はハンドレページ ハーミーズとして知られています。


ショート ベルファスト

ショート ベルファストは、1960年代に開発されたイギリスの4発ターボプロップ大型輸送機です。同じ4発輸送機の米C-130よりも大型で、かつ長距離を飛行できる戦略輸送機として開発されました。


ベルファスト 翼下方から

高性能な輸送機でしたが、防衛費削減を受けて10機しか生産されておらず、貴重な1機です。


スコティッシュアビエーション ツインパイオニア

双発輸送機、スコティッシュアビエーションのツインパイオニアです。

1950年代に開発され、短距離かつ不整地での離着陸性能を備え、軍民双方で活躍しました。


※ハンドレページ ヴィクターを入れるの忘れていたので6/1に追加しました。

ハンドレページ ヴィクターです。


ハンドレページ ヴィクター

1950年代に開発されたヴィクター、バルカン、ヴァリアントの頭文字Vを取って(バルカンだけ日本語表記はこっちが一般的なのでバにしましたが)、これら爆撃機3機種を「3Vボマー」と呼びます。いずれも冷戦初期におけるイギリスの核抑止力を担いましたが、潜水艦発射弾道ミサイルに核戦力が移されるに従い、核攻撃任務から外されました。

ハンドレページ ヴィクター

3Vボマーの中で最後まで残ったのはこのヴィクターでしたが、1960年代には核攻撃任務を解かれ、空中給油等の任務に従事していました。湾岸戦争にも参戦し、1993年に退役しています。


冷戦館で珍しめの航空機はこれが最後で、後は陸上車両を紹介します。


BMP-1

旧ソ連で開発された歩兵戦闘車、BMP-1です。

高い戦闘能力と搭乗歩兵も車内から戦闘できる機能を備えた本車は、戦車に随伴する歩兵を防護し、輸送する事が目的だったそれまでの兵員装甲車両に大きな変化をもたらし、歩兵戦闘車という新たなカテゴリを産み出しました。バトルタクシーとも言う俗称でも呼ばれています。

ベリスコープと銃眼

搭乗する歩兵が戦闘に参加できるよう、ベリスコープと銃眼が兵員室周囲に配され、装甲に守られながらの射撃が可能です。車外が危険な環境となる、毒ガス・核戦争下でも歩兵は戦闘可能な本車は、まさに冷戦時代の申し子のような存在です。

もっとも、銃眼から小銃を撃つ事の有効性への疑問視もあり、近年では銃眼を設けないか、塞いだ歩兵戦闘車も存在します。


軽戦車 スコーピオン

つづいては、イギリスの軽戦車スコーピオンです。

サラディン装甲車の後継として、アルミ合金製の車体に76mm砲を備えた軽戦車で、イギリスを始め各国で使われました。イギリス陸軍での就役期間は長くはありませんでしたが、3,000両以上生産されたベストセラーです。


サラディン6輪装甲車

スコーピオンの前に使われていた、6輪装甲車のサラディンです。

1950年代に開発された本車は、共通シャシーを用いる事で装甲車両の体系を整理することを意図していました。実際、このサラディンを元に、多数の派生型が製作されています。

ちなみに、訪問時にこんな事呟いて結構RTされたのですが、


後から考えてみると、この母親が乗っていた装甲車は、4輪のフェレット装甲車の方だったと思います。Wiki見たら、フェレットは1万ドルくらいで取引されているそうです。普通車並だ。日本でもフェレットのオーナーがいて、許可を取って公道で走らせているようです(下記動画)。




Bv.202
全地形装軌車両Bv.202です。

不整地や雪上での輸送用車両として開発され、後継のBv.206は航空自衛隊にも少数だけ配備されました。

後部車両
地対空ミサイル レイピア発射装置
イギリスの地対空ミサイル、レイピアには発射システムが可搬式から自走式まで様々なモノがありますが、これはイラン向けに開発されたものの、革命でキャンセルされた後にイギリス陸軍で配備される事になった自走式です。

レオパルド1
西ドイツで開発されたレオパルド1です。こちらはいずれ、ボービントン戦車博物館の方で。


冷戦館にはカフェと売店が併設されています。カフェは時間がなかったので利用しませんでしたが、売店では書籍売り場でセール品も販売していました。


セール本 一冊1~3ポンドくらいが相場

重かったですが、セール本を5冊ほど買って3000円くらい。結構得しました。

売り場には正規価格で伊400潜水艦本が売られていて、興味があったのですが止めました。

売り場にあった伊400本

この売場、イギリス人らしいブラックジョークが効いていて、売場直上にレーニン像が売店のバッグ持って宣伝しています(笑)

資本主義の犬 レーニン

いかにも冷戦です。

また、外れには博物館のスポンサー企業の掲示がありました。錚々たる顔ぶれですね。

博物館のスポンサー企業


続きましてはコスフォード博物館のラスト、ハンガー1を紹介します。


つづく


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